またも戦略ミスか なかなかの名盤なのに・・・ NIGHT RANGER - MAN IN MOTION(マン・イン・モーション)

前作からの流れ





1987年リリースの、NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)の4thアルバム、BIG LIFE(ビッグ・ライフ)はビルボード誌アルバムチャートで第28位、アメリカでのセールスは50万枚となり、彼らのワースト記録を打ち立ててしまいました。

 

その理由は幾つかあると思いますが、やはり根本的にあるのは、ファンの期待との乖離(かいり)が非常に大きいのではないでしょうか。
僕もそうですが、多くのナイト・レンジャーのファンが望んでいるのは、1stや2ndアルバムで見せた、あの痛快なハードロックではないでしょうか。

 

ところが、レコード会社はSISTER CHRISTIAN(シスター・クリスチャン)の大ヒットを受けて、バラードでバンドをプッシュするようになります。
そのため、産業ロック、とかバラードバンド、といった、彼らの望まないレッテルを貼られてしまったわけです。
もちろん、彼らのバラードは一級品であることは間違いないわけですが、それがメインにされると、ちょっと違うのかな、と考えてしまいますね。
こうして、ファンは遠のき始めてしまった、ということではないかと思っています。

 

そうした状況を踏まえて、バンドは次のアルバムではよりハードなロックを目指して制作に入ります。
ところが、そのために出番の減ったように感じたキーボードのAlan Fitzgerald(アラン・フィッツジェラルド)がレコーディング中に脱退することになりました。
バンド結成時からのオリジナルメンバーから、初の脱退者が出たわけです。
ヒゲとグラサンでおなじみのキーボードが抜けるのは、ちょっと寂しい気がしましたね。

 

結果、Jesse Bradman(ジェシー・ブラッドマン)という人が代役でキーボードを弾いています。
当然ながら、代役であるゆえにキーボードは以前ほど目立たず、ギターオリエンテッドな作品に仕上がっていくことになりました。

 

そして、アルバムは完成し、全9曲でリリースする運びになっていたのですが、ここでまたもレコード会社の圧力が。
アルバムにバラード曲がもう少し必要と考えたレコード会社により、2曲が追加されることになりました。
それが吉となるのか、凶となるのか、とにかく、アルバムは完成しリリースされることになります。

 

では今日は、1988年にリリースされた、NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)の5thアルバム、MAN IN MOTION(マン・イン・モーション)をご紹介したいと思います。

MAN IN MOTION(マン・イン・モーション)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、MAN IN MOTION(マン・イン・モーション)。

 

ドラムの連打から始まる、堂々としたロックソングです。
今回は、ちょっとこれまでの流れとは異なるのでは、という期待を抱けるイントロとなっています。
ナイト・レンジャーにしては、やはりキーボードが控え目というのにもすぐに気づけます。
その分、ギターリフがとても目立ちますね。

 

いきなりドラムのKelly Keagy(ケリー・ケイギー)のメインヴォーカル曲になっています。
彼の声は力強くて、オープニングのロックソングには合っていると思います。
サビはちょっと平坦ではありますが、いつもどおりのメンバーによるコーラスが入って、ナイト・レンジャーらしい爽快感が味わえますね。

 

ギターソロ前半は、Brad Gillis(ブラッド・ギルス)です。
お得意のアーミングをいっぱい使って、エモーショナルなプレイ&速弾きを見せてくれます。

 

そしてギターソロ後半は、Jeff Watson(ジェフ・ワトソン)で、8フィンガー奏法(親指を除く両手タッピング)をキメてくれます。
使い道の応用が難しい奏法と思うのですが、毎回進化したプレイを見せてくれます。

 

このツインギターこそ、ナイト・レンジャーの大きな魅力の一つと言えますが、オ-プニングでがっつりと聴かせてくれますね。

 

もう少し、パンチの効いた曲がオープニングに来るともっと良いと思われますが、ナイト・レンジャーの魅力はしっかり伝わってくる曲になっています。

 

2曲目は、REASON TO BE(リーズン・トゥ・ビー)。

 

ジェフの12弦アコースティックギターによるストロークが、なんとも言えず爽やかなイントロになっています。
そして、それに絡むブラッドの温かいソロメロディが、とても美しいです。

 

この曲もケリーがメインヴォーカルで、Jack Blades(ジャック・ブレイズ)はハモリパートで曲を盛り上げています。
前半はアコースティックなバラード調ですが、ヘヴィなギターリフとともに途中からバンドサウンドに変わって非常にかっこよいハードロックになります。

 

ギターソロは、ブラッドです。
やっぱり、彼のアームコントロールは抜群ですね。
アームを揺らして微妙なニュアンスをつけることで、一層ソロメロディがエモーショナルなものになりますね。
コンパクトですが、素晴らしいソロだと思います。

 

ラストは、もう一度アコースティックになり、静かに曲が終わります。
なかなか、いい曲ではないでしょうか。

 

3曲目は、DON’T START THINKING (I’M ALONE TONIGHT)(ドント・スタート・シンキング)。

 

キーボードをバックにエレキのソロメロディが流れるイントロは秀逸ですね。
バラードのように始まりますが、サビまでに盛り上がっていき、ミドルテンポの爽快な楽曲になっていきます。

 

ここで、初めてジャックがメインのヴォーカルを取っています。
やはり彼の声は安心して聴けるナイト・レンジャーらしい声ですね。

 

ギターソロはジェフです。
これもコンパクトですが彼らしい速い上昇フレーズを奏であげてます。
そして、アウトロでも最後までジェフがたっぷり弾きまくっております。

 

とても爽やかでキャッチーな楽曲ですね。

 

4曲目は、LOVE SHOT ME DOWN(ラヴ・ショット・ミー・ダウン)。

 

アコギの高速アルペジオで始まり、一気にかっこいいロックスタイルの楽曲に変貌します。
やはり、キーボードが前面に出てこない分、ギターの働きが目立ちます。
ギターリフが、とても軽快でかっこいいです。
また、ギターもブラッドからジェフへと、二人で弾き分けているようですが、非常にスリリングで、いいソロになっています。

 

5曲目は、RESTLESS KIND(レストレス・カインド)。

 

この曲は、レコード会社によりリリース前に追加されることになった2曲のうちの一曲です。
とても素敵なパワーバラードになっていますね。

 

ケリーの力強いヴォーカルと、メンバーによるコーラスが美しすぎます。
また、ギターソロの、掛け合いとハモリとが、非常に美しい間奏になっています。
時代が時代なら、シングルとして大ヒットしたのではないかと思える素晴らしい楽曲です。

 

レコード会社から言われたからといって、簡単にこんな曲は普通は書けないでしょう。
でもそれをやってのけるから、ナイト・レンジャーはすごいと思います。
ただ、そうした能力ゆえに、間違った戦略に乗ってしまうことになるのが、皮肉です。

 

6曲目は、HALFWAY TO THE SUN(ハーフウェイ・トゥ・ザ・サン)。

 

アルバムの中では、かなりハードなロック方面の曲になっています。
そして、ギターオリエンテッドな作品で、2人のギタープレイには要注目です。

 

いきなりイントロから、ジェフの8フィンガー奏法が炸裂です。
歌メロが、セヴン・ウィッシィーズっぽいメロディになっているのはご愛嬌です。

 

ギターソロも当然のようにたっぷりあります。
まずは、ブラッドが絶妙なアーミングを交えてソロスタートです。
そして、ハーモニクス音を連続で奏で、最後はトリルとアーミングの合わせ技でジェフへ引き継ぎます。
ジェフは8フィンガー奏法で、独特のトリッキーなメロディを奏であげます。

 

そして、間奏の後半ではツインギターによるコーラスメロディです。
やはり、この二人のプレイは素晴らしいですね。

 

7曲目は、HERE SHE COMES AGAIN(ヒア・シー・カムズ・アゲイン)。

 

この曲には、共作者としてMichael Bolton(マイケル・ボルトン)などの名前が連なっています。
そのためか、ちょっとアダルティな雰囲気が見られます。

 

ギターリフの目立つ楽曲ですが、ポップなテイストたっぷりです。
とてもキャッチーで聞きやすいですね。
ギターソロは、ブラッドでしょう。
アーミングをたっぷり使った、ポップな楽曲に合ったソロを披露しております。

 

8曲目は、RIGHT ON YOU(ライト・オン・ユー )。

 

イントロのアームアップからのワイルドな始まりがイカしてますね。
なかなかの力強いロックソングで、ケリーのヴォーカルもパワフルです。
サビはちょっと弱い気がしますが、けっこう爽快な楽曲です。
ジェフによるギターソロは、派手ではありませんが味があっていいと思います。

 

9曲目は、KISS ME WHERE IT HURTS(キス・ミー・ホエア・イット・ハーツ)。

 

前の曲からさらに疾走感を増す感じの流れがいいですね。
イントロのツインギターが、初期のバンドの楽曲を思い出させるかっこよいものとなっています。
やっぱりこんなノリこそがナイト・レンジャーって感じがします。
ギターソロではブラッドの高速速弾きが楽しめます。
彼の場合、ただの速弾きだけでなく、そこにアーミングを絡めて音にニュアンスを付ける所が大きな特徴になっていますね。
なかなか痛快なギターソロだと思います。

 

10曲目は、I DID IT FOR LOVE(フォー・ラヴ)。

 

レコード会社により、後から追加された2曲のうちのもう一つの曲です。
イントロがサバイバーっぽいシンセスタートです。
そこに絡むブラッドの、アーミングで絶妙にコントロールされたギターメロディが哀愁を誘います。

 

アルバム中、この曲だけが、完全に外部ライターによる楽曲となっています。(ラス・バラード作)
完全にシングルヒット狙いで入れられた楽曲ですね。
当然のように、そのような曲をナイト・レンジャーは見事にいい曲に仕上げてきます。
ケリーの熱いヴォーカルもいいですし、アランに代わる新しいキーボーディストも、美しいシンセで楽曲を飾っています。
ギターソロは、ジェフによるものですが、ゆったりとしたメロディを奏であげ、最後の一瞬だけ高速両手タッピングを混ぜて、このバラードにぴったりのソロを披露しています。
アウトロのサビの裏でのギターソロプレイも秀逸です。

 

もう、バラードとしては文句のつけようがないほど良くできてると思います。
が、ナイト・レンジャーとしては、ちょっと普通すぎるのかもしれません。
そして、シングルヒット狙いで加わった楽曲、ということもあって、世間の評価は厳しいものでした。

 

このアルバムの先行シングルとしてリリースされたのですが、ビルボード誌シングルチャート第75位、同誌Mainstream Rockチャートでかろうじて第16位という、先行シングルとしては悲惨な結果を刈り取ってしまいました。

 

全然悪い曲ではありませんが、僕は、結局前のアルバムでもそうだったように、レコード会社の戦略が悪かったと思います。
手っ取り早いヒットを狙ったため、アルバムのセールスにも大きく悪影響を及ぼしてしまったのです。

 

アルバムラストは、WOMAN IN LOVE(ウーマン・イン・ラヴ)。

 

ラストは、なかなか爽快なロックンロールになっています。
イントロは変則なドラムや、ヴァイオリン奏法、キーボードなど、ちょっと凝った作りになっていますが、すぐにドライヴ感あふれる楽曲に変わります。
その変化の瞬間は非常にいいのですが、どうも、サビが弱い感じですね。
でも、ナイト・レンジャーらしい楽曲で決して悪くないです。

 

まあ、ラストがロックンロールソングでよかった、と胸をなでおろしながらアルバムは幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1988年にリリースされた、NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)の5thアルバム、MAN IN MOTION(マン・イン・モーション)はビルボード誌アルバムチャートで第81位、売り上げも、アメリカで50万枚に達しないという、前作に続いてワースト記録を更新してしまいました。

 

1988年、ということで、まだ、80年代の雰囲気まっさかりだったはずで、彼らの音楽性が飽きられるような時代ではなかったのではないか、と思われます。
にも関わらず、これだけの悪成績に終わったのは、ひとえにレコード会社の戦略ミスだと、僕は強く感じます。
今回の作品は、もともとハードな方向性で作られていたわけですが、レコード会社は2曲の追加を要求します。
RESTLESS KIND と I DID IT FOR LOVE です。
どちらも、パワーバラードとして非常に良い出来だとは思います。
その辺の料理の仕方は、ナイト・レンジャーもお手の物です。
しかし、せっかく、今回ハードな方向性でアルバムを作っていたのが、これでチャラになってしまいました。

 

少なくとも、先行シングルとしてはMAN IN MOTIONのようなロックソングを出して欲しかったですね。
シングルチャートでのヒットは狙わず、ロックチャートのチャートインだけでも、アルバムへの期待を高めるプロモーションになったはずです。
その後に、I DID IT FOR LOVEなどのバラードを出すだけでも、結果は変わっていたのではないでしょうか。

 

しかし、いきなりのバラードシングル、I DID IT FOR LOVE不発に終わり、他のシングルを出すも、アルバムのセールスを促進することはありませんでした。

 

この結果、アルバムのプロモーションツアーの後、ジャックはバンドを脱退
Damn Yankeesの結成に向けて動き出します。
そのため、ナイト・レンジャー自体も活動停止に追い込まれることになりました。

 

これほど売れなかったアルバム、MAN IN MOTION(マン・イン・モーション)ですが、内容が悪かったかと言えば、決してそうでもない、と僕は思っています。
相変わらずのナイト・レンジャーらしい楽曲であふれています。
ジャックとケリーの2種類のヴォーカルも冴えてますし、メンバーによるコーラスも楽曲に彼ららしい爽やかさを与えています。
アラン脱退もあり、キーボードが抑え気味になっているとはいえ、適度に楽曲を色づけて80年代らしいフレイバーを加えています。
そして、何と言っても、ジェフとブラッドの、非常にキャラクターの異なる2種類のギタープレイは健在です。
やはりこのツインギターこそ、ナイト・レンジャーの音を他と異ならせている最大の特徴ではないでしょうか。

 

ただ、良曲は非常に多く、クオリティも高くなってはいるのですが、これ!といった飛び抜けた強力な曲がないのは否定できません
佳曲ぞろいで、平均点は高いのですが、極めつけのナンバーがあるかというと、ちょっと見当たりません。
そこが非常に惜しいとこですね。
1stのDON’T TELL ME YOU LOVE ME(ドント・テル・ミー・ユー・ラヴ・ミー)や、2ndの(YOU CAN STILL)ROCK IN AMERICA(ロック・イン・アメリカ)のような、パンチのある曲が入ってると、アルバム全体の印象も変わっていたかもしれません。

 

とはいえ、彼ららしい良い曲は詰まっていますので、僕は結構好きですね。
売れなかったアルバムですが、メロディアスな楽曲と、職人技のプレイなど聴くべきところはたくさん詰まっています。
80年代ハードポップ好きには、十分に楽しめる一枚になっていると思います。

チャート、セールス資料

1988年リリース

アーティスト:NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)

5thアルバム、MAN IN MOTION(マン・イン・モーション)

ビルボード誌アルバムチャート第81位

1stシングル I DID IT FOR LOVE(フォー・ラヴ) ビルボード誌シングルチャート第75位、同誌Mainstream Rockチャート第16位を記録

RESTLESS KIND(レストレス・カインド)、DON’T START THINKING (I’M ALONE TONIGHT)(ドント・スタート・シンキング)、REASON TO BE(リーズン・トゥ・ビー)の3曲がシングルカットされているようですが(順不明)、いずれもチャートインせず。