サザンロックの巨星 墜つ TOM PETTYの1stソロアルバム - FULL MOON FEVER

またも訃報が・・・。





数日前から、僕を形作った洋楽アルバムたちの作品の中で、TOM PETTY & THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)の作品にアクセスが集まっていた。
特に6thアルバム、SOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)はダントツの伸びで、何が起こったんだ、と最初はいたずらではないかと思ったほどだ。

 

しかし、LINEニュースで、トム・ペティが66歳で死去のニュースを発見。
10月2日のことだったようです。
それで、アクセスが集中したというのが真相でした。

 

これまで、多くの、“僕を形作ってきた洋楽アーティスト”の訃報を耳にしてきました。
その中で、ジョージ・マイケルや、プリンス、サバイバーのジミなど、残された作品を記事にさせていただいてきました。
しかし、今年の3月末からこのブログを作り始めてから、ほぼリアルタイムで訃報に接したのはトムが初ということになります。
6thの サザン・アクセンツと、7thの LET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)(レット・ミー・アップ)は既に記事にしていて、これからもっと作品を紹介しようとしていた矢先のことです。

 

やはり、青春時代に聞いていたアーティストが亡くなるというのは衝撃的です。
向こうは何もこっちのことは知らないわけですが、こっちは勝手に若い頃からの知り合いのつもりでいますからね。
あの、独特のヴォーカルスタイルで繰り広げられる、アーシーなサザンロックは非常に魅力的でした。
また、スティーヴィー・ニックスとのデュエットの相性も抜群で、何曲も名曲を残してくれています。

 

また、初めて出会った曲がDON’T COME AROUND HERE NO MORE(ドント・カム・アラウンド)だったというのも親近感を持った大きな理由の一つと言えるでしょう。
あの、シュールでコミカルなPVで見せたのは、全くサザンロックの雄の姿ではなく、どことなく憎めない普通の外人のおっさんだったわけで。
それがアメリカンロックの南部代表の大物アーティストって言われても、にわかに信じがたかったのも事実です。
しかし、アルバムを聴くと、やはりアメリカンロックを標榜するだけのものはあると、すぐに実感できました。

 

あと、よく言われるのが、トム・ペティはアメリカでの人気は絶大だが、日本ではあまりウケていない、という都市伝説。
確かに多くの華々しい外タレと呼ばれる80年代アーティストが、来日して騒がれてます。
その中にあって、ハートブレーカーズの面々もツアーで何度か来日していますが、それほど人気沸騰したような記憶はないですね。
濃いいファンのみがきっと盛り上がったに違いありません。
が、それが一般ピープルへのニュースになるほどのインパクトは恐らくなかったのでしょう。

 

でも、今回、僕のつたない記事にアクセスしてくれているのは、ほぼ日本の方なんですよね。
トムの訃報を聞きつけて、過去の作品に思いを馳せる日本人がこんなにいるっていうのに僕は驚くと同時に、うれしく思いましたね。(とはいっても、僕の弱小ブログのアクセス数なんてたかがしれてますけどねw)
70年代後半から80年代を、独自のサザンロックンロールで駆け抜けた彼らは、大きくブレることなく、地に足のついた活動をずっと続けてきました。

 

66歳ということで、まだまだやれることはあったのではというのが、とても残念でなりませんが、彼の残した作品はずっと残って後世のアメリカンロックのリスナーの心を動かし続けるに違いありません。

 

というわけで、今日はちょうど順番的に レット・ミー・アップの次に出された、トム・ペティの、キャリア初のソロアルバムを紹介したいと思います。
このアルバムは、ロックンロールにポップセンスがうまく融合した、非常に心地よく聴ける素晴らしいアルバムになっています。
トムの楽曲に触れるなら、1番とっつき易いアルバムかもしれません。

 

では今日は1989年にリリースされたTOM PETTY(トム・ペティ)の1stソロアルバム、FULL MOON FEVER(フル・ムーン・フィーヴァー)をご紹介したいと思います。

FULL MOON FEVER(フル・ムーン・フィーヴァー)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、FREE FALLIN’(フリー・フォーリン)。

 

イントロの12弦ギターのストロークが非常に美しいです。
そしてトムがゆったりと歌い始めます。
大体、ロックアルバムは勢いよくスタートすることが多いですし、僕もそういうのをいつも期待します。
しかし、このトムのソロアルバムは、違った幕開けです。
スローなロックナンバーをアルバムの冒頭に置いて、このアルバムのコンセプトを紹介しているようです。

 

この曲はトムとELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)のJeff Lynne(ジェフ・リン)の共作です。
ジェフとは、前年1988年に、George Harrison(ジョージ・ハリスン)率いる覆面バンド、TRAVELING WILBURYS(トラヴェリング・ウィルベリーズ)で共演しています。
その縁もあって、アルバムの大半の曲で共作、そしてトム本人とMike Campbell(マイク・キャンベル)と共にアルバムのプロデュースにも加わっています。
ジェフの才覚もあり、アルバム全体がポップセンスあふれる心地よいロックサウンドに味付けられています。

 

これまでの、バンドでの作品は、勢いも大切にされていた感じがありますが、今回のアルバムはゆったりとした雰囲気が強く感じられます。
それとサウンドのクリアさも非常に気持ち良いです。
この曲の美しいイントロもそうですが、一つ一つ楽器が増えていく感じも、無駄な音がなく、それぞれがクリアに聞き取れます。
間奏の素朴なギタープレイ、コーラス、ラスト前の軽快なギターのミュートによるリフ。
何よりも、静かに語りかけるような、そしてサビでは力強く歌い上げるトムのヴォーカルは非常に味わい深いものとなっていますね。
すべてが、ちょうどいい、と感じさせられます。

 

リラックスした感じが前面に出された、とても心地よい楽曲になっています。

 

この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第7位、同誌Mainstream RockチャートではNo.1を獲得する大ヒットとなっています。

 

2曲目は、I WON’T BACK DOWN(アイ・ウォント・バック・ダウン)。

 

これがアルバムからの先行シングルになっていて、まずはソロ一発目の挨拶として素敵で軽快なロックンロールになっています。
この曲にはトラヴェリング・ウィルベリーズのバンドメイトのジョージ・ハリスンと、ジェフ・リンが参加してます。
リードギターには、ハートブレーカーズのマイク・キャンベル、となかなかなラインアップとなっています。

 

その上、PVでは Ringo Starr(リンゴ・スター)が出演、ドラムを叩いたり、お茶目な演技を見せてます。
あのThe Beatles(ザ・ビートルズ)の4人のうちの二人が出演してるとは、なんと豪華なPVでしょう。
トムの素敵な交友関係が垣間見えるPVともなっていますね。(ちなみにCDのドラムはリンゴ・スターのプレイではありません。)

 

この曲も、とてもシンプルな構成で、どの楽器の音もはっきり聴こえるクリアな楽曲になっています。
80年代の過剰なアレンジがシーンを覆っているなかでの、こうしたアコースティックなアレンジは、とても新鮮に感じられます。
トムも、良い加減に力を抜いて歌っている感じがいいですね。
ギターソロで聴けるマイク・キャンベルのスライドギターも、ハイテクギター全盛の中で、味わい深いものとなっています。

 

この曲は先行シングルとしてカットされ、シングルチャートで第12位、Mainstream RockチャートではNo.1を獲得しています。

 

3曲目は、LOVE IS A LONG ROAD(ラヴ・イズ・ア・ロング・ロード)。

 

この曲はトムとマイクのハートブレーカーズコンビの共作です。
アルバムの中ではロックバンドの雰囲気を強く見せる数曲のうちの一曲です。
ボン・ジョヴィのバッド・メディシンっぽいキーボードのイントロから、強いリズム隊が入ってきて力強い楽曲が始まります。
こうしたバンド然とした曲でも、やはり今までよりサウンドがクリアな感じがします。
またスピードは速くはないですが、突き進む感じのあるいい感じのテンポになっていますね。
サビもキャッチーで、耳障りがとてもよいものになっていると思います。

 

4曲目は、A FACE IN THE CROWD(フェイス・イン・ザ・クラウド)。

 

きれいなハーモニクスの音で始まり、静かにたんたんと進んでいくちょっと哀愁味のある楽曲です。
全体的に平坦で、盛り上がりには欠けますが、演奏がクリーンに聞こえるので決して悪くありません。
やはりギターのストロークとアルペジオがクリアに聴こえるのはとてもいいですね。
やはりソロ作だからこそ、こんな曲も入れられるのでしょう。
アルバム中の中盤のアクセントとしてはしっかり役目を果たしていると思います。
特に次の曲へのいいつなぎになっていると思います。

 

この曲は4thシングルとしてカットされてます。
シングル向けじゃないと僕は思ったのですが、まあ、地味ですが味わいがあるのは間違いないですからね。
シングルチャートで第46位、Mainstream Rockチャートでは第5位を記録しています。

 

5曲目は、Runnin’ Down a Dream(ランニン・ダウン・ア・ドリーム)。

 

4曲目の、平坦な楽曲からいきなりの疾走ロックンロールは印象効果抜群です。
イントロで使われているちょっとヘヴィなギターリフが、曲全体をかっこよく印象付けています。
マイク・キャンベルはこの曲では、ここぞとばかりにギターソロで弾きまくっています。
ハートブレーカーズの楽曲にしてもおかしくない、ロックな楽曲になっています。
トムがやはり素性はロックンローラーだって改めて感じさせてくれますね。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第23位、Mainstream RockチャートではNo.1を獲得しています。

 

6曲目は、FEEL A WHOLE LOT BETTER(すっきりしたぜ)。

 

この曲はアルバム中唯一のカバーソングとなっています。
オリジナルを演奏しているのは The Byrds(バーズ)。
60年代から70年代にかけて活躍したフォーク、カントリーロックバンドです。
フォークミュージックとロックンロールを融合させた爽やかでノリのよい楽曲で知られていますが、トムもこの曲で、しっかりその雰囲気を再現しています。

 

ギターの美しいストロークもさることながら、コーラスも美しく決めていますね。
原曲の良さを損ねることなく、80年代のクリアなサウンドで蘇らせたジェフ・リンの手腕も見逃せません。
とても爽やかな、気持ちよいロックンロールソングになっています。

 

7曲目は、YER SO BAD(イヤー・ソー・バッド)。

 

弾き語りっぽく始まりますが、途中からバンドサウンドが加わり、軽快なフォークロックサウンドに変わります。
内容はちょっとヘヴィな内容のようですが、トムが飄々(ひょうひょう)と歌っています。
軽妙なサウンドが、このアルバムのメインキャラクターのように感じられます。

 

この曲は5thシングルとしてリリースされ、シングルチャートは第86位、Mainstream Rockチャートでは第5位を獲得しています。

 

8曲目はDEPENDING ON YOU(ディペンディング・オン・ユー)。

 

ここから3曲はトムによる楽曲です。
この曲は爽やかなロックサウンドになっていますね。
ちょうどいい感じのアップテンポな楽曲です。
サビのハモリも気持ちよく聴けますし、キャッチーで頭に残ります。
こういう頭打ちのリズムは、とても聞いてて心地よいですね。

 

9曲目はTHE APARTMENT SONG(アパートメント・ソング)。

 

オールドロックンロールの響きのある軽快な楽曲です。
この曲でも、トムは力まず軽妙なヴォーカルを聴かせてくれてます。
シンプルにかっこいいです。

 

10曲目はALRIGHT FOR NOW(オールライト・フォー・ナウ)。

 

優しい子守唄のような楽曲です。
アコースティックギターのアルペジオに乗せて、トムが優しく優しく歌い上げます。
アルバムでは最も静かな曲になっています。
味わい深い楽曲です。

 

11曲目はA MIND WITH A HEART OF IT’S OWN(ハート・オブ・イッツ・オウン)。

 

ボ・ディドリー・ビートを使った、ノリノリのロックンロールです。
こんなノリのいい曲でも、トムは力を抜いた軽妙なヴォーカルを聞かせてくれます。
トムとジェフの共作の曲ですが、やはりハートブレーカーズの時よりクリアなサウンドに魅せられます。

 

アルバムラストはZOMBIE ZOO(ゾンビ・ズー)。

 

この曲のバックヴォーカルには、トラヴェリング・ウィルベリーズのもう一人のバンドメイト、Roy Orbison(ロイ・オービソン)が参加しています。
しかし、アルバムリリース前にロイは亡くなってしまったとのことです。

 

アルバムラストを飾るにはピッタリの、ノリのよいロックソングです。
イントロは、何が出てくるんだ、ゾンビか、という不思議な期待を持たせるものですが、至って全うな楽曲になっています。
最後まで、軽快な心地よい楽曲で楽しませてもらえました。

まとめとおすすめポイント

1989年にリリースされた、TOM PETTY(トム・ペティ)の1stソロアルバム、FULL MOON FEVER(フル・ムーン・フィーヴァー)は、ビルボード誌アルバムチャートで、第3位、アメリカだけで500万枚を売り上げる大ヒットアルバムとなりました。

 

サザン・アクセンツ制作時には、煮詰まったトムが腕を叩き折ったエピソードを紹介しましたが、今作には、そのような切羽詰った感じは全く見られません
ゆったり、のんびりリラックスした感じが伝わってくるアルバムになっています。

 

アルバムレコーディングはマイク・キャンベルのガレージスタジオで、リラックスした雰囲気で行なわれたようです。
特にボブ・ディランを除く、トラヴェリング・ウィルベリーズの仲間たちとの時間は、自身のキャリアの中で最も楽しいものだったと、後にトムは語っています。
ジョージ・ハリスンやロイ・オービソン、ジェフ・リンといった大物ベテランアーティストとの音楽的な交わりは、トムに大きな刺激を与えたに違いありません。
もちろん刺激と言っても、とがったものではなく、音楽の原点である、音を楽しむという原点にトムを導いたのではないでしょうか。

 

結果として、そのトムの感じた楽しかった時間、というのが、リスナーにまで伝わってくるような素晴らしいアルバムが完成しました。
僕も、その点は強く感じていて、ハートブレーカーズの時のアルバムと比べて、非常に全体が聴き易いアルバムだと感じています。

 

アルバム作成に参加したロイはその後すぐに亡くなったわけですが、主役のトムが28年後の今年に亡くなった事になります。
本当に残念なことですが、それでも彼らの残した作品はずっと残っていきます

 

CDを買って良かったと思えたこのアルバム、これからも大切にし、聴いていきたいと思いました。
トム・ペティのアルバムの中で、1番楽しく聞けるに違いないこの作品、全ての音楽愛好家におすすめしたいと思います。

チャート、セールス資料

1989年リリース

アーティスト:TOM PETTY(トム・ペティ)

1stアルバム、FULL MOON FEVER(フル・ムーン・フィーヴァー)

ビルボード誌アルバムチャート第3位 アメリカで500万枚のセールス

1stシングル I WON’T BACK DOWN(アイ・ウォント・バック・ダウン) ビルボード誌シングルチャート第12位、同誌Mainstream RockチャートNo.1

2ndシングル Runnin’ Down a Dream(ランニン・ダウン・ア・ドリーム) シングルチャート第23位、Mainstream RockチャートNo.1

3rdシングル FREE FALLIN’(フリー・フォーリン) シングルチャート第7位、Mainstream RockチャートNo.1

4thシングル A FACE IN THE CROWD(フェイス・イン・ザ・クラウド) シングルチャート第46位、Mainstream Rockチャート第5位

5thシングル YER SO BAD(イヤー・ソー・バッド) シングルチャート第86位、Mainstream Rockチャート第5位