ついに世界を制覇 U2 - THE JOSHUA TREE(ヨシュア・トゥリー)

前作からのU2の活動





1984年のアルバムTHE UNFORGETTABLE FIRE(焔)で、世界的にもかなりの成績を収めたU2
世界的なツアー後、様々な活動に参加しています。

 

1985年にはBob Geldof(ボブ・ゲルドフ)とMidge Ure(ミッジ・ユーロ)が提唱して企画されたLIVE AIDに参加。
これはエチオピアの飢きんの救済のためのコンサートです。

 

前の年には同じく救済チャリティ企画である、BAND AIDDO THEY KNOW IT’S CHRISTMAS?にもボノとアダムは参加していました。
またエイズ撲滅のキャンペーンにも参加。
こうして引き続き社会問題に大きな関心を持っていることが明らかになっています。

 

そして、次のアルバムの制作にとりかかります。
今回は、前作“焔”の持っている方向性で行きたいと考えていました。
しかし、決して実験的になるのではなく、従来のサウンドの範囲内で、よりハードなサウンドを求めたのです。
そして、U2というバンドには伝統がない、つまり彼らの音楽的知識は子供の頃から限られている、ということを認識して、アメリカとアイルランドの音楽的ルーツを探求することにしています。
結果として、アメリカのロックの源流であるブルースやゴスペル、ソウルなどブラック・ミュージックの要素が吸収されたアルバムが出来上がったのでした。

 

果たしてその評価は、というと世界的な大ヒットを記録するのです。
では、今回はそのようにして出来た、1987年リリースのU2の5thアルバムTHE JOSHUA TREE(ヨシュア・トゥリー)を紹介してみたいと思います。

THE JOSHUA TREE(ヨシュア・トゥリー)の楽曲紹介

アルバムオープニングは、WHERE THE STREETS HAVE NO NAME(ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム(約束の地))。

 

イントロの背景の音はブライアン・イーノによるアンビエント音楽(環境音楽)がいい感じで全体を包んでいる感じになってます。
しかし、何と言っても、その後に始まるギタープレイが超絶に素晴らしすぎます
幻想的な空間に漂ってくるジ・エッジの切れ味鋭く美しい、付点8分のディレイのかかったギターフレーズ。
この部分だけで、このアルバムは成功するに違いない、と多くの人は感じたのではないでしょうか。
イントロだけでおなかいっぱいになれる、非常に濃いオープニングとなってます。

 

そしてそこにベース、ドラムが加わっていき、バンドの音の厚みが増していきます
満を持してボノが静かに歌い出します。
歌メロもキャッチーで、心地よいです。
さらにサビでのいつもどおりの熱いヴォーカルを聴かせてくれるボノ。
ヴォーカルの後ろでは、ずっとジ・エッジのカミソリギターリフがジャカジャカとリフを刻み続けます。
こんなのはU2以外誰も作れないだろうと思えますね。

 

サビが終わった後のアウトロでもジ・エッジの美しいギタープレイ。
まさに芸術の域に達しているといっても過言ではないでしょう。
最高度の楽曲でこのアルバムは幕を開けるのでした。

 

この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第13位を記録しています。
アイルランドとニュージーランドではNo.1ヒットとなりました。

 

2曲目は、I STILL HAVEN’T FOUND WHAT I’M LOOKING FOR(アイ・スティル・ハヴント・ファウンド・ホワット・アイム・ルッキング・フォー (終りなき旅))。

 

スローでゆったりとしたリズムのこの楽曲はアメリカのゴスペルミュージックの影響を受けているとされます。
バックの合唱隊のようなコーラスは、ジ・エッジとブライアン・イーノらによるものです。
ジ・エッジのギターリフは、鐘がなるかのようなアルペジオとして全編を彩っています。
この曲では、ボノは力まず伸び伸びと歌ってる感じですね。

 

歌メロもアレンジも非常に心地よい楽曲となってます。

 

この曲は2ndシングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートでアルバムから2曲目のNo.1を達成し、Mainstream Rockチャート第2位を記録しています。

 

3曲目は、WITH OR WITHOUT YOU(ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー)。

 

もう、シンプルなのになぜこんな名曲が出来るのだ、と驚かされる素晴らしい楽曲です。
イントロは非常に静かなドラムとシンセの音からゆっくりとスタート。
そこにベースが非常に地味に、そしてしっかりとリズムを刻んでいきます。
ヴォーカルのボノは低音で、抑えたヴォーカルでスタートします。
前半、ジ・エッジのギターの音が聞こえないと思ったら、シンセのようなロングトーンが聴こえていたのが実はジ・エッジのギターの音でした。

 

ちょうどレコーディングに煮詰まって、単調すぎるこの曲にてこずっていた時に、マイケル・ブルックという人から、その人が作り出したインフィニット・ギターなるもののプロトタイプが届きました。
そのギターは、通常のピックアップが拾ったギターの電気信号を、増幅し、独立したピックアップコイルにフィードバックする、といった電気回路を装着したものだったようです。
それによって無限の(電池が続く限り、だろうけど)サスティンが得られるという代物です。
サビまでのロングトーンを、この新兵器を使ってジ・エッジが作り出していたというわけですね。

 

しかしサビに入ると、いつもの切れ味鋭いカミソリギターリフが登場します。
そうすると曲もどんどん盛り上がっていきます。
ボノのヴォーカルも次第に熱量を増していき、ラリーのドラムも力強さを増していきます

 

ラストもいったんクールダウンして、それからもう一度伴奏を繰り返して静かに終わっていきます。

 

ほぼほぼ完璧な楽曲ではないでしょうか。
非常に美しい名曲となっています。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで3週連続でNo.1を獲得、Mainstream RockチャートでもNo.1を記録しています。

 

4曲目は、BULLET THE BLUE SKY(ブレット・ザ・ブルー・スカイ)。

 

これは怒れるロックソングです。
ちょうど、ニカラグアとエルサルバドルへ旅したときに、いかに両国の小作人たちが、アメリカ軍の介入によって影響されているかを見て、そこにインスパイアされて出来た楽曲となっています。
イントロのギターリフ、特に非常に歪んだ音でのフィードバックが、彼らの怒りを明確に表現しているように感じられますね。
ギターソロも、いつもの爽やかさは見られません。
歪んだ音で激しいメロディを奏でています。
そして、当然ながらボノのヴォーカルにも怒りがあふれているように聞こえます。
単調に繰り返される、太いベース音やドラムの音からも怒りが読み取れる気がします。
非常にいろんな意味で熱い楽曲となっています。

 

5曲目は、RUNNING TO STAND STILL(ランニング・トゥ・スタンド・スティル)。

 

一転して、静かで優しい楽曲となります。
ピアノをベースに進むこの曲は、その雰囲気に反して、ヘロイン中毒で亡くなった友人に関して歌っているものです。
内容や雰囲気から前作のBADのパート2という位置づけもなされるこの曲は、アメリカのフォーク・ロックやアコースティック・ブルースの影響を大きく受けています。
イントロのブルージーなギターなんて、これまでのU2にはなかった音ではないでしょうか。
また、アウトロのハーモニカもしかりです。
とても安らげる楽曲になっています。

 

6曲目は、RED HILL MINING TOWN(レッド・ヒル・マイニング・タウン)。

 

この曲は、イギリスでの鉱山労働者全国組合のストライキにフォーカスを当てた、炭鉱労働者がモチーフとなった楽曲です。
このようなシリアスな社会問題を、楽曲に含めて提示する、U2らしい曲ですね。
そして、単に歌詞がそうだ、というだけでなく曲としても一定のクオリティを保っているところが彼らのすごいところと思います。

 

7曲目は、IN GOD’S COUNTRY(神の国)。

 

イントロからジ・エッジのきらきらしたギターが踊る爽快なイメージの楽曲です。
ポップでキャッチーなメロディとは裏腹にテーマは砂漠となっています。

 

アダムはこの曲のテーマの砂漠についてこう語っています。

砂漠は、このレコードの精神的なイメージとして、自分たちに大きなインスピレーションを与えている。
多くの人は額面どおり、砂漠を不毛の地としてとらえるだろう。
もちろんそれも事実だ。
でも気持ちの持ちようによっては、それはポジティヴなイメージにもなる。
なぜなら、それは何も描かれてないキャンバスのようで、何でもそこに描くことができるからだ。

全ては捉え方次第とはいうが、非常にアーティスティックですね。
このようにとらえると、この曲の明るい雰囲気の意味が見える気がしてきます。

 

この曲はアルバムからの4thシングルで、ビルボード誌シングルチャート第44位Mainstream Rockチャートで第6位を記録しています。

 

8曲目は、TRIP THROUGH YOUR WIRES(トリップ・スルー・ユア・ワイヤーズ)。

 

この曲は全くこれまでのU2には見られないブルースソングです。
ボノのハーモニカが、なかなかいい味を出していますね。
非常にアメリカナイズされてはいますが、ギターの使い方はやはりジ・エッジ独特のものです。
アメリカンブルースをアイルランドのU2が取り入れるとこうなる、という見本のような楽曲となっています。

 

9曲目は、ONE TREE HILL(ワン・トゥリー・ヒル)。

 

この曲はバイク事故で亡くなった、バンドのローディー、グレッグ・キャロルに捧げられたものです。
グレッグらが案内してくれた丘に一本立っていた木の思い出を曲にして書き下ろしました。
そのような背景を思って聴くと、後半と最後のボノの歌声が熱く迫ってきます

 

10曲目は、EXIT(エグジット)。

 

非常に静かな前半から、狂気に満ちたような強いサウンドへと変化していきます。
アルバム中最も激しい曲となっています。
後にこの曲に影響を受けた人間によって殺人事件が起こされ、それ以来ほとんどライヴでは演奏されていない、というエピソードがあります。
歌詞はよくわかりませんが、それほど強い影響を与えそうな雰囲気は漂っています。
怒りに満ちたバンドサウンドとボノの熱いヴォーカル。
アルバムの中では異質とも思えるダークな激しさが、ラストの曲の前に配置されています。

 

アルバムラスト11曲目は、MOTHERS OF THE DISAPPEARED(マザーズ・オブ・ザ・ディサピアード)。

 

チリのピノチェト政権下の行方不明者をテーマにした、またも社会問題を取り上げた楽曲です。
低い声で、静かに歌うボノ。
アンビエント音楽(環境音楽)のような壮大な背景音が途中から入ってきて、荘厳にアルバムを閉じていきます

まとめとおすすめポイント

1987年リリースのU2の5thアルバムTHE JOSHUA TREE(ヨシュア・トゥリー)は前作と同じくブライアン・イーノにプロデュースされ、マイルドな味付けのされたこのアルバムは世界中で大ヒットを記録しました。
ビルボード誌アルバムチャートでの9週連続No.1、アメリカでの売り上げだけで1000万枚を超えています。
また、他の多くの国々(わかる範囲で、オーストラリア、オーストリア、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、スウェーデン、イギリスなど)でもNo.1を獲得し、全世界で2500万枚売れた、モンスターアルバムとなったのです。

 

アルバムのタイトルともなっているヨシュア・トゥリーとは、アメリカ南西部砂漠地帯に生えるユッカの樹のことのようです。

 

U2は、アメリカをアルバムのテーマとして選びました。
音楽的にも、ブルースやゴスペル、フォークロックなど、いろんな分野のアメリカを感じられます
基本的なU2サウンドは変わらないままでそれらをどちらかというと中途半端に取り入れたおかげで、唯一無二のアルバムができあがったと言えるでしょう。
また、アルバムの歌詞についていえば、メンバーが反感を持つ現実のアメリカと、憧れの神話上のアメリカの魅惑とが対照的に描かれています。
そのような社会問題を鋭く取り上げているのにも関わらず、これだけの大ヒットになったとは、ある意味ミラクルと思えますね。

 

そしてもう一つのアルバムのテーマとして砂漠、も挙げられています。
エジプトとエチオピアの危機的な状況を見た旅の途中で、ボノは言っています。

アフリカで時を過ごし、貧困の中で暮らしている人々を見たとき、とても彼らに対し、強い気持ちを抱いた。
しかし家に帰ったとき、そこではそのような強い気持ちをもてなかった。
なぜなら、自分がそこで見たのは、西側世界で甘やかされた子供だったのだ。
それで考え始めた、「アフリカの人たちには文字通りの砂漠しかないかもしれない。しかし、我々には、別の種類の砂漠が横たわっているのだ。」
それが、アルバムの一つのテーマとして砂漠を選んだ理由だ。

このような社会派のアーティストとしての問題提起、も彼らの存在意義を高めている要素の一つと言えるでしょう。

 

また、やはりこの大ヒットの要因は彼らの音楽的要素であるに違いありません。
ブライアン・イーノのプロデュースは前作に引き続き、まろやかで聴き易いサウンドに仕上げています。
ジ・エッジは、今作で完全に彼の世界を確立したと言えるでしょう。
彼の切れ味鋭いギタープレイと、ディレイなどを用いた絶妙な音作りは、その後の多くのバンドの指標ともなりました。
また、アダムとラリーの、それぞれに存在感のあるリズム隊も、U2サウンドを屋台骨としてしっかりと機能しています。
加えてボノの熱いヴォーカルはいっそう輝きを増しています。
静かで低い声から高音の力強いシャウト、美しいファルセットまで、心を揺さぶる見事な歌いっぷりではないでしょうか。
この4人の絶妙なアンサンブルは、他のどこでも聴くことのできないU2オリジナルのサウンドを形作っていると言えるでしょう。

 

30年前に作られた、奇跡とも呼べるアルバムをご堪能いただきたいと思います。

チャート、セールス資料

1987年リリース

アーティスト:U2

5thアルバム、THE JOSHUA TREE(ヨシュア・トゥリー)

ビルボード誌アルバムチャート9週連続No.1 アメリカで1000万枚、世界で2500万枚のセールス

1stシングル WITH OR WITHOUT YOU(ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー) ビルボード誌シングルチャート3週連続No.1、同誌Mainstream RockチャートNo.1 、 同誌Adult Contemporaryチャート第23位

2ndシングル I STILL HAVEN’T FOUND WHAT I’M LOOKING FOR(アイ・スティル・ハヴント・ファウンド・ホワット・アイム・ルッキング・フォー (終りなき旅)) シングルチャートNo.1、Mainstream Rockチャート第2位、Adult Contemporaryチャート第16位

3rdシングル WHERE THE STREETS HAVE NO NAME(ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム(約束の地)) シングルチャート第13位、Mainstream Rockチャート第11位

4thシングル IN GOD’S COUNTRY(神の国) シングルチャート第44位、Mainstream Rockチャート第6位

また、30周年記念盤も出ていますのであわせてチェックしてみてください。

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