プログレ職人たちの華麗なポップアルバム ASIA - ALPHA

ASIA(エイジア)との出会い





1983年暮れ、FMラジオで超絶にかっこいい曲を見つけた。
バンド名はASIA(エイジア)。
その曲のタイトルはDON’T CRY(ドント・クライ)。

 

特にイントロが衝撃で、ドラマティックな展開に何度も繰り返し聴き続けました。
そして、ドラムのかっこよさに、絶対いつかドラムを叩くぞ、とも夢を見るようにもなった曲です。
超絶ドラマティックなのに、スーパーポップ
一気にエイジアのとりこになった僕は、当然のようにアルバムも聴くことになりました。

ASIAとは

エイジアは1981年に結成、1982年にデビューしています。
僕が聴いたドント・クライは2ndアルバムからのシングルヒットでした。
なんと歴史の浅いバンドだ、と思いきや、なんとプログレ畑で活躍してきた熟練プレイヤーたちが集まったバンドなのでした。

 

キーボードのGeoff Downes(ジェフ・ダウンズ)は元バグルス、イエス

ギターのSteve Howe(スティーヴ・ハウ)は元イエス

ドラムの Carl Palmer(カール・パーマー)は元エマーソン・レイク・アンド・パーマー

ベース&リードヴォーカルのJohn Wetton(ジョン・ウェットン)は 元キング・クリムゾン、ロキシー・ミュージック、U.K.

 

このように、既に世界的なプログレッシヴバンドで名声を得ているメンバーで結成されたエイジア。

 

結成時にはスーパーグループとして注目されていたようだ。
それはそうだろう。
名だたるプログレバンドの凄腕ミュージシャンの融合がどんな化学変化を起こすか、それは楽しみだったに違いない。

 

しかし、人々の思っていたのとはかなり違うものが生み出された、と言っていいだろう。
1982年のデビューアルバム、ASIA(邦題:詠時感〜時へのロマン)は、多くの批評家や、旧来のプログレファンを失望させるものとなりました。
それもそのはず、彼らは「プログレッシヴ・ロックのエッセンスを、“ポップス”としてちりばめた3分半の楽曲」をつくるのをコンセプトにしていたからだ。

 

なので、アルバムには長尺で、実験的なロックは見当たりません
聞こえてくるのはちょっとプログレ風味はするものの、基本的にはポップできらびやかなポップロックなのです。
そのため多くの旧来のファンが離れたようですが、この作戦は、まさに80年代という時代に非常にマッチしたものでした。

 

既にジャーニーやボストン、スティックスなどが、プログレ風味のハードポップというジャンルで成功しており、エイジアもまさにそのジャンルで大成功を収めることになったのです。
結果として、デビューシングル、HEAT OF THE MOMENT(ヒート・オブ・ザ・モーメント)はビルボードシングルチャートで第4位、同誌Mainstream RockチャートではNo.1を獲得してます。
そして1stアルバムは、 ビルボード誌アルバムチャートで9週連続No.1を達成、アメリカで400万枚、全世界では1500万枚のセールスを達成しました。

 

そんなエイジアの活躍など露知らずに僕は1983年に初めてエイジアと出会ったわけです。

 

ではその大ヒットアルバムに続いて、1983年にリリースされた、ASIA(エイジア)の2ndアルバムALPHA(アルファ)をご紹介したいと思います。

2ndアルバム、ALPHA(アルファ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのはDON’T CRY(ドント・クライ)。

 

まさに僕が初めてエイジアに出会った曲です。
もう、イントロがかっこよすぎます。
こんなドラマティックなイントロって、そうそう聴けたものではありません。
僕の中ではジャーニーのセパレイト・ウェイズに匹敵する、80年代の最高峰のイントロの一つと感じています。

 

歌が始まると軽快でキャッチーな楽曲が楽しめます。
ミドルテンポで、4つ打ちリズムに、ウェットンの柔らかいヴォーカルが心地よく乗っかります。
とにかく気持ち良いノリでぐいぐい惹かれます。
シンセが楽曲全体を彩り、まさに僕の好きなエイティーズサウンド全開です。

 

サビもウェットンの声に追っかけのコーラスが美しいです。
目立ちませんが、ハウのエレキギターも、いいところでメロディアスに奏でられてます。
そして全体で聴こえるパーマーのドラムスのオカズが、いちいちかっこよく聴こえます。
まさに3分30秒に凝縮された、最高峰のポップロックだと思います。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第10位、Mainstream RockチャートではNo.1のヒットとなりました。

 

2曲目はTHE SMILE HAS LEFT YOUR EYES(嘘りの微笑み)。

 

シンセのイントロで静かに始まり、そこに歌が入り、他の楽器が次々に加わっていきます。
パワーバラードとして、強烈な存在感を放つ楽曲になってます。
ちょっと大げさに聴こえるアレンジも、やはりその道のプロたちの演奏ゆえのことだろうと、やけに納得してしまいます。
ラスト30秒のSEも加わって大盛り上がりの後、静かに優しくウェットンが曲を締めます。

 

とにかく壮大な3分ちょっと
わずかな時間にプログレ風味が凝縮された、まさにエイジアならではのドラマティックバラードになってます。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてリリースされ、シングルチャート第34位に終わっています。

 

3曲目はNEVER IN A MILLION YEARS(ネヴァー・イン・ア・ミリオン・イヤーズ)。

 

ほどよいミドルテンポの、ちょっとマイナーな雰囲気のポップロックです。
やはり、この曲はコーラスが素晴らしいと思いますね。
これもシンセが美しく楽曲全体を彩ってます
この辺の音使いがやはりプログレ風味と言えるのかもしれません。
でも、基本はキャッチーでポップ
これもコンパクトにまとめられて、なかなかの佳曲と言えます。

 

4曲目はMY OWN TIME(I’LL DO WHAT I WANT)

 

ゴージャスなシンセのイントロにエレキが絡むメロディが素晴らしいです。
ハウのアコギのアルペジオも今回はかなり目立ってます。
歌は静かに始まりますが、次第に盛り上がっていき、あのイントロと同じメロのサビで一気に頂点へ。
タイトルを歌った直後のエレキの滑らかな上昇音が美しいです。
とにかく、キャッチーで楽曲がよいです。
分厚いコーラスもたまりませんね。
いいメロディがいろんな音に彩られて、これもシングル向けの優れた楽曲になってます。

 

5曲目はTHE HEAT GOES ON(ザ・ヒート・ゴーズ・オン)。

 

もう、「ドラマティック」と「仰々しい」の紙一重の名曲だ。
イントロから、壮大だ。
静かなキーボードのメロが始まったかと思うと、一気に全楽器が加わって最高点へ。
この盛り上がり具合がたまりませんね。
ハウのギターソロも加わり、続いてキャッチーな歌メロへ。

 

これもサビは重厚なコーラスがたまらなく美しいです。
曲の中間のキラキラシンセとともに哀愁味たっぷりに歌うウェットンも魅力的です。
ちょっとしたベースソロもあったりして、ウェットンがんばってます。

 

後半のダウンズのキーボードソロが、やはりプログレ風味があってとてもいいです。
ラストもいったん静まった後の一瞬の嵐のような終わり方で、最後までドラマティックです。

 

6曲目は、EYE TO EYE(悲しみの瞳)。

 

疾走系の哀愁ポップロックです。
サビ前の不思議なシンセのメロが、何か非常に気になります。
サビは得意の厚いコーラス。

 

この曲の聴き所はやはり後半のプログレ風味の演奏バトルでしょう。
エレキのロングトーンに始まり、その後、ハウが弾きまくります。
そしてそれに呼応するようにシンセとドラムが弾きまくり、叩きまくってます
単なるポップロックではなく、ちょっとしたプログレフィーリングが混じっているところがエイジアの最大の魅力と言っていいでしょう。

 

7曲目はTHE LAST TO KNOW(時の旅人)。

 

静かな始まりだが、次第に盛り上がっていく。
サビではやはり美しく厚みのあるコーラスで非常にいいです。
サビのキャッチーさが際立ってますし、合間に聞けるギターのメロもいいですね。
間奏のきらきらのシンセに絡んでドラムが華々しく飾っているところもとてもいいですし、最後のサビへの流れも秀逸です。

 

8曲目はTRUE COLORS(トゥルー・カラーズ)。

 

シンセのイントロが美しく引きこまれます。
Aメロは静かですが、途中から緊張感のあるサビメロへと展開します。
中盤も、じわりと盛り上げるつくりで、ラストもう一回サビへ流れて終わります。

 

9曲目はMIDNIGHT SUN(ミッドナイト・サン)。

 

これもシンセが美しいですし、幻想的な世界を生み出しています。
浮遊するような雰囲気の中で、ゆったり歌うウェットンのヴォーカルも素敵です。
ちょっと長めのハウのギターソロも非常に効果的に楽曲を彩っています。
最後は大仰にしっかり盛り上げて、きっちりと終えてくれます。

 

10曲目はOPEN YOUR EYES(永遠の輝き)。

 

ラストは唯一6分を越える大作になっています。
シンセをバックに静かに始まりますがすぐに、ドラムや他の楽器も加わり爽快なスピードでメロディアスに歌い上げていきます。
間奏もドラマティックでスリリングな演奏を聴かせてくれます。
ハウのギターも効果的に楽曲を彩ります。

 

やはりサビがキャッチーでメロディアスなのがこの曲の最大の魅力でしょう。
最後の間奏ではイントロと同様デジタルヴォイスでタイトルが連呼され、そして、ドラムが次第に大きく入ってきて力強く盛り上げます。
この曲では一番プログレ風味が感じられるのではないでしょうか。
ドラマティックで荘厳な演奏がたっぷり披露され、アルバムは幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1983年にリリースされた、ASIA(エイジア)の2ndアルバムALPHA(アルファ)はビルボード誌アルバムチャートで第6位、アメリカでのセールスは100万枚にとどまってしまいました。
まあ、ヒット作ではあるわけですが、デビュー作の見せた華々しい成功とは打って変わって、かなりな落ち込みようです。
これには本人たちも落胆の色を隠せませんでした。

 

前作と比べると、プログレ風味がさらに薄れてポップな色合いが増しているようです。
これは、時代に合わせたに違いありませんが、なぜか、前作のようには受け入れられませんでした。

 

では、このアルバムは駄作と言うことでしょうか。
決して僕はそうは思いません。
やはり80年代初期に、エイティーズの典型的なサウンドの形を示したと言う点で、クオリティの高い優れたアルバムだと感じます。

 

楽曲は全てメロディアスで、キャッチーですし、メンバーのプレイも当然ながら素晴らしいです。
だって、プログレのビッグバンドを渡り歩いてきた人たちですから。
アレンジもドラマティックで壮大、シンセたっぷりでまさに80年代の着飾ったサウンドのお手本のようなものです。
80年代に青春を過ごした者にとっては、非常に素晴らしいアルバムにしか感じられません。

 

ただ、ちょっと難を言えば、アレンジが過剰で大げさすぎる、といったところでしょうか。
ドラマティックと大げさのギリギリのところで作られている感じなので、人によっては鼻につくサウンドと感じられるのも仕方がないのかもしれません。
あと、やはりプログレ出身のスーパープレイヤーが集まっている、という初期設定とのギャップもあげられるでしょう。
80年代に入って伝統的なプログレバンドが次々に活動が停滞していっている中、この4人の作るバンドに旧来のファンは過剰な期待を抱いたはずです。
きっと本格的なプログレッシヴ・ロックが聴けると思いきや、ポップでキャッチーな楽曲の数々
そのような古来のファンにとってはプログレ風味くらいじゃ、全くもって物足りなかったことでしょう。

 

こうした変化ゆえに産業ロック、というジャンルにくくられてしまったりしたわけですが、1stのように売れればそれはそれでいいですが、産業ロックなのにさほど売れない、という非常に苦しい状況に陥ったアルバムとなってしまいました。

 

でも、まあ、人がなんと言おうとやはり楽曲は優れています
僕は80年代サウンドの型を作ったと言う意味でエイジアの存在は非常に大きいと思っています。
80年代初期に現われた、エイティーズサウンドの基本を知って楽しみたい方には強くおすすめしたいアルバムとなっています。

 

とにもかくにもDON’T CRY最高級にかっこいいです!

チャート、セールス資料

1983年リリース

アーティスト:ASIA(エイジア)

2ndアルバム、ALPHA(アルファ)

ビルボード誌アルバムチャート第6位 アメリカで100万枚のセールス

1stシングル DON’T CRY(ドント・クライ) ビルボード誌シングルチャート第10位、Mainstream RockチャートNo.1

2ndシングル THE SMILE HAS LEFT YOUR EYES(嘘りの微笑み) シングルチャート第34位、Mainstream Rockチャート第25位