さらに歌モノとしての魅力もアップ YNGWIE MALMSTEEN - ECLIPSE(エクリプス)

Joe Lynn Turner(ジョー・リン・ターナー)との訣別





1988年リリースのYNGWIE MALMSTEEN’S RISING FORCE(イングヴェイ・マルムスティーンズ・ライジング・フォース)の4thアルバム、ODYSSEY(オデッセイ)は、彼のアルバムの中でアメリカでもっとも売れたアルバムとなりました。

 

その要因としては、やはりヴォーカルに据えたJoe Lynn Turner(ジョー・リン・ターナー)効果と言えるかもしれません。
イングヴェイは、このアルバムではコンポーザーとしての力量を発揮したいと考えてました。
そのためには弾きまくるより、歌モノとしてのクオリティを優先した作りになっています。
その内容に、フロントマンとしてのジョーの魅力が加わり、素晴らしいアルバムを生み出しました。

 

そして、ツアーも成功を収めます。
このオデッセイツアーはレコード化され、1989年に初のライヴアルバム、 Trial by Fire: Live in Leningrad(トライアル・バイ・ファイアー:ライヴ・イン・レニングラード)としてリリースされます。

 

ところが、ツアー後にはウマが合っていたはずのジョーは脱退
イングヴェイは彼のことをソウルメイトと呼ぶほどの仲でしたが、わずかアルバム1枚を作ってこの素晴らしいコラボは終焉を迎えたのでした。
いや、僕もこの二人の組み合わせ、そして、アルバムオデッセイも非常に好きだっただけにもったいないことしてくれましたね。
まあ、イングヴェイは、二人のフロントマンを必要とはしなかったのでしょう。
イングヴェイは彼自身が最高のスポットライトを浴びていないと気がすまないのです。

 

それに合わせてバンドメンバーを一新します。
今回は、彼の母国スウェーデンのプレイヤーで固めます。
どちらかというと、そんなに実績のある人は少なく、完全にイングヴェイが全てをコントロールできる体制作りが図られた模様ですね。

 

そして注目のヴォーカルはGöran Edman(ヨラン・エドマン)というスウェーデンのヴォーカリストです。
EUROPE(ヨーロッパ)を脱退したJohn Norum(ジョン・ノーラム)のソロアルバムでヴォーカルをとったりしたシンガーですが、そんなに有名どころではありませんでした。
これで、完全にイングヴェイ先導のバンドができあがりました。

 

今回は、彼のバンドRISING FORCE(ライジング・フォース)のクレジットはなされず、単にYNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)名義でのアルバムとなります。
こんなとこにも彼自身がやはり脚光を浴びるべき、という意思が伝わってくるようです。

 

また、バンドって、やはりヴォーカルが変わるとカラーは大きく変わるものです。
ジョー・リン・ターナーも良かったのですが、今回のヨランも結構僕は気に入りました
線が細いとか声が弱いとか軟弱だ、などとひどい言われようがされるヨランですが、いやいやなかなか透明感もありこのアルバムには欠かせないいいヴォーカルだと僕は思います。
今回も全曲でイングヴェイ自身が作曲しており、その腕は上がっている、と僕は感じています。

 

では今日は、1990年リリースの、YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)の5thスタジオアルバム、ECLIPSEエクリプス)をご紹介したいと思います。

 

ちなみにECLIPSEエクリプス)とは日食や月食など、を意味します。
アルバムジャケットを見ると、この場合日食のようですね。
龍と戦っているジャケットより、非常にかっこいいと僕は思います。

ECLIPSE(エクリプス)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、MAKING LOVE(メイキング・ラヴ)。

 

ミディアムテンポのキャッチーなポップメタルソングで幕開けです。
前作のオデッセイの荘厳なオープニングに比べると、かなり地味な始まりですが、すごくいい曲だと思います。

 

ドラムの打音にキラキラシンセが散りばめられ、ピックスクラッチでイングヴェイのギターが切り込んでくる、なかなか悪くないイントロだと思います。
この曲ではバッキングは目立たず、シンプルなプレイに心がけているようです。
その分、歌メロの美しさが目立ちます。
ヨランの透明感あるヴォーカルが生きた楽曲になっているのではないでしょうか。
前作に続いて、歌メロに期待を持てるいい1曲目になっています。

 

しかし、バッキングでおとなしかった分、ソロは弾きまくってます。
まずは、ディレイタイムを長く取った速弾きプレイで魅せてくれます。
そして、その後も畳み掛けるように弾きまくり、最後は静寂の中で自由に弾いてます。
歌メロがどれだけ良くても、主役は俺だ、と言わんばかりの熱演の1分少々のプレイです。

 

そして後半にもう一回ソロタイム登場で弾きまくります。
このプレイは30秒ほどでフェイドアウトされて、終了です。

 

ところが、日本版のみのボーナストラックでは、この曲の extended guitar mixなるものが収められていて、この途中でカットされたソロが最後まで収められたヴァージョンが収録されています。
そちらのほうでは、1分40秒ほど弾きまくって、きれいに楽曲が終わります。
イングヴェイのキャラからすると、こっちをボーナストラックではなく、本編の1曲目に収録したほうが良かったと思います。
曲自体は約6分半、と長くはなりますが、彼の熱いプレイに胸を打たれます。
僕の印象では、魂のプレイを感じることができる、素晴らしいプレイなのです。
ショートヴァージョンで不完全燃焼だったものを、ロングヴァージョンで吹き飛ばしてほしいと思います。

 

2曲目は、BEDROOM EYES(ベッドルーム・アイズ)。

 

Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)の影響を受けたと公言するイングヴェイですが、ここでは確かにその影響を受けたブルージーなロックソングを披露しています。
イングヴェイの作品では、クラシカルな作品が多い中、なかなか新境地な感じでいいです。
ヨランのヴォーカルもいい感じにはまってます。

 

ブルージーなギターリフは、思わず腰を動かしたくなるような横ノリを出してますし、ソロの入りもワウを踏んで、ジミっぽくブルージーに攻めてる感がいいです。
しかし、ジミに似せてはいても、やはり速弾きになると、イングヴェイらしさが全開になって、現実に引き戻されます。
アウトロのソロも、やはり速さ、って一つの武器だな、って感じさせられるなかなかいい出来になっております。

 

3曲目は、SAVE OUR LOVE(セイヴ・アワ・ラヴ)。

 

いやいや、ここでバラードとは驚きですが、これまたいいバラードを作ってきましたね。
やはり歌モノと言えば、バラードは欠かせないわけですが、イングヴェイはその点もしっかりと作れる才能はお持ちのようです。
ゆったりと、切なく歌われるメロディアスな歌メロをヨランがいい感じで歌い上げてます。
ジョーとはまた違った魅力が引き出されてますね。
バックで奏でられる、ギターアルペジオもキーボードプレイも、楽曲を盛り上げ、なかなか優れた作品に仕上がっています。

 

また、それら以上に秀逸なのが、イングヴェイのギターソロです。
この切ないバラードにぴったりのソロプレイです。
泣きのビブラートはもちろんのこと、激しい感情は超速ギタープレイで見事に表現しきっています。
やはり、ただ速いだけのギタリストとは一線を画している、と感じさせられる素晴らしい作品です。

 

4曲目は、MOTHERLESS CHILD( マザーレス・チャイルド)。

 

ここで、名曲登場です。
やはりイングヴェイは、こういう疾走チューンがよく似合ってます。
イントロのリフから、悶絶もののかっこよさがあります。

 

また、このハイトーンを求められる楽曲にヨランの線の細いヴォーカルが見事にはまってます。
北欧の雰囲気のたっぷり封じ込められた、メロディアスな歌メロがまず耳を奪ってくれます。

 

そしてやはりソロがいいです。
ソロスタートは連続コードチェンジしながらのスウィープ連発です。
このクオリティで粒をそろえてくるところが、やはり先駆者だけあって見事です。
その後、フリーのソロタイム。
自由自在に弾きまくってます。
まだこの時期は、十分に引き出しも多く、手癖の繰り返しって感じではなく、この疾走チューンにふさわしく弾きまくっておられます。
もう一度スウィープパートに戻って歌メロへ。
ラストは、ガットギターの速弾きでフィニッシュ。

 

いやいや、いい曲作ってますね。
作曲者としても、なかなかいい線いっていると僕は思いますね。

 

5曲目は、DEVIL IN DISGUISE(デヴィル・イン・ディスガイズ)。

 

荘厳かつダークな世界が始まります。
アコギのアルペジオで邪な世界が生み出されてます。
曲自体はどっしり進んでいく、ミドルテンポのメタリックソングです。
コーラスなどに、北欧の神話的なものの雰囲気も感じられたりもします。

 

ソロでは、いつもどおり思いっきり弾きまくってます。
ディレイをたっぷり使って妖しい雰囲気を出しまくってますね。
ラストは、ヘヴィなリフが新たに繰り出されてフェイドアウトしていきます。
ちょっとその辺は中途半端な感じを受けますが、まあ、重みのある曲に、繊細なヨランのヴォーカルがあいまってなかなかいい曲になってます。

 

6曲目は、JUDAS( ジューダス)。

 

またもキャッチーなポップメタル登場です。
この曲も歌メロが良く、イングヴェイのコンポーザーの片鱗がしっかり見られます。
ヨランもいい感じで歌い上げてます。

 

ワウを軽く掛けた状態でのソロも、まあ弾きまくりで悪くないです。
他の曲に比べると、16小節のコンパクトに収まったソロになってます。
しかし、しっかり16小節弾きまくって、きっちりケツを合わせるこの感覚は、さすがだと思います。

 

7曲目は、WHAT DO YOU WANT(ホワット・ドゥ・ユー・ウォント)。

 

シンセがキラキラしたイントロを経て、またもキャッチーなポップメタルが続きます。
ヨランのヴォーカルもAメロから、ハイトーンのサビまでいい感じで歌いこなしてます。
歌メロがこれもキャッチーで、いい曲だと思います。

 

ソロの弾きまくりも、やはり続くとちょっとおなかいっぱいな気もしてきますが、このシングル向けの曲にはちょうどいい長さかもしれません。

 

8曲目は、DEMON DRIVER(ディーモン・ドライヴァー)。

 

来た来た来た。
これですよ、待っているのは。
やはり彼にはこんな疾走系がピッタリです。
イントロのギターリフも非常にかっこよいです。

 

歌メロも、いい感じでいい曲ですがこの曲のハイライトはやはりギターソロでしょう。(まあ、他のものもほぼそうなのですが・・・w)
ギターソロの入りは3弦スウィープのお手本プレイですね。
やはりこの高速でのスウィーププレイに、キラキラのシンセの装飾音が加わると、プレイがキラキラ輝いて聞こえます。
そして、スピーディーなソロタイム。
これは、やはりかっこよすぎます。
そして、ソロの締めに再び3弦スウィープパートです。
このクラシカルな雰囲気のテクニカルパートは、素晴らしい出来だと思います。

 

マザーレス・チャイルドと並んで、優れた疾走系メタルソングが生まれました。

 

9曲目は、FAULTILINE(フォールトライン)。

 

ゆったり、神秘的な雰囲気が、やはり北欧の雰囲気を感じさせてくれます。
際立ってるわけではありませんが、歌メロも悪くないです。
サビの裏で歌メロにハモるギターメロディがいい感じで切なさをかもし出してます。
地味に、いい曲です。

 

10曲目は、SEE YOU IN HELL (DON’T BE LATE)(シー・ユー・イン・ヘル)。

 

ここでまた疾走系、今回は3連のリズムのアップテンポ曲が来ます。
このイントロのリフもかっこいいですね。
イングヴェイはソロもすごいですが、リフもいいものをたくさん生み出してます。

 

ギターソロ前のリフもなかなかかっこいいと思います。
そしてソロに突入ですが、この曲では、新加入のキーボード、Mats Olausson(マッツ・オラウソン)とのソロバトルとなってます。
やはり時々、こういうのが入るといいですね。
ギターソロばっかりでは、時々満腹になってしまいますのでw

 

ラスト11曲目は、アルバムタイトルトラック、ECLIPSE(エクリプス)。

 

この曲はアルバム中唯一のインストゥルメンタルになっていますが、これがまた超絶にかっこいいです。
もう、イントロからスウィープの嵐です。
スウィープとプリングをうまく組み合わせて印象的なフレーズを生み出しています。

 

そこから、はロングトーンが続きますが、バックのバンドが疾走感を生み出しています。
そしてメインとなるフレーズがまたかっこよすぎます。
スウィープ奏法とペダル奏法をうまくからめて、これまたスリリングで印象的なメロディを生み出してます。
そのメロディの後に続くのが、コードをワイドに移動しながらのやはりスウィーププレイです。

 

中間部のギターソロも、ワウをかけながらの流麗な高速メロディを繰り出してますね。
ラストは、ディレイによるおっかけプレイでコンパクトに締められます。

 

わずか4分足らずの曲ですが、詰め込まれてる音の数は半端ありません
それもただ速く詰め込まれているだけではなく、しっかりとクラシカルなメロディを発生させています。
イングヴェイ自身もただ速いだけのプレイはク○だ、と言っているとおり、この曲はそのような作品ではありません。
ロックインスト、として非常にクオリティの高い優れた作品だと僕は思います。

 

この曲は、かつて僕もギターで挑戦してみましたが、やはりあの速さで粒ぞろいのスウィープはムリでした。
実際にやってみると、イングヴェイのすごさ、を肌で実感することができます。

まとめとおすすめポイント

1990年リリースの、YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)の5thスタジオアルバム、ECLIPSEエクリプス)はビルボード誌アルバムチャートで第112位となっています。
数あるイングヴェイの作品の中では、あまり評価の芳しくないアルバムとなっています。

 

どこが悪いのか、とちょっとぐぐったりして見ますと、やはり多いのがヴォーカル、ヨラン・エドマンへの不満が大きいようです。
彼のヴォーカルの線の細さを受け入れにくい人をよく見かけますね。
確かにそれまでの、ヴォーカルの中ではそういった面があるのかもしれません。
特に、直前のジョー・リン・ターナーなどと比べられたらたまりませんよね。

 

でも、僕から言わせてもらえば、彼の声は、ヨーロッパのジョーイ・テンペストにも少し通じるところのある、いい声だと思いますけどね。
やはり北欧スウェーデンの、あの雰囲気を出せるいいヴォーカルではないでしょうか。
今回もイングヴェイが、かなりのクオリティで歌モノの作曲に挑んでますが、いい感じで歌いこなせていると思います。
なんと言っても、いい曲が多いんで。

 

まあ、アルバムの評価は全体的に低かったとはいえ、日本では安定の人気を誇っています。
オリコンチャートで第11位、とデビューのRISING FORCE(ライジング・フォース)第19位以来、アルバムを出すごとにチャートアップしております。
やはり日本のファンは、彼のプレイに釘付けのようです。

 

僕のように、彼のプレイにしっかりと注目して聴こうとする人にとっては、きっと評価を高くつけれるアルバムだと思いますね。
そうでない人にとっては、やはり彼のプレイがただ速いだけのピロピロサウンドにしか聞こえないようです。
なので、じっくり聞き込んで欲しいと思いますね。
疾走系のキラーチューンもあり、美しいバラードあり、どっしりメタルサウンドもあり、どれもいいメロディを持っています。
そんな楽曲の合間、隙間をイングヴェイの超人的なギタープレイが埋めている、という構図です。

 

本人も結構気に入っているこのアルバムは、なかなか聴き所の多い、いいアルバムだと思います。

チャート、セールス資料

1990年リリース

アーティスト:YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)

5thアルバム、ECLIPSEエクリプス)

ビルボード誌アルバムチャート第112位

ヴォーカル:Göran Edman(ヨラン・エドマン)