素晴らしい完成度のコンセプトアルバム DREAM THEATER - METROPOLIS PT.2 : SCENES FROM A MEMORY(メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー)

前作からの流れ





1997年リリースのDREAM THEATER(ドリーム・シアター)の4thアルバム、FALLING INTO INFINITY(フォーリング・イントゥ・インフィニティ)はビルボード誌アルバムチャートで第52位14万枚ほどの売り上げにとどまっています。

 

レコード会社からの、ラジオ向けの判り易いアルバムを作れという指示に従い、ドリーム・シアターにしては比較的(比較的ですよ)聴き易いアルバムになっています。
しかし、結局大衆や、ファンの支持はあまり得られない中途半端な作品になってしまった、と感じる方も多いようです。
それでメンバーも、レコード会社からの干渉のない状態での作品作りを強く願うようになります。

 

さて、同年にドラマーのMike Portnoy(マイク・ポートノイ)はサイドプロジェクトを立ち上げます。
プログレッシヴメタルをインストゥルメンタルで表現する、インストグループ、LIQUID TENSION EXPERIMENT(リキッド・テンション・エクスペリメント)です。
ベーシストには、元 KING CRIMSON(キング・クリムゾン)で、様々なプログレバンドとの共演の実績をもつ、Tony Levin(トニー・レヴィン)を招聘。
キーボードには、かつて1994年にドリーム・シアター加入を断られた、Jordan Rudess(ジョーダン・ルーデス)。
あと、ギタリストとしてDimebag Darrell(ダイムバッグ・ダレル)やSteve Morse(スティーヴ・モーズ)、 Jim Matheos(ジム・マテオス)など早々たる顔ぶれに声をかけますが、スケジュールが合わず、最終的には盟友 John Petrucci(ジョン・ペトルーシ)が加入となりました。
もともとはドリーム・シアター、というバンドとは完全に別のプロジェクトにしたかったのですが、前に進めるために、ペトルーシの加入となったようです。

 

リキッド・テンション・エクスペリメントは1998年と1999年に2枚のアルバムをリリースしています。
どちらの作品も、4人の超絶技巧を持ったプレイヤーのケミストリーにより、非常にスリリングで、まさにプログレッシヴ(前衛的な)作品に仕上がってます。

 

この2作品で、ジョーダン・ルーデスと共演したポートノイとペトルーシは、やはりドリーム・シアターには彼の才能が必要であると確信します。
それで、再び加入するようルーデスを誘います。
やはりルーデスも、この2作とそれに伴うライヴでいい感触を得たのでしょう。
ついにドリーム・シアターのメンバーとして加入することになります。
残念ながら、Derek Sherinian(デレク・シェリニアン)はバンドを出ることになりました。

 

しかし、やはりルーデス加入が、この後の作品に与えた影響を考えると、この選択、決定は100%正しかったと思えますね。

 

こうして、ついにドリーム・シアターは5thアルバムの制作に入ります。
ポートノイは、前作でのレーベルの介入し過ぎを快く思っておらず、交渉の末、今回は完全にバンドがクリエイティヴな主導権を獲得することに成功します。
このこととルーデスの加入により、新たな発想のもとにアルバム制作が始まって行きました。

 

この作品の基礎となったのは、彼らの大ヒット2ndアルバムのIMAGES AND WORDS(イメージズ・アンド・ワーズ)に収録の、METROPOLIS, PART I: The Miracle and the Sleeper(メトロポリス)です。
これは9分30秒を越える大作で、その構成やプレイ技術、ソングライティング、どれをとっても最高峰の楽曲だと僕は思っています。
多くの人も非常に高く評価しているこの曲で、タイトルにPART I、という表記があれば、当然誰もが続編を期待していたことでしょう。
とりわけ、ファンの多くは、いつそれがヴェールを脱ぐのか、その期待は膨らみ続けていました。

 

そしてバンドも、PART Ⅱの完成に向けて少しづつ構想を練り続けていきました。
METROPOLIS PART.2という仮題のついたこの曲は4thアルバムのフォーリング・イントゥ・インフィニティ制作の時点で、20分を越える楽曲になっていて、アルバムに入る可能性もありました。
が、バランスが崩れることを懸念して、そこでは見送られます。
で、今回はその楽曲を拡大して、一枚のコンセプトアルバムとすることに決まります。

 

輪廻転生、殺人、裏切りなどをテーマに展開するこの曲は、77分を超える一枚のアルバムへと成長します。
ルーデスの参加により、プログレッシヴメタルの音楽性はさらに磨きがかかり、アルバムのコンセプトに沿った見事な演奏が収められています。

 

では、今日は1999年リリースのDREAM THEATER(ドリーム・シアター)の5thアルバム、METROPOLIS PT.2 : SCENES FROM A MEMORY(メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー)をご紹介したいと思います。
歌詞カードを見ながらかなり聴いたものですが、内容はそれだけでは判りづらい点もありますので、歌詞カードを中心にwikipediaや、彼らの完全再現ライヴのメトロポリス2000のDVDなど他の資料を参考に解説したいと思います。

METROPOLIS PT.2 : SCENES FROM A MEMORY(メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー)の楽曲紹介

ACTⅠ(第1幕)

SCENE ONE(第1場)

 

1 REGRESSION(リグレッション)

 

アルバムは主人公のニコラスが、催眠療法師によってPast life regression(前世療法)を行なうシーンから始まります。
彼は、毎晩誰か別の人間の人生の夢にうなされており、この治療を受けに来ています。

 

催眠状態に入る際に、療法師は、「もし戻って来たいときは目を開ければいいだけです( if anytime you need to come back,  all you need to do is open your eyes)」と述べます。
そして催眠によるトランス状態に入り、彼は70年ほど前に実在したヴィクトリア・ペイジという少女と出会います。

 

ここでは、アコギの弾き語りにより、ヴィクトリアとの出会いが優しく歌われています。

 

SCENE TWO(第2場)

 

2 Ⅰ.OVERTURE 1928(オーヴァーチュア1928)

 

インストゥルメンタルの短い曲ですが、ヴィクトリアのいた1928年に遡るのが表現されています。
イントロでは、METROPOLIS, PART I: The Miracle and the Sleeper(メトロポリス)の一部のメロディが用いられているところが心憎いです。
しかし、ドラムと共に激しく展開していきます。
それにしても堂々たる、そして爽やかなギターリフが超絶にかっこよすぎます。
出だしのリフはシンプルなのに、壮大なテーマ感を感じられる素晴らしいメロディを持ってます。
ペトルーシの様々なプレイをたっぷりと楽しめます。
また、新加入のジョーダン・ルーデスもきらびやかにシンセを駆使して盛り上げています。
他のメンバーとのユニゾンなどもばっちりで、早くも溶け込んでいると感じられましたね。

 

わずか3分半のインスト曲ですが、ドリーム・シアターがどんなバンドであるかを示すプレイがたっぷりと凝縮された素晴らしい曲だと思います。

 

3 Ⅱ.STRANGE DEJA VU(ストレンジ・デジャ・ヴ)

 

1928年にまぎれこんだニコラスの言葉が歌われます。
そこでヴィクトリアの影を見出してます。

 

次にヴィクトリアが登場します。
彼女は真実を探し続けています。
彼女はこれ以上我慢できない、正気を失いそう、と歌っています。

 

再びニコラスが登場、彼は自分の前世に気付き始めています。
そして彼もヴィクトリアと同様に、これ以上我慢できない、正気を失いそう、と歌い、真実にたどり着きたい欲求を歌っています。
まさに、この奇妙な既視感(ストレンジ・デジャ・ヴ)によってニコラスは、自分がヴィクトリアの生まれ変わりであることに気付き始めます。

 

この曲の内容はこのように3つのパートに分かれていますが、それを音楽で見事に演奏し分けていますね。
ニコラスの独白シーンでは、ハードでメタリックな曲調になっており、ヴィクトリアのときは、優しいメロディアスな曲調へ変化します。
また、ヴォーカルのJames LaBrie(ジェームズ・ラブリエ)もうまく歌い分け、演じ分けていて、素晴らしい歌唱を聞かせてくれてると思います。
ハードな場面では、変拍子を多く混ぜながら、プログレッシヴでメタリックな演奏が楽しめます。
John Myung(ジョン・マイアング)のベースも、いつものごとくグルーヴを出しまくってます。

 

この2曲の流れは絶妙ですね。
内容を抜きにしても、非常に聴き易くかっこいいハードプログレソングになっています。

 

SCENE THREE(第3場)

4 Ⅰ. THROUGH MY WORDS(スルー・マイ・ワーズ)

 

この時点でニコラスは、ヴィクトリアが、彼女自身に関しての真実を明らかにしてもらうために夢に出てくるんだ、ということを理解し始めています。
ヴィクトリアの全ての記憶は、自分に宿っており、それは自分の言葉を通して(スルー・マイ・ワーズ)伝えられる、とニコラスは歌います。
二人の切っても切れない絆を理解した瞬間です。

 

ここはピアノをバックに短く優しく歌い上げられてます。
自分の生まれ変わりのヴィクトリアとの深い関係を述べるニコラスを、ラブリエが優しく歌ってます。
ところが、曲は暗転し、不穏な雰囲気に包まれ始めます。

 

5 Ⅱ.FATAL TRAGEDY(フェイタル・トラジディ)

 

ある夜、ニコラスは夢の答えを得るため、ある家に向かいます。
そして彼は一人の老人から、ヴィクトリアがここで殺されたこと、それはたいそうな悲劇(フェイタル・トラジディ)だったということを聴きます。
しかし、老人は「今に真実を知る時が来る。おまえの未来が開けるにつれ」と言い残し、去って行きます。
少しづつ真相に近づいてはいますが、依然謎は残ります。
「信じる心も希望もなければ、心の平和は来ない」、と述べ、ニコラスはいまだ平安をとりもどせません

 

不穏な雰囲気から激しくなっていく曲展開が、真相に近づくたびに衝撃を受けている様子を表しているようですね。
ますます、激しくダークな曲調へと変化しているところが聴き所です。
また、ラブリエも表現を変えていっていて、見事に演じていると思います。

 

しかし、歌メロが終わってからが、本番と言えるかもしれません。
激しいギターリフと共に始まるのは、変拍子に包まれた、これぞプログレッシヴメタルチューンです。
ルーデスのキーボード、ペトルーシのギター、マイアングのベース、ポートノイのドラムスが、思う存分暴れまわってますね。
それぞれのテクニックをふんだんに味わえますし、また、ユニゾンになるところではさらにその超絶技巧に驚かされます。
このインストパートは、ドリーム・シアターの十八番ともいうべき素晴らしいプレイになっています。

 

SCENE FOUR(第4場)

 

6 BEYOND THIS LIFE(ビヨンド・ディス・ライフ)

 

ここで当時の新聞の見出しが現われます。

少女、殺される、エコー・ヒルで発砲事件
最悪の結末、犯人も死亡
自殺と見られる」

少女の叫びを聞いて近づいたその時の目撃者が見た状況が歌われていきます。
少女は横たわり、既に息絶えています。
そばには銃を持って震えている男。
目撃者は助けようとしますが、犯人は銃口を自分に向け、少女と重なり合って息絶えます。
犯人のポケットには自殺をほのめかすメモ
「おまえを失うぐらいならこの命を絶ったほうがまだマシだ。」

 

現場検証の末、恋愛感情のもつれによる悲しい結末と結論付けられることになります。
そして、最後には、「人生で学んだことは全て、今の命を越えて(ビヨンド・ディス・ライフ)伝えられる」、とこの作品のテーマの輪廻転生に注意が向けられます。

 

この新たな情報が入るに当たって、非常に激しい音楽が添えられています。
まさに、少女が殺され、恋人が自殺したそうした悲惨な状況を音楽で表現しています。
この曲は、11分を越える長い楽曲で、新たな情報を強い感情で歌にして提供していきます。
新聞の見出しから始まるラブリエのヴォーカルも秀逸です。
それに続いて状況を説明していくところはまた表現が違ってて、相当ヴォーカリストとしてこのロックオペラに最大限貢献していることが感じ取れます。
そのヴォーカルの熱演に合わせてプレイされる楽器隊の貢献もいうまでもありません。

 

また、ヴォーカルパートが終わった後の激しいプレイの応酬も聴き応え十分です。
速弾き、変拍子、ユニゾンなど、何でもござれのプレイにて飽きさせることなく最後まで聴かせてくれます。

 

SCENE FIVE(第5場)

 

7 THROUGH HER EYES(スルー・ハー・アイズ)

 

ニコラスはヴィクトリアについて知っていくにつれ、その悲劇を自分のことのように感じ始めてます。
不運な境遇、不公平な世の中での犠牲者になった彼女
彼女の目を通して(スルー・ハー・アイズ)自分のことを知る、と歌っています。
そして彼女の幻影が頭の中をよぎり、赤子のように泣き続けた、と歌います。
自分の前世であるヴィクトリアに共感し、同様の悲しみを持ち始めているわけです。

 

ニコラスが、自分の前世のヴィクトリアについて知り、感情移入を持ち始めるところで第1幕は幕を下ろします。

 

音楽的には、静かな弾き語りのような曲になっています。
ラブリエの歌唱がとても優しく、ニコラスがヴィクトリアの生まれ変わりであることを受け入れたかのような雰囲気を歌い上げてます。
静かな中での、マイアングのベースが非常に効いていていい雰囲気を生み出してます。
ペトルーシのギターソロプレイも、メロディアスで情感たっぷりに奏であげられています。
また、この曲では、女性ゴスペルシンガーのTheresa Thomason(テレサ・トーマソン)が参加して、いっそう楽曲を感動的に盛り上げています。

ACTⅡ(第2幕)

SCENE SIX(第6場)

 

8 HOME(ホーム)

 

第2幕が始まり、新たな真実が明かされていきます。

 

ここで二人の人物が登場します。
METROPOLIS, PART I: The Miracle and the Sleeper(メトロポリス)で二人の兄弟として表されていた、The Miracle (ザ・ミラクル)と The Sleeper(ザ・スリーパー)です。

 

ザ・ミラクルはアルバムのライナーノーツによると、エドワード・ベインズ議員、ザ・スリーパーはジュリアン・ベインズで、二人は兄弟です。
歌詞の中では、ミラクル、スリーパー、エドワード、ジュリアンと、二人の名前が混在して出てきますのでちょっとややこしいです。

 

まずは、ザ・スリーパー、つまりジュリアンが自分のことを歌っています。
ジュリアンは欲望に勝てずに堕落していく男として描かれています。
ライヴ、メトロポリス2000のDVDでは、彼がギャンブルとアルコールに依存している様子が映像として挿入されています。
そして、それがヴィクトリアが彼から離れるきっかけになったようです。

 

そして次は、ザ・ミラクル、つまりエドワーズの述懐になります。
ヴィクトリアはエドワーズに、ジュリアンの抱えている問題についての悩みを打ち明け、泣き続けます。
次第に二人は親密になり、愛し合うことになります。
しかし、エドワーズは、自分の兄弟ジュリアンの恋人をものにすることについて強い罪の意識を感じます。
それでも、彼女の誘惑に耐えられず、兄弟を裏切る道を進んでいくことになりました。

 

最後にニコラスの言葉が続きます。
ヴィクトリアの物語をもっと知るために記憶の中の鍵を開けることを決意します。
彼女についての謎を解くことが自分にとってすべてと感じ、真相を追究して行きます。

 

この曲は13分ほどの長い曲になっていますが、やはり圧倒的な演奏力で一気に聴かせてくれます。
特に、この曲はメトロポリスパート1 の続編のような楽曲になっています。
歌詞もちらほらと、パート1の中から取られていますし、メロディやリフもやはりパート1から取られているところがあって、思わずニヤリとさせられます。

 

曲全編で聞かれるシタールのような音は、ルーデスがサンプリングしてシンセで聞かせているもののようです。
その音もあいまってインドの雰囲気がところどころで見られます。
サビの部分は、基本同じメロディですが、ジュリアン、エドワーズ、ニコラスの3人に合わせて歌い分けるラブリエのヴォーカルは秀逸ですね。

 

中盤のインストパートもたまりません。
ペトルーシのギターソロが、メカニカル、テクニカルで非常にかっこよいです。
ワウワウのリズムも、印象的に曲全体を彩っています。
ラストのシンセシタールから始まる、超絶ユニゾンパートも素晴らしいです。

 

SCENE SEVEN(第7場)

 

9 Ⅰ. THE DANCE OF ETERNITY(ザ・ダンス・オブ・エタニティ)

 

ここで、演奏的にはハイライトとも言えるのではないかと思えるインストゥルメンタルが登場です。
このタイトルは、メトロポリスパート1の歌詞の一番ラストのセンテンス、Love is the Dance of Eternity”から取られています。
というわけで、前曲同様さまざまな部分で、パート1からのメロディやリフが散りばめられています。

 

これは超絶技巧の最高峰のインストと言えるのではないでしょうか。
それぞれの楽器隊4人による壮絶なバトルのような、激しく複雑なまさにプログレッシヴメタルチューンになっています。
個々のテクニックも素晴らしいですが、それに加え、やはりユニゾンプレイで見せる完璧なシンクロが、とてつもない完成度を誇っています。
そんななかでも、マイアングの超絶速弾きベースは必聴です。
ライヴで見ると特にわかりますが、指板をなめるその指はまさに蜘蛛のようで、えげつないすさまじさです。

 

あと、途中で雰囲気が変わってルーデスによるラグタイム風のピアノプレイが聴けます。
ラグタイムとは20世紀初頭のアメリカで流行したと言われてますので、まさにこの作品の舞台である1928年の雰囲気をかもし出しているようですね。
こんなところにも、ドリーム・シアターの、そしてルーデスのセンスの良さが感じられます。

 

このようなヘヴィなインストによって、ヴィクトリアを挟む2人の葛藤の深さが表現されているかのようですね。

 

10 Ⅱ. ONE LAST TIME(ワン・ラスト・タイム)

 

ニコラスは、ヴィクトリアをめぐる3人の三角関係について知りましたが、まだ謎は残っていると感じています。
ヴィクトリアはなぜ殺されなければならなかったのか。
ジュリアンを傷つけたからなのか、別れを告げたからなのか。
まだ、真相ははっきりとしません

 

ヴィクトリアは言います。
最後にもう一回(ワン・ラスト・タイム)、二人共に横になりましょう。」
ここではこの言葉の意味ははっきりしませんが、後で再びこのフレーズが登場します。

 

ニコラスは、ジュリアンの家だった場所に来ています。
そうすると、少しずつ記憶が蘇ってきます。
まだ核心に迫ることはできませんが、ヴィクトリアの記憶が少しずつ蘇りつつあるようです。

 

前曲の ザ・ダンス・オブ・エタニティからの流れが秀逸ですね。
ゆっくり静かなイントロでは、ルーデスのピアノの音の粒が美しく散りばめられています。
ラブリエの熱唱もあり、とてもドラマティックな小曲になっています。
ラストのルーデスの軽快なピアノもとても印象的です。

 

SCENE EIGHT(第8場)

 

11 THE SPIRIT CARRIES ON(ザ・スピリット・キャリーズ・オン)

 

自分の前世のヴィクトリアとの交流により、ニコラスは生と死について深く考えます。
これまでは死はすべての終わりと思い恐れていましたが、魂はそれを超越したものと理解します。
それで、「もし明日死んでも大丈夫、魂は生き続ける(ザ・スピリット・キャリーズ・オン)から」、と語れるようになりました。

 

そんなニコラスに、ヴィクトリアは「前へ進んで、でもわたしの思い出は消さないで」と歌います。

 

ニコラスは、もはや、最初に抱いていた不安、恐怖、苦しみから完全に解放され、心の安らぎを得ています。
自分の前世であるヴィクトリアも自分にとっては現実の存在であり、うまく共存できそうな気もしてきました。

 

こうして前世をめぐる旅を経て、ついにニコラスは心の平安を得る、というエンディングのような雰囲気になっています。

 

音楽的には、クライマックスにふさわしいような美しいバラードになっています。
これもまた、前曲の ワン・ラスト・タイムからのつながりが見事な出来になっています。
ルーデスのピアノに合わせて、ささやくように歌うラブリエは、心の平安を取り戻したニコラスを絶妙に表現していると思えます。

 

また、この曲の聴き所はたっぷりと披露されるペトルーシのギターソロと言えるでしょう。
ドラマティックでメロディアス、完全に泣かせてくれる美しいメロディを弾きまくってくれます。
心揺さぶるギターソロ、という点ではここがこのアルバム中の頂点と言えるかもしれません。

 

また、ラブリエの素晴らしいヴォーカルもいい出来ですが、後半に再び入ってくるテレサ・トーマソンのクワイヤがさらにドラマティックに楽曲を盛り上げてます。

 

ドリーム・シアターが超絶技巧のない部分でも、素晴らしい音楽を作れる、ということを見事に証明している美しいバラードになりました。

 

SCENE NINE(第9場)

 

12 FINALLY FREE(ファイナリー・フリー)

 

ここで、催眠療法師はニコラスを催眠状態から解きます。
戻ってくるまでの手順を説明して、こう語りかけます。
「目を開けなさい、ニコラス(Open your eyes , Nicholas)。」
そして心の平安を取り戻したニコラスは、車で家に帰ります。

 

しかし、物語はここでは終わりませんでした。
雷雨の音と共に、あの惨劇の金曜の夜の状況がエドワーズとヴィクトリアとジュリアンの3者により語りだされます。

 

まずはザ・ミラクルであるエドワードが語ります。
彼は手を血で染めています。
まさかヴィクトリアが自分の元を離れ、あの礼儀知らずな男(ジュリアン)の元に行くとは、と述懐します。

 

生き残ったのはこのエドワードでした。
裏切ったヴィクトリアを殺し、ついで、ジュリアンも撃ち殺します。
そしてジュリアンが恋に破れた末にヴィクトリアを殺し、絶望のうちに後を追って自殺した、と思わせる遺書をジュリアンのポケットに入れて逃走します。

 

次にヴィクトリアがその日のことを語ります。
金曜日の午後、ばったりジュリアンに会います。
これまで、ジュリアンに隠れてエドワードと逢引きを重ねていましたが、そろそろエドワードと縁を切り、ジュリアンに戻りたいと思います。
しかし、それが危険であることは認識しています。
エドワードがこのことを知ったなら、彼は兄弟でも殺すでしょう、と言っています。
そして、誰にも気付かれないと思って愛を確かめ合っていたときに、惨劇が起きたのです。

 

ここではっきりするのは、ヴィクトリアは単なる被害者でも犠牲者でもなかった、ということです。
彼女自身裏切りを重ね、二人の兄弟を翻弄することによって自ら悲劇の種をまいていたのでした。

 

ここで、その部分の再現シーンがCDには収められています。
音だけではわかりにくいですが、この部分はメトロポリス2000のDVDでは映像化されていますので、それをもとに簡単に何が起こっているのか説明します。

 

人気のないところで隠れて口づけを交し合うジュリアンとヴィクトリア。
そこにエドワードが近づき二人を押し倒します。
ナイフを取り出して防戦するジュリアン。
しかし、エドワードはジュリアンを拳銃で数発撃ちます。
恐怖で叫ぶヴィクトリア。
エドワードはヴィクトリアに、「目を開けろ(Open your eyes)」と言い、目を見開いたヴィクトリアを撃ち殺し逃げていきます。

 

ジュリアンは撃たれたものの、即死ではありませんでした。
痛みをこらえ、既に息絶えているヴィクトリアの元へ近づきます。
そしてヴィクトリアと体を重ね、彼もまた息絶えます。

 

撃たれた後ヴィクトリアに近づいていく時から、ザ・スリーパーであるジュリアンのパートが歌われます。
その部分は、ちょうど10曲目の ワン・ラスト・タイムでヴィクトリアが歌っているパートと同じです。
最後にもう一回(ワン・ラスト・タイム)、二人共に横になりましょう。」
ヴィクトリアが語るときは、意味がわかりませんでしたが、まさにこの二人で横たわり、死の眠りにつくときの言葉だったことがはっきりします。
そして、ジュリアンとヴィクトリアは最期を迎えますが、ジュリアンも再び新しい魂へ変わることに言及しています。

 

そして最後に全ての真相を知ったニコラスが語ります。
彼は、すでに催眠療法から解かれているので、ここで明らかにされた真実は知らないのでは、と思われます。
彼は今の気持ちとして、命を見つけ、やっと自由になれた(ファイナリー・フリー)と語っています。
ヴィクトリアについて知り、彼女と出会い、彼女と共に生きることで自分を知り、自由になれたのです。

 

ニコラスは完全に不安から解放され、心の平安と共に生き続けることを決意します。

 

ここから先は、最終的なエンディングのネタばれになりますので、ご注意ください。
もし、この先を知らない方は、DVDメトロポリス2000のエンディングシーンと、そこを解説しているオーディオコメンタリーを聞くことを強くお勧めします。

↓ ↓ ↓ たっぷり楽しめる内容になっています。

そして音楽は終わり、CDでは最後のドラマシーンが描かれます。

 

車から降りたニコラスは家に帰り、テレビを見ながらリラックスしています。
それからテレビを消して、ウィスキーのロックを作ります。
そしてレコードに針を落とします。
すると、一人の人物がずかずかと部屋に入ってきます。
その男は「目を開けなさい、ニコラス(Open your eyes , Nicholas)。」と言い、ニコラスに襲い掛かります。
レコード針が盤からずれて、ノイズだけが響いていき、完全なエンディングを迎えます。

 

これはCDの音だけでは僕はよく理解できませんでしたが、メトロポリス2000のDVDでは、この時の様子が映像として描かれています。

 

映像を見るとなんと近づいてくるのは、あの催眠療法師でした。
ではなぜ催眠療法師がニコラスを襲いに来たか、というと一つの言葉がカギになっていました。

Open your eyes」。

この言葉は、催眠療法師が最初にニコラスに催眠療法の解除の方法を示したとき、そして催眠療法から戻ってくるときの2回、それぞれ1曲目と12曲目で語られています。
これは注目すべきことに、エドワードがヴィクトリアを撃ち殺す直前に述べた言葉と同じ言葉になっています。(12曲目)
ですから、ニコラスはヴィクトリアの生まれ変わりということは早い時点で明らかになっていましたが、実はつまり、この催眠療法師は、なんとエドワードの生まれ変わりだったのです。
このことは、催眠療法師がニコラスに襲い掛かるときの映像の中に、それぞれエドワードとヴィクトリアの静止画像がわずかに差し込まれることで示されてます。(ぼやっとしてると見逃します。)
そして、真相を知ったニコラスを消しに来た、というわけです。

 

つまり、ニコラス=ヴィクトリアは、催眠療法師=エドワードによって前世と現世の2回も殺されてしまった、ということなのでした。
DVDのコメンタリーで、ペトルーシは、輪廻転生において、生まれ変わった人は、大抵前世の人と似たような人生を歩む、と述べています。
まさに、ヴィクトリアに起きた悲劇は、その生まれ変わりであるニコラスにも起きてしまったのでした。

 

これを知ったときは僕も最初はかなり背筋が凍る思いがしました。
と同時によく練りこまれたストーリーに感動もしたものです。

まとめとおすすめポイント

1999年リリースのDREAM THEATER(ドリーム・シアター)の5thアルバム、METROPOLIS PT.2 : SCENES FROM A MEMORY(メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー)はビルボード誌のアルバムチャートで第73位、同誌Top Internet Albumsチャートでは第2位を記録しています。
アメリカでは12万枚を売り上げています。

 

このアルバムはやはり彼らの最高傑作と考える人は多いようです。
緻密に構成されたストーリー、そしてそれを表現する音楽は超絶技巧によって支えられています。
もはや、個々のプレイは超絶、としか言いようがありませんね。
よくぞこんな素晴らしい5人のプレイヤーが集まったものだと思います。

 

プログレッシヴメタル、という新たなジャンルを引っ張ってきたドリーム・シアターが、満を持して作ったコンセプトアルバムは、期待通り、いや期待を遥かに上回る素晴らしい出来となっていると思います。
メトロポリスパート1が全ての発想の源となっていますが、よくぞここまで盛り込んで作り上げたな、と驚かされます。
今回のアルバムのサブタイトル、SCENES FROM A MEMORYはパート1の歌詞からの引用ですし、様々な部分にパート1からの引用のワードが散りばめられています。
また、メロディやリフ、リズムなども、いろんな場所に姿を変えて混じりこませられています。
それも、決して使い回しではなく、新たなキー、テンポ、演奏に作り変えられているので、ワンパターン的な感じはありません。
むしろ、パート1のフレーズを見つけて喜べるような、濃いいファンをも楽しませる作りになっていますね。

 

作品の素晴らしさにも驚かされますが、さらに驚きなのは、この複雑な構成のアルバム全体を、ライヴにおいて完全再現してしまうところです。
この記事中にもたびたび引用してますが、この完全再現ライヴは、METROPOLIS 2000 : SCENES FROM NEW YORK(メトロポリス2000)というタイトルでDVD化されています。
そこに挿入される映像で、一層このアルバムについての理解を深めることが出来るわけですが、やはり1番注目すべきはライヴそのものでしょう。
超絶なテクニックが数多く収められている作品を、ライヴでほぼ音源に近い形でプレイするって、やはり本物の証と言えるでしょう。
これまで、テクニックを磨いてきた彼らだからこそ可能になったショーと言えます。

 

エレキ、ベース、ドラム、キーボード、それぞれが時にはソロで、時にはユニゾンで超絶フレーズをプレイしまくってこのアルバムの世界観を見事に表現しています。
もちろん、超絶な部分だけでなく、緩急、強弱、静と動、完全なバランスをとって演奏しています。
もう、すさまじく素晴らしい、としか言いようがありません。

 

そして、このアルバムは壮大なロックオペラとなっているわけですが、それを表現するヴォーカルの力にも大きな比重が置かれます。
その点で、ラブリエは複数の登場人物と、その時の感情などを見事に演じ分けています。
彼の、繊細なパートからシャウトまでの守備範囲の広さも、この作品を成功に導いた要因と考える必要があるでしょう。

 

あと、一曲一曲が弱い、名曲と言える曲があまりない、という意見もあります。
しかし、それは当然のことだと思われます。
普通は一曲の中で起承転結があるものです。
しかし、この作品での個々の曲は、アルバム全体のストーリーのパーツにすぎません。
ですから、どれか一曲を抜き出して聴くという作業があまり意味がないわけです。
やはり、アルバム1枚77分を一曲ととらえて聞くのが、このコンセプトアルバムを聴く正しい方法ではないかと思います。

 

CDの帯には、

ロック史上に残る名作完成!
卓越したテクニックと、ドラマティックな感性が織り成す、究極のコンセプト・ロック・アルバム

と紹介されています。
時代を超えて多くの人にお勧めしたい、強力な一枚と僕も考えています。

チャート、セールス資料

1999年リリース

アーティスト:DREAM THEATER(ドリーム・シアター)

5thアルバム、METROPOLIS PT.2 : SCENES FROM A MEMORY(メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー)

ビルボード誌アルバムチャート第73位 同誌Top Internet Albumsチャート第2位

アメリカで12万枚のセールス