全くの別世界が開けた PRINCE AND THE REVOLUTION - AROUND THE WORLD IN A DAY
前作PURPLE RAINからの歩み
1984年リリースの、プリンスの6thアルバムPURPLE RAIN(パープル・レイン)は世界で2500万枚売り上げたモンスターヒットとなりました。
また、自身の自伝的な内容の同名映画パープル・レインも大ヒット。
6800万ドルの興行収入を得ます。
この莫大な成功と、それに伴う過剰な露出に疲れてきたプリンスと彼のバンドは、ツアーの間中レコーディングを続けています。
すぐに次の作品を作ることによって、イメージと音楽の方向性を変えようと計画したのでした。
そして金になるツアーを早々に切り上げ、前作から1年経過する前にニューアルバムをリリースすることになります。
また、このニューアルバムには先行シングルがなかったし、前もっての宣伝もされなかったのでした。
当時、シングルがPAISLEY PARK(ペイズリー・パーク)になるか、RASPBERRY BERET(ラズベリー・ベレー)になるか、決まらないでシングルが出ない、という変わった状況になっていたはずです。
僕は、弟がLPアルバムを購入していたので、いち早くアルバムを聞いていたのだが、「早く出せば、全米No.1も取れるのに、なにやってんだろ」、って思ったことを覚えている。
結局アルバムが出てから約1ヵ月後に、ラズベリー・ベレーはシングルとしてリリースされ、第2位を獲得している。
ほら、早く出してれば1位とれたのに、と僕は思った。
結局、今になって整理してみれば、もはやこのとき既にプリンスはチャートやセールスに大きな関心を持っていなかったということでしょう。
早くシングルを出して一位を狙うとかそんな小さなことは、もはやプリンスにとってどうでもいいことだったのだ。
それよりも彼の当時の関心事は、自らのレーベルの立ち上げのほうだったと思われます。
「パープル・レイン」で得た収益で、プリンスは独自レーベルであるペイズリー・パーク・レコードを設立したのだ。
レコード会社との契約のしがらみをいやがった彼は、自身でレーベルを立ち上げることによって、より自由な音楽活動を目指したのです。
その第一弾が、今回紹介するアルバム、ということになります。
今回のアルバムは、前作とは全く作風を変えてきました。
パープル・レインで見せたのは、基本的にロックサウンドだったが、今回はサイケデリック・ミュージックに大きく影響されたものでした。
今日は大きく作風を変えてきた、1985年リリースのPRINCE AND THE REVOLUTION (プリンス&ザ・レヴォリューション)の7thアルバム、AROUND THE WORLD IN A DAY(アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ)をご紹介します。
AROUND THE WORLD IN A DAY(アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、AROUND THE WORLD IN A DAY(アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ)。
エキゾチックな雰囲気と、強烈なシャウトでアルバムは幕を開けます。
もはや、イントロだけでまったく前作と異なっていることを強烈に思い知らされます。
曲が進むにつれ、前作では聴く事のなかった、いろんなカラフルな音たちが、このアルバムを彩っているのに気付けます。
クレジットを見ると、チェロ、ウード(リュートの一種、アラブの音楽で用いられる)、フィンガーシンバル、ダラブッカ(膜鳴楽器に分類される打楽器、アラブやトルコ音楽で用いられる。)やタンバリンなど、多くの楽器が用いられている。
もちろん中近東のサウンドだけで、世界一周ってわけではないが、何か、異国に連れて行ってくれる感じのする楽曲になってます。
この曲の共作者のクレジットで、プリンスの父親の名前が入ってるのがいいですね。
映画では、親子の葛藤も描かれてましたが、こうして親孝行してる様子を知るのは心温まります。
アルバムジャケットはサイケデリックな雰囲気をたたえたものとなっていましたが、それとこの1曲目を聴くだけで、プリンスが全く違う世界を生み出したことを知ることができます。
2曲目は、PAISLEY PARK(ペイズリー・パーク)。
自らの立ち上げたレーベルにその名前を冠するほど、プリンスはこの楽曲に思い入れがあったのだろうか。
この曲は、ラズベリー・ベレーと共にアルバムからの1stシングル候補としてあげられていたが、結局アメリカではラズベリー・ベレー、ヨーロッパとオーストラリアではこの曲が1stシングル、というふうに分けられたようだ。
僕はどう聴いても、正統派のポップソング、ラズベリー・ベレーの方がいいと思ってたのだが、このペイズリー・パークもじわじわと魅力を発揮してきた。
やはりサイケデリックな雰囲気は、十分に感じられる。
まあ、僕はサイケミュージックはほとんど通ってきてないので、雰囲気感じられるだけですけど。
このかったるい感覚、サイケってこんな感じなのでしょう。
後半のプリンスのギターソロがかっこいいです。
そしてこの曲は、パープル・レインの完成前に既にレコーディングされていたようです。
あのアルバムと同時にこんな楽曲を作っていたなんて、彼の才能のキャパの広さに驚かされます。
また、ヴァイオリンと、ウェンディとリサによるバッキングコーラス以外は全て、プリンス一人での演奏による録音となってます。
何とも不思議な魅力のあるサイケポップソングとなっています。
3曲目はCONDITION OF THE HEART(コンディション・オブ・ザ・ハート)。
長いイントロではドラマティックなピアノが披露されています。
少し大げさな盛り上がりを経て、シンプルなピアノコードとともにプリンスが得意のファルセットで歌いだします。
とても美しいメロディが歌い上げられています。
エモーショナルな力強いヴォーカルも彼の魅力となってます。
後半の彼の魂の叫びも決してうるさくなく、感動的な楽曲となっています。
4曲目はRASPBERRY BERET(ラズベリー・ベレー)。
これはとてもすばらしいポップソングです。
プリンス史上、最高のポップソングかもしれません。
この曲はもともと1982年にはレコーディングされていました。
が、今回、バンドと共に劇的に作り直されました。
デジタルビートのリズムに乗って、軽快に楽曲は進んで行きます。
その合間で聴こえるタンバリンの音が軽やかさをさらに増してます。
加えて、ヴァイオリンやチェロ、といったストリングスが、さらにいい味を出しています。
そして、プリンスの歌とからむウェンディとリサのコーラスもあり、非常にほのぼのした雰囲気がかもし出されてます。
パープル・レインで見せたのはロックスターの顔でしたが、今回はポップスターとして輝きを放っています。
この曲はアルバムリリースの約1ヶ月後に発売されて、ビルボード誌シングルチャートで第2位、同誌Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第3位、同誌Dance Club Songsチャートで第4位を獲得しています。
何度も言いますが、先行シングルとして出しておけば、第1位を間違いなくとっていたはずだと、僕は考えています。(僕は小さな人間です。)
5曲目はTAMBORINE(タンバリン)。
イントロから軽快なドラム音で、恐らくタンバリンなどがきらきら楽曲を飾ってます。
すごいシンプルなメロディですが、リズムのせわしない感じが非常にいいです。
後半はほぼ同じメロディをなぞりますが、ヴォーカルが一変します。
狂気に満ちたプリンスのヴォーカルとシャウト。
表現力という点は際立ってますね。
この暴走感もプリンスの魅力を引き立てるものとなっています。
6曲目はAMERICA(アメリカ)。
これはこのアルバム中、唯一のロックンロールソングだ。
エレキギターのリフと、フルートのサウンドが全編で印象深く用いられています。
ロック王道のエイトビートだが、プリンスのヴォーカルによりやはり独特の雰囲気をかもしだしてます。
アルバム中、一番にお気に入りになるようなわかりやすい楽曲となってます。
パープル・レインの続編のような内容を期待してた人にとって、唯一受け入れられたのがこの曲ではないでしょうか。
この曲はアルバムからの3rdシングルとしてリリースされ、シングルチャート第46位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第35位を記録しました。
7曲目はPOP LIFE(ポップ・ライフ)。
シンセのフェイドインに続いてすぐにメインのリズムが始まる。
ベースとピアノの音が全編で楽曲を装飾してます。
また、この曲のドラムはSheila E(シーラE)が担当。
その音にドラムマシンでクラップサウンドが加えられているので、非常にダンサブルな楽曲になってます。
この曲もパープル・レイン完成前にレコーディングされていた、ということで、彼の多彩さが感じられます。
これまた最高のポップセンスの発揮されたプリンス印のポップソングとなっています。
非常に軽快でノリのいい曲に、独特のプリンスのヴォーカルが乗ると、唯一無二のプリンスの作品になります。
ウェンディとリサのバックヴォーカルも、楽曲を素敵な色に色づけています。
この曲はアルバムからの2ndシングルとしてリリースされ、シングルチャートで第7位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第8位、Dance Club Songsチャートで第5位を獲得しました。
8曲目はTHE LADDER(ザ・ラダー)。
これも父親との共作になってます。
パープル・レインを思わせる、シンセの使い方や、冒頭の語りである。
今回はサクソフォンが、なかなかいい味を出してます。
語りが終わってからのメロディは秀逸です。
バックコーラス共に美しく歌い上げています。
中盤を過ぎると、どんどん盛り上がっていきます。
この辺のヴォーカルの盛り上げ方が、プリンス独特のシャウトも混ぜながら非常にうまいですね。
しっとりとした、しかし最後は大きく盛り上がる楽曲になってます。
アルバムラストはTEMPTATION(テンプテーション)。
強烈な、ディストーションたっぷりのギターリフで始まる、ルーズなロックソングだ。
サックスが適度に入り、ジャズっぽい響きも感じられます。
しかし、後半はsexual temptation(性的誘惑)に関してプリンスが告白を始めます。
そして悔い改めるまで、一人芝居の語りが続きます。
もはやこの辺は曲とは言えない感じで、そのまま曲のエンディング、ひいてはアルバムの幕が下ろされます。
何か、置いてけぼりのまま、あっと言う間に終わった感があります。
まあ、終わったんです、このアルバム。
まとめとおすすめポイント
1985年リリースのPRINCE AND THE REVOLUTION (プリンス&ザ・レヴォリューション)の7thアルバム、AROUND THE WORLD IN A DAY(アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ)はビルボード誌アルバムチャートでNo.1を獲得しています。
そしてアメリカでは200万枚のヒットとなっています。
アメリカで1300万枚、世界で2500万枚を売った、前作パープル・レインから比べると、かなりちっぽけなヒットになっています。
しかし、冒頭でも述べたように、彼はもはや売り上げを意識することをすでにやめていたように感じられます。
売り上げだけを意識するのであれば、きちんと定石どおり、先行シングルをヒットさせたり、前作の音楽性をさほど変えずにいけばよかったはずです。
そうすれば、前ほどではなくても、かなりな大ヒットは期待できたはずです。
しかし、今回プリンスは、全くの別物となるアルバムを生み出したのです。
ロックオリエンテッドだった前作とはがらっと雰囲気を変え、サイケデリックミュージックの影響を受けたポップソングのつまったアルバムを作ってきたのです。
アルバムのジャケットからも、サイケの影響を十分に感じられます。
そしてもちろん、音楽的にもサイケデリックな作風が随所に見られるアルバムとなりました。
また、驚きなのが、このアルバム収録曲の大半はパープル・レイン制作の頃、既に存在していた、という事実です。
ほぼ同時に、これほどカラーの違う楽曲を生み出していたとは、やはりプリンスが天才と呼ばれるだけの才能をもっていることを印象付けてくれます。
アルバムが大ヒット後の次の作品は勝負の作品となる、というのは一般的なことです。
得られたリスナーを離さないように、あまり冒険できないのが通常のミュージシャンだ。
しかし、そこで、これほど劇的に音楽性を変えるとは、よほどの自信がなければ普通の人はできないだろう。
だが、プリンスはそれをさらっとやってのけたのである。
好きな人だけ、ついてくればいい、とでも言っているかのようである。
彼の才能は尽きることなくこの後も数多くのアルバムを驚異のペースで生み出していくが、このアルバムほど前作から全く別の世界に飛び込んだものはないと言えるだろう。
そして、セールスは落ちたとは言え、今でも高い評価を得られているアルバムでもある。
実際、優れたポップソングがたくさん散りばめられていると僕も思います。
プリンスの、世間を驚かせたバラエティに富むポップアルバム、おすすめの品となっております。
チャート、セールス資料
1985年リリース
アーティスト:PRINCE AND THE REVOLUTION (プリンス&ザ・レヴォリューション)
7thアルバム、AROUND THE WORLD IN A DAY(アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ)
ビルボード誌アルバムチャートNo.1 アメリカで200万枚のセールス
1stシングル RASPBERRY BERET(ラズベリー・ベレー) ビルボード誌シングルチャート第2位、同誌Hot R&B/Hip-Hop Songsチャート第3位、同誌Dance Club Songsチャート第4位
2ndシングル POP LIFE(ポップ・ライフ) シングルチャートで第7位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第8位、Dance Club Songsチャートで第5位
3rdシングル AMERICA(アメリカ) シングルチャート第46位、Hot R&B/Hip-Hop Songsチャートで第35位