世界を制したブリティッシュバンドの、若さあふれる痛快デビューアルバム DEF LEPPARD - ON THROUGH THE NIGHT
世界を制したバンドの始まりのアルバム
1983年リリースの、DEF LEPPARD(デフ・レパード)の3rdアルバム、PYROMANIA(炎のターゲット)はアメリカで1000万枚のセールス。
1987年リリースの、4thアルバム、HYSTERIA(ヒステリア)はアメリカだけで1200万枚、そして全世界では2500万枚を記録し、世界制覇を成し遂げた、と言えるでしょう。
これらのモンスターアルバムは、非常にかっこよく、僕は繰り返し聴きまくっていました。
そうなると、当然のように過去の作品をさかのぼりたくなるものです。
こうして聴いた彼らのデビューアルバムは、ストレートでエネルギーに満ち溢れたハードロックアルバムになっていました。
DEF LEPPARD(デフ・レパード)とは
デフ・レパードの母体となったのは、1977年にイギリス、シェフィールドの高校生3人が結成したバンド、 Atomic Mass(アトミック・マス)です。
その3人とは、もともとギターを弾いていたが、ベースに転向することになるRick Savage(リック・サヴェージ), ドラムのTony Kenning(トニー・ケニング)そして、ギターのPete Willis(ピート・ウィリス)です。
そして、たまたまピートが、バスに乗り遅れた1学年上で18歳の Joe Elliott(ジョー・エリオット)と出会います。
ここは、乗り遅れたのがピートと言う人もいるので、実際のところどちらが乗り遅れたのかは確認できませんでした。
まあ、いずれにしても、どちらかがバスに乗り遅れ、そのために出会ったのは間違いありません。
この辺に多くのバンドでも感じられるミラクルが起きていると感じられますね。
そしてジョーは、バンドにギタリストとして加入しようとします。
ジョーのバンドに対しての態度やアイディアに感銘を受けたメンバーは、加入を決めます。
しかしオーディションの結果、ヴォーカルのほうが合っているとして、ジョーは希望していたギタリストとしてではなくリードシンガーとして加入することになりました。
そして加入したジョーは、バンド名として、Deaf Leopardを提案します。
これは耳の聞こえない豹(ヒョウ)を意味してますが、この語感は、リスペクトしていたLed Zeppelin(レッド・ツェッペリン)に少し掛けた名前になっています。
しかし、その名前は流行りのパンクバンドっぽい響き(当時パンクバンドが動物の名前をバンド名に入れるのが流行っていた)があったため、それを避けるためトニーの提案で少し修正が加えられ、DEF LEPPARD(デフ・レパード)に決まりました。
そしてもう一人の重要人物のSteve Clark(スティーヴ・クラーク)が彼らと同じシェフィールドで、自らのバンド、Electric Chickenでギターをプレイしていました。
そして、ピートは、テクニカル・カレッジでスティーヴと出会います。
そこでスティーヴがギターの本を読んでいるのに気付いたピートは、デフ・レパードのギタリストのオーディションに来るように招きました。
というのも、バンドは二人目のギタリストを加えるよう探していたのです。
スティーヴは、オーディションには現われませんでしたが、後に Judas Priest(ジューダス・プリースト)のギグ会場でばったり偶然ピートとジョーに会います。
そこでもう一度、ピートはスティーヴを誘います。
ついにスティーヴはオーディションに現われ、1978年1月にはバンドのメンバーとして加入します。
バンドに多大な貢献をすることになるスティーヴの加入の件も、やはり大きなミラクルを感じられますね。
そして、バンドは3曲入りのミニ・アルバム、The Def Leppard E.P.のレコーディングに入ります。
しかし、その頃突然ドラムのトニーはバンドを脱退します。
代わりに Frank Noonがレコーディングセッションに参加して、デビューEPは完成します。
インディーズレーベルで1000枚作られたこのEPはソールドアウト。
リイシュー盤として約17000枚がリリースされます。
収録3曲のうち、2曲は再録され、少し形を変えて1stアルバムに収録されることになりました。
また、残りの1曲は後のシングルHYSTERIA(ヒステリア)のB面に再録されて収録されます。
この3曲ともメンバーによる作詞作曲、そしてセルフプロデュースとなっており、非常にロックの初期衝動のこもった、ラフなロックになっています。
また、ラフな中にも楽曲のセンスが十分に感じられ、将来性を強く感じられる作品になっています。
この作品の制作後、最終的にはRick Allen(リック・アレン)が正式なドラマーとして加入しました。
リックの加入についてですが、彼の母親がデフ・レパードがドラマーを募集しているという広告を見て、14歳の彼のために応募したようです。
それで、1978年の11月1日、彼の15歳の誕生日に晴れてバンドのフルタイムドラマーとして加入することになったのです。
そして翌年には学校をやめて音楽に専念することにしました。
こうして、最初期の5人が集まり、デフ・レパードは活動を始めていきます。
1979年頃には、 ブリティッシュハードロック、ヘヴィメタルファンの中で人気を高めていきます。
折りしも、1970年代から続く、NWOBHM( new wave of British heavy metal)ムーヴメントにも乗っかり、人気を高めて行きます。
NWOBHMとは「ブリティッシュヘヴィメタルの新しい波」の略で、イギリスで起こっていた音楽ムーヴメントのことですが、後にデフ・レパードはバンドとして、自分らはヘヴィメタルではなくてハードロックバンドと主張しているため、厳密にはこの波には含まれないようです。
が、やはりそうした波にうまく乗って人気を博したのは否定しようのない事実かもしれません。
こうしてHM/HRファンの間で人気を高めていったバンドは、メジャーレーベルと契約を結び、ついにデビューアルバムの制作に入ります。
当時平均年齢が約19歳というイギリスの若者たちの勢いの詰まったブリティッシュハードロックがそこには展開されていました。
では、今日は1980年にリリースされた、DEF LEPPARD(デフ・レパード)のデビューアルバム、ON THROUGH THE NIGHT(オン・スルー・ザ・ナイト)をご紹介します。
ON THROUGH THE NIGHT(オン・スルー・ザ・ナイト)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、ROCK BRIGADE(ロック・ブリゲード)。
イントロの切れ味鋭いギターから非常にかっこいい作りになっています。
ジョーのヴォーカルも若くラフで、勢いがあります。
また、サビでのコーラスワークなんかは、早くもデフ・レパードのトレードマークとしてなかなかのクオリティになってますね。
この曲のギターソロはピートのプレイです。
これがデビューアルバムの二十歳そこそこの兄ちゃんのプレイとは信じがたいですね。
僕もギターをやってましたが、コピーだけで壁が厚い世界でした、それが自分でフレーズを作るなんて、とてもじゃないと思えます。
しかし、ここでピートはのびのびとたっぷりかっこいいギタープレイを聴かせてくれてます。
全体のギターリフも含めて、いい出来になってますね。
また、ベースのリック・サヴェージと、ドラムのリック・アレンのリズム隊も、ラフではありますが、安定したリズムで楽曲を支えています。
デビューアルバムにしては、クオリティが高いといえるのではないでしょうか。
さすが、レッド・ツェッペリンを生んだ国の若者たちですね。
若さあふれるブリティッシュハードロックを見せ付けてくれました。
2曲目は、HELLO AMERICA(ハロー・アメリカ)。
勢いのある曲が続きますね。
お約束のコーラスから始まるこの曲もデフ・レパードらしいロックンロールになっています。
また、この曲でもギターリフがいいです。
ギターソロはスティーヴのプレイです。
彼ものびのびいいプレイを披露してますね。
ピートとスティーヴのギタープレイの個性の違いについては、あまり語れるほどわかりませんが、二人とも、ハードロックギタリストとして、この時点でなかなかの水準に達しているのは感じられます。
また、サビにからむキーボードの音が、80年代の始まりを感じさせます。
タイトルにあるように、彼らの照準は早い時点でアメリカにありました。
当時はアメリカを制するということは世界を制するに等しいぐらいな感じだったので、イギリスのシェフィールドから世界を見ていたようですね。
この後、アメリカよりのサウンドや活動が目立ってきて、初期のコアなファンを失望させることになりますが、間違いなく世界的な栄光へと進んでイギリスを代表するバンドへと成長を遂げていきます。
3曲目は、SORROW IS A WOMAN(ソロウ・ウーマン)。
ここで少しアダルティな雰囲気のロック曲がきます。
哀愁漂うメロディが、彼らが単なる勢いだけの若者バンドではないことを示しています。
激しいパートと、アコギメインの静かなパートの対比が非常にいいですね。
シンプルなプロダクションのおかげで、ベースもしっかり聞こえて非常に好ましいです。
一つ目の静かなギターソロはスティーヴ、2つ目の渋かっこいいソロはピート、それぞれもかっこよく決まってますし。ラストは二人でツインギターソロも決めてます。
ツインギターの特徴が生かされたいい曲になってます。
4曲目は、IT COULD BE YOU(誘惑の叫び)。
イントロから聴ける、ギターリフがとてもかっこよいです。
非常にノリのいいフレーズになってます。
スティーヴはリフマスターの異名を取る事になりますので、この手のものは彼によるものかもしれません。
その分、ギターソロはピートが短いながらも勢いのあるメロディを奏でてます。
5曲目は、SATELLITE(サテライトで突走れ)。
邦題ほど突っ走る感はありませんが、なかなかいいロックソングになっています。
サビがキャッチーで、また、ギタープレイもエッジの効いたソロも入っていますし、ベースもドラムも生き生きしたプレイが楽しめます。
6曲目は、WHEN THE WALLS CAME TUMBLING DOWN(ブリティッシュ神話の果てに)。
始まりのバラード調の雰囲気が、やはりただの若者ロックバンドじゃないことを示してます。
後々まで続く、彼らのメロディアスな部分が、既に1stアルバムで見られるのがすごいですね。
そして、曲調が変わり、ハードロックに変わりますが、そこでもキャッチーなメロディはしっかりと残っています。
なかなか壮大でドラマティックに展開する様子がいいですね。
ラスト前のスティーヴのギターソロも、しっかり聴かせるクオリティのあるものとなってると思います。
7曲目は、WASTED(ウェイステッド)。
もう、正統派ブリティッシュハードロックそのものと言えるような疾走感あふれるロックンロールです。
イントロのギターリフがまさに時代の雰囲気を出してますね。
こんなストレートなハードロックは、後にはほとんど聴けなくなってしまいましたが、初期にはこんなロックの衝動が封じ込められた曲があるんですよね。
非常に僕はこんな疾走系は大好きなのですが、この系統でずっといけばあの世界的な大ヒットもなかったのかもしれないと思うと痛し痒しです。
スティーヴも、メロディアスなギターソロを奏でてますし、エッジの効いたギターリフが全編を彩る、ハードロックの名曲だと思います。
8曲目は、ROCKS OFF(ロックス・オフ)。
この曲は、The Def Leppard E.P.のうちの一曲で、GETCHA ROCKS OFFのタイトルを変えて再録したものです。
イントロからノリノリのギターリフが楽曲を支配してます。
中高速のシャッフルビートが、いいノリを生み出してますね。
タイトルをコールしたあとに、ギターリフが転調して、再びもとに戻るところなど、なかなかゾクゾクします。
ギターサウンドをLRチャンネルに振った後のスティーヴのギターソロがたまらなくかっこいいです。
勢いだけでない、構成も良くできたコンパクトなロックンロールになってます。
9曲目は、IT DON’T MATTER(ドント・マター)。
これも、イントロのリフから、ギターオリエンティッドなロックソングになってます。
シンプルな分をほぼギターが埋めており、その隙間にしっかりベースがグルーヴを生み出してます。
これだけシンプルな楽曲なのにスカスカではないのが、好感が持てます。
加えて、サビのキャッチーさは相変わらずで、なかなかいい曲だと思います。
10曲目は、ANSWER TO THE MASTER(アンサー・トゥ・ザ・マスター)。
これもメロディアスなギターリフが特徴的で、それを中心に楽曲が進むところはハードロックの模範のような楽曲に思えます。
中間部では、ギターだけではなく、ベースも聴きどころがあっていいですね。
堂々たるギターソロも、前半はスティーヴ、後半はピートと分け合ってしっかり奏であげてます。
流行りのタッピングもキラキラとソロを盛り上げてます。
ドラムソロもあり、バンドっぽい感じが非常にいい良曲となってます。
アルバムラスト、11曲目はOVERTURE(ハード・ロック・ヒーロー宣言)。
これは7分半を越える長尺曲で、The Def Leppard E.P.のうちの一曲です。
長い曲ではありますが、曲展開がドラマティックで、長さを感じずに一気に聴けます。
こんな曲をEPではセルフプロデュースで生み出していたわけで、彼らのポテンシャルが当初から非常に高かったことがはっきりとわかりますね。
ギターソロもたっぷり収録されてますが、スティーヴとピートでうまく分け合ってドラマティックに奏であげてます。
この邦題はなんとかならなかったか、と感じますが、曲は非常によく考えられた優れた楽曲だと思います。
まとめとおすすめポイント
1980年リリースの、DEF LEPPARD(デフ・レパード)のデビューアルバム、ON THROUGH THE NIGHT(オン・スルー・ザ・ナイト)はビルボード誌アルバムチャートで第51位、アメリカで100万枚を売り上げています。
本国イギリスでは第15位を記録しています。
イギリスでは、WASTED(ウェイステッド)が第61位、HELLO AMERICA(ハロー・アメリカ)が第45位のシングルヒットが出ています。
アメリカではまだシングルヒットが出ていません。
さて、アルバムの内容ですが、当然ながら後のヒステリアのようでは全くないです。
ヒステリアはかなり緻密な作り込みの激しい作品ですが、こんなにも違うのか、と驚くほどのシンプルなブリティッシュハードロックが展開されています。
ギターも、ヒステリアに比べると、めちゃめちゃ弾きまくってる感じがありますね。
後には楽曲優先の抑えられたギタープレイが楽曲を飾ることになりますが、デビュー時にはこんなにもスティーヴとピートが弾きまくってて、爽快感を覚えます。
しかし、アレンジは大きく異なるものの変わらないものもあります。
やはり、ジョーのヴォーカルとメンバーのコーラス、これはデフ・レパードをデフ・レパードたらしめている大きな特徴と言えるのではないでしょうか。
このデビューアルバムでも、メンバーのコ-ラスにより、爽快な印象を多く受けることができます。
また、楽曲がいい、キャッチーである、というのもこの後に引き継がれていきます。
ブリティッシュ神話の果てに、でAndrew Smithという人が共作にクレジットされているのを除けば、全曲がメンバーによる作品となっています。
優れたコンポーザーを何人も擁している、というのはこの後の活動にも大きなメリットをもたらしていきます。
とにかく、このデビューアルバムでこんなにいい曲を生み出せたとは、既に将来のブレイクが約束されていたようにも感じられます。
20歳前後の若者たちが生み出したこの作品は、若さや勢い、エネルギーが満ち満ちており、同時にその若さを疑ってしまうような、熟練した作りも感じられる部分もあります。
後のアルバムに比べると、その荒削りでラフな感じは否めませんが、そこにこそ別の魅力を感じさせてくれます。
80年代初頭に現われた、疾走感あふれるブリティッシュハードロックバンドの登場の瞬間が封じ込められた痛快な作品、おすすめしたいと思います。
チャート、セールス資料
1980年リリース
アーティスト:DEF LEPPARD(デフ・レパード)
1stアルバム、ON THROUGH THE NIGHT(オン・スルー・ザ・ナイト)
ビルボード誌アルバムチャート第51位 アメリカで100万枚のセールス
アメリカビルボード誌でのシングルヒットはありません。