さらにアーシーにブルージーに CINDERELLA - HEARTBREAK STATION
CINDERELLA(シンデレラ)のここまでの流れ
1stアルバム、NIGHT SONGS(ナイト・ソングス)はビルボード誌アルバムチャートで第3位、アメリカで300万枚のセールス。
2ndアルバム、LONG COLD WINTER(ロング・コールド・ウィンター)はビルボード誌アルバムチャートで第10位を記録し、アメリカで300万枚のセールス。
ヘアメタル、もしくはグラムメタルのジャンルでBON JOVI(ボン・ジョヴィ)の弟分として華々しくデビューして以来、安定した人気を保ってきたCINDERELLA(シンデレラ)。
ロング・コールド・ウィンター、リリース後のツアーでは14ヶ月に及ぶ254回のショーをこなしています。
その中でもモスクワ・ミュージック・ピース・フェスティバルへの参加は、とりわけ彼らの人気を裏付けるものと言えるでしょう。
このフェスは、1989年8月12日、13日に、当時のソビエト連邦のモスクワで開かれたロック・フェスティバルです。
ちょうど共産主義から民主主義へと移行しつつあるソ連での、麻薬撲滅運動と世界平和のアピールを目的に行われたものです。
特筆すべきは参加ミュージシャンのラインアップの豪華さでしょう。
西側から、OZZY OSBOURNE(オジー・オズボーン)、SCORPIONS(スコーピオンズ)、MOTLEY CRUE(モトリー・クルー)、BON JOVI(ボン・ジョヴィ)やSKID ROW(スキッド・ロウ)といった具合だ。
このトップクラスのHM/HRのバンドに混ざって、シンデレラもプレイしています。
人気全盛期のバンドの演奏は、旧ソ連の若者だけでなく、世界中に強烈な印象を残しました。
こんな一流の仲間入りを果たしたシンデレラでしたが、音楽性は短期間に大きな変化を遂げていってます。
1stアルバムはごりごりのハードロック、グラムメタルそのものでしたが、2ndアルバムではなんとヴォーカルでありバンドの中心人物のTom Keifer(トム・キーファー)のブルーズ好きが高じて、ブルーズ風味のハードロックへと変貌しています。
僕個人はその2ndが最高傑作と思うわけですが、やはり、この急激な音楽性の変化に賛否両論あったようです。
ところが、3枚目のアルバムでは、ブルーズだけでなく、カントリーっぽさも加わり、よりアーシーでアメリカンロックの原点回帰的な内容を披露することになりました。
もはや、HM/HRからは卒業してしまった感じさえ受けます。
今日は1990年リリース、CINDERELLA(シンデレラ)の3rdアルバム、HEARTBREAK STATION(ハートブレイク・ステーション)をご紹介します。
HEARTBREAK STATION(ハートブレイク・ステーション)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、THE MORE THINGS CHANGE(ザ・モア・シングス・チェンジ)。
ゴリゴリのメタルはもはや見られません。
ドラム&ベースは力強いリズムを生み出していますが、それに乗った曲はただのハードロックではありません。
キャッチーな楽曲はスライドギターやホーンセクションで彩られ、ブルージーなロックンロールとなってます。
1stのハードロックを求める人には肩透かしかもしれませんが、なんと言っても楽曲がいいです。
イントロや曲間のスライドギターもそうですし、ギターソロもブルージーなフィーリングをたっぷりと表現しています。
そして、トムの絞り出すヴォーカルがまた、このブルーズにぴたりとはまってます。
とにかくノリの良い、土臭いロックンロールでアルバムは幕を開けます。
この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされましたが、チャートインはしませんでした。
2曲目はLOVE’S GOT ME DOIN’ TIME(ラヴズ・ゴット・ミー・ドゥイン・タイム)。
イントロや曲中のワウのかかったリフが特徴的なファンキーチューンです。
このノリは前2作ではほぼ見られませんでしたので、驚かされましたが、トムのヴォーカルがこれにも非常にマッチしてますね。
ギターソロも、速弾きより曲にあった渋めのメロディが展開されてます。
ギタープレイが様々な音色で聴けます。
これまたファンキーなリフとホーンセクションが相性バッチリです。
厚みのある、土臭いファンキーロックンロールということで、またも音楽の幅を広げてくれました。
非常に楽しく聴ける楽曲になってます。
3曲目はSHELTER ME(シェルター・ミー)。
イントロはアコギにスライドギター、とカントリー色の強い印象で始まるロックンロールです。
そこにドラムや他の楽器、女性コーラスが入ってきて、どんどん楽曲が豪華に厚みを増していくところが非常にいいです。
2番からは、ヘヴィなリズム隊が加わりますが、この曲のキャッチーなノリは全くスポイルされることなく盛り上がっていきます。
後半はピアノやサックスが入ってきて、もう盛り上がるしかない、楽しい楽曲です。
非常にアメリカンなカントリーロックとなってます。
最後のトムのシャウトも決まってますね。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第36位を記録しています。
また、同誌Mainstream Rockチャートでは第5位となってます。
4曲目はアルバムタイトルトラックHEARTBREAK STATION(ハートブレイク・ステーション)。
アコースティックギターのアルペジオのイントロが、定番だがやはり美しいです。
歌が始まると、アコギのストロークにのせて、ほぼ地声でトムが切々と歌い上げます。
間奏ではギターのアルペジオにピアノが混じってとても美しいメロディを奏でてます。
2番からはドラムも加わり、パワーバラードの様相を呈していきます。
そして、大サビではトムのヴォーカルはいつものしゃがれたハイトーンとなり、ギターソロへ。
ソロは決して派手さはなく、スライドギターを使った、雰囲気重視のメロディです。
後半の、低音と高音のトムによる掛け合いが、熱く切なく盛り上げてくれます。
アウトロはギターアルペジオとピアノのメロディで静かにエンディングを迎えます。
哀愁たっぷりの非常に優れたパワーバラードとなってます。
この曲は2ndシングルとしてリリースされ、シングルチャートでは第44位を記録し、Mainstream Rockチャートでは第10位となっています。
5曲目はSICK FOR THE CURE(シック・フォー・ザ・キュア)。
ポップでブルージーなノリのよい楽曲です。
スライドギターとはねたリズムのピアノが各所で効果的に用いられ、楽しいロックンロールを演出してます。
また、それを盛り上げる女性コーラス。
もう、以前のグラムメタルの陰は見られません。
中南部アメリカのバーで常に聞けてそうな、軽快でアーシーなロックンロールです。
こういう古いタイプの、いわゆるロックンロールの原点のようなサウンドを彼らなりに消化している感じが非常にいいですね。
サウンドがちょっと古めで、田舎臭くても、トムのヴォーカルとギターでシンデレラサウンドになってます。
とにかく楽しいロックンロールです。
アウトロでは、ちょっとお遊び的に、スライドギターとピアノのかけあいが聞けます。
まさにトムの声を抜くと、サウンド的には50年60年代の古きよきアメリカって感じがします。
6曲目はONE FOR ROCK AND ROLL(ワン・フォー・ロック・アンド・ロール)。
もう、完全にカントリーミュージックでスタートです。
トムが、こういうの好きで楽しいんだろうな、ってのが十分に感じられます。
ドラムが入って来ても、変わらず楽しく平和な感じがいっぱいに感じられます。
ギターソロもアコースティックなもので、カントリー用のフレーズですね。
トムの、そっち方向の引き出しが多いのもよくわかります。
また、トムはこの曲ではほぼ地声で歌ってます。
それがまた、リラックスしていて、平和で和やかな雰囲気に一役買ってます。
とにかくこれも楽しい雰囲気いっぱいのカントリーロックです。
7曲目はDEAD MAN’S ROAD(デッド・マンズ・ロード)。
スライドギターとSEによるイントロは、シンデレラにしては珍しく、これも挑戦的な曲と言えるかも知れません。
歌が始まると、アメリカ西部に広がる大地を思い出させる雰囲気の楽曲です。
やはり、アメリカ人の血には西部開拓時代の歴史が流れてるんでしょうね。
トムも、その雰囲気にピッタリの歌を聴かせてくれてます。
途中から入るギターリフは、このアルバムの中では一番ヘヴィなものかもしれません。
だからといってハードロックではなく、このアーシーな曲の魅力を高めるのに役立つ程度のヘヴィさにとどめてあります。
むしろ、ブルージーなギターリフのほうが、曲の中でははっきりと目立つ存在と言えるでしょう。
これはなかなか渋かっこいい楽曲ですね。
8曲目はMAKE YOUR OWN WAY(メイク・ユア・オウン・ウェイ)。
ここにきてやっと、1stアルバムの頃のストレートなハードロックが来ました!
ブルージーなシンデレラも僕は好きですが、やはりこういうストレートなのも好きですね。
そういう意味で、2ndはバランスが取れてたと個人的には思うのです。
でも、ここでこういう爽快系が来たのは歓迎です。
キャッチーな、80年代のハードロック、大好きです。
9曲目はELECTRIC LOVE(エレクトリック・ラヴ)
美しいアルペジオで始まりますが、ふたを開けると、やはりブルージーなシンデレラロックです。
これも非常に渋く熱い楽曲になってます。
土臭く、男臭い、こんな曲にもトムのヴォーカルはぴたりとはまります。
最初はとっつきにくい声ですが、いったんはまると万能の声ですね。
ギターソロもメロディ重視で、80年代に流行ったものとは一線を画しています。
バンドサウンドが非常にかっこいい楽曲でもあります。
10曲目はLOVE GONE BAD(ラヴ・ゴーン・バッド)。
イントロのギターリフがR&Bっぽくもあり、西海岸ロックっぽくもある。
しかし、歌い出すと、それはシンデレラのものに変わる。
それほどトムの声は強烈なのである。
どちらかというと普通のハードロックのようである。
が、ヘヴィなリフはなく、メタリックではない。
この時点のシンデレラはメタルの要素は皆無である。
ギターソロはちょっぴりハードに決めてくれている。
このアルバムではこっちのほうが珍しいのだ。
ラストで、曲の雰囲気ががらっと変わって、またもバーを思わせるような、サックスが遠く聞こえるアレンジの追加である。
1stの頃では考えられない展開でエンドである。
アルバムラストはWINDS OF CHANGE(ウィンズ・オブ・チェンジ)。
やはりこのアルバムの流れであれば、この壮大なバラードで終わるのがふさわしいと言えるだろう。
優しいギターアルペジオに乗せて、トムが優しく歌い上げてます。
4曲目のタイトルソングに負けず劣らず良い曲です。
トムのヴォーカルの緩急、というか、しゃがれとノーマルのバランスが調和がとれて素晴らしいです。
こうして優しい余韻を持たせてアルバムは終わっていきます。
まとめとおすすめポイント
1990年リリース、CINDERELLA(シンデレラ)の3rdアルバム、HEARTBREAK STATION(ハートブレイク・ステーション)はビルボード誌アルバムチャートで第19位、アメリカでのセールスは100万枚にとどまりました。
やはり、1stから2ndへの変化についていけなかった人が離れたと考えるのが、一番わかり易いかと思います。
加えて、2ndからこのアルバムへも大きな変化を遂げています。
HM/HRファンにとっては、やはりこのブルージーで時にはカントリーの雰囲気を受け入れにくかったのではないでしょうか。
確かに、1stのあの熱くゴリゴリした、シンデレラという名前に似つかわしくない、硬派なサウンドはどっかに行ってしまいました。
僕もその点はやはり残念に思います。
2ndまではそのかっこいいハードロックはブルーズ風味の味付けがされながらも、しっかりと残っていました。
その辺がバンド名とのギャップとなって、非常にかっこいいものに思えてました。
しかし、今作では、HM/HRの要素はどこかに吹っ飛んでいました。
トムのヴォーカルを抜いたら、きっと全く別のバンドの音だと多くの人は思ってしまったことでしょう。
それほど、大きな変化を遂げてしまったのです。
トムのブルーズへの傾倒は、前作でも見られてましたが、今回はさらにそれが進みました。
ブルーズだけでなく、カントリーやR&B、オールドロックンロールといった、アメリカ人としては原点回帰のようなアルバムになってます。
シンデレラが前作で見せたブルーズへの回帰は、90年代初頭に多くの他のバンドに影響を与えています。
しかし、シンデレラは今回はそれ以上にもっとルーツをさかのぼってしまった、と言えるでしょう。
しかし、アルバムの出来、という点で言うと、非常に素晴らしいアルバムに仕上がったと思っています。
ハードでもメタルでもなくなりましたが、新たな雰囲気の楽曲でもシンデレラの個性は十分に、むしろ生き生きと表れています。
特に、聴いて楽しくなれる楽曲が多いのに皆さんも気づいておられるのではないでしょうか。
やはり、音楽の原点は音を楽しむこととなるでしょうが、その点彼らも音楽性の原点回帰を通じて、彼ら自身楽しんでプレイしている感覚がビシバシと伝わってきます。
これは、音楽性の変化の最大の収穫ではないかと思われます。
そういう意味で、物足りない、という感覚よりも、シンデレラというバンドの幅が広がったともとらえることができるでしょう。
ノリノリで、そしてシンプルに楽しめるロックをお探しの方には非常におすすめのアルバムとなっております。
チャート、セールス資料
1990年リリース
アーティスト:CINDERELLA(シンデレラ)
3rdアルバム、HEARTBREAK STATION(ハートブレイク・ステーション)
ビルボード誌アルバムチャート第19位 アメリカで100万枚のセールス
1stシングル SHELTER ME(シェルター・ミー) ビルボード誌シングルチャート第36位、同誌Mainstream Rockチャート第5位
2ndシングル HEARTBREAK STATION(ハートブレイク・ステーション) シングルチャート第44位、Mainstream Rockチャート第10位
3rdシングル THE MORE THINGS CHANGE(ザ・モア・シングス・チェンジ) チャート圏外