さらに豪華に妖艶に 妖精の2ndソロアルバム STEVIE NICKS - THE WILD HEART

前作の大ヒットからさらにゴージャスに





FLEETWOOD MAC(フリートウッド・マック)の歌姫、STEVIE NICKS(スティーヴィー・ニックス)はバンドの中でしっかりと強力な立ち位置を築き、女性ロックヴォーカリストとしての人気を確立します。
そして、1981年には満を持して、自身初のソロアルバム、BELLA DONNA( 麗しのベラ・ドンナ)をリリース。
これが、ビルボード誌アルバムチャートでNo.1を記録、アメリカだけで400万枚を売り上げる大ヒット作となりました。

 

彼女の初のソロ作品ということで、多くの有名ミュージシャンが参加し、確かに素晴らしいアルバムとなっています。

 

この彼女のソロ活動の成功は、フリートウッド・マック本体の活動を危ぶませるものと感じられましたが、無事にバンドは再び結集。
1982年には13枚目のスタジオアルバム、MIRAGE(ミラージュ)をリリース。
このアルバムにはスティーヴィーは3曲を提供
ソロでの成功が、本体の活動にも良い影響を与えたと言える、良質な楽曲たちで、そのうちのGYPSY(愛のジプシー)はシングルとして第12位のヒットとなりました。

 

このアルバムミラージュを引っさげてのツアーは、全米の18都市で行なわれたにとどまります。
そこから、バンドは休止状態に入るわけですが、そこでメンバーはソロ活動に入っていくことになります。
スティーヴィーはツアーが終わるとすぐに、ソロとして2作目のアルバム制作に入りました。
やっぱり、5人のメンバーの中の一人、という制約から外れて、自由に作品を作れるというのは、彼女にとっても大きな魅力だったに違いありません。

 

前作の大ヒットを受けて2ndソロアルバムということになりますが、前回同様、数多くのミュージシャンたちが結集、彼女の作品を盛りたてます。
やはり、フリートウッド・マックという偉大なバンドのヴォーカリスト、という肩書きは伊達ではない、というのと、もう一つは、彼女の人をひきつける魅力がそうさせたのではないでしょうか。
このように、参加した著名なミュージシャンの顔ぶれが、豪華であると言えます。

 

そして、加えて、音楽面でも豪華になっています。
前作では、楽器のプレイが楽曲の良さの根幹にありました。
今回ももちろんそうなのですが、それに加えて1983年という年にレコーディングされただけあって、結構シンセサウンドが目立つようになって来てます。
そうです、まさにエイティーズサウンドがアルバムを飾り立ててきてるわけです。

 

参加ミュージシャン、サウンドの二つの面でより豪華になったこのアルバムはわずか数ヶ月でレコーディングされています。

 

では今日は、1983年リリースの、STEVIE NICKS(スティーヴィー・ニックス)の2ndソロアルバム、THE WILD HEART (ワイルド・ハート)をご紹介します。

THE WILD HEART (ワイルド・ハート)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、WILD HEART(ワイルド・ハート)。

 

いきなり6分を越える大作です。
でも、大作と言っても重々しくない、軽快なロックナンバーです。
ピアノとともに静かに始まります。
そこで見せるスティーヴィーの歌のような、語りのような、ダミ声が最初から力強いです。

 

そして、サビでは一気にドラムが入ってきて軽快なロックへと変貌します。
女性ロックヴォーカリストとして、その魅力をたっぷりと押し込めた名曲ですね。
語りのようなABメロに続くサビは逆にキャッチーでメロディアス
そして、心地よいミドルテンポの楽曲としてそのまま終わると思いきや、ラストはかなり力強い歌声で吠えてもう一盛り上がりです。
オープニングにふさわしい、大作になっています。

 

2曲目はIF ANYONE FALLS(イフ・エニワン・フォールズ)。

 

イントロのシンセが、80年代サウンドに入ってきたことを明らかに主張しているかのようです。
こ印象的なシンセは、The E Street BandRoy Bittan(ロイ・ビタン)が演奏しているようです。
もう、ザ・エイティーズって感じで、たまらなくいいですね。
歌メロも、スティーヴィーがゆったり歌っていて、このシンセと絡まる浮遊感がほんとに癖になります。

 

そのうえ、ギターには前作に引き続いて、Waddy Wachtel(ワディ・ワクテル)のプレイが聴かれます。
彼のツボを抑えたソリッドなギタープレイも、シンセたっぷりの曲世界の中で、彩りを与えています。
とても心地よい、そして中毒性のある素敵な楽曲です。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第14位、同誌Mainstream Rockチャートでは第8位のヒットを記録しています。

 

3曲目はGATE AND GARDEN(ゲート・アンド・ガーデン)。

 

静かなバラード調で始まる、美しいイントロを持つ楽曲です。
しかし、すぐにミドルテンポの軽快な楽曲へと変わります。
この曲では、 Tom Petty and the Heartbreakersのキーボーディスト、Benmont Tench(ベンモント・テンチ)が参加しています。

 

とても、軽快なリズムに乗った素敵なポップスです。
このアルバムでは、前作に続いて二人の専属コーラスが入ってますし、加えてSandy Stewart(サンディー・スチュワート) というシンガーソングライターも楽曲をバッキングコーラスやピアノで彩っています。
とても、美しい楽曲だと思います。

 

4曲目はENCHANTED(魔法にかけられて)。

 

これは、とっても軽快で爽快で聞いて楽しくなれるポップロックソングです。
イーグルスにも通じるような軽快なロックに、全編通してのピアノサウンドが、楽曲をきらめかせています。
また、そんな爽やかな楽曲でありながら、スティーヴィーのダミ声が不思議と合うんですよ、これが。
まさに、ヴォーカルの魔法にかけられた、といえるかもしれません。
魔法にかけてるのはスティーヴィーの方ではないでしょうか。

 

また、ワディのギターがこの軽快なロックに華を添えてますね。
非常に渋かっこいいギタープレイが聴けます。
短い曲ですが、非常に聴き応えのある名曲です。
後の3枚組のBOX SETにこの曲のタイトルがつけられていることから、きっと彼女もお気に入りだったのであろうと推測できます。
僕もとってもお気に入りの1曲です。

 

5曲目はNIGHTBIRD(ナイトバード)。

 

この曲はサンディ・スチュワートとの共作で、サビの部分は2人でデュエットしています。
曲調は、フリートウッド・マックのDREAMS(ドリームス)を思わせる、軽快で、少し陰のあるポップスです。
サビの二人の掛け合いがたまらなく美しいですね。
こうしてハモリになると、スティーヴィーの歌の上手さに改めて魅せられます。
普段はかなり自由に歌い上げてますが、メロディが大事なハモリもしっかり歌えるのです。
さすがスティーヴィーだと感心します。

 

そしてこの曲には大御所David Foster(デイヴィッド・フォスター)がピアノで参加。
間奏で、軽快で美しいピアノソロを披露しておられ、楽曲に彩りを加えています。
この曲も、ミドルテンポのとてもいい楽曲になっています。

 

この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第33位を記録しています。

 

6曲目はSTAND BACK(スタンド・バック)。

 

これは、彼女にしては新しい挑戦とも言えそうな、シンセ満載のダンサブルなロックチューンです。
前曲ナイトバードと似たようなドラムによるイントロですが、シンセが入って曲調は大きく分岐します。
このシンセのなんとも言えない期待を起こさせる展開がすばらしいです。
また、TOTOのギタリスト、Steve Lukather(スティーヴ・ルカサー)がギターで参加して華を添えてます。

 

で、このイントロのシンセはというとPrince(プリンス)が演奏したらしいです。
プリンスのLittle Red Corvette(リトル・レッド・コルベット)をラジオで聴いてインスピレーションを受けたスティーヴィー。
すぐに曲をつくり、プリンスに電話
すると、プリンスがやってきてシンセパートをプレイしていったとのこと。

 

80年代初頭から、シンセを含めエイティーズサウンドを牽引してきたとも言えるプリンスの見事なプレイですよね。
それにしても、電話一本でやってきて楽曲に加わってくれるなんて、すごい話です。
これはスティーヴィーの才能をプリンスが認めていたことの証拠でしょうし、スティーヴィーも天才プリンスからの影響でこの良曲を作れたということでしょう。
80年代初期に起きた、ちょっとしたミラクルによって、素晴らしいスティーヴィーの代表作が生まれることになりました。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第5位、同誌Mainstream Rockチャートでは第2位、同誌Dance Club Songsチャートで第12位のヒットとなりました。

 

7曲目はI WILL RUN TO YOU(ウィル・ラン・トゥ・ユー)。

 

この曲は再びTom Petty(トム・ペティ)とのデュエットソングです。
そして演奏は、またもThe Heartbreakersが結集してます。
ギターのMike Campbell(マイク・キャンベル)、ベースのHowie Epstein(ハウイー・エプスタイン)、キーボーディストのBenmont Tench(ベンモント・テンチ)、ドラムのStan Lynch(スタン・リンチ)とサザンアメリカンロックの風を吹かせています。
まったくTom Petty and the Heartbreakersのときのような、渋いアメリカンロッカバラードとなってます。

 

それにしても、トムとスティーヴィーの声の相性は抜群ですね。
どちらも、非常に独特で個性的な声の持ち主ですが、見事にお互いに合わせてますね。
息がピッタリなのはやはり、ステディな仲にもなっただけのことはあります
サビだけでなく、大サビでの2人のコーラスワークは、見事としか言いようがありません。

 

8曲目はNOTHING EVER CHANGES(ナッシング・エヴァー・チェンジズ)。

 

アルバム中、1番ロック色が強い曲かもしれません。
エッジの効いたギターサウンドが全編を彩ってますが、これは元Eagles(イーグルス)のDon Felder(ドン・フェルダー)によるプレイです。
前作に続いて今回のアルバムでも、参加しておられます。
シンセも結構効いた楽曲ですが、その中でもギターサウンドがキレよく決まっているので、かっこいいロックソングになってます。
また、中盤からはサックスも入ってきて、大人な雰囲気のサウンドにも仕上がってると思います。

 

また、こんなロックな作品でも歌いこなす歌姫、スティーヴィー。
女性ヴォーカリストとして、存在感が半端ないです。

 

9曲目はSABLE ON BLONDE(ブロンドの魔女)。

 

アルバム中、最も古巣のフリートウッド・マックのサウンドに近い楽曲です。
それもそのはずか、ドラムにはMick Fleetwood(ミック・フリートウッド)が参加しております。
彼のシャープなリズムはとてもいいですね。
その安定したドラムの上で、伸びやかに歌い上げるスティーヴィー嬢。
この2人も、一時期はステディな仲にあったわけで、バンドも一緒だし、息が合わないわけがない・・・か。

 

コーラスもとても美しく、素敵な楽曲になってます。
このテンポの作品は心地よく聴けるしいいですね。
スティーヴィーも肩の力を抜いて柔らかく歌ってて、聴いてて気持ち良いです。

 

10曲目はBEAUTY AND THE BEAST(美しき野獣)。

 

アルバム最後は、ほんとに美しい楽曲でおしまいです。
この曲はロイ・ビタンのグランドピアノ、2人のコーラス、そして、フルストリングセクションによって構成されています。
ストリングセクションで参加したのは、ヴァイオリン14名、チェロ4名、ヴィオラ4名、ハープ1名の総勢23名です。

 

こんな豪華なミュージシャンの演奏する美しい楽曲で、心いくまま歌い上げるスティーヴィー。
美しいストリングス隊の演奏に、彼女のダミ声が合うのかって??

 

それがまた、見事に合ってしまうのです。

 

ピッタリ合うどころか、もはや神々しくさえ感じます。
6分という長い楽曲ではありますが、うっとりと聴いているとあっという間に時が過ぎてしまいます。
余韻たっぷりにアルバムは幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1983年リリースの、STEVIE NICKS(スティーヴィー・ニックス)の2ndソロアルバム、THE WILD HEART (ワイルド・ハート)はビルボード誌アルバムチャートで第5位、アメリカで200万枚を売り上げました。

 

前作と比べると、多少成績はダウンしてはいますが、アルバムのクオリティで言えば、全く遜色ない、と僕は断言したいです。
今回もバラエティ豊かなアルバムになっています。
そして、1983年の作品ということで、特にシンセが全体的に彩りを加えてきています。
しかし、それは否定的な意味ではなく、楽曲の良さをさらに引き立てるようなサウンドになっている、という意味です。

 

また、前作同様多くの有名ミュージシャンたちがアルバム作りに参加しています。
どんなミュージシャンとも、うまいこと融合できる彼女のヴォーカリストとしての才能が、この素敵なアルバムを創り出したといってもいいと思います。
特に、元カレであった人たちもいろいろ含まれていて、なんか不思議な気はします。
が、スティーヴィーはやはり音楽的な面では、そんな人間関係を超えた付き合いが出来る人なのでしょう。
むしろ、それによって、さらに良いものを生み出す力に変えてさえいるのです。

 

アルバム中の楽曲は、3曲がサンディ・スチュワートとの共作で、残りは全てスティーヴィーが作り出した楽曲になっています。
やはり、フリートウッド・マック時代にたまってて、作品化できなかったストックがたくさんあったのでしょう。
その鬱憤を晴らすかのように、わずか数ヶ月のレコーディングでアルバムを創り出すことができました。
フリートウッド・マックでの彼女の活動に比べると、はるかに自由に音楽を楽しんでいる様子が伝わってきます。

 

フリートウッド・マックの中で見せるスティーヴィーの魅力と、ソロ活動で魅せる彼女の魅力は別物だと僕は思っています。
それぞれが、素晴らしい魅力を振りまいています。
ただ、フリートウッド・マックでは彼女は約3分の1しか歌う機会がないのが実情です。(だって他にも魅力的なヴォーカリスト、コンポーザーがいるのだから・・・。)
そんなスティーヴィーのソロ作品は、彼女だけに焦点を合わせ、注目できる素晴らしい機会になっています。

 

歌姫スティーヴィー・ニックスの魅力だけをたっぷり楽しみたい方には、このアルバムは大いにおすすめです。

チャート、セールス資料

1983年リリース

アーティスト:STEVIE NICKS(スティーヴィー・ニックス)

2ndアルバム、THE WILD HEART (ワイルド・ハート)

ビルボード誌アルバムチャート第5位 アメリカで200万枚のセールス

1stシングル STAND BACK(スタンド・バック) ビルボード誌シングルチャート第5位、同誌Mainstream Rockチャート第2位、同誌Dance Club Songsチャート第12位

2ndシングル IF ANYONE FALLS(イフ・エニワン・フォールズ) シングルチャート第14位、同誌Mainstream Rockチャート第8位

3rdシングル NIGHTBIRD(ナイトバード) シングルチャート第33位、Mainstream Rockチャート第32位、Adult Contemporaryチャート第39位