帰ってきた名ヴォーカリスト ソロ第二弾 STEVE PERRY - FOR THE LOVE OF STRANGE MEDICINE(ストレンジ・メディスン)
前作からの長い10年
1984年にJOURNEY(ジャーニー)のヴォーカリスト、STEVE PERRY(スティーヴ・ペリー)は、初のソロアルバムを出しました。
タイトルはSTREET TALK(ストリート・トーク)。
その内容は、これまでのジャーニーとは大きく異なり、彼が幼少時から聴いて育ったR&Bテイストにあふれたもので、極上のポップアルバムとなっていました。
翌1985年には、あのUSA for Africa(USAフォー・アフリカ)に参加。
アフリカの飢餓救済のためのチャリティーソングである、WE ARE THE WORLD(ウィ・アー・ザ・ワールド)で、その美声を披露しています。
また、USAフォー・アフリカのアルバムにも楽曲を提供、If Only For the Moment, Girlが収録されています。
当時、何度もPVが流れてましたが、名だたるアーティストの中で、伸びやかに歌い上げるスティーヴのパフォーマンスには痺れたものです。
また、同じくらいの時期には、アイルランドのフォークロックグループのCLANNAD(クラナド)のアルバム制作に参加したりしています。
世界的な大成功で、ツアーに次ぐツアーといっためまぐるしい生活から、ちょっとだけ解放されたかったのかもしれません。
しかし、また、ジャーニーのメンバーとして次の9thアルバム、RAISED ON RADIO(レイズド・オン・レイディオ~時を駆けて)の制作が始まります。
ところが、ちょうどその時期にスティーヴの母親が病気になってしまいます。
今回のアルバムでは、スティーヴがプロデューサーとして関わっていましたが、母親の見舞いもあって頻繁に帰省します。
そのため、アルバム制作はなかなか思うように進まなかったようです。
そして、アルバムのプロダクションの時期についに母親は他界してしまいます。
こうした時期に行なわれた断続的なレコーディングセッションと、多くの時間でのヴォーカリストの不在という状況は、ジャーニーに大きな代価を払わせることになりました。
とりあえず無事に1986年に9thアルバムはリリース、ビルボード誌アルバムチャート第4位、全米で200万枚の売り上げとなりましたが、アルバムのプロモートツアーの終了と共にスティーヴは脱退します。
彼の母への想いを押し殺してツアーを続けたスティーヴはかなり精神的に苦しかったのではないでしょうか。
後にこの時期のことをスティーヴは“toast”(たいへんなトラブル)だったと語っています。
ツアーでの肉体的な疲労ももちろんのこと、精神的にくたびれ果てていたようです。
このスティーヴの脱退により、ジャーニーは活動停止、事実上の解散状態となってしまいました。
脱退したとはいえ、スティーヴの音楽への気持ちが消えうせたわけではありませんでした。
1988年には2ndソロアルバム、AGAINST THE WALLを制作します。
しかし残念ながら理由はわかりませんが、このアルバムはお蔵入りになってしまいます。
そしてその頃には幾つかのイヴェントで歌ったり、ジャーニーとのプレイを披露したりもしていますが、じきに公に姿を見せなくなります。
それから7年。
7年のブレイクの後、ついに彼の音楽活動がアナウンスされます。
ついに2ndソロアルバムが完成したのです。
先般にお蔵入りになったものとは全く別のものになっています。
前作からなんとちょうど10年経過しての2ndアルバム、ということになります。
CDのライナーノーツにはこんなメッセージが書かれています。
KONNICHIWA
It’s been a long time, after listening I hope you feel the wait was worth it…
love, Steve Perry
「長い間待たせてしまったけど、待ったかいのあるアルバムである事を祈ってます。」スティーヴ・ペリー
その内容は、まさしく待ったかいのある、ジャーニーの元ヴォーカリストとしての魅力のつまったアルバムとなっていました。
では、今日は、1994年にリリースされた、STEVE PERRY(スティーヴ・ペリー)の2ndソロアルバム、FOR THE LOVE OF STRANGE MEDICINE(ストレンジ・メディスン)をご紹介します。
FOR THE LOVE OF STRANGE MEDICINE(ストレンジ・メディスン)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、YOU BETTER WAIT(遥かなる時)。
静かに憂いのこもった歌が始まったときは、このアルバムは暗いトーンのものなのか、と一瞬感じましたが、スティーヴの何層にも重ねた美しいコーラスにドラムが入ってきた瞬間、来た!とガッツポーズです。
そこから始まるのは、ジャーニーの曲にしてもいいくらいの、爽快なロックチューンです。
なかなかギターを中心とした厚みのあるサウンドになってます。
前作ストリート・トークとはまた違ったアプローチで聴かせてくれます。
そしてやはり特筆すべきは、スティーヴのヴォーカルでしょう。
相変わらず伸びやかで心地の良いエモーショナルな歌声を聴かせてます。
ヴォーカルの処理によるのでしょうが、このアルバムではスティーヴのヴォーカルが非常にくっきりクリアに聞こえます。
彼の息使いまで感じれるような、ヴォーカル作品と言えるでしょう。
また、加えて言えば、ギタリストには若いLincoln Brewster(リンカーン・ブルースター)というプレイヤーが採用されてますが、この人のプレイが非常に心地よくていいですね。
アルバム全編で、彼のプレイも聴き所の一つとなっています。
この曲は、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第29位、同誌Mainstream Rockチャートでは第10位を記録しています。
2曲目は、YOUNG HEARTS FOREVER(永遠の想い)。
今度はSUZANNE(スザンヌ)を思わせる、爽快なロックチューンです。
これもジャーニーで行けそうな感じの良曲です。
シンセの使い方が、楽曲をきらびやかに飾ってます。
これまた、スティーヴのヴォーカルがジャーニーにぴったりだということを証明してる気がします。
サビの伸びやかなヴォーカルとコーラスが、気分爽快です。
また、リンカーンのギターも合わせて気分を盛り上げてくれます。
3曲目は、I AM(I AM)。
イントロのストリングスが非常に美しいバラードです。
静まると、アコギのアルペジオも美しく奏でられます。
壮大なサウンドをバックに、これまたスティーヴは伸びやかに歌い上げてます。
彼は、一本調子ではなく、表現力も持ち合わせているので、こんなバラードになると、全く歌い方が変わりますね。
優しいビブラートから、力強いハイトーンまで自在にこなしてます。
アコースティックなギターソロもいい感じで盛り上げてます。
大人の雰囲気たっぷりの、素晴らしいバラードですね。
4曲目は、STAND UP (BEFORE IT’S TOO LATE)(スタンド・アップ)。
エレキの印象的なイントロから始まるのは、堂々たるロックソングです。
途中での転調からの、スリリングな展開がかっこよいです。
ギターソロも、美しくメロディアスで、そしてもちろんメインのヴォーカルをジャマしない、いい感じのソロです。
アウトロも、結構長く弾いてますが、このギタリストのビブラートは、非常に好きです。
5曲目は、FOR THE LOVE OF STRANGE MEDICINE(ストレンジ・メディスン)。
アルバムのタイトルトラックになっています。
アダルティなAメロBメロを経て、サビでは一気に盛り上がっていい感じのメロディアスな楽曲になっています。
このAORっぽい曲にふさわしいギターソロも中盤とアウトロにたっぷり準備されてます。
やはりサビのヴォーカルとコーラスを聴いてると、スティーヴの歌の上手さが際立ってます。
曲もいいですし、歌い手も上手い。
これは、聴いて気持ちいいはずです。
6曲目は、DONNA PLEASE(ドナ、プリーズ)。
ゆったりした、心地の良いバラードです。
とりわけ、彼のヴォーカルをたっぷり楽しめる楽曲になってます。
サビの伸びやかな声には圧倒されます。
やはり、彼の声は宝のようです。
心洗われる珠玉のバラードです。
7曲目は、LISTEN TO YOUR HEART(リッスン・トゥ・ユア・ハート)。
イントロでは、リンカーンがかっこいいロックギターを披露しています。
とても無名なギタリストには思えない、なかなかいいプレイを見せてくれます。
ソロもいいメロディを弾いてますし、この曲に関して言えば、スティーヴと対等に渡り合っている感じがしてすごくいいです。
曲がちょっと弱い分、ギターがカバーしてる感じですね。
8曲目は、TUESDAY HEARTACHE(チューズデイ・ハートエイク)。
前半の静寂からの展開がスリリングで非常にかっこよい曲になってます。
サビメロディもキャッチーで、頭から離れないいいメロがあります。
バックのシンセが浮遊感を与え、ギターソロも同じく気持ちよく伸びやかにプレイされてます。
やっぱ、リンカーン上手し。
9曲目は、MISSING YOU(忘れえぬ君へ)。
ダラス交響楽団によるストリングスを贅沢に使った、美しいバラードです。
やはりこの手の歌を歌わせたら、天下一品ですね。
スティーヴの見事なヴォーカル能力を堪能できます。
もう、涙が出そうな感動的な歌を歌ってくれてます。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第74位となっています。
10曲目は、SOMEWHERE THERE’S HOPE(明日に向かって)。
アダルトな雰囲気の楽曲で、ここでもリンカーンの渋いブルージーなギタープレイが光ってます。
ギターソロも、粘着でメロディアスなプレイに、時折速弾きも交えてたっぷりと弾きまくってます。
スティーヴも、ぞくぞくするほど熱くエモーショナルに歌い上げてます。
6分ほどの長い曲ですが、ギタープレイと、スティーヴの熱唱でたっぷりと楽しむことが出来ます。
アルバムラストの11曲目は、ANYWAY(エニウェイ)。
ピアノをバックに歌い始めるバラードで締めです。
曲ももちろんいいですし、彼のヴォーカルも最高です。
しかし、それ以上にこの曲で注目すべきは歌詞ということになるでしょう。
多くの人が気付いて推測しているように、これは恐らくジャーニーのメンバーに対しての歌で間違いはないでしょう。
共に音楽を信じ、傷つきながらも充実した毎日を送っていたけど、我を失って逃げ出してしまった。
それについて、謝りたいし償いもしたい。
ずっとそのことが自分につきまとい、決して忘れられない。
こうした内容が歌詞の中に含まれてます。
間違いなく、ジャーニーから飛び出した自分のことを歌っているのでしょう。
脱退後こんな風に思いながら8年の歳月を暮らしてたのかと思うと切ないですね。
彼もわがままや好きで辞めたのではなく、心が耐えられずにやむを得ずにそうしなければならなかった、というのが伝わってきます。
この思いが届くのは2年後のジャーニー再結成のときとなります。
スティーヴの思いを乗せたアルバムはここで幕を下ろします。
まとめとおすすめポイント
1994年リリースの、STEVE PERRY(スティーヴ・ペリー)の2ndソロアルバム、FOR THE LOVE OF STRANGE MEDICINE(ストレンジ・メディスン)はビルボード誌アルバムチャートで第15位、アメリカで50万枚のセールスを記録しました。
後に出された彼のグレイテストヒッツのライナーノーツには、このアルバム、ストレンジ・メディスンで音楽シーンにカムバックした時のスティーヴの言葉が載せられています。
何故戻ってきたのか?何故レコードを創るのか?別に自分の健康を考えてのインターバルじゃないんだ。売れる為、お金のためにやってる訳じゃない。自分には曲を創って歌うことしかできないんだ。やめた時もあった。それは自分が再び歌うべきかどうか判らなかったからなんだ。(中略)レコードを創る時期だからといって創ったんじゃない。何も書くことがないから書かなかった。何かについて歌えるときが来るまでずっと待ってたんだ。そして自分の心の中に正直に言える何かができるまで6年間もかかってしまった。でも、今は本当にそれで良かったと思ってるよ。
いやいや、彼ほどの優れたヴォーカリストが、沈黙してたらもったいないです。
心の傷を乗り越えて、再び歌えるその時が来たことを本当に喜びたいと思いますね。
そしてアルバムの内容はというと、前作ストリート・トークとは大きく方向性が異なるものとなっています。
前作では、R&Bなどの彼のルーツ的な作品をシンプルに表現したアルバムでした。
それに対して今回は、かなりゴージャスな作りになっています。
言ってみれば、ジャーニーの雰囲気(特にレイズド・オン・レイディオの作品の感じ)が非常に強く香ってきます。
ハードなロック作品はありませんが、ジャーニーでもプレイできそうな、そんな性質の歌が多く含まれてます。
こうして考えると、レイズド・オン・レイディオはスティーヴがプロデュースしてただけあって、彼のやりたい方向性がしっかりと詰まったアルバムだったのだ、と改めて感じることができます。
また、演奏陣は今回もL.A.の優秀なセッション・ミュージシャンを集めてレコーディングがなされてます。(元WINGERのポール・テイラーやTOTOのマイク・ポーカロなども参加してます。)
そのためやはり演奏のクオリティが高く、そうした信頼あるプレイヤーの演奏をバックにのびのびと歌い上げるスティーヴの歌唱が楽しめます。
とりわけ、僕が感銘を受けたのが、弱冠22歳で参加しているギタリスト、リンカーン・ブルースターです。
何でも起用にこなし、メロディアスなプレイや速弾きもオッケー。
楽曲を見事に盛り上げてます。
スティーヴがずっとこのままソロを続けていれば、いい右腕として活躍できたのではないかと思えます。
スティーヴは全曲で作曲に関わって、他のメンバーと共に共作しています。
彼の生み出すメロディも、ジャーニー時代から変わらず素晴らしいです。
特に、彼のヴォーカルが見事に生きるメロディを作っているところがいいですね。
どの曲でも、ムリせず、伸び伸びと歌い上げるスティーヴのヴォーカルは絶品です。
ちょうど、1994年というのは、ロック界ではすでにグランジなどが席巻して、ダークで激しい音楽が流行っていた時代です。
そんな中でこのアルバムは、一つの清涼剤として人々の心を潤したにちがいありません。
僕もそのうちの一人です。
ジャーニーの世界的な成功の立役者の、円熟味あふれるヴォーカルを楽しめるこのアルバムはやはり前作と共に聴いておきたいアルバムと言えるでしょう。
最後に、ソロ3rdアルバムは出るのか
そして最近、とんでもないニュースが飛び込んできました。
スティーヴ・ペリーの23年ぶりとなる、3枚目のソロアルバムがレコーディングされている、と言われているのです。
2017年のABC Newsのインタビューに答えたものらしく、年内にはリリースできる、と言ってました。
が、もう僕がこの記事を書いているのが2018年3月なので、2017年リリースは間に合わなかったようです。
スティーヴも現在69歳(2018年1月22日が誕生日)、ということで、アルバムを出すとすれば最後のチャンスかもしれません。
あの、2ndアルバムになるはずだった、AGAINST THE WALLのようにお蔵入りだけは勘弁して欲しいです。
もう、24年でも25年ぶりでもいいので、とにかくアルバムを聴きたいです。
人生の集大成として、ぜひともソロアルバムをリリースして欲しいものです。
間違いなく買いますので、いつまでもお待ちしております。
何よりも、元気で長生きしてください!
チャート、セールス資料
1994年リリース
アーティスト:STEVE PERRY(スティーヴ・ペリー)
2ndアルバム、FOR THE LOVE OF STRANGE MEDICINE(ストレンジ・メディスン)
ビルボード誌アルバムチャート第15位 アメリカで50万枚のセールス
1stシングル YOU BETTER WAIT(遥かなる時) ビルボード誌シングルチャート第29位、Mainstream Rockチャート、第10位
2ndシングル MISSING YOU(忘れえぬ君へ) シングルチャート第74位