円熟したアメリカンロックアルバム TOM PETTY & THE HEARTBREAKERS - INTO THE GREAT WIDE OPEN(イントゥ・ザ・グレイト・ワイド・オープン)
80年代から90年代へ
1987年リリースの、TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)の7thスタジオアルバム、LET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)(レット・ミー・アップ)はビルボード誌アルバムチャート第20位、アメリカでのセールスは100万枚を記録しました。
そして、その後トムは初のソロアルバムを制作。
1989年リリースの1stソロアルバム、FULL MOON FEVER(フル・ムーン・フィーヴァー)は、ビルボード誌アルバムチャートで、第3位、アメリカだけで500万枚を売り上げる大ヒットアルバムとなります。
完全にトム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズはアメリカの、特に南部を代表するロックバンドとして人気は定着し、そのフロントマンであるトムも人気を確立している様子がチャートや売り上げから窺えます。
そして、ついに彼らは1990年代へと突入していきます。
多くのバンドがこの変化に対応するのにもがき苦しむことになりましたが、トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズは何ともひょうひょうと立ち向かった感がありますね。
次の8thアルバムは1991年に発表されることになりましたが、好評だったソロアルバムの時とほぼ同じ布陣で制作に取りかかります。
トムと、ザ・ハートブレーカーズのギタリストMike Campbell(マイク・キャンベル)、そしてTRAVELING WILBURYS(トラヴェリング・ウィルベリーズ)でトムが共演したJeff Lynne(ジェフ・リン)のこの3人による共同プロデュースとなっています。
また、12曲中8曲で、ジェフが楽曲共作者として関わっています。
このようにして作られたアルバムは、トムの名作ソロアルバム、フル・ムーン・フィーヴァーのパート2とも呼べるような快作として仕上げられました。
それは、フル・ムーン・フィーヴァーと同様、爽快で円熟したとても聞き心地の良い穏やかなアルバムになっています。
では、今日は1991年リリースのTOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)の8thスタジオアルバム、INTO THE GREAT WIDE OPEN(イントゥ・ザ・グレイト・ワイド・オープン)をご紹介したいと思います。
INTO THE GREAT WIDE OPEN(イントゥ・ザ・グレイト・ワイド・オープン)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、LEARNING TO FLY(ラーニング・トゥ・フライ)。
もう、イントロの12弦ギターのストロークと、アコギのアルペジオの組み合わせが最高級に美しいです。
この曲を聴くだけで、完全に前のソロアルバムと同系統であることにすぐに気づけます。
前作のレット・ミー・アップの頃からソロアルバムを挟んだことによって、トムのソロアルバムにより近いアルバムに仕上がっています。
このカントリー調でアーシーなロック、この爽やかさがたまりませんね。
これがトム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズのたどり着いた円熟のアメリカンロックではないでしょうか。
トムのヴォーカルは荒ぶることなくひょうひょうと歌い上げます。
彼のこのいい加減の力の抜き具合が、とても聴きやすい大人のロックへとバンドのサウンドを昇華していると思います。
またマイクのスライドギターも渋く決まっていて、彼らのカントリーチックなロックにいい雰囲気を添えてます。
ここに、トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズの音楽の一つの完成形を見た思いがします。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第28位、同誌Mainstream Rockチャートで6週連続No.1を記録しています。
2曲目は、KINGS HIGHWAY(キングス・ハイウェイ)。
少し軽快なロックンロールです。
とはいえ、はじけすぎることはなく、心地よいロックを聴かせてくれます。
サビの
Oh, I await the day
Good fortune comes our way
And we ride down the Kings Highway♪
の部分の韻を踏むところがとても気持ちいいです。
この曲はトム一人での作曲になっていて、彼のソングライティング能力も感じられるシンプルでいい曲になっています。
この曲は5thシングルとしてカットされ、Mainstream Rockチャートで第4位を記録しています。
3曲目は、INTO THE GREAT WIDE OPEN(イントゥ・ザ・グレイト・ワイド・オープン)。
ストーリー性のある歌詞に合わせて作られたPVがなかなか映画のようで素敵な出来になっています。
トムとバンドメンバーだけでなく、ジョニー・デップ、ガブリエル・アンウォー、フェイ・ダナウェイといった映画スターが出演し、なかなか豪華なものとなっています。
少し、哀愁のある雰囲気の中、静かにたんたんと楽曲が進んでいきます。
この語りかけるようなトムのヴォーカル、味があります。
サビでは、明るく転調して、楽曲の主人公エディーが持っていた明るい未来が表現されてます。
しかし、曲全体では哀愁味と共に明るさが混在しており、エディのサクセスストーリーと、そこから落ちていく雰囲気が見事に調和されていると思います。
アルバムタイトルトラックということもあり、なかなかいい曲になっています。
人生の浮き沈みが、短い楽曲のなかに凝縮された、トムらしい楽曲です。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第92位、Mainstream Rockチャートで第4位をマークしました。
4曲目は、TWO GUNSLINGERS(トゥー・ガンスリンガース)。
この曲も、爽やかなポップ感あふれるカントリーロックです。
この曲もトムの作曲作品です。
ギターストロークが、ほんとにきれいで爽やかです。
サビも、覚えやすいいいメロディが繰り返されています。
やはりこの曲も聴きやすくとてもいい曲になっています。
5曲目は、THE DARK OF THE SUN(ザ・ダーク・オブ・ザ・サン)。
軽快なアップテンポのカントリーロックです。
これも、聴いてて気持ちよくなれる、いい曲ですね。
これはトムとジェフの共作です。
クリーントーンのギターソロがとってもきれいでいいですね。
サビのメンバーのコーラスも爽快さをアップさせてくれてます。
6曲目は、ALL OR NOTHIN’(オール・オア・ナッシン)。
ちょっとダークな曲調に、ちょっと荒めのスライドギターが入り、シリアスロックを聴かせてくれてます。
この曲でのサビでは、ちょっと力の入ったトムのヴォーカルが聞けます。
ギターソロがシリアスなメロディを奏でてます。
ちょっと暗い曲調ですが、その辺がやはりアメリカンロックの一つの面でもあります。
シリアスな曲ですが、7thシングルとしてカットされました。(チャートインはしていません。)
7曲目は、ALL THE WRONG REASONS(オール・ザ・ロング・リーズンズ)。
前作のソロ作品のオープニング曲、FREE FALLIN’(フリー・フォーリン)を彷彿させる名曲です。
こちらも非常に美しいイントロになっていますね。
やはりアコギのストロークにアルペジオを混ぜたイントロをプロデュースさせたら、ジェフ・リンの右に出るものはいないかもしれません。
この曲もゆったりと歌い上げる、優しく穏やかなカントリーロックになっています。
途中の“オ、オーオオー♪”のコーラスが言わせませんね。
非常に効果的なメロディになっています。
これもアルバム1曲目のラーニング・トゥ・フライと共に、彼らの代表曲となる素晴らしい楽曲になりました。
8曲目は、TOO GOOD TO BE TRUE(トゥー・グッド・トゥ・ビー・トゥルー)。
ここで、ちょっとシリアスな雰囲気のロックになります。
ちょいハードな楽曲に緊張感が加わり、なかなかいい曲になっています。
とはいえ、全編でアコギのストロークが聞こえるので、シリアスながらも爽やかでもある楽曲になっています。
この曲は、4thシングルとしてカットされてますが、チャートインはしていません。
9曲目は、OUT IN THE COLD(アウト・イン・ザ・コールド)。
シリアス曲が続きますが、今度は結構スピード感のあるロックンロールになっています。
初期の彼らのアメリカンロックの衝動も感じられるような、ロックソングになっています。
結構ハードではありますが、サビはコーラスが入り、爽快な楽曲でもあります。
マイクのギターソロが、アルバム中1番ハードに振れて光っている気がします。
全体的にゆったりしたアルバムの中で、いいアクセントになっているちょうどいいロックソングと思います。
この曲は、3rdシングルとしてカットされ、Mainstream RockチャートでNo.1を獲得しました。
10曲目は、YOU AND I WILL MEET AGAIN(ユー・アンド・アイ・ウィル・ミート・アゲイン)。
アコギストロークと共に始まるこの曲は、やはり爽やかな楽曲になってます。
トム自身の作曲ですが、これもなかなかいいメロディを持っていると思いますね。
サビのコーラスワークが爽やかでとてもよろしいです。
ギターソロに続いて珍しく簡単なキーボードソロが聴こえます。
11曲目は、MAKIN’ SOME NOISE(メイキン・サム・ノイズ)。
もっともロックンロールなスタイルの楽曲がここに配置されてます。
もう、エレキのイントロから、ロケンロー!って感じでノリノリの楽曲です。
ギターソロではワウまで踏んでワイルドに聴かせてくれてます。
ラスト直前にこんな曲を入れることで、アルバムがしまって聴こえます。
アメリカンロックバンド南部代表ここにあり、という存在感がたっぷり感じられます。
この曲は6thシングルとしてカットされ、Mainstream Rockチャートで第30位を記録しました。
アルバムラスト12曲目は、BUILT TO LAST(ビルト・トゥ・ラスト)。
これも力の抜かれた、ゆったりとしたロックとなっています。
ちょっと牧歌的なカントリータッチの楽曲で柔らかくアルバムは閉じられます。
まとめとおすすめポイント
1991年リリースのTOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)の8thスタジオアルバム、INTO THE GREAT WIDE OPEN(イントゥ・ザ・グレイト・ワイド・オープン)は、ビルボード誌アルバムチャートで第13位、アメリカで200万枚のヒットを記録しました。
2年前のソロ作、フル・ムーンフィーヴァーと同様、リラックスして爽やかな大人のロックを聞かせてくれる作品となっています。
彼らの初期や中期のワイルドで勢いのあるロックンロールは少し影を潜め、むしろクリアでゆったりと楽しめるカントリーロックが主力のアルバムになりました。
やはり、ソロ作と同じくジェフ・リンが共同プロデュースに名を連ねているのが大きな影響を与えていると考えられます。
バンドならではの一体感や勢いよりも、それぞれのプレイヤーの演奏がクリアにアルバム全体に封じ込まれているようです。
そのため、非常に楽器の演奏の一音一音がきれいに聴こえることで、シンプルでとても心地の良い音空間を楽しめることになっています。
彼らはアコギや12弦ギターによって、キラキラしたサウンドが楽曲を彩っています。
そうした耳障りのいい演奏の上で、肩肘張らずに歌い上げるトム・ペティ。
彼のよりマイルドで穏やかになったヴォーカルが、アルバムに円熟味を加えているように感じます。
前述のとおり、このアルバムはちょうど1991年という、音楽業界においては過渡期に作られたアルバムです。
それまでの80年代に活躍していた多くのバンドが活動を収縮させていく中での彼らの挑戦は、見事に成功したように見えます。
かといって、変に力が入っているわけでもなく、ひょうひょうと良い作品を生み出し、世に受け入れられました。
その一つの要因は、やはりこのカントリー風のアメリカンロック、という彼らのスタイルにあるのかもしれません。
彼らのサウンドは流行り廃りに大きな影響を受けにくい、クラシックとも言える古典的なロックが基本にあるわけです。
それを90年代風に上手にアレンジしたのが成功の一因と言えるでしょう。
それに加えて、楽曲の良さ、アレンジの良さなどにおいて、まさに普遍の魅力が詰まっているアルバムだと思います。
そのため、世相が暗くなり、ダークな音楽が流行っても、トムたちは一定の評価を受け続けることが出来たのではないでしょうか。
ジェフ・リンのサウンドは、好き嫌いが分かれるとも言われますが、僕はこのトム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズとの融合は非常に素晴らしいケミストリーを生み出したと思います。
いつの時代に聞いても心地よく楽しめる、アメリカンロックにおける素敵なクラシック作品となったのではないでしょうか。
トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズのアルバムの中でも、非常に聴きやすい部類に入るこのアルバムは、世代を超えておすすめしたいアルバムとなっています。
チャート、セールス資料
1991年リリース
アーティスト:TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)
8thアルバム、INTO THE GREAT WIDE OPEN(イントゥ・ザ・グレイト・ワイド・オープン)
ビルボード誌アルバムチャート第13位 アメリカで200万枚のセールス
1stシングル LEARNING TO FLY(ラーニング・トゥ・フライ) ビルボード誌シングルチャート第28位、同誌Mainstream Rockチャート6週連続No.1
2ndシングル INTO THE GREAT WIDE OPEN(イントゥ・ザ・グレイト・ワイド・オープン) シングルチャート第92位、Mainstream Rockチャート第4位
3rdシングル OUT IN THE COLD(アウト・イン・ザ・コールド) Mainstream RockチャートNo.1
4thシングル TOO GOOD TO BE TRUE(トゥー・グッド・トゥ・ビー・トゥルー) チャートインなし
5thシングル KINGS HIGHWAY(キングス・ハイウェイ) Mainstream Rockチャート第4位
6thシングル MAKIN’ SOME NOISE(メイキン・サム・ノイズ) Mainstream Rockチャート第30位
7thシングル ALL OR NOTHIN’(オール・オア・ナッシン) チャートインなし