偉大なジャクソン家の宿命から解放された娘の大ブレイク作品  JANET JACKSON(ジャネット・ジャクソン) - CONTROL(コントロール)

10人兄弟の末っ子の宿命





80年代を語る上で欠かすことができない一つの家族があります。
それはジャクソン・ファミリーです。
1960年代の末から、歌に踊りにバラエティに、エンターテインメントの世界で一世を風靡した家族です。
特に、10人兄弟姉妹の8番目のMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)を筆頭に、様々なヒットを飛ばしていっています。

 

そして今日紹介する JANET JACKSON(ジャネット・ジャクソン)は10人兄弟の末っ子の女の子でした。

 

まだジャネットの幼い頃、兄たちはThe Jackson 5(ジャクソン5)として活動を開始、1969年のデビューシングルでいきなりビルボード誌シングルチャートでNo.1を獲得する大ヒットを飛ばしてます。
ジャネットは当初は、競馬の騎手か芸能関係の弁護士になりたかったようですが、ジャクソン家に生まれた彼女にそのような選択の余地はありませんでした。
彼女も兄や姉たちと同様、エンターテインメントの道を歩むよう宿命付けられていたのです。

 

早くも7歳の時にはラスヴェガス・ストリップのカジノで舞台を経験しています。
そして1976年には、ジャクソン家の子供たちをフィーチャーしたTVシリーズのThe Jacksonsというバラエティショーにおいて演技を始めています。
1977年以降は、SITCOM(Situation Comedyの略で、特定の状況で繰り広げられるコメディ)の数作品で主役を演じるなど、確実に人気を獲得していっています。

 

ジャネットが16歳のとき、父親であり、マネージャーでもあるJoseph Jackson(ジョセフ・ジャクソン)は彼女がA&M Recordsと契約し、歌手としてデビューできるよう手配します。
そして、1982年には自身の名前をタイトルにしたアルバム、JANET JACKSON(邦題・ヤング・ラヴ)をリリース。
1984年には、2ndアルバム DREAM STREET(ドリーム・ストリート)をリリース。
どちらも、
R&Bチャートなどでの小ヒットシングルを出しますが、アルバムとしては奮わず、商業的には失敗作とみられています。

 

エンターテインメント一家で生まれ、兄や姉たちは成功を収めているなかで、宿命付けられたシンガーへの道
あてがわれたプロデューサー。
あてがわれた楽曲やスタッフ。
演奏は一流ミュージシャンですが、作詞も作曲も他人のもの。

 

与えられた環境で、彼女にはただ歌うしか選択肢はなかったようです。
決して悪い内容の作品ではありませんでしたが、そこには彼女のオリジナリティや、アイデンティティはほとんど見られません
彼女にコントロールできるものはほとんどなく、全てがお膳立てされたものだったようですね。

 

もともと歌手にはなりたくなく、大学へ行きたかったのですが、アルバム制作はマネージャーでもある父のためにやった仕事でした。
そんな2作品の失敗で、ついに彼女は父への反抗を形にします。
第二のジャクソン5としても売り出されていたDeBarge(デバージ)の7男、James DeBargeジェームズデバージ)との結婚を決めたのです。
ジャクソン家は、ジェームズの未熟さと薬物常用癖のため、猛反対
しかし、駆け落ち同然でついにジャネットはジャクソン家から出ることになったのでした。

 

結婚生活自体は、ジャクソン家の予想通りうまくいかず、翌年には離婚しています。
ジャネットはこれまではジャクソン家の傘の下に守られて、ほぼ何不自由なく育ってきました。
しかし、この辛い出来事を通して、彼女はついに自分の足で自らの道を歩むことを選択することができたのです。

 

ジャネットはマネージャーであった父から離れ、今度は A&M RecordsJohn McClainをマネージャーとして雇い入れ、父から独立した道を進み始めます。
この決定について、ジャネットは「わたしはただ家から逃れ、父の支配から逃れたかっただけ、でもそれはこれまでにした最も難しい決定の一つだった」と語っています。
当然のように父は怒り、John McClainに対して娘を盗んだ、と非難しますが、ジャネットの決意は固く、新しい道を進み始めたのです。

 

その新たな道を輝かしいものとした大きな要因の一つは、John McClainが彼女を、元THE TIME(ザ・タイム)のJimmy Jam and Terry Lewis(ジャム&ルイス)に紹介したことと言えるでしょう。
Prince(プリンス)の傘下を離れた二人は、さまざまなアーティストのプロデュースを行なっていました。
特に彼らはRoland TR-808という当時の最新鋭のドラムマシーンを早くに使いこなし、時代の最先端の音を生み出していました。
このような、プロデューサーとして上り調子のジャム&ルイスと、ジャクソン家の呪縛から逃れ全く新しい自らの道を歩もうとしていたジャネットの出会いは、素晴らしいケミストリーを生み出すことになります。

 

もともとジャム&ルイスの二人は、彼女のアルバムのために、他のアーティストに書いていた曲を使おうと思っていました。
しかし、ジャネットはそれでは満足しませんでした。
それで、二人はジャネットにレコーディングセットを渡し、彼女も共作と共同プロデュースする機会を与えます。
これまで、全て他人の敷いたレールの上を歩いていた彼女にとって、それは非常に大きなチャンスだったと思われますね。
そして、実際そのチャンスを彼女は十分に生かしきりました。

 

まず、ジャム&ルイスの二人はジャネットとの共同制作をするに当たり、最初の週を彼女を十分によく知るために費やしました。
ルイスは言ってます。
「我々は彼女の頭の中に入っていった。そして、彼女には何が出来るのか、何を言いたいのか、どこへ向かいたいのか、何になりたいのかを、彼女が自分自身を明らかにするにつれて確認していった。」

 

これまで、自分の意志はほとんど顧みられることのなかったジャネットが、ここで、ついに本当の自分が何なのかを知り、それをアルバムの中に収めることになったのです。
そういう意味で、このアルバムは、彼女にとって真のデビューアルバムと言えるかもしれません。

 

こうして、彼女の気持ちや経験を盛り込んだ楽曲たちが、一流のアレンジャー、プロデューサーによって時代の最先端を行くアルバムに収められることになりました。
では今日は、1986年にリリースされた、JANET JACKSON(ジャネット・ジャクソン)の3rdアルバム、CONTROL(コントロール)をご紹介します。

CONTROL(コントロール)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、アルバムタイトル曲、CONTROL(コントロール)。

 

まさに生まれ変わった新生ジャネット・ジャクソンによる挨拶的な内容になっています。
自分の人生に関することは自分で決定したい、と強い主張が含まれています。
これまで、周りから、特に父親からコントロールされていた彼女の、独立宣言のような歌詞になっていますね。

 

楽曲もシンセの使い方がミネアポリスサウンドらしく非常にかっこいいアレンジになっていますね。
ジャム&ルイスによる、様々な形で表れるリズムトラックの音が楽しいです。
改めて聴くとTHE TIME(ザ・タイム)の雰囲気もたっぷりあります。
やはりミネアポリスのプリンスを中心とした音楽は時代の先端を行っていたんだな、と感じられます。
兄のマイケルの1982年の大ヒット作のTHIRILLER(スリラー)でさえ、この音を聴くとすでに過去のものにしてるのではないか、という新しさ、かっこよさを感じられました。

 

PVでは、ザ・タイムのメンバーの数人が参加して、かっこいいパフォーマンスを見せています。
このころのぽっちゃりのジャネットも、キレのよいダンスを披露してがんばっているのが好感が持てますね。

 

この曲は、アルバムからの4thシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第5位、同誌Dance Club SongsチャートでNo.1、同誌 Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートでもNo.1を獲得しています。

 

2曲目は、 NASTY(ナスティ)。

 

Gimme a beat! の叫びをきっかけに次の曲が始まります。
この曲は、ミネアポリスに行った後に起きた彼女の体験が元になっています。
ストリートで、彼女は口汚い男たちに囲まれ、危険を感じたとき、彼女はジャム&ルイスの元に助けを求めるのではなく自分で立ち向かったようですね。
コントロールとは、単に自分の世話をするだけでなく、保護されてない世界で行き抜くことを意味すると語っています。
そのような自己の防衛の気持ちから生まれた楽曲となっています。

 

そのような内容に、ジャムは当時最新のMirage というキーボードでメロディを作っていきます。
さまざまなサウンドエフェクトを用いて新しいものを作り出すのは、やはりプリンスと共に活動していたときの影響が大きいようです。
正統的な方法以外でサウンドやメロディを生み出すことで、最新のサウンドが生まれていったのです。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第3位、Dance Club Songsチャートで第2位、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートではNo.1を獲得しています。

 

3曲目は、WHAT HAVE YOU DONE FOR ME LATELY(恋するティーンエイジャー)。

 

この曲は元々はジャム&ルイスが自分たちのレコードのために書いていた曲でしたが、ジャネットの離婚の際の気持ちを取り入れて詩を書き直して新たな楽曲に生まれ変わりました。
内容はパートナーとの関係性においての女性のフラストレーションが中心に展開する楽曲となっています。
この曲により、ジャネットは独立した女性、としての立場を確立することになりました。
それにしても、そんな内容なのに、「恋するティーンエイジャー」って邦題は何だ、って思いますけどね。
1st2ndアルバムのときの彼女の作品ならわかりますが、このアルバムで大きく変化したことを考えると、こんなタイトルはありえないと個人的には思います。
当時チャートに登場してきたとき、このアイドルチックなタイトルでドン引きしていたのに、曲はかっこいい、というギャップに悩まされたのを思い出します。

 

楽曲はクールでアップテンポなナンバーですね。
ちょっとファンキーな感覚もありますが、それを多少無機質に歌うジャネットが非常にかっこいいです。
こんな強いリズムの中で軽やかにからむシンセの音が心地よいですね。

 

この曲は、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第4位、Dance Club Songsチャートで第2位、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートではNo.1を獲得しています。
新たに生まれ変わってシーンに登場した彼女は、いきなりの大ヒットを飛ばすのに成功しました。

 

4曲目は、YOU CAN BE MINE(ユー・キャン・ビー・マイン)。

 

これもカラフルなアップテンポなダンスチューンです。
ここまでの4曲は全てジャム&ルイスとジャネットの3人による共作となっています。
キャッチーなサビがいいですし、その裏のゴージャスなシンセが、楽曲に厚みを持たせてます。

 

5曲目は、THE PLEASURE PRINCIPLE(愛の法則)。

 

この曲はザ・タイムのキーボーディスト、Monte Moir(モンティ・モイア)による楽曲です。
結構この曲のサビメロが好きでしたね。
ベースラインもグルーヴィーで、シンセもかっこよく楽曲を彩り、素晴らしいダンスソングです。

 

この曲はアルバムからの最後のシングルになりますが、PVがいいですね。
完全に彼女のダンスをフィーチャーした内容になっています。
PVを見ると、このアルバムの初期のシングルはまだ元アイドル、って感じでしたが、このへんになるともはやシンガー兼ダンサーとして風格さえ感じられるようになってる気がします。
アルバムが出て1年以上経っていましたが、時の経過は彼女を独立した一人の女性として成長させたようですね。

 

この曲は6thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第14位でしたが、Dance Club SongsチャートでNo.1、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートでもNo.1を獲得しています。

 

6曲目は、WHEN I THINK OF YOU(あなたを想うとき)。

 

この曲はたまらなくかっこよかったですね。
シンプルできれいなシンセの音に絡んでくるベースの音がお洒落でグルーヴィー
これもジャム&ルイスとジャネットの3人による共作です。
イントロだけでウキウキしてくるような、素晴らしいつかみを持ってる楽曲ですね。

 

ジャム&ルイスの仕掛ける、キラキラしたサウンドの上で、自由に歌うジャネットがとても魅力的です。
やはり両者のポテンシャルの融合がこの名曲を作り上げたと思います。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、彼女のキャリア初のNo.1ヒット曲になりました。
しかも2週連続です。
さらに、Dance Club SongsチャートでNo.1、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第3位、 Adult Contemporaryチャートで第10位を記録しています。

 

7曲目は、HE DOESN’T KNOW I’M ALIVE(片想い)。

 

この曲は外部ライターのSpencer Bernardという方による楽曲ですが、ザ・タイムとは近い人なので、全然違和感はありません。
すごく歌メロがメロディアスなとてもいい曲ですね。
もちろん、アレンジも最高峰の手が加えられていて、問題はありません。
ダンスソングとしても、普通のポップスとしても両面の魅力のある楽曲です。

 

8曲目は、LET’S WAIT AWHILE(急がせないで)。

 

アルバム中、初のバラードですね。
イントロの柔らかいシンセサウンドが、気持ちよくてたまりません
優しく歌うジャネットも魅力的です。
クールなダンスチューン満載のアルバムの中で、癒しのひと時が提供されてます。

 

ダンサーとしてだけでなく、歌姫としてのポテンシャルも感じられる名曲ですね。
もちろん、こんな感じの曲でもナイスなプレイとアレンジを見せるジャム&ルイスもグッジョブです。

 

この曲は、5thシングルとしてカットされ、シングルチャート第2位、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートではNo.1、Adult Contemporaryチャートで第2位を記録しています。

 

アルバムラスト9曲目は、FUNNY HOW TIME FLIES(WHEN YOU’RE HAVING FUN)(ファニーなひととき)。

 

ラストもしっとりソングです。
曲中のジャネットのささやきが妙に色っぽいですが、このとき彼女はまだ20歳そこそこですね。
エコーのたっぷりかかった彼女の歌も切なく艶っぽいです。
バックのリズムのサウンドがあるからこそ、こんな曲でもゆったり踊れる曲になってますね。

 

こうして、親から独立して歩み始めたジャネットのアルバムは幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1986年にリリースされた、JANET JACKSON(ジャネット・ジャクソン)の3rdアルバム、CONTROL(コントロール)は世界中で大ヒット。
彼女の大ブレイク作品になりました。
ビルボード誌アルバムチャートでNo.1、同誌 Top R&B/Black Albums チャートでもNo.1を獲得しています。
そしてアメリカでは500万枚のセールス、そして世界中では最終的には1000万枚を越えるセールスを記録しています。

 

最初の2作品の低評価から打って変わって、非常に高い評価を受けることになりました。
父親のジョセフは、彼女が自分の手から離れてからも、なんとか彼女を幾らかでもコントロールしたいと考えていました。
それで、3作目のアルバムを自分たちの目の届くL.A.で行なうよう求めます。
しかし、彼女とジャム&ルイスはそれを断り、ミネアポリスの彼らのスタジオでレコーディングを進めます。
例えボディガードがいなくて多少危険だとしても、彼女は父親の影響を受けることを望まなかったのです。

 

そしてレコーディングでは、これまでと違い、ジャネットは作詞にも作曲にも積極的に関わり、プロデュースや幾らかの楽器の演奏にまで手を出しています。
そのことによって、彼女自身の生き方や考えが投影された、本物の彼女自身のアルバムが作られることになったのです。
それに加えて、最先端のサウンドを作り上げることのできる、ジャム&ルイスの手腕が奮われることによって、当時のR&Bの指標ともなりうるハイクオリティなアルバムが完成することになりました。
実際、非常に評価は高く、彼女はもはやジャクソン家の女の子ではなく、一人のアーティストとして注目を集めることになったのです。

 

ちょうど、ジャクソン家から離れて、新たな自分の道を歩みたい、自分の道は自分でコントロールしたい、と考えていたジャネット。
そしてプリンス傘下から出て、プロデューサーとして調子を上げていたジャム&ルイス。
どちらにも、大ブレイクへの強い渇望があった時期でした。
それぞれの強いモチベーションがうまく融合して、非常に完成度の高いアルバムが完成しました。

 

その後もジャネットとジャム&ルイスの組み合わせで大ヒット作を作り出していきますが、その始まりとなったこの作品はやはり80年代を語る上で欠かせないアルバムだと思われますね。
自らの人生のコントロールを始めた、ジャネットの記念すべき作品、ここは抑えておきたいアルバムとなっています。

チャート、セールス資料

1986年リリース

アーティスト:JANET JACKSON(ジャネット・ジャクソン)

3rdアルバム、CONTROL(コントロール)

ビルボード誌アルバムチャートNo.1 Top R&B/Black Albums チャートNo.1

アメリカで500万枚のセールス 世界で1000万枚のセールス

1stシングル WHAT HAVE YOU DONE FOR ME LATELY(恋するティーンエイジャー) ビルボード誌シングルチャート第4位、Dance Club Songsチャート第2位、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートNo.1

2ndシングル  NASTY(ナスティ) シングルチャート第3位、Dance Club Songsチャート第2位、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートNo.1

3rdシングル WHEN I THINK OF YOU(あなたを想うとき) シングルチャート2週連続No.1、Dance Club SongsチャートNo.1、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャート第3位、 Adult Contemporaryチャート第10位

4thシングル CONTROL(コントロール) シングルチャート第5位、同誌Dance Club SongsチャートNo.1、同誌 Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートNo.1

5thシングル LET’S WAIT AWHILE(急がせないで) シングルチャート第2位、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート第2位

6thシングル THE PLEASURE PRINCIPLE(愛の法則) シングルチャート第14位、Dance Club SongsチャートNo.1、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートNo.1