クオリティは抜群だが、なぜかイマイチのセールス RATT - DANCING UNDERCOVER(ダンシング・アンダーカヴァー)

前作からの流れ





1985年リリースの、RATT(ラット)の2ndアルバム、INVASION OF YOUR PRIVACY(インヴェイジョン・オブ・ユア・プライヴァシー)はビルボード誌アルバムチャートで第7位、アメリカで200万枚を売り上げるヒットとなりました。

 

完全に軽快なRATT ‘N’ ROLL(ラットンロール)はこの2ndアルバムで確立されたと僕は思ってます。
好みが分かれるかもしれませんが、ヴォーカルのStephen Pearcy(スティーヴン・パーシー)の艶のある声はラットの魅力の一つと思いますし、非常にLAメタルっぽいとも思います。
また、Warren DeMartini(ウォーレン・デ・マルティーニ)とRobbin Crosby(ロビン・クロスビー)の二人のギタリストによるツインギターは、多くのギターキッズの注目を受けてもいます。
80年代中ごろにウケる要素満載のアルバムだったと思います。

 

ちなみに、2ndアルバムは、ティッパー・ゴア率いる、PMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)により内容が”inappropriate“(不適切な)とみなされています。
それで、晴れてペアレンタル・アドヴァイザリーのステッカー(未成年にとって不適切な表現が含まれているため、保護者が指導する必要があることを示すためにアルバムに張られるステッカー)がアルバムに張られています。
まあ、この手のバンドにとってはこれはある意味勲章のような感じだったのではないでしょうか。

 

アルバムリリース後、ラットはアメリカの広範囲の場所や、日本でもライヴを行なっています。
このツアーで共に回ったのは、 大ブレイク前Bon Jovi(ボン・ジョヴィ)、Ozzy Osbourne(オジー・オズボーン)や Iron Maiden(アイアン・メイデン)などのバンドです。

 

1985年夏には、イギリスのドニントンで開催された、Monsters of Rock( モンスターズ・オブ・ロック)というロックフェスに参加。
ZZ Top(ZZトップ)、ボン・ジョヴィ、Metallica(メタリカ)といったバンドと共演しています。
このフェスに呼ばれること自体、その時の人気の証だと言えるでしょう。

 

そして、1986年9月に3rdアルバムを出すことになりますが、同年8月にボン・ジョヴィがあの大ヒット3rdアルバム、SLIPPERY WHEN WET(ワイルド・イン・ザ・ストリーツ)をリリース。
すでに、その先行シングルYou Give Love a Bad Name(禁じられた愛)が大ヒット、まさに大ブレイクを果たそうとしていました。

 

ここまで、ラットのほうが人気、成績共に、ボン・ジョヴィを上回っていたわけですが、ここでついに大逆転が起こってしまったのです。
でも、恐らく、ラットも今までどおりアルバムはヒットすると思って3rdアルバムを出したとは思われます。
それが、このタイミングでこんなに大きな差が開くとは、想像の範囲外だったに違いありません。

 

というわけで、今回もBeau Hill(ボー・ヒル)のプロデュースにより、全10曲のアルバムが完成します。
僕の感じでは、1st、2ndからさらに円熟味を増した、ラットンロールが詰まっていると思います。

 

では今日は、1986年リリースの、RATT(ラット)の3rdアルバム、DANCING UNDERCOVER(ダンシング・アンダーカヴァー)をご紹介したいと思います。

DANCING UNDERCOVER(ダンシング・アンダーカヴァー)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、DANCE(ダンス)。

 

イントロのディレイのかかったギターリフで、完全に掴みはオッケーですね。
やはりあのディレイトリックが非常に印象的で効果的ですね。
その後のソロも非常にかっこよいです。

 

また歌メロもキャッチーで、サビ直前には再びディレイトリック。
そこからのサビも非常に判り易く聞きやすい
このちょうどいい感じのミドルテンポが、ラットンロールの真骨頂ではないでしょうか。

 

ほどよい感じのドライヴ感と、ハードなバンドサウンド
確かにいい曲だと思います。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第59位、同誌Mainstream Rockチャートで第36位を記録しています。

 

ちなみに、アメリカのドラマ、Miami Vice(マイアミ・ヴァイス)でも用いられています。

 

2曲目は、ONE GOOD LOVER(ワン・グッド・ラヴァー)。

 

ほとんど曲間なく、すぐさま次のミドルテンポのロック曲が始まります。
シンプルなギターリフで始まりますが、なかなかいいノリをしていますね。

 

サビの歌メロもキャッチーで、印象に残るメロディがありますね。
こんなフックのある曲も、彼ら自身による楽曲、というのがラットンロールの基本です。

 

ギターソロも軽快なソロを披露してくれています。
テンポは速くなくても、ドライヴ感で楽しませてくれます。

 

3曲目は、DRIVE ME CRAZY(ドライヴ・ミー・クレイジー)。

 

ここで少しスピードアップ。
高速とまでは行きませんが、疾走感のあるロックンロールを聞かせてくれます。

 

やはりこの曲の肝はイントロやサビ裏で聴けるギターリフでしょう。
少しずつ下がっていく音程のギターリフがシンプルながらも、この楽曲のいいノリを生み出しています。
こんなギターの音使いも、ラットならではのドライヴ感を作り出してますね。

 

ギターソロは、シンプルで(ロビンらしいです。)そんなに派手ではありませんが、楽曲全体のノリにはふさわしいソロになっています。

 

4曲目は、SLIP OF THE LIP(スリップ・オブ・ザ・リップ)。

 

こちらは堂々たるミドルテンポのロックソングです。
これもキャッチーでフックのあるラットンロールですね。
サビも耳に残る、いいフレーズだと思います。
ギターソロはウォーレンですが、楽曲にちょうどいいまさに80年代のハードロックのソロを披露していますね。

 

この曲はプロモーション用のシングルとしてカットされましたが、チャートインはしていません。

 

5曲目は、BODY TALK(ボディ・トーク)。

 

ギターのアルペジオで静かに始まりますが、次第にドラム、ベース、エレキが入ってきて、疾走感あふれるサウンドになっていくイントロが秀逸です。
Aメロでは、疾走するバックと逆にゆったり歌い始めるとこなんか、余裕が感じられて好きですね。

 

ウォーレンの弾きまくるギターソロも、問題なくかっこよいです。
メロディアスな速弾きをしっかりと披露しています。
非常にかっこいい楽曲だと思います。

 

この曲もプロモーション用のシングルとしてカットされましたが、チャートインはしていません。

 

ちなみに、エディ・マーフィーの映画、「The Golden Child(ゴールデン・チャイルド)」の挿入歌として用いられています。

 

6曲目は、LOOKING FOR LOVE(ルッキング・フォー・ラヴ)。

 

これはイントロのギターリフがこのアルバムで1番のお気に入りです。
ヘヴィで、疾走感のちょっと手前のミドルテンポで弾かれるノリのいいリフですね。

 

また、歌メロも非常に良く、サビもとっても好きですね。
この曲をシングルにしても面白かったのではないかと思います。
ギターソロはロビンが頑張って弾いています。
ウォーレンのソロよりシンプルですが、なかなか曲にマッチしたいいソロになっていますね。

 

とてもノリも良く、アルバムの中では僕の中で1番の推し楽曲になっています。

 

7曲目は、7TH AVENUE(セヴンス・アヴェニュー)。

 

再びミドルテンポのハードロックです。
取り立ててすごい楽曲ではないと思いますが、じわりと印象に残るサビメロなど、見るべき点もあります。
ギターソロが、ウォーレンではないかと思いますが、ちょっとブルージーに攻めています。

 

8曲目は、IT DOESN’T MATTER(イット・ダズント・マター)。

 

歯切れの良いAB歌メロがなんとも印象的な、これまたミドルテンポの楽曲です。
サビも、ちゃんとフックがあり、ラットの音世界の枠内でのロックを聞かせてくれていると思います。

 

目立ちませんが、決して悪くない楽曲です。

 

9曲目は、TAKE A CHANCE(テイク・ア・チャンス)。

 

ちょっとはねたノリのあるイントロのギターリフがいいですね。
ミドルテンポで、ゆったり楽しめるロックのような感じです。

 

ギターソロもゆったりブルージーな感じもあり、悪くないです。
アウトロでも、いい感じのメロディを奏で上げています。

 

ラスト10曲目は、ENOUGH IS ENOUGH(イナフ・イズ・イナフ)。

 

クリーントーンのカッティングによるイントロが印象的ですね。
そこにスティーヴンが、声を絞り出し、ドラムとベース、そしてエレキが入っていき、バンドサウンドへ。
やはりこの展開もとてもかっこよいです。

 

サビメロは、ちょっといまいちかなって思ったりしますが、全体として心地よく聞けるミドルテンポロックです。

まとめとおすすめポイント

1986年リリースの、RATT(ラット)の3rdアルバム、DANCING UNDERCOVER(ダンシング・アンダーカヴァー)はビルボード誌アルバムチャートで第26位、アメリカでは100万枚のヒットにとどまりました。

 

そして、その前の月にリリースされたボン・ジョヴィの3rdアルバム、ワイルド・イン・ザ・ストリーツはビルボード誌アルバムチャートで8週連続の全米No.1、売り上げは全米だけで最終的には1200万枚、世界中では2800万枚売れたとされる超モンスターアルバムとなったのです。

 

1st、2ndアルバムは共にラットの方が成績が良かったのですが、それぞれの3rdアルバムで一気に大逆転が生じてしまったのです。
なんでこんな天国と地獄のような差が生まれたのでしょうか。

 

僕が思うに、やはり一般向けのシングルヒットの有無は大きいのではないでしょうか。
ボン・ジョヴィは3rdアルバムから外部ライターを積極的に起用して、全米No.1ヒットを2曲も生み出しました。
一方、ラットは変わらずにほぼバンドメンバーによる作詞作曲を続けています。
そのためか、一般チャートでの大ヒットというわけにはいきませんでした。

 

まあ、ボン・ジョヴィの外部ライターの起用の是非については、賛否両論あるとは思いますが、大ブレイクの起爆剤になったのは間違いありません。
しかし、バンド自らでの楽曲にこだわったラットは、ブレイクすることはできなかったのが現実となっています。

 

では、ラットの方が作品の内容が劣っていた、ということでしょうか。
決してそのようにも思えません。
一般リスナーの間でヒットはしなかったもしれませんが、HR/HM好きな人には十分ウケるポテンシャルのあるアルバムだと思います。
やはり、彼らの楽曲はキャッチーで躍動感がある、ハードなノリが一貫して貫かれているのではないでしょうか。
前作以上に粒よりの楽曲が入っているとも感じます。
もちろん、ボン・ジョヴィのように、飛びぬけた売れ線の楽曲があるわけではありません。
でも、アルバムを通して聞けば、ラットンロールの勢い、楽しさを十分に味わえると思います。

 

あと、バラードがないのもラット流ですね。
まあ、スティーヴンの声がそれ向きでないのも大きな理由なのかもしれませんが、バラードをはさむことなく一気に聞けるのもラットのアルバムの魅力の一つと言えるでしょう。
当時の大ヒットハードロックアルバムの鉄則とも言える、パワーバラードを数曲混ぜる、という戦略などに彼らは見向きもしませんでした。
とにかくオープニングからラストまで、勢いのあるラットンロールを一気に聞かせてくれます。
その辺も他の多くのHR/HMと一線を画す、ラットの最大の特徴と言えるかもしれません。

 

ボン・ジョヴィにもモトリー・クルーにも置いていかれちゃいましたが、アルバム自体の内容は非常に優れたものになっていると思います。
スピード感あふれる軽快で痛快なロックンロールを聴きたいなら、ラットのアルバムはぜひともお勧めしたいと強く思います。

チャート、セールス資料

1986年リリース

アーティスト:RATT(ラット)

3rdアルバム DANCING UNDERCOVER(ダンシング・アンダーカヴァー)

ビルボード誌アルバムチャート第26位、アメリカで100万枚のセールス

1stシングル DANCE(ダンス) ビルボード誌シングルチャート第59位、同誌Mainstream Rockチャート第36位