ヨーロッパのポップデュオから世界のポップアイコンへ WHAM! - MAKE IT BIG

前作FANTASTICからレコード会社移籍、大ブレイクまで





1983年リリースのWHAM!(ワム!)のデビューアルバム、FANTASTIC(ファンタスティック)は、全英チャートを制し、2週連続No.1を記録します。
また、ヨーロッパの多くの国でも、トップ10にチャートインするなど、デビュー作としては大きな成功を収めました。
しかし、この時点で、アメリカではアルバムチャートで第83位とまだ彼らのブレイクには程遠い状況でした。

 

奇しくも、そのころアメリカでは既に第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンが巻き起こっていました。
これは1980年代初頭から、イギリスのアーティストがアメリカを始めとして世界を席巻したブームのことです。
ちょうど、1981年にアメリカでMTVが開局。
この媒体を利用することで、イギリスから海を渡ることなくPV(プロモーション・ビデオ)によって人気を爆発させることが可能になったわけです。
その先駆けとなっていたのが、DURAN DURAN(デュラン・デュラン)やCULTURE CLUB(カルチャー・クラブ)で、それに続いて数多くのイギリス発のバンドがアメリカのチャートに侵入(インヴェイジョン)して来ていました。

 

そういう意味で言うと、ワム!はちょっと出遅れた感がありますが、まさに1984年にその波に乗ろうとしていた、そんな状況でした。

 

その前にレコード会社の移籍について語っておく必要があるでしょう。
1stアルバムを出したInner Visionというレーベルは、ファンタスティックの大ヒット後、二人の許可なく12インチシングル『CLUB FANTASITIC MEGAMIX』をリリース。
これが二人の逆鱗に触れて、彼らはファンに不買を呼びかける、といった騒動が生じました。

 

結果としてワム!はレーベルを移籍
インディーズレーベルから、エピックという大手レーベルに変わります。
これは非常に大きかったと思えます。

 

1stアルバムでは、ワム!は体制に反抗するお気楽な若者、というイメージで売り出してました。
彼らのそんな姿勢は、不景気にあえぐイギリスの若者の共感を得てヒットを重ねていったわけです。

 

しかし、新レーベルでは、完全に戦略を変えてきました。
既に起きていた第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの波に、後追いながら乗っかる戦略です。
そのために、もはやイメージを一新
もはやイギリス、という狭い国での若い世代の代弁者、といった戦法は脱ぎ捨てます。
むしろ世界をターゲットに、普遍的なポップアイコンとしてのイメージを身にまとってきました。

 

そうして登場した先行シングルWAKE ME UP BEFORE YOU GO‐GO(ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ)は、ソウルとポップスの融合した、非常に明るいダンスナンバーになっています。
また、同時に送り込まれたPVでは、白い歯を見せる若く健康的なイケメン二人が歌い踊る、という見てるだけでハッピーになれる映像を見せてくれます。
こうして、この曲によってワム!は全米の、いや全世界のリスナーのハートを鷲づかみにしてしまったのです。
確かに人類の最大公約数が愛せそうな、素晴らしいポップスを世に出したと思いますね。

 

では今日は、1984年リリースのWHAM!(ワム!)の2ndアルバム、MAKE IT BIG(メイク・イット・ビッグ)をご紹介します。

MAKE IT BIG(メイク・イット・ビッグ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、WAKE ME UP BEFORE YOU GO‐GO(ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ)。

 

ワム!が、完全にこれまでのイメージから脱却、世界をターゲットに作り上げられた超名曲です。
ドゥーワップ調のイントロから、軽快なリズム、コーラス、とちょっと古めのブラックミュージックの要素がたっぷり含まれてます。
しかし、そのフォーマットにノリのよいメロディを乗せ、見事に現代風にアレンジしてきました。

 

タイトルの由来は、Andrew Ridgeley(アンドリュー・リッジリー)が親に書いたメモがきっかけとなっています。
本当は”wake me up before you go“(行く前に起こして)と書くつもりが、間違って“up”を2回書いてしまいました。
それで、後半はそれに合わせて“go”を2回書いたとのこと。
この出来事にインスピレーションを受けて、George Michael(ジョージ・マイケル)が曲を作っていきました。

 

そしてこの曲は、これまでのワム!のイメージを一新することになります。
前作までは、気分屋で、より政治的な主張のあるデュオとして数年間活動してきました。
作品のテーマも、失業や若者の結婚、親子の断絶など、社会的な問題を取り上げています。
しかし、この曲で、一気に変貌を遂げます。
この曲のリリースと共に、笑顔とカラフルな服装、そしてポジティヴな気質をもった若者として、再びシーンに現われたのです。
結果として、よりソフトで明るいイメージをワム!に定着させることに成功しました。

 

ジョージはインタビューで、この曲は50年代、60年代の楽曲の最高の要素をもったエネルギッシュなレコードにしたかったと述べています。
そうしたオールドソングと、自分の音楽アプローチを融合させて、よりアップテンポで活力のあるものを目標としたわけです。

 

そのような彼の音楽的ルーツと現代的な音楽の融合は見事に成功し、世界中で大ヒットしました。

 

先行シングルとなったこの曲は、全英でNo.1を獲得したのはもちろん、アメリカでも大ブレイク、ビルボード誌シングルチャートで3週連続No.1となっています。
また、オーストラリア、ベルギー、カナダ、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スウェーデンなどでもNo.1を記録、まさにワム!この曲で世界へと羽ばたいたのです。

 

それにしても、この邦題には参りました
この曲が好きだと言っても、僕は「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」が好きです、なんてちょっと言葉に出すのが恥ずかしかったものです。
確かにウキウキな曲ではあるんですけどねw

 

2曲目はEVERYTHING SHE WANTS(恋のかけひき)。

 

テンションの高いオープニングから一転、マイナーなダンスチューンに変わります。
最初は、かなり地味に感じられましたが、じわじわと良さが滲み出してくる楽曲になっています。
非常に控えめですが、ファンキーなノリとソウルフルなヴォーカルが見事にかみ合ってますね。

 

シンセが80年代の典型的な役割を果たし、この控えめな楽曲に色づけてます。
やはりアレンジが優秀なのでしょう、静かなのにアルバムの中で埋もれていません
加えて、中盤以降のドラマティックな盛り上がりは、やはりジョージのメロディセンスと、ヴォーカル能力があってのものだと思われます。

 

それにしても、まさかこの曲がシングルカットされるとはちょっと驚きでしたが、シングルチャートを制して、2度びっくりでした。

 

この曲は全英では第2位、アメリカでは3rdシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで、このアルバムからの3曲連続No.1を記録しています。

 

3曲目はHEARTBEAT(ハートビート)。

 

控えめで渋いダンスソングの次は、一気にカラッと爽やかな楽曲が来ます。
カラフルな演奏に乗せて、ジョージが軽やかにメロディアスに歌い上げます。
何か、メロディラインがいかにも80年代、って感じがしてとっても懐かしい気分になります。
そのためか、何か当時のいろんな曲の要素が混じってる感じがします。

 

その中でもやっぱりBruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)のHungry Heart(ハングリー・ハート)が1番似てるかな。
他にも尾崎豊や佐野元春にもこんな感じがあったかな・・。
とにかく、80年代のフレイバーたっぷりの楽曲だと僕は言いたいだけです。

 

聴いて心地よく爽やかになれる、いい曲です。

 

A面ラスト、4曲目はLIKE A BABY(消えゆく思い)。

 

とても長いイントロが、非常に心地よいサウンドになってます。
クリーントーンのギターがメロディアスに奏でられます。
ダンスチューンで押しまくった前作からは、かなりの変貌だと感じられます。
歌メロがはじまってからは、ジョージが優しく歌い上げます。

 

前作ファンタスティックから入った人には、逆に意表を突かれたかも知れませんが、こんなアダルティなものも作れる、というジョージの主張が聴こえてきそうです。
でも、あとのケアレス・ウィスパーの存在感からすると、ちょっと影が薄い気もしますけど・・・。

 

B面1曲目は、FREEDOM(フリーダム)。

 

若さとエネルギーのつまった最高級のポップソングです。
もう、まったく隙のない完璧な楽曲だと僕は思ってます。
「ウキウキ・・・」ももちろんいいのですが、僕にとってはこっちのほうがはるかに普遍的で、完璧に整ったポップスに感じられます。

 

ドラムの頭打ちのリズムが、いかにもモータウン系の楽曲っぽく、軽快で気持ちいいですね。
でも、古くからあるリズムなのに、古さを感じさせないのはやはりアレンジと、ジョージのコンポーザー、ヴォーカリストとしての能力ではないでしょうか。

 

そしてこの曲は当時マクセルのカセットテープのCMでも使われてましたね。
UDⅠ UDⅡは相当使ってました。

ちなみにこのテープにはジャーニーのフロンティアーズが入ってます。

この曲は全英でNo.1を獲得。
アメリカでは4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第3位を記録してます。
曲のポテンシャルからすると、No.1をとっても全くおかしくなかったと思いますが、さすがにアルバムからの4枚目のシングルなので致し方ないか、と。
それでも3位まであがったということはやはり当時の彼らの勢いを感じさせてくれます。

 

2曲目は、IF YOU WERE THERE(イフ・ユーワー・ゼア)。

 

この曲はThe Isley Brothers(アイズレー・ブラザーズ)のカバー曲になっています。
アイズレー・ブラザーズはアメリカのソウル・コーラス・グループで、この曲に関しては結構ギターのワウも目立つファンキーな楽曲になっています。

 

ジョージは、この曲を爽やかなアレンジと共に80年代によみがえらせました。
ほんとにソウルが好きだったんだな、と感じさせられます。
当時は僕はこの曲がカバーとは知らずに、普通にワム!の楽曲として聴いてました。
しっかりワム!として楽曲を吸収してリメイクしてるわけですね。
この辺の懐の深さもジョージの魅力と言えるでしょう。

 

3曲目は、CREDIT CARD BABY(クレジット・カード・ベイビー)。

 

すっごい軽いポップスです。
楽曲的には特筆すべきところはありませんが、やっぱりこんな曲でも、ジョージの地声とファルセットの使い分けなどによっていい曲に聴こえます。
全く気楽に聴ける、という点ではポップスの要点は抑えているのかもしれません。
まあ、当時は、ちょっと弱い楽曲だな、って感じてました。
でも、改めて聴くと、決して悪くはないですね。

 

そしてアルバムラストは、CARELESS WHISPER(ケアレス・ウィスパー)。

 

この魂のこもったバラードは、不思議なことにこのアルバムで唯一のジョージとアンドリューの共作とクレジットされています。
まだ、彼らが18くらいのころに作ったそうですが、それにしては何ともアダルティな楽曲を作れたものですね。
しかし、この曲はジョージ・マイケルのソロ作品とされています。
といっても、国によって扱いが異なり、ヨーロッパではジョージのソロ作、アメリカなどではWham! featuring George Michael、日本では、完全にワム!の曲としてリリースされています。

 

まあ、扱いがどうあれ、これは普遍的な名曲といって過言ではないでしょう。
何と言ってもイントロのサックスのメロディは、強烈な印象を与えます。
アルバムではその前に、少しシンセやヴォーカルパートなどが付け加えられて6′30″のロングヴァージョンになってはいますが、楽曲の価値を変えるほどの変更ではないです。
それにしても、この歌メロを20歳前の素人が作れるとは驚きですね。
この曲が素晴らしい楽曲だ、ということは後に数多くのアーティストによってカバーされている事実が証明していますね。
日本でも、西城秀樹さんが、抱きしめてジルバ、というタイトルでカバーしてますし、郷ひろみさんも同じくカバーしましたので、日本人にもおなじみです。

 

アダルトコンテンポラリーなこのバラードはきっと永遠に歌い継がれていくと思います。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてリリースされ、イギリスやアメリカを初めとする、約25カ国でNo.1を取ったと言われています。
ビルボード誌では、シングルチャートでNo.1はもちろんのこと、同誌Adult ContemporaryチャートでもNo.1を獲得しています。
加えて、1985年のビルボード誌の年間シングルチャートでも堂々のNo.1になっています。

まとめとおすすめポイント

1984年リリースのWHAM!(ワム!)の2ndアルバム、MAKE IT BIG(メイク・イット・ビッグ)はイギリス、アメリカだけでなく他の数多くの国のアルバムチャートでNo.1を獲得しています。
そして、アメリカだけで600万枚、全世界では1000万枚を越える大ヒットとなりました。

 

またアルバムは、モータウンサウンドを純粋に蘇らせた、欠点のないポップレコードだなど、多くのポジティヴな批評を得ています。

 

やはりこれだけの世界的な成功には、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの波に乗る戦略と、それを可能にしたレーベルの力は欠かすことが出来なかったに違いありません。
見事にそうしたチャンスをとらえ、後発ながら、ライヴァルたちと互角にシーンで戦えた、もしくはある部分追い越した感すらあります。
加えてイメージ戦略も効を奏したと思われます。
反体制の若者向けのスタイルから、全世界のアイドルになりうるような、若くて健康的なイメージも、きっと彼らの人気を爆発させる要因であったに違いありません。

 

でも、戦略だけでこれだけの結果は伴わないのも事実でしょう。
そうした効果的な戦略とともに、ワム!の、とりわけジョージ・マイケルの才能があって始めてのこの大成功に違いありません。

 

今回もカバー曲を除いてほぼ全部の楽曲をジョージが作っています。(ケアレス・ウィスパーのみアンドリューが共作)。
そして、今作ではジョージ一人がプロデューサーとしての務めも果たしています。
それによって、彼の敬愛する音楽的なルーツ、50年代や60年代のソウルミュージックをワム!として昇華させるのに専念することができました。
もちろん、そうした希望だけではなく、それをプロデューサーとして完成させていく才能も、彼が持ち合わせていたことになります。

 

アルバム制作に関しては、ジョージがアンドリューと比べると、9割かそれ以上の役割を果たしたと思われますが、それによって、最上級のポップアルバムを完成することができました。
これは、過去の暗くて太って分厚いメガネをかけていたジョージが蓄えていた才能が、本当の意味で花開いた瞬間だといえるかもしれません。

 

でも、やっぱり、アンドリューがそばにいたからこその成功だということも、忘れるわけにはいかないでしょう。
ジョージにとってアンドリューは音楽的にはさほど重要ではないかもしれませんが、人としてよき精神を保つ上で、大事なソウルメイトなのです。

 

一気に世界的なポップアイコンへと上り詰めた、彼らの絶品ポップアルバムは、これからも愛され続けるにちがいありません。

チャート、セールス資料

1984年リリース

アーティスト:WHAM!(ワム!)

2ndアルバム、MAKE IT BIG(メイク・イット・ビッグ)

ビルボード誌アルバムチャートNo.1 アメリカで600万枚、全世界で1000万枚のセールス

1stシングル WAKE ME UP BEFORE YOU GO‐GO(ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ) ビルボード誌シングル3週連続No.1、同誌Adult Contemporaryチャート第4位、同誌Dance Club Songsチャート第27位

2ndシングル CARELESS WHISPER(ケアレス・ウィスパー) シングルチャートNo.1、同誌Adult ContemporaryチャートNo.1、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャート第8位

1985年ビルボード誌年間シングルチャートNo.1

3rdシングル EVERYTHING SHE WANTS(恋のかけひき) シングルチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート第4位、Dance Club Songsチャート第7位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャート第12位、Dance/Electronic Singles Salesチャート第3位

4thシングル FREEDOM(フリーダム) シングルチャート第3位、Adult Contemporaryチャート第4位