まさかの原点回帰 帰ってきたヒューイ・ルイス節  HUEY LEWIS AND THE NEWS - HARD AT PLAY(ハード・アット・プレイ)

前作の失敗を受けて





1988年にリリースされたHUEY LEWIS AND THE NEWS(ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース)の5thアルバム、SMALL WORLD(スモール・ワールド)は、レゲエあり、インストありの展開で、僕から言わせてもらえば、よく言えば実験的、悪く言えば迷走してしまった作品のような気がしています。
ヒューイのヴォーカルの扱いも、あのpure golden voice”が生かされてない気もしますし、何より楽曲のクオリティが下がった感が否めません。

 

リスナーもそう考えたのかわかりませんが、ビルボード誌アルバムチャートで第11位、そして、売り上げはアメリカで100万枚となり、前の2枚のアルバムの大成功から見ると、商業的には奮わなかったと言えるでしょう。

 

もともとの彼らのヒューイ・ルイス節とも言える、骨太のアメリカンロックンロールの好きな人たちにとってこのアルバムを機にヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースから離れた人も少なくないと思われます。
僕も、せっかく買ったCDが、予想と大きく異なっていたので、ヒューイ・ルイスは終わったのではないか、と感じていました。

 

彼らも、そんな状況に危機感を覚えたのか、大きくいろいろなものを変化させてきました。
1989年に、長いスモール・ワールドツアーの終わりに、バンドは大きな休憩期間に入ります。
そして、デビュー以来、彼らがずっと属していたレーベル、Chrysalis Recordsとの契約を解除し、EMI と契約します。

 

また、SPORTS(スポーツ)以来、ずっとバンドメンバーによるセルフプロデュースを行なっていましたが、今回はBill SchneeEric Thorngrenとバンドとでの共同プロデュースで作品を作り始めます。
これは非常に良かったのではないかと思いますね。
自分たちだけではいろいろ見えなくなっての迷走じゃないかと思いますので、外部からの風が入ることで、再び彼らの魅力が再発見されたのではないかと思われます。

 

こうして、レーベルを移籍してアルバムを制作しましたが、それがまた何ともヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースらしい、骨太で爽やかなロックンロール作品に仕上がって帰ってきました。

 

では今日は、1991年リリースの、HUEY LEWIS AND THE NEWS(ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース)の6thアルバム、HARD AT PLAY(ハード・アット・プレイ)をご紹介したいと思います。

HARD AT PLAY(ハード・アット・プレイ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、BUILD ME UP(ビルド・ミー・アップ)。

 

半拍遅れのハーモニカで始まる、ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースお得意のミドルテンポのアメリカンロックです。
このノリ、そしてギター、キーボード、ヒューイ・ルイスはこうでなきゃ、という定番のロックですね。
キャッチーなメロディが戻ってきました。

 

どっしりとした曲調と、キャッチーな歌メロはFORE!あたりのアルバムに入っててもおかしくない良い出来だと思います。
ヒューイのpure golden voice”は健在で、非常に心地よいですね。
アルバムジャケットでは、ヒューイがハーモニカを吹いている写真が使われていますが、つまり、このハーモニカで始まる1曲目がこのアルバムの方向性を示したものだと感じられます。

 

この曲は恐らく4thシングルとしてカットされ、ビルボード誌、Mainstream Rockチャートで第27位を記録しています。

 

2曲目は、IT HIT ME LIKE A HAMMER(ヒット・ミー・ライク・ア・ハマー)。

 

この曲はRobert John “Mutt” Lange(ロバート・ジョン・“マット”・ランジ)とヒューイ・ルイスの共作になっています。
“マット”・ランジはDEF LEPPARD(デフ・レパード)などのプロデュースなどで超有名ですが、彼とバンドは既に約9年前に関わりを持っていました。
バンドの2ndアルバムPICTURE THIS(ベイエリアの風)収録のDo You Believe in Love(ビリーヴ・イン・ラヴ)の作者は“マット”・ランジなのでした。
ビリーヴ・イン・ラヴは全米チャートで第7位を記録し、彼らの初のトップ10シングルとなり、バンドのブレイクのきっかけとなった曲です。
今回、バンドの建て直しに一役買ってもらおうと、共作の作品がアルバムに収録されることになりました。

 

で、出来上がった楽曲はと言うと、もうまさにヒューイ・ルイス節そのものの名曲となりました。
ゆったりシャッフルビートでのノリがたまりませんね。
加えて、爽やかなキーボード、抑え目のギターバッキング、シャッフルを刻むドラム&ベース。
さすがのアメリカンロックバンドです。
この懐の深い楽曲を見事に演奏してます。

 

そして、やはりもっとも注目すべきはヒューイのハスキーヴォイスと、それにからむメンバーのコーラスでしょう。
爽やかポップなアメリカンロックをやらせたら、彼らの右に出るものはないのではないでしょうか。
ついでに言えば、ギターソロもとってもメロディアスで、この辺も安定のクオリティです。
夏が似合う、素晴らしい楽曲が、“マット”・ランジとの組み合わせで再び生まれることになりました。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第21位、同誌Adult Contemporaryチャートで第10位を記録しました。

 

3曲目は、ATTITUDE(アティテュード)。

 

これまたノリのいい曲ですね。
イントロのディスコティックなギターストロークから、ベースラインが跳ね回り、ゴージャスなキーボード
今までのヒューイ・ルイスにはなかったような形のノリノリの曲ですね。
歌メロも非常にいいですし、楽器のからみ方がとっても生きが良くて気持ちいいです。

 

間奏ではホーンセクションが心地よく暴れまわってますし、サックスソロも楽曲のノリを引き立ててます。
今回はタワー・オブ・パワーは参加してないようですが、アメリカンロックとブラスサウンドの見事な融合を聴かせてくれてます。
とっても勢いがある上に、キャッチーで、アルバム中ではとっても新鮮な存在になっていると思います。

 

4曲目は、HE DON’T KNOW(うつろな心)。

 

ここで、とてもムーディな楽曲が登場です。
ディレイのたっぷりかかったエレキギターが雰囲気を盛り上げてますね。
こんなバラードライクな曲も、ヒューイはうまく歌い上げますよね。
メンバーのコーラスとの掛け合いも文句ありません。

 

そしてちょこちょこ入るギターのオブリがとっても素敵です。
もちろん、ギターソロもメロディアスで、気持ちいい音色をかもし出してます。
アウトロのソロは、もっともっと聴いていたい素敵なソロになっています。
これまたヒューイ・ルイスらしいいい曲になっています。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、Adult Contemporaryチャートで第40位を記録しました。

 

5曲目は、COUPLE DAYS OFF(カップル・デイズ・オフ)。

 

これまた文句なくかっこいいワイルドなアメリカンロックですね。
前作での迷いはいったいどこにいったのか、と思えるほど振り切ってます。
いやいや、僕の望んだヒューイ・ルイスのサウンドですね。
こんな骨太なロックンロールこそ彼らの真の完成形ではないでしょうか

 

勢いと共に、バンド演奏もとってもかっこよいです。
エレキはあえて荒々しくラフなプレイを聴かせてくれてますね。
と言っても、やはり中後半のソロなんかはとても上手い、と感じさせられますけどね。

 

サビの“All I want is a couple days off”のcouple days off!!!全員コーラスがすさまじくかっこいいです。
もちろん、ノリノリのハスキーヴォイスのヒューイもたまらなく魅力的です。
会心の一撃とも言える、彼らならではのアメリカンロックンロールが楽しめますね。

 

この曲は、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第11位、Mainstream Rockチャートで第3位を記録しました。

 

6曲目は、THAT’S NOT ME(ザッツ・ノット・ミー )。

 

イントロのシンセの使い方が、80年代を思い出させるミドルテンポの良曲です。
やはりメロディがとてもいいですね。
Aメロからキャッチーで、とても親しみ易いです。
加えて、サビのメロディが秀逸です。
ビートに乗せて同じメロディを繰り返してる感じですが、ヒューイのヴォーカルで見事にかっこよくきまっています。

 

ギターソロも、滑らかにメロディアスなプレイが聞けて、気持ちいいです。
明るい雰囲気ではないのですが、非常に爽快で印象的な楽曲になっています。

 

7曲目は、WE SHOULD BE MAKING LOVE(今夜ふたりで)。

 

ここで、もう一曲アダルトでムーディな楽曲が一つ。
優しいメロディで、これもヒューイ・ルイスらしくもあります。
ちょっと地味な感じがありますが、メロディはとてもいいですね。
コーラスも美しく、なかなかいい曲だと思います。
途中のハーモニカソロはヒューイのものだと思われますが、オープニングに続いて、見せ場を作っています。

 

8曲目は、BEST OF ME(ベスト・オブ・ミー)。

 

再びシャッフルビートの、気持ちいい揺れが楽しめる良曲です。
キーボードやエレキの彩り方がとてもいいです。
絶妙に楽曲を盛り上げてます。
そしてこの曲ではやはり歌メロがとってもいいですね。
やはりいいメロディがあって初めて楽曲は完成度を高めますね。
いいメロディをヒューイが歌いあげ、メンバーがコーラスで盛り上げ、バンドが軽やかなプレイで楽曲を形作ってます。
まさに、ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースの定番とも言える楽曲となっていますね。
非常に心地よく、いい曲です。

 

9曲目は、DO YOU LOVE ME, OR WHAT?(ドゥ・ユー・ラブ・ミー・オア・ホワット)。

 

このアルバムの中では1番実験的な楽曲と言えるかもしれません。
しかし、前のアルバムでの迷走感は感じられません

 

グルーヴを感じられるリズム隊に、ホーンやシンセやギターがからんで行きます。
その中央で、ヒューイが歌い上げています。
この曲でも、ちょっと不思議なグルーヴがあるのですが、歌メロがそこそこいいので、何かクセになるような楽曲になってます。
サビでの、曲タイトルの連呼も、なんか中毒性があります。

 

サックスソロもいい感じで盛り上げてますし、その後に続くギターソロもよいです。
そして、最後のサビもヒューイのハスキーヴォイスがしっかり締めてくれます。
この曲はホーンセクションが目立つ、中毒性のあるいい曲になっています。

 

10曲目は、DON’T LOOK BACK(ドント・ルック・バック)。

 

Aメロでは、ヒューイが高音と低音を歌っています。
前のアルバムのタイトル曲、SMALL WORLD(PART ONE)(SMALL WORLD パート1)での失敗から学んだようです。
その曲では、ずっと低音で歌い続ける、という意味不明なことを行なって、せっかくのいい曲メロを台無しにしてました。
しかし、今回は低音も歌ってますが、高音も合わせることでいい感じになってますね。

 

そしてこの曲もサビメロがとても良くて、ゆったりミドルテンポにサビメロがうまく乗って心地よいです。
ギターソロも間奏とアウトロでたっぷり聴けますし、コーラスハーモニーもばっちりの、これまたいい曲ですね。

 

アルバムラスト、11曲目は、TIME AIN’T MONEY(タイム・エイント・マネー )。

 

エレキとアコギのストロークのイントロから爽やかな楽曲ですね。
カントリー調の1コーラスはとっても軽やかで爽快です。
その後、バンドサウンドが加わってからもやはり爽快なアメリカンロックを聴かせてくれます。

 

カントリー風でもあるアメリカンロックンロールですね。
初期のイーグルスっぽいサウンドのように感じますが、やはりヒューイが歌えば、ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースそのものの音楽になります。
なんとも軽快で非常に聴いて心地よい楽曲ですね。

 

こうして、捨て曲の見当たらない素晴らしいアルバムが幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1991年リリースの、HUEY LEWIS AND THE NEWS(ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース)の6thアルバム、HARD AT PLAY(ハード・アット・プレイ)はビルボード誌アルバムチャートで第27位、アメリカで50万枚の売り上げにとどまりました。

 

僕にとって迷作であった前作SMALL WORLD(スモール・ワールド)からさらにチャート、売り上げを落とすという厳しい結果になってしまいました。

 

時は1990年代に入り、音楽業界は大きな変革期に入っていました。
80年代的なものが古い、ダサい、という扱いをする傾向が見られるようになってきたわけです。
特に、オルタナティヴ、グランジといった、暗く厭世的なサウンドが愛されるようになり、これまでの底抜けに明るいアメリカの生み出したものが全否定されるようになって行きます。
ヘア・メタル、LAメタルなどはその極みのように扱われ、シーンから姿を消して行きます。
そして、アメリカンロックバンドも、似たような歩みをすることになってしまいます。
栄光の明るい希望に満ちた80年代は終わったのです。
ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースもそんなシーンの変化によって埋もれていったバンドの一つと言えるかもしれません。

 

しかし、内容はというと、僕はあの名作FORE!に匹敵するのではと思えるクオリティがあると思っています。
もちろん、時代ゆえにシングルヒットを量産というわけにはいきませんでしたが、シングルになりうるクオリティの楽曲が目白押しです。
前作スモール・ワールドで迷ったのはなんだったのか、と思えるほど、突き抜けた爽快なロックンロールを聴かせてくれてます。

 

こんな素晴らしいバンドがシーンに埋もれていくのはとても残念ですが、やはり流行るものはいつか廃れるというのも世のことわりではあります。
でも、決して内容的には廃れていない、このアルバムは、全盛期を取り戻したのではと感じるほどの出来になっています。

 

ヒューイ・ルイス節を愛する人には、FORE!と並んでマストな作品になっていると思います。

チャート、セールス資料

1991年リリース

アーティスト:HUEY LEWIS AND THE NEWS(ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース)

6thアルバム、HARD AT PLAY(ハード・アット・プレイ)

ビルボード誌アルバムチャート第27位 アメリカで50万枚のセールス

1stシングル COUPLE DAYS OFF(カップル・デイズ・オフ) ビルボード誌シングルチャート第11位、同誌Mainstream Rockチャート第3位

2ndシングル IT HIT ME LIKE A HAMMER(ヒット・ミー・ライク・ア・ハマー) シングルチャート第21位、Adult Contemporaryチャート第10位

3rdシングル HE DON’T KNOW(うつろな心) Adult Contemporaryチャート第40位

恐らく4thシングル BUILD ME UP(ビルド・ミー・アップ) Mainstream Rockチャート第27位