極上のポップサウンド作品 MIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)   –  MIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)

ジェネシスから新たな派生ユニット





僕が洋楽を聞き始めたころ、GENESIS(ジェネシス)は12作目のアルバムGENESIS(ジェネシス)から、THAT’S ALL(ザッツ・オール)という渋かっこいいシングルヒットを出していた頃でした。
その後の1985年、ジェネシスのドラマー兼ヴォーカルのPHIL COLLINS(フィル・コリンズ)の3作目のソロアルバム、NO JACKET REQUIRED(フィル・コリンズIII)が世界中で大ヒット。
全世界で2000万枚を売り上げたと言われています。

 

ジェネシスからのソロアーティストとしては、やはりフィルが際立っているものの、元ジェネシスのPeter Gabriel(ピーター・ガブリエル)もソロ作品を出し続けており、一定の人気を確立しておりました。

 

そんな中、ジェネシスからまた別のアーティストが登場することになります。
今度は、ベース&ギターを担当しているMike Rutherford(マイク・ラザフォード)がユニットを立ち上げたのです。

 

マイクは1967年のジェネシスの結成時からのメンバーで、この年までに12作のアルバムを作成してきています。
目立つのは当然ながらフロントマンである、ピーターやフィルということになりますが、その陰に隠れながらも、数々の名曲を生み出したプログレ界の重鎮の一人と言ってよいでしょう。
演奏、作詞作曲では長いジェネシスの歴史を生み出す屋台骨のような活躍を地味に演じてきました。

 

そんなマイクも、やはりバンドに貢献する中で、自分自身を自由に表現したい欲求が芽生えることになります。
それで、1980年には1stソロアルバム、SMALLCREEP’S DAY(スモールクリープス・デイ)をリリースします。
このアルバムは、既にフィル中心でポップ寄りに移っていったバンドの流れに逆らうかのような、英国風プログレ作品となっています。
ヴォーカルにはNoel McCallaを迎え、自身は全曲で作詞作曲、そしてベースとギターで演奏を披露しています。
マイクが本当はジェネシスでこんな音楽をやりたかったのではないか、というのが透けて見えるアルバムとなっています。
この1stはイギリスで第13位を記録しています(米ビルボード誌では第163位)。

 

そして1982年には2ndソロアルバム、ACTING VERY STRANGE(魅惑のマクシーン)をリリースしています。
今度は打って変わってプログレを封印。
非常にラフでロックな作品に変貌しています。
作曲、演奏に加えて、今回はアルバムのプロデュースも行っています。
そしてもっと大きな変化としては、何を血迷ったかマイク自身がリードヴォーカルを務めています。
やはりソロ作品であれば自分が歌うのが筋だろう、と思ったようですが、やはり餅は餅屋の例え通り、やはり専門のヴォーカルを迎えたほうが良かったかも、という声が多数ありますね。
本物のヴォーカリストと比べてはかわいそうですが、クオリティが落ちるのは仕方ないと言えるでしょう。
この2ndはイギリスで第23位を記録しています。(米ビルボード誌では第145位)。
結局、本人もこの作品には満足できなかったようです(特に自身のヴォーカルのようですw)。
それで、時が来るまで彼のソロキャリアは封印されることになりました。

 

その後の数年の本家ジェネシスでの活動中に、彼は自分一人でやるよりも周りに人がいるほうがクリエイティヴでインスピレーションがわくことに気付いたようです。
しかしながら、ジェネシスのメンバーだけとの活動ではやはり何か満たされないことにも気付きます。
それで、再びソロ活動を思い立つわけですが、今度はバンドを立ち上げることを思いつきます。
少し前から、B. A. Robertsonというスコットランドのミュージシャンとともに楽曲制作を始めてます。
そして、今回はChristopher Neil(クリストファー・ニール)をプロデューサーに迎え、バンドメンバーを集めていきます。
また、前の轍を踏まないように、今回は二人の専属ヴォーカリスト、Paul Carrack(ポール・キャラック)とPaul Young(ポール・ヤング)(あの有名なポール・ヤングではない)をメンバーに加えています。
これは英断だったと思いますね。
やはりバンドのフロントマンのヴォーカルのクオリティは大切ですw

 

レコーディングの際には、一応バンドではありましたがそんなに緊密なものではなく、セッション・ミュージシャンやヴォーカリストなどが代わる代わるやってきて録音していくような感じだったようです。
しかし、レコーディングの過程を経るにしたがって、次第にバンドの形が整っていきました。
そしてMIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)という名前でついに自身のソロプロジェクトがスタートしていきます。
今回は、見事なまでに極上のポップアルバムを完成させることになりました。

 

では、今日は1985年リリースのMIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)の1stアルバム、MIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)をご紹介したいと思います。

MIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、SILENT RUNNING(サイレント・ランニング)。

 

この曲でチャートを登ってきたときには名曲が来た!と感じましたね。
フィル・コリンズは世界的に大ヒットしていたのを追っかけてのマイクのソロプロジェクト、ということで話題になってましたが、フィルに負けず劣らずのいい曲が先行シングルとしてリリースされました。

 

この第一曲目でヴォーカルを務めるのはポール・キャラックです。
なんとなく風貌がフィル・コリンズに似ているイギリスのシンガーですね。
声質もフィルに近い気がするのは僕だけでしょうか。
やっぱりヴォーカルは本職に頼むのが一番だと痛感させられます。

 

寒々しい雰囲気を感じるシンセの使い方が非常に効果的です。
キラキラした音色もチョイスもよく、さすがにプログレ畑の職人技だと思えます。
緻密で前衛的な音をちりばめながらも、軽快なポップロックとして抜群の完成度を誇っています。
マイクのギターソロも、ツボを押さえた名プレイになってると思いますね。
楽曲全体がドラマティックな名曲になっています。

 

こうしてマイク初のサイドプロジェクトバンドが鮮烈なデビューを果たしました。

 

この曲は先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第6位、同誌Mainstream Rockチャートで5週連続No.1を記録しています。

 

2曲目は、ALL I NEED IS A MIRACLE(オール・アイ・ニード・イズ・ア・ミラクル)。

 

これまた名曲ですね。
ドラムの音にシンセがかぶさるイントロは何度聞いてもゾクゾクする素晴らしいイントロだと思います。

 

この曲ではもう一人のヴォーカルのポール・ヤングが担当しています。
こっちのポールもまたいいヴォーカルですね。
彼の声質は、僕はフレディ・マーキュリーに近いと感じてますが、いかがでしょうか。

 

このミディアムテンポがたまりませんね。
軽快で爽快、非常に心地よいビートに乗ったシンセサウンド
キャッチーなメロディを歌い上げるヤングのヴォーカル。
これまたエイティーズを代表できるポップソングの名曲に仕上がっていると思います。
僕にとっては、これはこのアルバムの中で一番好きな楽曲でした。

 

1987年のグラミー賞では、受賞は出来ませんでしたが、”Best Pop Performance By a Duo or Group“(最優秀ポップ・パフォーマンス賞デュオ/グループ)にノミネートされています。
これもまた、名曲の証明と言えるでしょう。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第5位、Mainstream Rockチャートで第6位、Adult Contemporaryチャートで第7位を記録しています。

 

3曲目は、PAR AVION(パー・アヴィオン(航空便))。

 

静かでしっとりしたこの曲では、ゲストでJohn Kirby(ジョン・カービー)という人がヴォーカルを担当しています。
このヴォーカルもいい感じで歌い上げています。
柔らかく包み込むシンセのサウンドがとても気持ちいいです。
地味で控えめですが、心地よさ抜群の楽曲になっています。

 

4曲目は、HANGING BY A THREAD(危機一髪)。

 

前曲の静かな雰囲気から一転して、エッジの効いたロック曲になっています。
イントロのテンション高めの展開が秀逸です。

 

この曲のヴォーカル担当はポール・ヤングで、ロック色の強い曲を力強く歌い上げています。
オーケストラ・ヒットの使用や、ゴージャスなシンセサウンドが重厚に楽曲を盛り上げています。
2枚目のソロアルバムのラフで生々しいサウンドとは対極的な楽曲になっています。
やはり、プログレ出身の人の作品にはこういうのを僕は求めてしまいますね。

 

5曲目は、I GET THE FEELING(アイ・ゲット・ザ・フィーリング)。

 

この曲ではポール・キャラックがヴォーカルを担当しています。
楽し気で3連符のはねたリズムが気持ちいい絶品ポップスです。
ホーン系やオルガン系のシンセの音色たちが、気持ちよく楽曲を盛り上げています。

 

シングルカットも可能なポテンシャルのある楽曲と思います。
キャラックの声もキャッチーなメロにはまってます。
キャッチー&ポップのこれもいい曲ですね。

 

6曲目は、TAKE THE REINS(愛の支配)。

 

この曲のヴォーカル担当はポール・ヤングです。
シンセが全編にわたって楽曲を色づけてる、ややロック曲です。
この曲だけではありませんが、非常にシンセの使い方がうまいと思いますね。
まさにエイティーズサウンドの先端を行ってる感じがします。

 

間奏ではちょっと激しめのギターソロが披露されてますが、いい感じで処理されてるので聞きやすいです。
アウトロでもシンセと交じり合った長めのギタープレイが印象的です。
マイクのプレイは曲調にぴったりなもので、いぶし銀な雰囲気があって好感を持てます。

 

7曲目は、YOU ARE THE ONE(ユー・アー・ザ・ワン)。

 

非常にシンプルなシンセサウンドの中で、ジョン・カービーが優しく歌い上げる絶品バラードです。
サビではシンセがふわーっと全体を柔らかく盛り上げます。
大サビではコーラスも気持ちよく決まっていて、ゾクゾクする雰囲気が作り上げられています。

 

オフィシャルメンバー以外のゲストヴォーカルがこんな名曲を担当するのはどうかと思いますが、そういう自由度の広さも今回のプロジェクトのメリットの一つなんでしょうね。

 

8曲目は、A CALL TO ARMS(ア・コール・トゥ・アームズ)。

 

この曲では二人のポールがヴォーカルを分け合ってます。
どっちも歌がうまいので、その融合も当然ながらいいものを生み出してますね。
それに加えてGene Stashuckという人もヴォーカルとして参加しています。

 

この曲でもシンセが美しく楽曲を彩ってます。
ABメロではプログレ色の感じられるスリリングな雰囲気が演出され、サビでは一気に明るく開放的な世界が表現されています。
非常に構成が素晴らしい楽曲になっていると思います。

 

この曲はもともとジェネシスの12thアルバム用に作りかけられていた曲でしたが、マイク以外のメンバーが気に入らずにボツになっていた曲でした。
その曲をマイクは今回自身のソロプロジェクトに採用し、仕上げたようです。
おそらくジェネシスとして仕上げていても、そこそこのいい曲になっていたと思われますが、こっちの複数ヴォーカルでの仕上がりも上々だと思いますね。

 

ラスト9曲目は、TAKEN IN(テイクン・イン)。

 

ラストはポール・ヤングがヴォーカルをとる、これまた絶品バラードです。
淡々と進む単調な曲ではありますが、僕はこの雰囲気が大好きです。
ゆったりとしたシンプルなドラムとベースのリズムと、全体を包む幻想的なシンセの柔らかい音
間奏やアウトロでは、サクソフォンがアダルトな雰囲気を盛り上げます。
ヤングのヴォーカルも単調な曲調の中で、感情を乗せてうまく歌い上げてると思います。

 

うっかりすると聞き逃しそうな小さな静かな存在かもしれませんが、僕にとっては宝物のようなサウンド、楽曲になっています。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第32位、Adult Contemporaryチャートで第7位を記録しています。

まとめとおすすめポイント

1985年リリースのMIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)の1stアルバム、MIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)はビルボード誌アルバムチャートで第26位を記録し、アメリカでは50万枚を売り上げるヒットとなりました。
ただし、本国イギリスでは第78位となり、過去のソロ2作品よりも大きくチャートを落としています。
ですが、当時の音楽市場はアメリカが中心となっていってたわけで、そこでのブレイクによって世界的な認知度を上げる結果になったと思います。

 

このアルバムでの成功の要因の一つはやはり、マイクが自分の立ち位置を十分に理解して活動したことが挙げられるでしょう。
ソロ2作目では自身がヴォーカルを取るなど迷走を見せていましたが、今回は確実にいつものように裏方に徹しています。
作詞作曲、ギターとベースのプレイに専念して、決して目立っていません。
むしろ、今回はバンドに二人のヴォーカルを据え、加えてレコーディングではあと二人を参加させるなど、フロントマンとして複数のヴォーカリストを立てることで、カラフルな作品を生み出しています。
実力者ぞろいのヴォーカル起用で、バンドの音が固定されずにアルバムの魅力が増したのではないかとも思えますね。

 

そのうえで80年代の流れに見合ったポップ志向のアルバムを作りだしています。
やはり特筆すべきは、煌びやかなシンセサウンドの使用でしょう。
様々な音色が、非常にうまくそれぞれの楽曲を彩っています。
シンセ担当は、Adrian Lee(エイドリアン・リー)ですが、他にも2人ほどレコーディングに参加しています。
そうしたミュージシャンの生み出す音を、極上のサウンドにまとめたのがプロデューサーのクリストファー・ニールということになるでしょう。
こうした周りの人たちをうまく活用することで、非常に優れたアルバムを生み出すことに成功したと思います。

 

同僚のフィル・コリンズが世界的なヒットアルバムを矢継ぎ早に生み出している中で、自身のソロはうまくいってない、そんな状況は当然ながら多少のプレッシャーや焦りを生み出してたのではないでしょうか。
しかし、今回は、周りの人とともに作業することで自分の創造性を最大限に発揮できることを発見。
こうして自身のバンドという形で作品を作り出すことで、最高度に洗練されたポップアルバムを制作し、ヒットを生み出すことができました。

 

プログレ畑の職人が、渾身の力で周りとのケミストリーにより、素晴らしい楽曲、アルバムを生み出せたと思います。
マイク自身もこのアルバム制作直後に、このプロジェクトを一度限りのものではなく無期限でやっていきたいと思っています。
それほど手ごたえを感じたのでしょう。
そして、実際にシングル、アルバムのヒットを受けて、その気持ちはさらに強くなり、この後もマイク・アンド・ザ・メカニックスとしての活動を永く続けていくことになりました。

 

職人技がついに見事に花開いたこのアルバムは、捨て曲なく絶妙なポップサウンドであふれています。
フィル・コリンズほど売れたわけではありませんが、作品のクオリティでは全く遜色ない作品です。
80年代を語るうえでは欠かせない作品の一つとしておすすめしたいと思っています。

チャート、セールス資料

1985年リリース

アーティスト:MIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)

1stアルバム、MIKE + THE MECHANICS (マイク・アンド・ザ・メカニックス)

ビルボード誌アルバムチャート第26位 アメリカで50万枚のセールス

1stシングル SILENT RUNNING(サイレント・ランニング) ビルボード誌シングルチャート第6位、同誌Mainstream Rockチャート5週連続No.1

2ndシングル ALL I NEED IS A MIRACLE(オール・アイ・ニード・イズ・ア・ミラクル) シングルチャート第5位、Mainstream Rockチャート第6位、Adult Contemporaryチャート第7位

3rdシングル TAKEN IN(テイクン・イン) シングルチャート第32位、Adult Contemporaryチャート第7位