楽しいハードポップ第2弾 WARRANT - CHERRY PIE(いけないチェリーパイ)

前作からの流れ





1989年リリースの、WARRANT(ウォレント)のデビューアルバム、DIRTY ROTTEN FILTHY STINKING RICH(マネー・ゲーム)は、ビルボード誌アルバムチャート第10位200万枚を売り上げました。

 

デビュー作の1stアルバムは、聞いて楽しいハードポップ作品で、なかなか良く出来た作品だと思います。
ただ、多くのHR/HMファンの人の印象は、ルックス重視のアイドル的なもので、あまりメインストリームを歩んだバンドって感じはしません。
そんな中でも、ある一定層のリスナー(僕のような)にはウケたようですね。
やはりそこそこのハードロックを土台にした、聞きやすく楽しめる優れたフックのあるメロディがあふれてますからね。
なかなか、HR/HMのバンドが乱立した80年代末期という状況で善戦したと思われますね。

 

やはりルックスが受けているのもあって、MTVでよくPVが流されてました。
それにより、多くのシングルヒットも生まれています。

 

ただ、純粋なルックスオンリーのアイドルバンドではなく、ツアーも精力的に行なっています。
当時の、近いバンドたち、 Poison, Mötley Crüe, Queensrÿche, Cinderella ,Kingdom Comeなどとツアーを続けてます。
そしてライヴの模様を収めたビデオもリリースされています。

 

そして、続く2ndアルバムが制作されます。
前作同様、Beau Hill(ボー・ヒル)プロデュースのもと、前作よりちょっとハードなエッジが効いているものの、相変わらずの楽しいハードポップ作品が完成しました。

 

では、今日は、1990年リリースの、WARRANT(ウォレント)の2ndアルバム、CHERRY PIE(いけないチェリーパイ)をご紹介します。
それにしても当時、「何なんだこの邦楽タイトルは」、と思いましたが、今となってはもはや全てが懐かしいですw

CHERRY PIE(いけないチェリーパイ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、CHERRY PIE(いけないチェリーパイ)。

 

もともとこの曲はアルバムに入る予定はなかった曲のようです。
それまでは、アルバムタイトルも、UNCLE TOM’S CABINの予定でした。
ところが、レコード会社から、ロックアンセムを入れるようにとの圧力がかかります。
例えば、エアロスミスのLove in an Elevator(エレヴェイター・ラヴ)のようなやつがお望みだったようです。

 

それで、ヴォーカルで、バンドのほとんどの楽曲を作っているJani Lane(ジェイニー・レイン)は15分でこの曲を作ったとのこと。
Def Leppardの “Pour Some Sugar on Me“や Joan Jettの “I Love Rock n’ Roll“などに似たフレーズはありますが、そのへんはロックアンセムのためのリスペクトと言ってもいいでしょう。
まあ、こんな曲をちゃちゃっと作れるジェイニーの才能に驚かされます。

 

で、この曲は結局アルバムのオープニングの楽曲になり、アルバムタイトルにまで昇格することになったのでした。

 

イントロの声は、前作のD.R.F.S.R.(マネー・ゲーム (D.R.F.S.R.))のイントロの使い回しですね。
そこからは、いかにもアメリカンなパーティソングが始まります。
結構歌詞が露骨のようですが、楽しい雰囲気でごまかされてしまってます。
全員で歌うコーラスのサビなどは、もはや能天気な雰囲気が充満しています。

 

前作から比較すると、ちょっとギターのリフがよりヘヴィになっていますね。
アルバム全編でも感じられます。

 

ただ、この曲のギターソロはPOISON(ポイズン)のC. C. DeVilleの演奏によるものとなっています。

 

まあ、アルバムのオープニングにふさわしい、インパクト大のロック曲で始まっていきます。

 

この曲はアルバムの先行シングルで、ビルボードシングルチャートで第10位、同誌Mainstream Rockチャートで第19位を記録しています。

 

あと、補足ですが、PVに出演していた女性はBobbie Brown(ボビー・ブラウン)というモデルさんで、この出演がきっかけでジェイニーとお付き合い。
翌1991年に結婚しておられます。
そして、1992年に娘が授かりますが、1993年には離婚してます。
その後モトリー・クルーのトミー・リーと婚約。
しかし、1995年には破局してます。
なんか、やはり芸能界ってすごい世界ですね。

 

2曲目は、UNCLE TOM’S CABIN(アンクル・トムズ・キャビン)。

 

オープニングの「いけないチェリーパイ」が出来る前までは、アルバムタイトル、そして先行シングルになる予定だった悲運の曲と言えるでしょう。
これは、ウォレントの中でも屈指の渋かっこいい曲だと思いますね。
ただ、これが先行シングルだったらアルバムが前作同様のヒットになったかは、わかりませんね。
あの、能天気なロックアンセムで攻めるか、この渋かっこよい曲で攻めるか、大きな分かれ道だったのは間違いないでしょう。

 

ただ、ジェイニーも、「いけないチェリーパイ」のおかげで、大ヒットをゲットできたものの、他の曲がかすんでしまったことを後に後悔しています。
おそらく、そのかすんだリストにはこの「アンクル・トムズ・キャビン」も含まれるに違いありません。

 

まあ、かすんだとは言え、やっぱりかっこよさはピカイチですよ、これは。
イントロのアコースティックパートはジェイニーの兄弟の、Eric Oswaldという人がプレイしているようです。

 

アコギのアルペジオと、バンジョーの音がいい雰囲気で始まりますが、Bメロからはかなりヘヴィなバンドサウンドへ変貌します。
このヘヴィな感じはやはり前作にはなかったもので、かなり今回はヘヴィに攻めてる感じを受けますね。
実際の人種差別主義者の警察による殺人がテーマになっているようで、かなりシリアスなハードロックを聴かせてくれます。
とはいえ、サビのキャッチーなフレーズは相変わらずで、この辺もジェイニーのコンポーザーの才能を見せ付けてます。

 

Guns N’ Roses(ガンズ&ローゼズ)やSKID ROW(スキッド・ロウ)などの、シリアスでかっこいい曲がウケ始めてる時代に、ウォレントの回答とも言えるすばらしい曲だと思います。

 

この曲は、3rdシングルとしてカットされ、シングルチャート第78位、Mainstream Rockチャートで第19位を記録しました。
やはり、存在がかすんだことがチャートにも表れてるような感じがしますね。

 

3曲目は、I SAW RED(アイ・ソウ・レッド)。

 

この曲はまた非常に優れたパワーバラードですね。
今回もいい曲作ってきてます。

 

この曲は裏切りの実話に基づく歌のようですね。
1stアルバム制作時のこと、ジェイニーはなんと、ガールフレンドが彼の親友と寝ているところに出くわしてしまったのです。
そのため、nervous breakdown(神経衰弱、ノイローゼ)にかかってしまい、アルバムのリリースが遅れてしまうという惨事に。

 

でも、その辛い経験を見事に優れた歌にして、元を取ったと言えるかもしれませんね。
そんな出来事を見事に歌詞に乗せています。
Aメロ、Bメロでは、彼女との幸せな日々を歌う、静かなピアノとアコギによるアコースティックパート
そしてサビでは、バンドサウンドに変わり、裏切られた悲しみをぶつけるパート
この静と動に幸せと絶望がきれいにすみわけされており、素晴らしい楽曲になっています。

 

この曲の歌詞、解説が上手にされているサイトを見つけたので、もし歌詞を見たことがないならぜひとも歌詞を読みながらこの曲をまた味わってみてください。
いや、これは心動かされますよ、きっと。
ここで読めます。→ 訳詞の世界~I Saw Red – Warrant(和訳)

 

Ooh, it must be magic(マジックに違いない)で始まり、最後もこの言葉で終わりますが、最後の方は切なくてたまりません

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第10位、Mainstream Rockチャートで第14位を記録しました。

 

4曲目は、BED OF ROSES(ベッド・オブ・ローゼズ)。

 

この曲はジェイニーと、Bonnie Hayesという女性シンガーソングライターとの共作です。

 

アコギのアルペジオから始まる、ミディアムロックです。
これもメロディが非常にいいです。
適度なハードなバンドサウンドに乗せて、サビのコーラスが心地よいですね。
まさに爽快ハードポップと言えると思います。

 

ギターソロは二人のギタリストのどちらが弾いているかわかりませんが、なかなか心地よいです。
ラストもアコギアルペジオに戻ったあと、再び始まっていくアレンジで、なかなか面白い曲になっています。

 

5曲目は、SURE FEELS GOOD TO ME(シュア・フィールズ・グッド・トゥ・ミー)。

 

やっと疾走感あふれるハードロック登場です。
前作でも、少ないながらもこんな疾走曲が入っており、ウォレントの魅力の一つとなっていますね。
ギターリフがかっこよく曲を引っ張っていますし、途中に入るオブリもかっこいいです。
2分40秒という短い曲が一気に駆け抜ける様は痛快そのものです。

 

6曲目は、LOVE IN STEREO(ラヴ・イン・ステレオ)。

 

ここで、さらに畳み掛けるようなハードポップ曲です。
シンプルなギターリフに、ヴォーカルがシャウトしまくります。

 

サビは、やはりコーラスも加わってノリノリですね。
間奏ではギターソロがかっこよくきまってますし、ピアノの連打も効果的に盛り上げています。

 

やっぱり聞いて楽しい、がモットーのバンドだって改めて感じます。

 

7曲目は、BLIND FAITH(ブラインド・フェイス)。

 

ちょっとしたノイズを挟んで、クリアになってからアコギのアルペジオが始まります。
これも、完全な80年代流行のパワーバラードです。
哀愁漂う歌メロが、さすがのクオリティですね。
ギターソロも、非常にかっこいいフレーズが奏で上げられてます。

 

この曲は4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第88位、Mainstream Rockチャートで第39位を記録しています。

 

8曲目は、SONG AND DANCE MAN(ソング・アンド・ダンス・マン)。

 

2曲続けてアルペジオスタートですが、こちらは途中からハードロックに変わります。
こちらも、ちょっとシリアス&哀愁ロックになってますね。
なかなかの佳曲です。

 

9曲目は、YOU’RE THE ONLY HELL YOUR MAMA EVER RAISED(ユア・ジ・オンリー・ヘル・ユア・ママ・エヴァ・レイズド)。

 

タイトルどおり、チョイワルな雰囲気のロックンロールですね。
ギターリフがいい感じで悪い雰囲気を醸しだしています。
でも、悪ぶってもサビのコーラスはとっても爽やか&楽しげで、ウォレントにはワルは似合わないって気がします。
まあ、普通にかっこいい曲です。

 

10曲目は、MR. RAINMAKER(ミスター・レインメーカー)。

 

非常にかっこいいハードポップチューンですね。
バンドサウンドがとてもいいですし、歌メロもフックがあります。
アウトロのいったん仕切りなおしの後のギターソロもとてもいいです。

 

非常にかっこよいと思います。

 

11曲目は、TRAIN, TRAIN(トレイン・トレイン)。

 

アルバムラストは、ここでカバー曲の登場です。
もちろんブルーハーツではなく、Blackfoot(ブラックフット)というサザンロックバンドの1979年の楽曲のカバーです。

 

原曲ではハーモニカの独奏から始まって、始まっていきます。
この曲の汽車が疾走していくような雰囲気が1番大事かと思いますが、ウォレントはそのへんをしっかり再現してますね。
途中のハーモニカも加わり、なかなかいい感じで自分たちの楽曲に取り込んでいると思います。

 

カバー曲は、安易な採用はアルバム中で浮いてしまうことが多いので、僕は否定的なのですが、これはなかなかいい感じできまっていると思います。
聞いて楽しいというアルバムのテーマにしっかりはまっている感じですね。

 

12曲目は、ODE TO TIPPER GORE(オード・トゥ・ティッパー・ゴア)。

 

これは、曲ではなく、彼らのライヴの中からFワード(Fで始まる下品な言葉)を集めたものです。
で、それを、PMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)の創設者のティッパー・ゴアへ捧げる、という皮肉なトラックとなっています。

 

このパートの存在ゆえ、PMRCの発行するペアレンタル・アドバイザリー(親への警告)のステッカー(未成年者に不適切な内容があることを示す)が、晴れてこのアルバムにも張られることになりました。
まあ、ウォレントにすれば、完全に確信犯ということになるでしょう。
やりすぎなゴアの政策をおちょくったわけです。

 

ところが、wikipediaによると、このアルバムのクリーンヴァージョンが存在するそうですね。
そちらには、このトラック12は取り除かれています。
と同時に、11曲目のトレイン・トレインのイントロでジェイニーが発しているFワードにビープ音(放送禁止用語にかぶさるピー音)がかぶせてあるそうです。

 

まあ、それで売れたのか、どうなのか。
あまりかわらない、というか、逆にプレミアが付いてるのではないかと思いますが、定かではありません。

 

そして当時は13曲目に日本向けボーナストラックのTHIN DISGUISEが入ってました。
今は廃盤になってるそうですね。

 

これが爽快ハードポップで良かったです。
いい感じで楽しめてアルバムは幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1990年リリースの、WARRANT(ウォレント)の2ndアルバム、CHERRY PIE(いけないチェリーパイ)はビルボード誌アルバムチャートで第7位、アメリカで200万枚を売り上げました。
結果的に、2作連続でのヒットということになります。

 

やはり前作同様、楽曲が良かったですよね。
ジェイニーの作曲は、なんと言ってもメロディが良いです。
どんな曲にもしっかりフックがあり、心に残る歌メロが出来上がってます。

 

ただ、残念だったのは、1stシングルともなった「いけないチェリーパイ」のヒットかもしれません。
この曲の存在で、完全にウォレントは能天気パーティロック、もしくはルックス重視の軟派なバンドとしての烙印を押されたような気がします。
アルバム1曲目を除くと、なかなかにいいできのハードロックアルバムに仕上がってると思います。
もちろんハードポップと呼ぶ方がいいのかもしれない曲も多数ありますが、シリアスにかっこいいロックしてる曲もありますよ。

 

いわゆるメロディアスハードロックとしての魅力は十分に備えていると思います。
その要素を生み出しているのが、キャッチーなメロディを紡いだジェイニーの才能なのでしょう。

 

80年代のHR/HMバンドの流れにのったこの作品は、やはり聞いて楽しいものとなっています。
いまどきはこんなバンドないですからね。
やはりこの時期のバンドは、例え古臭いと烙印を押されたとしても、僕にとっては一種の清涼剤のように感じます。

 

ウォレントがキャッチーなハードポップだった初期アルバムの一つです。
見た目や評判での食わず嫌いは絶対惜しい、いいアルバムだと思います。

チャート、セールス資料

1990年リリース

アーティスト:WARRANT(ウォレント)

2ndアルバム、CHERRY PIE(いけないチェリーパイ)

ビルボード誌アルバムチャート第7 アメリカで200万枚のセールス

1stシングル CHERRY PIE(いけないチェリーパイ) ビルボード誌シングルチャート第10、Mainstream Rockチャート第19位

2ndシングル I SAW RED(アイ・ソウ・レッド) シングルチャート第10位、Mainstream Rockチャート第14位

3rdシングル UNCLE TOM’S CABIN(アンクル・トムズ・キャビン) シングルチャート第78位、Mainstream Rockチャート第19位

4thシングル BLIND FAITH(ブラインド・フェイス) シングルチャート第88位、Mainstream Rockチャート第39位