アコースティック系ハードロックの最高峰 WHITE LION(ホワイト・ライオン) - BIG GAME(ビッグ・ゲーム)
前作からの流れ
1987年リリースのWHITE LION(ホワイト・ライオン)の2ndアルバム、PRIDE(プライド)はビルボード誌アルバムチャート第11位を記録、アメリカだけで200万枚を売り上げる大ヒットとなりました。
1stでは、泣かず飛ばずでしたが、この2ndではヒット曲も連発し、ついにブレイクに成功したのです。
このプライドの成功により、ギタリストとしてのVito Bratta(ヴィト・ブラッタ)の評価は急上昇していきます。
Guitar World magazine や Guitar for the Practicing Musician magazineといった有名ギター雑誌の人気ランキングで上昇していきました。
僕もこの2ndアルバムでのヴィトのプレイにはしびれてましたね。
エディ・ヴァン・ヘイレンからの影響を多大に受けて、タッピングを交えたプレイが彼の持ち味ですが、本家とは一味違うプレイスタイルになってます。
速弾きに特化するのではなく、なんというか、かっちりしたリズムの中で、ピッキングと変わらぬ安定具合でタッピングを挟み込んでます。
そして、ソロも主にきっちりと練り上げたものになっていて、非常にメロディアスなのです。
エディのようでエディでない彼のプレイスタイルがウケたのも当然と思えますね。
右手を使う、という点でエディからヒントを受けたのは間違いありませんが、ヴィトは独自にそれを別方向に極めていったと思います。
タッピングを織り交ぜながら、滑らかに音をつないでいくプレイは、僕にとっては芸術的に思えるのです。
そして、もう一つ大きく評価できる点は、彼のギタープレイの構成力の高さではないでしょうか。
インプロヴァイゼーション(即興、アドリブ)とは異なり、彼のソロプレイのほとんどは緻密に練り上げられています。
口ずさめるようなメロディと速弾きとが適度に混ざり合って絶妙なプレイを生み出しています。
この辺も僕の好みのど真ん中ストレートにあると思っています。
ライヴでも、彼の自由自在で滑らかなプレイが見られます。
この時期に来日公演も行ってますが、そこでも自由自在にタッピングを交えてメロディアスなプレイを見せつけてくれてます。
そんなヴィトの優れたギタープレイとともに、ヴォーカルのMike Tramp(マイク・トランプ)の哀愁あるハスキーヴォイスが相まって、僕にとってはかなりのフェイヴァリット・バンドになりました。
で、このブレイクに続く作品が作り上げられます。
前作に続いて、ドイツ人プロデューサーのMichael Wagener(マイケル・ワグナー)を迎え、優れたハードロックアルバムが完成しました。
では、今日は1989年リリースのWHITE LION(ホワイト・ライオン)の3rdアルバム、BIG GAME(ビッグ・ゲーム)をご紹介したいと思います。
BIG GAME(ビッグ・ゲーム)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、GOIN’ HOME TONIGHT(ゴーイン・ホーム・トゥナイト)。
いきなりイントロがアコースティックなアルペジオで意表を突かれますが、すぐに爽快なハードロックチューンに変貌します。
この曲は、アコースティックとエレクトリックのギターの使用が交互に訪れますが、そのメリハリが非常に気持ち良いですね。
どちらもクオリティが高く、ヴィトのセンスを感じます。
特にアコースティックのバッキングに関しては、非常に煌びやかで、音の変化が目まぐるしいです。
単なるバック演奏に収まらない、この凝りに凝ったプレイこそ、ヴィトのプレイの真骨頂ではないでしょうか。
また、エレキパートも優秀ですね。
ソロでは、相変わらず、タッピングをうまく挟み込んで緻密でメロディアスなプレイを披露しています。
タッピングが単なるトリル的な使用だけでなく、左手の延長としてギターの指板を軽やかに滑らかに駆け巡るところに、ヴィトのオリジナリティを感じます。
いきなり最高峰のソロプレイを見せてると思います。
楽曲は、アルバム中の10曲目のカヴァー曲を除いて、全曲をマイクとヴィトが共作しています。
この曲の歌メロは、タイトル通り故郷を思わせる哀愁感たっぷりとなっています。
この哀愁ハードロックも、ホワイト・ライオンの大きな魅力になっていますね。
二人のコンポーザーとしての高い能力も感じられます。
HM/HRファンからすると、ちょっと物足りないかもしれませんが、普通の音楽リスナーにもウケるに違いない名曲だと思います。
とりわけ、ギターキッズにとっては魅力満載になっているのではないしょうか。
この曲はアルバムの4thシングルとしてカットされましたが、チャートインはしていません。
2曲目は、DIRTY WOMAN(ダーティ・ウーマン)。
イントロ出だしのスリリングな雰囲気からのギターリフが非常にかっこいいです。
リフメイカーとしてもヴィトは一流だと思います。
ワイルドなピッキングハーモニクスや激しいアーミングを交えてロックギターらしいクールなリフになってます。
ABメロではクリーントーンのギターリフ、サビではヘヴィなリフ、とこの対照も魅力的です。
コンパクトなギターソロも、軽快かつメロディアスでとても良いです。
歌メロは普通ですが、その分をギタープレイが補ってます。
3曲目は、LITTLE FIGHTER(リトル・ファイター)。
クリーントーンのエレキを指で優しく挟んではじくイントロが印象的な、メロディアス&キャッチーソングです。
この曲でも全編にわたって、クリーン&ハードなギタープレイが歌っています。
ヴォーカルの歌メロの裏でも、それを邪魔せず同時に歌っている煌びやかなバッキングプレイは、エディのプレイを彷彿させます。
ヴィトのバッキングのセンスも最高級のものだと思います。
また、ギターソロはこの曲でも見事な構成、様式美を保っていると思いますね。
単に勢いとか速さ一発のソロなんかとは全く異なる、計算されつくしたかのようなソロメロディ。
ほんとに、僕の理想のソロパターンと思います。
バッキング、ソロ、いずれも非常に高いレヴェルの楽曲であると言えるでしょう。
また、歌メロもとてもキャッチーで良いです。
歌メロ、バックの演奏、ともに聞いてて心地よい名曲となっていますね。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第52位、同誌Mainstream Rockチャートで第12位を記録しています。
4曲目は、BROKEN HOME(ブロークン・ホーム)。
美しいアコースティックパワーバラードです。
これは、彼らの得意分野の一つですね。
前アルバムからもバラード大ヒット(ホエン・ザ・チルドレン・クライ)を出してますからね。
アコースティックなギタープレイはヴィトもお手の物です。
美しく、煌びやかに歌メロを飾っています。
ハードロックバンドがアコースティックバラードを出すのは、80年代に広く流行ってましたが、そんな中でもホワイト・ライオンはかなりクオリティが高いバンドだと思います。
ギターソロも美しくキメてます。
ちょっと頑張れば僕でもコピーできそうな、スローテンポのソロですが、やはり細かなところの音のつなぎや、ビブラートなど、センスの良さは僕の比ではありませんw
メロディアスなプレイを思いっきり奏で上げています。
また、こんなバラードにマイクのヴォーカルもぴったりはまりますね。
切ない系のバラードを歌わせたら、マイクはかなり上位に来るのではないでしょうか。
アルバムの途中に安らげる名バラードが収まっています。
5曲目は、BABY BE MINE(ベイビー・ビー・マイン)。
この曲もイントロはクリーントーンスタートですが、盛り上がるにつれバンドサウンドへと変化していく雰囲気が秀逸です。
このクリーントーンのリフは、曲中で繰り返し出てきますが、それを取り巻くバンドサウンドの変化の中で一貫しているところが印象的です。
一転してヘヴィになるサビでは、ちょっとキャッチーな歌メロになります。
それに続いくギターソロがまた、良いですね。
ロングトーンが続きますが、ずっと遅れて付いていくディレイサウンドが重なって、おしゃれなソロを作り上げています。
アルバム中あまり目立ちませんが、なかなかの佳作だと思います。
6曲目は、LIVING ON THE EDGE(リビング・オン・ジ・エッジ)。
アメリカンロックテイストのハードロック曲です。
キレのあるギターリフとともに、爽快感あふれるロックソングとなっています。
ギターリフはヘヴィで、またちょこちょこオブリが挟まれ、ヴィトの存在感はしっかりとアピールされてます。
サビはキャッチーで、みんなで歌ってて、これもライヴ映えする楽曲ですね。
どっちかというと平凡な楽曲ですが、ギターソロはここでも輝いてます。
決して速弾きではないのですが、ミディアムテンポに乗せて、練り上げられたフレーズが繰り広げられます。
指板を上下左右に行ったり来たりして、なおかつメロディアスに聞かせるのは、やはりヴィトの持つ天性のセンスなのではないかと思えます。
メロディも単調に音をなぞるのではなく、アームやビブラート、チョーキングを交えて音のバリエーションは多彩なので、全く飽きさせないですね。
普通の楽曲なのに、このギターソロがあるだけでもまた聞きたいと思わせる、ヴィトの才能に改めて脱帽です。
7曲目は、LET’S GET CRAZY(レッツ・ゲット・クレイジー)。
アルバムの中で、ハードロック系の曲で一番かっこいいのは、この曲で決まりでしょう。
高速シャッフルビートの曲にはあまり外れはありませんが、この曲も当然ながら大当たりの楽曲と言ってよいでしょう。
イントロは、音量低めのモノラルな感じの中でヴィトが自由に弾きまくってます。
おそらくこのプレイに関しては、アドリヴっぽいプレイではないかと思います。
他の曲ではあまり聞けませんが、こんなブルージーなプレイもできるとはヴィトの引き出しは多すぎます。
そして、音量も上がってステレオになってからの高速シャッフルは、超絶に心地よいです。
そんなシャッフルビートに乗って繰り広げられるヴィトのリフもオブリも最高度にかっこいいですね。
もう、変幻自在って言葉が合うのではないでしょうか。
バンドの主役は基本はヴォーカルですが、全くヴィトのプレイは完全に主役を分け合ってますね。
ヴォーカルを聞きながら、同時にこんなに裏のギタープレイを聞きたくなるバンドは少ないと思います。
歌メロを邪魔しないギリギリのとこで、最大限に目立つ派手でかっこいいプレイであふれてます。
そして、やはりギターソロも際立ってます。
構成の素晴らしさと、それを実現するギターテクニック。
この跳ねて勢いのある楽曲にピッタリの見事なソロとなってると思います。
ソロラストの超高音までの上昇がたまらなく気持ちイイです。
本家エディのHOT FOR TEACHER(ホット・フォー・ティーチャー)のプレイに勝るとも劣らない、魅力たっぷりの優れたギタープレイの詰まった楽曲になってます。
8曲目は、DON’T SAY IT’S OVER(ドント・セイ・イッツ・オーバー)。
サビのコーラスから始まる、ド定番のキャッチーロックソングです。
歌メロは、見事なまでにメロディアスでキャッチーです。
そしてAメロではアルペジオがキラキラと美しく彩っています。
Bメロ、サビ裏のバッキングもいい動きでメロディをサポートしています。
しかしもっとも特筆すべきは、やはりギターソロでしょう。
このソロではタッピングは使ってないようですが、スライドを使っての高速移動により、広い音域を効果的に使っています。
加えて、チョーキングやトリル、アーミングなどを駆使して、音色に絶妙な色付けがされてます。
何より、ソロメロディの美しさ。
完璧に練りこまれた構成を、自身のテクを駆使して見事に表現しています。
ラストの高速フルピッキングによる滑らかな上昇フレーズなどは、涙なしには聞けませんw
どっちかというとハードロックの世界でありがちな曲ですが、このギターソロがその存在感を高めている曲の一つと言えるでしょう。
9曲目は、IF MY MIND IS EVIL(イフ・マイ・マインド・イズ・イービル)。
メタリックでおどろおどろしいギターリフから始まるハードロック曲です。
ダークな雰囲気ではありますが、ピッキングハーモニクスを多用するギターリフが輝いて聞こえます。
楽曲に関しては、普通のメタリックな曲ですが、やはりここでもギターソロは際立ってます。
基本的には16分のビートに乗せたメロディをかっちりプレイするスタイルです。
その中にもさらに半分の拍でスライドを入れたり、高速移動、開放弦のミックス、ユニゾンチョーキングなどで、音色を飾っています。
このソロに関しても、ヴィトのソロメイキングのセンスを十分に感じられると思います。
10曲目は、RADAR LOVE(レイダー・ラブ)。
この曲のみカバー曲になっています。
オリジナルは、オランダのロックバンド、Golden Earring(ゴールデン・イヤリング)の1973年の作品で、母国オランダではNo.1、アメリカでは第13位、イギリスで第7位を獲得したヒット曲です。
ノリのよい楽曲を、ホワイト・ライオンらしくメタリックにかっこよくカバーしています。
この曲ではドラムソロもあったり、ベースがたっぷりとグルーヴを出しています。
マイクとヴィトばかりに目が向いて申し訳ないですが、ベーシストのJames Lomenzo(ジェイムズ・ロメンゾ)とドラマーのGreg D’Angelo(グレッグ・ダンジェロ)もグッジョブです。
そして、やっぱりヴィトのプレイに目と耳が行ってしまうのですが、エッジの効いたヘヴィなプレイで本家を圧倒しています。
ヴォーカルに呼応して繰り出すプレイが自由自在です。
ソロも、タッピングを交えてメロディアスに弾きまくってます。
大技はありませんが、コンパクトにまとまったいいソロだと思います。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第59位を記録しています。
ラスト11曲目は、CRY FOR FREEDOM(クライ・フォー・フリーダム)。
アルバムのラストは、静かで穏やかだけど熱さも秘めているようなしっとりした楽曲です。
ヴィトはこの曲では、クールなバッキング(クリーンも歪みも)で飾っています。
唯一、ソロの短い瞬間だけは非常に激しく熱いリフをキメてます。
この辺のアクセントのつけ方が、非常にドラマティックでいいですね。
また、マイクの哀愁味のあるヴォーカルが絶妙にマッチしています。
この曲は3rdシングルとしてカットされましたが、チャートインはしていません。
まとめとおすすめポイント
1989年リリースのWHITE LION(ホワイト・ライオン)の3rdアルバム、BIG GAME(ビッグ・ゲーム)はビルボード誌アルバムチャートで第19位を記録、アメリカで50万枚を売り上げました。
前作の成功と比べると、ちょっと寂しい結果に終わっています。
この80年代末期は、エイティーズ感覚のHM/HRバンドが少しづつ人気を失っていった時期にあります。
流れとしては、1987年デビューのガンズ・アンド・ローゼズを初めとして、かなり硬派でハードなバンドが人気を博していったタイミングです。
そんな時代背景もあり、ざっくり言ってキャッチーなハードロック系のバンドはセールスを失っていきました。
まさに、このホワイト・ライオンもそんな時代に飲み込まれていったバンドの一つと言えるでしょう。
時代のニーズに合わなかった、というのは、もはや時の運としか言いようがないです。
しかし、内容がどうかと言えば、僕個人の意見とすれば、あの名盤と思える前作をしのぐ優れた名盤だと思っています。
まずは、変わらずにキャッチーで爽快、ときに痛快なハードロック。
ポップで、メロディアスな曲たちはおそらく一般リスナーにアピールできるだけのクオリティを持ってるのではないでしょうか。
これこそエイティーズHM/HRのツボを見事に抑えていると思いますね。
やはりマイクとヴィトのメロディメイカーとしての能力は秀でていたと感じられます。
マイクの哀愁系のハスキーヴォイスも慣れたら曲の雰囲気にベストマッチな声質だとも気付けるでしょう。
そして、僕が一番評価したいと思っているのは、ギタリスト、ヴィト・ブラッタのプレイです。
エディ・ヴァン・ヘイレンの影響を受けたタッピングのアイディアをうまく活用して、彼なりのオリジナルプレイに発展させてますね。
ヴィトはタッピングを単なる速弾きのためにはほとんど使ってません。
むしろ、タッピングを交えてメロディを滑らかにつなぐという、新たな魅力を生み出しています。
そのため単調になりがちなタッピングプレイが、見事なまでにメロディアスなプレイに変わるのに貢献しているのです。
そして、そう思える最大のポイントは、彼のギタープレイにおけるメロディセンスでしょう。
ほとんどのソロが口ずさめるようなメロディを持っています。
そして、勢いで弾くよりも、入念に練り上げて絶妙に構成されたソロプレイがほとんどです。
楽曲の曲調がキャッチーなものであり、同時にギターソロもキャッチーになってるのです。
これを作り上げることができたのは、やはりヴィトのセンスが優秀だったに他ならないでしょう。
このアルバム全編で、ヴィトの巧みなプレイが踊っています。
ギタリスト目線で言えば、常に聴き所が満載と言えるでしょう。
80年代に、数多くのギタリストが出てきた中で、どちらかと言えばヴィトは存在感がありません。
しかし、僕は彼のギターテクはかなり上位に来ると思っています。
そんな過小評価されているヴィト・ブラッタの名プレイのつまったこのアルバムは、実は彼らの最高傑作だったのではないかというのが僕個人の意見です。
80年代ハードロックを聴くなら、やはりこのバンド、そしてこのアルバムは絶対に外したくないと思いますね。
僕の結構なフェイヴァリット作品となっているこのアルバム、かなりお勧めです。
チャート、セールス資料
1989年リリース
アーティスト:WHITE LION(ホワイト・ライオン)
3ndアルバム、BIG GAME(ビッグ・ゲーム)
ビルボード誌アルバムチャート第19位 アメリカで50万枚のセールス
1stシングル LITTLE FIGHTER(リトル・ファイター) ビルボード誌シングルチャート第52位、Mainstream Rockチャート第12位
2ndシングル RADAR LOVE(レイダー・ラブ) シングルチャート第59位
3rdシングル CRY FOR FREEDOM(クライ・フォー・フリーダム) チャートインなし
4thシングル GOIN’ HOME TONIGHT(ゴーイン・ホーム・トゥナイト) チャートインなし
ホワイト・ライオン関連アルバム
1985年 1st FIGHT TO SURVIVE(華麗なる反逆)
1987年 2nd PRIDE(プライド)
1989年 3rd BIG GAME(ビッグ・ゲーム)