傑作の呼び声高いプリンス流ファンクアルバム PRINCE AND THE REVOLUTION - PARADE(パレード)

前作からの流れ





1985年リリースのPRINCE AND THE REVOLUTION (プリンス&ザ・レヴォリューション)の7thアルバム、AROUND THE WORLD IN A DAY(アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ)はビルボード誌アルバムチャートでNo.1を獲得、そしてアメリカでは200万枚のヒットとなっています。

 

6thアルバムのPURPLE RAIN(パープル・レイン)からは大きく作風を変えて、サイケデリックな雰囲気をたたえたポップアルバムとして、セールスは悪かったものの、なかなか評価の高いアルバムになっています。
また、映画としても大ヒットとなったパープル・レインに続いて、自身2作目の映画、今回は監督として初の映画作りを始めます。

 

彼自身が監督、主演を務めながら、フランスを舞台に制作された映画Under the Cherry Moon(アンダー・ザ・チェリー・ムーン)は、興行的には失敗作となってしまいます。
高級リゾート地のフランス、ニースにやってきたピアニスト、Christopher Tracy(クリストファー・トレイシー)というジゴロが数々の女性を転がしていくうちに、大富豪の娘に本気の恋に落ちるというメロドラマが、全編モノクロで描かれています。
ちょっと時代遅れだったのか、もしくは、時代がプリンスについていけなかったのかわかりませんが、かなりの酷評を受けているようですね。
あの、ゴールデンラズベリー賞で、最低作品賞、最低主演男優賞、最低監督賞、最低助演男優賞、最低主題歌賞の5部門を受賞してしまっています。

 

まあ、映画は評価されませんでしたが、そのサウンドトラック的なアルバムは、映画とは真逆の評価を受けています。
今回も、バラエティ豊かな多様な音楽が詰まっています。
その中でも、ファンクの要素が中心になっているような感じですね。
プリンス流のファンクに、フランスを舞台にした映画のサントラということで、ヨーロッパの雰囲気も感じられるアルバムになっています。

 

では、今日は、1986年リリースの、PRINCE AND THE REVOLUTION (プリンス&ザ・レヴォリューション)の8thアルバム、PARADE(パレード)をご紹介したいと思います。

PARADE(パレード)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、CHRISTOPHER TRACY’S PARADE(クリストファー・トレイシーのパレード)。

 

いきなりのイントロに驚かされますね。
この不思議な音色のドラムがL Rチャンネルを行き来し、シンセとプリンスのシャウトで始まります。
ファンファーレとも言うべきホーンセクションがシンセでチープにプレイされますが、このチープさが彼の狙い通りなのでしょう。
このおもちゃ箱をひっくり返したような、楽しいパレードの雰囲気を見事に演出していると思います。

 

このクリストファー・トレイシーとは、映画の劇中でプリンスが演じた主人公のピアニストの名前です。
どんな流れで用いられたのかは、映画を見ていないのでわかりませんが、非常に印象的なオープニングになっていますね。
プリンスのヴォーカルに、いつものウェンディ&リサのコーラスが絡んで、プリンスの世界そのものです。
この楽しげな楽曲で、彼らのパレード、彼らの世界に一気に引き込まれる、ポップなのに力のある楽曲だと思います。

 

エンディングの少し前から、全体の演奏が不協和音的に聞こえてきて、次の曲につながっていくところが、単なるポップソングに終わらない彼らしい世界を表現しているとも思えます。

 

この曲は、プリンスの父親との共作になっています。

 

2曲目は、NEW POSITION(ニュー・ポジション)。

 

オープニングとほぼ同じリズムパターンから始まり、また不思議な音色が重なっていくファンクロックですね。
フライパンを叩いてるかのような打音が、いい感じで全編で聞こえてきます。
こんな音が聴けるアーティストって、僕は知りませんでしたね。
まさに、新しい音使いも含めて、プリンスの生み出すファンクミュージックは、常に新鮮な印象を持てます。

 

非常に無駄のない音の集合で、その隙間をうねうねと動き回るシンセベース音が耳に残ります。
プリンスの搾り出すサビと、ウェンディ&リサのコーラスも変わらずはまっています。

 

3曲目は、I WONDER U(アイ・ワンダー・ユー)。

 

間髪入れずに、というか曲間の切れ目なく曲は続いていきます。
前曲のファンクミュージックから、ゆったりとしたリズムに代わり、また新たなシンセ音が曲世界を作り出しています。
歌は、ウェンディが歌い、リサがバックでコーラスを歌っています。
1分半ほどの短い曲で、聴衆の笑い声が最初に入っていたりと、映画のサントラとしてのつなぎの楽曲のような雰囲気です。

 

中盤から入るカッティングギターがファンキーに挟まれています。

 

4曲目は、UNDER THE CHERRY MOON(アンダー・ザ・チェリー・ムーン)。

 

この曲もプリンスの父親との共作です。
ジャズミュージシャンであった父親の影響と思われますが、ジャジーなピアノが要所要所に挟まれたバラードです。

 

映画のタイトルトラックだけあって、モノクロのフィルムにぴったりとあうようなシンプルな楽曲になっています。
脱力した雰囲気の楽曲ですが、メロディはとても美しく、映像が迫ってくるような迫力があります。

 

5曲目は、GIRLS & BOYS(ガールズ&ボーイズ )。

 

前曲のしっとりとした雰囲気から、大きく転換して今度はファンクロックになります。
プリンスらしい、デジタルなビートにのせてたんたんと進んでいきます。
その合間にサックスとトランペットの低音が、さりげなく楽曲を飾っています。
ウェンディ&リサのバックコーラスも、プリンスの世界をいつものように飾り、これまたクセになる、独特のノリを生み出していますね。

 

中間部には、Marie Franceという女性歌手による、フランス語での誘惑のセリフが語られます。
その後、プリンスは短いラップを披露しています。

 

6曲目は、LIFE CAN BE SO NICE(ライフ・キャン・ビー・ソー・ナイス)。

 

不思議なドラムビートに乗って、プリンスのファンクロックが冴えてます。
もはやプログレッシヴともいえるのではないか、と思える音使いです。
ドラムスとカウベルはシーラEによるものですね。
これもまたサビ裏では、ディスコード(不協和音)と紙一重の演奏が響き渡ります。

 

1曲目のパレードと同じく、おもちゃ箱をひっくり返したような、にぎにぎしいファンクサウンドに圧倒されます。

 

7曲目は、VENUS DE MILO(ヴィーナス・ドゥ・ミロ)。

 

ミロのヴィーナスと名づけられたこの曲は美しいピアノ楽曲です。
映画で用いられたかはわかりませんが、ヨーロッパの雰囲気が漂います。
ピアノの重低音から始まりますが、じきに美しいメロディが奏でられていきます。
他のシンセの音も絡んで、ここまでのファンキーな流れとは全くの別世界を演出しています。
涼やかな楽曲でA面は終了です。

 

8曲目(B面1曲目)は、MOUNTAINS(マウンテンズ)。

 

ここで、力強いファンクビートの名曲が始まります。
プリンスのファルセットもぴたりはまっていて、地声とのコントラストが楽曲の幅を広げ、非常にうまく仕上がっていると思います。
ホーンセクションがところどころに加わり、ファンキーなノリをさらに深めています。
プリンス固有のシャウトもばっちりキマってます。

 

前作アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイで見せたサイケデリックな雰囲気も残る、これもまたプリンス流のファンクロックです。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャート第23位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第15位、Dance Club Songs チャートで第11位を記録しています。

 

9曲目は、Do U Lie?(ドゥ・ユー・ライ?)。

 

ここでまた大きく雰囲気は変わって、フレンチポップスの楽曲へ。
やはり映画の舞台がフランスということもあり、ご当地っぽい楽曲を入れてきました。

 

最初の女の子の語りによって、また完全にファンクの世界からヨーロッパの異世界に連れて行かれます。
このフランスの雰囲気で、優しいキュートな世界で歌うプリンスの声は、はっきり言って本当はミスマッチなのだと思います。
しかし、そんな外野の意見などにまったく関係なく、ファルセットも駆使してエモーショナルに歌い上げるプリンス。
そんなヴォーカルを聞けば聞くほど彼の世界にはまっていくのが、プリンスの魅力なのでしょう。

 

10曲目は、KISS(Kiss)。

 

これは強烈なファンキーソングですね。
もう、一度はまったら抜け出せない、中毒性のあるプリンスの代表曲の一つと言えるでしょう。

 

この曲はもともと1分ほどのアコースティックなデモ曲として始まります。
典型的なブルースコード進行のもので、プリンスはこの曲を、 Mazarati(マザラティ)というファンクバンドのデビューアルバムへと提供しました。
マザラティとプロデューサーの David Z(デヴィッド・Z)は、不要なもの全てをそぎ落とした最小限の音へと劇的に作り変えていきます。
そして出来上がった曲をプリンスに聞かせると、彼はその作品の出来に非常に驚き、楽曲を取り返すことに決めます。
ギターカッティングを加えたり、ヴォーカルを彼のトレードマークのファルセットヴォイスに変えたりして楽曲をブラッシュアップ。
極め付きは、ベースラインを取っ払って、ビートに抱かれてと同様、ベース抜きのファンクソングを作り上げました。

 

曲を取り返したのが、力づくだったのかわかりませんが、マザラティのバックヴォーカルはそのまま残され、きちんとクレジットも残っている様子から、円満なものだったのではと思われますね。

 

出来上がった楽曲は、無駄のない、最小限の音で非常に印象深いファンクソングとして仕上がりました。

 

イントロのカッティングギターによって一気に惹きつけられますね。
そこからは、非常にシンプルな演奏が続いていきます。
無機質なドラムマシンの強力なリズム、そして、わずかに聞こえるハイハット
また、静かに流れるキーボードサウンド。
その最小限の音の上で、得意なファルセットで歌い始めるプリンス。

 

大抵のファンキーソングでグルーヴ感を生み出すベース音はここでは聞こえません
雰囲気を変えるのは、シンセのコードチェンジのみになっています。
なので、非常にスッカスカの音世界で、プリンスが歌う、という曲構成になっています。
ギターカッティングと、ヴォーカルの表現力のみで最後の盛り上がりを見せ付けます。
超シンプルなのに、存在感は抜群という、天才プリンスの匠の業と言えるでしょう。

 

この曲は、パレードのアルバム制作において、最後の最後ギリギリに付け加えられた楽曲になります。
レコード会社は、この曲をシングルにすることは望んでいませんでしたが、自身3曲目の全米No.1ヒットとなり、グラミー賞 最優秀リズム・アンド・ブルース・パフォーマンス賞ヴォーカル入りデュオまたはグループ部門において見事受賞を果たしました。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで2週連続No.1、また同誌 Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートNo.1、 Dance Club Songs チャートNo.1、 Dance/Electronic Singles SalesチャートでもNo.1と、4冠を達成しておられます。

 

なお、この曲のNo.1により、プリンスがChristopher(クリストファー)名義でTHE BANGLES(バングルス)に提供したMANIC MONDAY(マニック・マンデー)が第2位にとどまった、という面白い現象も起きています。
作曲者プリンスとしてはシングルチャートでワンツー達成ですね。

 

11曲目は、ANOTHERLOVERHOLENYOHEAD(アナザー・ラヴァー)。

 

このタイトルは、U need another lover like u need a hole in yo head”というサビの部分をくっつけて作った言葉です。

 

さびれた雰囲気のギターソロのイントロが、哀愁感を漂わせます。
そこから始まるのは、じわじわと盛り上がるポップな楽曲です。
こっちは前曲とはうって変わってベースラインがとても目立ちますね。

 

中盤からはストリングスが使われていたり、軽やかなピアノの音色がフィーチャーされていきますが、全体としては地味なファンクロックです。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャート第63位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第18位、Dance Club Songs チャートで第21位を記録しています。

 

ラスト12曲目は、SOMETIMES IT SNOWS IN APRIL(スノウ・イン・エイプリル)。

 

ウェンディのギター、リサのピアノ、そして二人のバックヴォーカルによって美しく飾られたプリンスの珠玉のバラードです。

 

この曲は、映画の主人公のトレイシーの死について語られる内容となっています。
その死を悼み、悲しみ、そしていつか天国で再び会えると歌ってます。

 

そしてサビの部分では、

Sometimes it snows in April(時には4月に雪が降り、)
Sometimes I feel so bad(特には後悔もする。)
Sometimes I wish that life was never ending(時には人生が終わりを迎えなければと願うけど、)
And all good things, they say, never last(どんな良いことも、長続きはしないらしい。)

と歌われています。

 

誰もに訪れる人生の終わり、というものがトレイシーにも訪れました。
しかしそれを悲しみながらも、天国での再会を願うという希望の歌ともなっています。

 

この曲は 2016年のまさに4月の21日に急死したプリンスの突然の訃報を受けて、多くの注目を集めた曲となりました。
トレイシーを失った悲しみと、再び天国で再会する、という希望の歌が、プリンスを失ったリスナーの気持ちにちょうどオーバーラップしたと思われますね。

 

アルバムのここまでのファンキーなノリとは一線を画す、メロディアスで美しいバラードです。
映画のサウンドトラックとして、美しいラストを飾っていると思いますね。
ウェンディとリサによる最小限の演奏に乗せられる、プリンスのエモーショナルなヴォーカルが秀逸です。
優しく感傷的なヴォーカルと、ウェンディとリサによるバックコーラスで、感動的な楽曲になっています。

 

映画を見終わったかのような、印象的なアルバムのエンディングになりました。

まとめとおすすめポイント

1986年リリースの、PRINCE AND THE REVOLUTION (プリンス&ザ・レヴォリューション)の8thアルバム、PARADE(パレード)はビルボード誌アルバムチャートで第3位、アメリカの売り上げは100万枚となっています。

 

前々作などと比べると、商業的には大成功とは言いがたい成績となっています。
これは、一つには映画が興行的に失敗したことにひきずられているのかもしれません。
しかし、酷評された映画とは異なり、このアルバムは音楽的にかなりな高評価を得ています。

 

やはり先鋭的なプリンスの才能がつまっていると感じますね。
前作 アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ はサイケデリックな世界がテーマとして用いられていましたが、今回は映画と、その舞台であるフランスがテーマになっていると思います。
そんなヨーロピアンな雰囲気もたたえつつも、他のアーティストとは一線を画する、彼独自のファンクミュージック
やはり、毎度の事ながら、彼の斬新な音使いに圧倒される作品だと思います。

 

とりわけKissで見せた革命的な音使い
ゴージャスな音で厚みのあるアレンジの音楽が象徴的な80年代中期に、最小限の音で見事に新たなファンクミュージックを作り上げたと思います。
まさに、天才としか言いようがありません。

 

僕の中では、ジャンルは違いますが、この音使いからは翌年の大ヒット曲、George Michael(ジョージ・マイケル)のFAITH(フェイス)を思い出します。
そちらも、非常にそぎ落とされたシンプルな音使いで最高峰のポップスを作り上げています。
プリンスの、この無駄なものを除いた潔いアレンジが強い影響を与えたのではないかと僕は感じています。

 

アルバム自体も、バラエティに富んでいますが、ファンクとロックの融合が中心となっていると思えます。
一応映画のサントラ、という側面が、曲調の豊かなバリエーションにつながっているのでしょう。
しかし、どれもプリンスの強烈な個性が、唯一無二の楽曲に仕上げています。

 

アルバムとしての完成度は非常に高い作品ですが、本人はKiss以外あまり評価していないようですね。
恐らく、映画を酷評された経験がトラウマになっているのでしょう。
しかし、本人の主観を抜きにしても、アルバムを通して映像を見てるかのようにしっかり楽しめる名盤になっていると思います。

 

時代の最先端のファンクロックにヨーロッパの香りが漂うプリンスの独奏的なこの一枚も、やはり聞いておくべき作品だと思います。

チャート、セールス資料

1986年リリース

アーティスト:PRINCE AND THE REVOLUTION(プリンス・アンド・ザ・レヴォリューション)

8thアルバム、PARADE(パレード)

ビルボード誌アルバムチャート第3位 アメリカで100万枚のセールス

1stシングル KISS(Kiss) ビルボード誌シングルチャート2週連続No.1、Hot R&B/Hip-Hop SongsチャートNo.1、Dance Club SongsチャートNo.1、Dance/Electronic Singles SalesチャートNo.1

2ndシングル MOUNTAINS(マウンテンズ) シングルチャート第23位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャート第15位、Dance Club Songs チャート第11位

3rdシングル ANOTHERLOVERHOLENYOHEAD(アナザー・ラヴァー) シングルチャート第63位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャート第18位、Dance Club Songs チャート第21位