低迷を乗り越え、第2の黄金期に突入 AEROSMITH(エアロスミス) - PUMP(パンプ)

低迷期から復活までの歩み





1970年代に大活躍していたエアロスミスでしたが、ヴォーカルのSteven Tyler(スティーヴン・タイラー)とギタリストのJoe Perry(ジョー・ペリー)の関係が悪化、アルバム5作を残して1979年にジョーが脱退します。
その後、バンドはギタリストを代えて2枚のアルバムを出しますが、人気は低迷していきます。

 

1984年には、二人も和解し、ジョーがバンドに戻ってきて、翌1985年に8thアルバム、DONE WITH MIRRORS(ダン・ウィズ・ミラーズ)をリリース。
一部評価する声はあるものの、セールス的には浮上することは出来ませんでした。

 

ところが思わぬところから再浮上のきっかけをつかみます。
1986年、ヒップホップグループのRUN -D.M.C.がエアロスミスの過去の名曲、WALK THIS WAY(ウォーク・ディス・ウェイ)をカバー。
スティーヴンとジョーはレコーディングに参加するだけでなく、PVにも出演します。
これがビルボード誌シングルチャートで第4位という大ヒットを記録します。
ここで再びエアロスミスが脚光を浴びるきっかけが生まれたのです。

 

そして、この流れを引き寄せ、追い風に乗るために、次のアルバムでは大きな変化をつけることにします。
一つはプロデューサーの変更で、Bruce Fairbairn(ブルース・フェアバーン)が担当することになります。
彼は、BON JOVI(ボン・ジョヴィ)のあのモンスターアルバム、SLIPPERY WHEN WET(ワイルド・イン・ザ・ストリーツ)を手掛けており、その手腕に期待が託されたのです。

 

また、これまでは楽曲のほとんどをバンド内で作っていましたが、外部ライターを積極的に活用することにします。
そうすることで、よりキャッチーな楽曲作りを目指したのです。

 

こうして1987年にリリースされた、エアロスミスの9thアルバム、PERMANENT VACATION(パーマネント・ヴァケイション)はビルボード誌アルバムチャートで第11位、最終的にはアメリカで500万枚を売り上げる大ヒット作となりました。
ゴージャスなサウンドと、ポップでキャッチーな歌メロなど、旧来のファンは受け入れにくく思った人も多かったようですが、80年代サウンドに生まれ変わった彼らの音は、多くの音楽ファンに受け入れられたのです。
そして、僕も、このアルバムでエアロスミスの魅力にどっぷりとつかることになりました。

 

アルバムリリースに合わせてメジャーデビューしたての Guns N’ Rosesガンズ・アンド・ローゼズ)と共にライヴツアーを行います。
エアロスミスは、バンド内に蔓延していたドラッグをきっぱりとやめ、クリーンになってからの第二の黄金期を迎えたことになりますが、ガンズの方は
まさに今ドラッグが蔓延状態でした。
ガンズはエアロからの音楽的影響を公言してましたが、ドラッグまで受け継いでしまっていたようですね。
ちょうど禁煙を始めた人がヘヴィスモーカーと一緒に仕事をするような感じでしょうか。
両者の共同のツアーは、エアロのメンバーにとってきっとやりにくかったに違いありませんw

 

さて、そんな中次のアルバムの制作に入ります。
今回も前作同様、ブルース・フェアバーンにプロデュースが任されます。
前作でかなりポップ路線をとることによって復活を遂げましたが、今回は、ゴージャスなサウンドはそのままに、もっと絞った強力なロックアルバムになったように感じられます。

 

では今日は、1989年リリースのAEROSMITH(エアロスミス)の10thスタジオアルバム、PUMP(パンプ)をご紹介したいと思います。

PUMP(パンプ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、YOUNG LUST(ヤング・ラスト)。

 

やはりエアロスミスはこうでなくちゃという、怒涛の疾走ソングで幕を開けます。
ジョーとスティーヴンに、今回もJim Vallance(ジム・ヴァランス)が共作で参加しています。
スティーヴンの咆哮によって、勢いのあるロックンロールが聞けます。
ドラムのJoey Kramer(ジョーイ・クレイマー)、ベースのTom Hamilton(トム・ハミルトン)のリズム隊により、勢いとグルーヴ感が見事に生み出されていると思いますね。

 

若返ったのかと思える、爽快、豪快なオープニングで、前作の復活がフロックではないことが一発で証明されたと感じた方も多いのではないでしょうか。
ドライヴ感あふれるロックで、全開のまま次の曲へ。

 

2曲目は、F.I.N.E(邦題:F.I.N.E)。

 

テンポは少し落とされますが、続いてエアロ節あふれるロックンロールが続きます。
これもズンズンと進んでいく、豪快なロックチューンです。
この曲では、ジョーとスティーヴンの2人に、Desmond Child(デズモンド・チャイルド)が参加して作られてます。
道理で、Aメロからサビまで、非常にキャッチーなメロディを有してますね。

 

歌詞の内容はちょっと卑猥なものになってます。
そんな中で、Parents Music Resource Center(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)を率いて卑猥な歌詞から子供たちを守ろうと活動をしているTipper Gore(ティッパー・ゴア)の名前を入れて、彼女を皮肉っている歌詞が含まれてます。

 

内容はともかく、この曲も元気いっぱいのロックンロールで、スティーヴンのヴォーカルが変幻自在に歌いまくっています。
演奏に加えて、彼のワイルドな歌唱のヴァリエーションが、エアロスミスの曲を非常に引き立たせていると思います。

 

この曲はプロモーションのみのシングルとしてカットされ、ビルボード誌 Mainstream Rockチャートで第14位を獲得しています。

 

3曲目は、LOVE IN AN ELEVATOR(エレヴェイター・ラヴ)。

 

エレヴェイターガールの、スティーヴンへの「Oh,Good morning,  Mr.Tyler.  Going down?」誘惑ともとれる声かけから、ヘヴィなリフがはじまっていきます。
この曲は、ジョーとスティーヴンの共作となっています。
なかなかヘヴィなノリがありますが、あくまでもポップなメロディ。
フックのあるこの曲は、なかなか一度聴いたら忘れがたいシングル向けの曲になってますね。
ファンとの掛け合いをすぐに想像できるコール&レスポンスのあるAメロもよく出来てますし、サビもキャッチーでノリノリです。
ラストは、メンバーによってアカペラっぽく締まるところもなかなかお洒落ですね。
ジョーのギターソロもたっぷり披露され、非常に楽しめるロックンロールになっています。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第5位、同誌Mainstream RockチャートでNo.1を獲得しています。

 

4曲目は、MONKEY ON MY BACK(モンキー・オン・マイ・バック)。

 

“have a monkey on one’s back” とはスラングで、麻薬中毒であることを表します。
かつて、ドラッグに侵されていた彼らでしたが、got to get that monkey off your backと歌い、onをいかにoffにしなきゃならないか、というメッセージソングになっています。

 

この曲もジョーとスティーヴンの共作です。
スライドギターを多用して、なかなかブルージーで印象深い曲になっています。
ベースもゴリゴリとグルーヴィーに動き回ってますね。
この曲でも、彼ららしいノリとグルーヴ感があふれ出てますね。

 

これもプロモーション用のシングルとしてリリースされ、 Mainstream Rockチャートで第17位を記録しています。

 

5曲目は、WATER SONG / JANIE’S GOT A GUN(ジェイニーズ・ガット・ア・ガン)。

 

曲の頭に10秒ほど、WATER SONG という短いインストがついてます。
Randy Raine-Reusch(ランディー・レイン・レウスチ)という演奏家によるプレイで、グラス・アルモニカ、ウィンドゴング、ブルロアラーといった変わった楽器を使って作り出した音のようです。
このインストで、ちょっとおしゃれになってる、のかな?

 

で、続くジェイニーズ・ガット・ア・ガンはスティーヴンと、トム・ハミルトンによる共作曲です。
少し妖しい雰囲気から始まりますが、途中からは彼らの懐の深いロックソングで、印象に残る楽曲です。

 

スティーヴンは、ニュースで銃弾に倒れた犠牲者に関する記事にふれます。
それで、銃問題と、児童虐待、近親相姦のテーマを結び付けようと考えました。
彼は、誰も父や母から虐待を受けた子供たちに関心を払っていないことに対して強い怒りを感じていたのです。
で、歌詞の内容は、父親から何年もの間性的な虐待を受けてきた少女ジェイニーが、銃を使って彼に復讐を果たす、というものになっています。
まさに、アメリカ社会の抱える、銃問題と児童虐待の問題をテーマにした楽曲となりました。

 

こうした内容を踏まえて聴くと、スティーヴンのヴォーカルが悲痛な叫びとして上手く表現されていることに気付けますね。

 

この曲は 最優秀ロック・パフォーマンス賞ヴォーカル入りデュオまたはグループ部門で、見事彼らにとって初のグラミー賞を受賞しています。
また、PVは、MTV Video Music Awardの、最優秀ロックビデオ賞を受賞しています。

 

加えて、アルバムからの2ndシングルとしてカットされており、シングルチャート第4位、Mainstream Rockチャートで第2位を記録しています。

 

6曲目は、DULCIMER STOMP / THE OTHER SIDE(アザー・サイド )。

 

この曲も、イントロに、DULCIMER STOMP、というインストからの始まりになっています。
この部分は、アパラチアンダルシマーという弦楽器が使われていますが、ここもランディー・レイン・レウスチによるプレイになっています。
こうしたちょっとしたブレイクがあった後、ノリのいい アザー・サイドへ移っていきます。

 

アザー・サイドはスティーヴンと、ジム・ヴァランス他数名の外部ライターによる楽曲になっています。
これも、ミドルテンポですが、非常にキャッチーでいい曲ですね。
ホーンセクションがたっぷりと曲を飾っているところで言えば、いちばん前作のパーマネント・ヴァケイションの雰囲気を保った曲と言えるかもしれません。
また、ジョーのギターソロがかっこいいですね。
ハイテクギターが当たり前になってきた時代にあって、彼のオールドロックンロール風のプレイはとても味わい深いと思います。

 

この曲は4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第22位、Mainstream RockチャートでNo.1を獲得しています。

 

で、この曲のPVは1990年のジェイニーズ・ガット・ア・ガンに続いて、1991年のMTV Video Music Awardで、最優秀ロックビデオ賞を受賞しています。

 

7曲目は、MY GIRL(マイ・ガール)。

 

裏拍から入る、軽いリズムトリックからの軽快なロックンロールです。
ジョーとスティーヴンの共作曲で、やはりこういうシンプルなロックはお手の物といった感じですね。
エアロスミスにしてはちょっと普通すぎる感じもありますが、なかなかゴキゲンな楽曲になってます。

 

8曲目は、DON’T GET MAD, GET EVEN(ドント・ゲット・マッド、ゲット・イーヴン)。

 

この曲もジョーとスティーヴンの共作曲で、前作のHangman Juryを思い出せるようなゆったりしたブルージーな楽曲です。
この味はやはりエアロスミスにしか出せないのではないでしょうか。
スティーヴンの、熟成された枯れたヴォーカルに、ブルージーなジョーのギタープレイ
とても味わい深い楽曲ですね。
途中で入ってくるハーモニカもいい味を出してます。
中後半で力強く張り上げるスティーヴンのヴォーカル能力にも要注目だと思いますね。

 

9曲目は、HOODOO / VOODOO MEDICINE MAN(ヴードゥー・メディシン・マン)。

 

イントロとして、HOODOOというインストパートがついています。
妖しい雰囲気満点のイントロダクションになっています。

 

そして、ヴードゥー・メディシン・マンに入りますが、この曲はスティーヴンと、もう一人のギタリストBrad Whitford(ブラッド・ウィットフォード)の共作曲です。
かなりベースの音の効いた、暗く激しい楽曲になっています。
つかみどころが難しいので、評価はあまり高くないようですが、なかなか展開の面白い楽曲になっていると思います。
静かなスタートで、抑え気味に歌い始めるスティーヴンですが、盛り上がるにつれ、シャウト気味に力強く歌い上げてます。
この曲で1番注目すべきは、曲全体で存在を主張している、ベースラインかもしれません。

 

タイトルの “ブードゥー教のまじない師”にふさわしい妖しい雰囲気たっぷりの楽曲になっています。

 

アルバムラスト10曲目は、WHAT IT TAKES(ホワット・イット・テイクス)。

 

ラストはジョーとスティーヴン、そしてデズモンド・チャイルドの共作の名バラードです。
2年後に B’z がアルバム IN THE LIFE 収録の「憂いのジプシー」でパクったと物議を醸した曲でもあります。
イントロからAメロBメロのメロディや、歌い方、雰囲気は確かにそっくりですね。
特に稲葉さんの歌い方は、スティーヴンっぽく歌う曲は他にもたくさんありますし、エアロスミスを初めとして多くの洋楽ハードロックバンドを好きだったことは周知の事実です。
ですから、僕はリスペクトととらえています。
もし、本気でパクるなら、もう少しぼやかすでしょうし、何よりこんな大ヒット曲をパクったらバレバレですよね。
エアロのあの雰囲気をうまく取り入れて、新たな名曲を作ったと僕は考えています。

 

それはさておき、取り入れたくなるような名曲であることは間違いありません。
ゆったりとした曲調に、哀愁を帯びたスティーヴンのヴォーカルが響き渡ります。
時に切なく、時に激しく歌うその声は、やはり唯一無二で、素晴らしいヴォーカリストだと感じさせられます。

 

やっぱりデズモンド・チャイルド効果でしょうか、歌メロがキャッチーで心揺さぶられます。
そんなメロディをスティーヴンが切なく歌えば、感動の名曲が出来上がりますね。
裏声の使い方、半分だけシャウトっぽいところなど、スティーヴンのヴォーカルに圧倒されます。
途中で聴ける、ささやかなハーモニカの音がまたいい味を出して楽曲を彩っています。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャート第9位、Mainstream RockチャートでNo.1を獲得しています。

 

曲終了後少しすると、隠しトラックとして、ささやかなアコースティックなインストがあらわれ、エンディングを迎えます。

まとめとおすすめポイント

1989年リリースのAEROSMITH(エアロスミス)の10thスタジオアルバム、PUMP(パンプ)は、ビルボード誌アルバムチャートで第5位、アメリカだけで700万枚を売り上げる、全作以上の大ヒットとなりました。

 

前作もヒット曲が3曲ほど連発しましたが、今回は4曲のシングルヒット、それもさらに高い順位をそれぞれ獲得しています。
そのような長期にわたるシングルのチャートインがアルバムセールスを押し上げたと思われます。

 

アルバムの内容はと言えば、復活劇を遂げた前作と同じプロデューサー、また適度な外部ライターの起用、と大きく方針は変わってはいません。
しかし、前作でシーンに帰ってきた勢いが、さらにクオリティの高いアルバムを作らせたのではないかと感じられます。
疾走感あふれる楽曲に、熟練の技の感じられる渋い曲、心に染みるバラードなど、バラエティ豊かなのは前作から変わっていません。
ですが、若返ったのではなかろうか、と思えるような瞬間を何度も感じることができます。
きっと復活して大ヒットを遂げた余裕などもそこには関係しているのではないでしょうか。

 

また、外部ライターの起用に関しては特に旧来のファンの間で賛否両論あるわけですが、基本全ての楽曲でメンバーが関わっており、半分で外部ライターが共作という形になっています。
加えて、シングルヒットも、1stと2ndシングルはメンバーのみの作品です。
つまり、言うほど外部ライターに依存しているわけではないようです。
ですから、勢いを取り戻したバンドが、再びいい曲を書ける力も取り戻したということになるでしょう。

 

そんないい曲を熟練のバンドメンバーが演奏して、スティーヴンがその類まれなるヴォーカルを吹き込んでます。
もちろん、プロデューサーのブルース・フェアバーンによって、現代風(当時の)の音楽へとブラッシュアップされています。
時にはゴージャスなアレンジもありますが、前作よりは絞り込まれた印象があります。
そこにあらわれているのは、まさに他でもないエアロスミスのサウンドです。

 

時代と共に変化しても、変わらずエアロスミスらしさを感じられることはすごいと思いますね。
緻密に作りこまれたサウンドも、新生エアロスミスの新たな特徴の一つとして吸収しています。
なんと言っても、バンドのグルーヴ感、そしてスティーヴンのワイルドかつ繊細なヴォーカルが、時代を超えていっそうの魅力を生み出しているのです。

 

この力強いアルバムは、前作での復活劇がフロック(まぐれ)ではないことを立派に証明したと思います。
復活後の黄金期に突入したエアロスミスの、活力にあふれるロックアルバムとしてお勧めしたいアルバムとなっています。

チャート、セールス資料

1989年リリース

アーティスト:AEROSMITH(エアロスミス)

10thアルバム、PUMP(パンプ)

ビルボード誌アルバムチャート第5位 アメリカで700万枚のセールス

1stシングル LOVE IN AN ELEVATOR(エレヴェイター・ラヴ) ビルボード誌シングルチャート第5位、同誌Mainstream RockチャートNo.1

2ndシングル  JANIE’S GOT A GUN(ジェイニーズ・ガット・ア・ガン) シングルチャート第4位、Mainstream Rockチャート第2位

3rdシングル WHAT IT TAKES(ホワット・イット・テイクス) シングルチャート第9位、Mainstream RockチャートNo.1

4thシングル THE OTHER SIDE(アザー・サイド ) シングルチャート第22位、Mainstream RockチャートNo.1