技巧派メタルバンドの安定の2ndアルバム WINGER - IN THE HEART OF THE YOUNG

前作の成功からの歩み





1988年リリースの、WINGER(ウィンガー)の1stアルバム、WINGER(ウィンガー)は、ビルボード誌アルバムチャート第21位を獲得、アメリカで100万枚を売り上げました。
デビューが80年代末期ということになりましたが、それを踏まえてもなかなか健闘したのではないでしょうか。

 

彼らの人気を獲得した理由の一つとして、やはりフロントマンでベーシストのKip Winger(キップ・ウィンガー)の色気たっぷりのヴォーカルがあげられるに違いありません。
PVで見せる彼のワイルドなルックスと、搾り出すような激しいヴォーカルは非常にバンドに魅力を与えていると思います。

 

それに加えて、キーボードのPaul Taylor(ポール・テイラー)、ギタリストのReb Beach(レブ・ビーチ)とドラムスのRod Morgenstein(ロッド・モーゲンスタイン)が非常にテクニカルなプレーヤーたちで、ハードロックにプログレッシヴ要素を加えた、高度な技術集団としてのプレイも堪能できます。
とは言っても、決してそれは難解なものではなく、時流(と言っても80年代ギリギリでしたが)にあったメロディアスなハードロックになっているところが、多くのファンをひきつけたと思います。

 

ウィンガーはデビューアルバムの成功に続いて、アルバムのプロモートのためのツアーを精力的にこなしていきます。
一年以上にわたって、Bad Company, Scorpions, Cinderella, Bon Jovi, Poison, Skid Row ,TeslaといったHM/HR系のバンドと共にライヴ活動を行なっていきます。

 

それで、2作目は1990年にリリースということになりました。
1990年と言えば、文字通り1980年代は終わっており、音楽的にも80年代のバンドが淘汰され、主にグランジを中心としたオルタナティヴロックが世界を席巻しようとし始めていたころです。
そんなタイミングで、前作と近いイメージで2ndアルバムが制作されました。

 

では今日は、1990年リリースのWINGER(ウィンガー)の2ndアルバム、IN THE HEART OF THE YOUNG(イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ヤング)をご紹介したいと思います。

IN THE HEART OF THE YOUNG(イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ヤング)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、CAN’T GET ENUFF(キャント・ゲット・イナフ)。

 

どっしりとしたミドルテンポのドラムと、ヘイヘイ!の掛け声、LRチャンネルで音が行き来するところ、サビのコーラスなどが、デフ・レパードっぽいです。
Aメロも、完全に影響を受けてる感はありますね。

 

でも、やっぱりキップ・ウィンガーのヴォーカルで、これはウィンガーだ、とはっきりわかります。
ゆったり堂々たる、正統派のハードロックソングです。
サビ後の間奏の入りに、キーボードがキラキラと輝いているのが、80年代メタルの名残をしっかりと残していると感じれます。
レブ・ビーチのギターソロも、かっこよく決まっています。

 

90年代に入っても、彼らはエイティーズのフレイバーを残したハードロックを聞かせてくれて、僕は非常に好きでしたね。

 

この曲は、アルバムからの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第42位、同誌Mainstream Rockチャートで第6位を記録しています。

 

2曲目は、LOOSEN UP(ルースン・アップ)。

 

はねたノリのイントロのエレキギターが非常にかっこよいです。
また、曲全体で、結構凝ったギターリフが目立って、とてもいいですね。
ところどころに入るオブリもいいです。
ギターソロも、レブが気持ちよく軽快に弾きまくってますね。
アウトロでも、エレキ、かっこよく目立ってます。

 

このようにギター中心の楽曲であるものの、歌メロも非常にキャッチーで、ウィンガーらしいハードロックチューンになっています。
シングルにしたとしても、そこそこヒットしそうなキャッチーさがあって、これもなかなかな名曲になってると思います。

 

3曲目は、MILES AWAY(マイルズ・アウェイ)。

 

この曲は、キーボードのポール・テイラーによる楽曲で、とても美しいパワーバラードです。
イントロのキーボードの出だしから、名曲の予感しかしません
80年代にはこのような美しいパワーバラードがヒットしましたが、90年に入ったこのアルバムでもやはり輝いて聞こえます
やっぱり、いいものはいい、というのは動かしようのない事実ではないでしょうか。

 

ウィンガーの1stアルバムでも数曲美しいパワーバラードがありましたが、それに匹敵する出来ですね。
キップのエモーショナルなヴォーカルに、美しいメロディ、そしてそれを表現する素晴らしいプレイヤーたち。
レブのギターソロも、魂がこもってますよね。
やっぱり、実力のあるバンドがこんな名曲を演奏すると、良いものしか生まれませんね。
時代的に、この手の曲が飽きられつつある頃ですが、僕はとても好きでした。

 

この曲は、アルバムからの2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第12位、Mainstream Rockチャートで第14位を記録しています。

 

4曲目は、EASY COME EASY GO(イージー・カム・イージー・ゴー)。

 

イントロからのリフにはブラスサウンドが混ぜられるという、ちょっと今までにないアレンジが加えられています。
まあ、それによって、厚みのあるグルーヴが生み出されてて悪くはありませんね。

 

この曲は、1曲目のキャント・ゲット・イナフと共に、アルバム制作の最後のほうに作られた曲のようです。
というのも、アルバムにロックソングがちょっと足りないと感じられたから、とのこと。
でも、ロックっぽいというより、ちょっと売れることを意識した曲かなという印象はありますね。

 

やっぱりこのキャッチーな歌メロは、当時も賛否あったようですが、僕は肯定的に捉えたいですね。
80年代のHM/HRの主流は、大抵キャッチーさを兼ね備えてましたからね。
明るくて、みんなで歌える楽しい楽曲というのはエイティーズ音楽の特徴の一つでもあります。
その辺を、ウィンガーは再現して見せています。

 

でも、単純にキャッチーというのではなく、演奏の面で技巧が感じられるのがウィンガーの特徴でもあると思います。
リズム隊の作り出す重厚なグルーヴ感、そこにほどよくキーボードが彩りを添え、エレキがハイテクプレーを見せてくれます。
この曲でもレブのプレイはとてもいいですね。
小気味よいバッキングリフもいいですし、ギターソロがかっこいいです。
ソロではエディ・ヴァン・ヘイレンばりの、滑らかなタッピングを交えて良質なプレイを見せています。

 

この曲は、3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第41位、Mainstream Rockチャートで第20位を記録しています。

 

5曲目は、RAINBOW IN THE ROSE(レインボウ・イン・ザ・ローズ)。

 

哀愁あるメロディと共に始まる、アルバム中で非常に評価の高いドラマティックな楽曲です。
イントロのギターメロから、とても印象的です。

 

展開が非常にドラマティックで、その上歌メロはキャッチーで決して難解なものではありません。
途中に入るギターのオブリが、かっこよく楽曲を盛り上げます。
サビもメロディアスで、ウィンガーらしい素敵な楽曲になっています。

 

レブの一発目のソロがまずはコンパクトでが音数も多く、滑らかに奏であげます。
流麗なソロメロディが、中間部で強い印象を与えます。
その後、サビの歌メロのバックでもレブが弾きまくってますね。

 

終盤、楽曲が落ち着いた後は、静寂の中でブラス隊の音をバックにレブが超絶ギターを弾きまくります。
ギター一本でドラマティックに盛り上げていく様は、かっこよすぎますね。
得意のタッピングも交えて、楽曲を叙情的なものにしながらラストまで引っ張っていきます。

 

非常にドラマティックな楽曲になっており、このアルバムの一つのハイライトともいえる素晴らしい出来だと思いますね。

 

6曲目は、IN THE DAY WE’LL NEVER SEE(イン・ザ・デイ・ウィル・ネヴァー・シー)。

 

幻想的なイントロでは、ベース音とギターの音がメインで聞こえて、非常に期待感を高めるものとなっています。
そこに、エレキのソロメロディが割って入り、バンドサウンド全開の爽快なハードロックへと転回します。
非常に、この入り方はかっこよいですね。

 

これまた、歌メロがキャッチーで、コーラスもあいまって、とてもいいサビになっています。
ベースも、いい感じでグルーヴ感を出しています。
バンドのもつ躍動感が、ウインガーらしくはじけまくっている名曲になっています。

 

7曲目は、UNDER ONE CONDITION(アンダー・ワン・コンディション)。

 

バラードではないと思いますが、スローなテンポのメロディアスな良曲になっています。
やはり、サビメロがいいですね。
ウィンガーは、ワイルドに見えて、メロディがいつもいいんですよね。

 

ギターソロも感傷的な、良質のプレイとなっています。
楽曲にしっかりと寄り添ったプレイというとこも高く評価したいところです。

 

8曲目は、LITTLE DIRTY BLONDE(リトル・ダーティ・ブロンド)。

 

この手のHM/HRのアルバムの中には必ず一曲は入ってる猥雑なロックソングですね。
恐らく歌詞は、ふしだらなのだろうと思われますが、不思議とこの手の曲はノリが良くていい曲が多いんですよね。
この曲もそうした、普通にいい曲の一つです。

 

イントロからレブのエレキギターの生み出すグルーヴが、非常にいい感じに仕上がっていますね。
跳ねたリズムにブルージーなソロ。
レブのギタリストとしての魅力が詰まった、いい曲です。

 

9曲目は、BAPTIZED BY FIRE(バプタイズド・バイ・ファイヤー )。

 

この曲のハイライトは、やはりイントロのレブによる両手タッピングでしょう。
あんなふうにノイズを出さずに粒をそろえるのは、僕には至難の業ですが、彼はやってのけますね。
エディの18番をかっさらうかのごとく、タッピングを極めておられます

 

で、イントロのタッピングだけが見どころかというと、曲自体も非常にキャッチーでいいです。
タッピングだけでなく、バッキングのリフもグルーヴィーで、この曲もレブの見せ所いっぱいです。
また、サビもキャッチーで、ウィンガーらしいハードロックになっています。
また、曲後半ではラップも入れたりして、アルバム中では意欲作になってますね。
後半のギターソロも、自由自在に弾きまくってて、耳を奪われます。

 

10曲目は、YOU ARE THE SAINT, I AM THE SINNER(ユー・アー・ザ・セイント・アイ・アム・ザ・シナー)。

 

サビをコーラスで叫ぶ明るいイントロが、いかにも80年代メタルっぽくてよいですね。
やはり、このキャッチーさは、90年代に一掃されることを考えると、非常に貴重ですね。
間奏では、変則リズムの上に自在に弾きまくるギターソロが聞けます。
非常にかっこよいですね。

 

アルバムラストは、IN THE HEART OF THE YOUNG(イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ヤング)。

 

壮大なイメージの雰囲気で始まる、ラストを飾るにふさわしい楽曲です。
少しづつ盛り上がっていく様がとてもドラマティックです。
キップのヴォーカルが冴えてますね。
また、この壮大な楽曲にあったレブのギターソロもたっぷり聴けます。

 

最後までメロディアスでキャッチーな楽曲を聴かせてくれました。

まとめとおすすめポイント

1990年リリースのWINGER(ウィンガー)の2ndアルバム、IN THE HEART OF THE YOUNG(イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ヤング)はビルボード誌アルバムチャートで第15位を記録、アメリカで前作に続いて100万枚を売り上げました。

 

1990年という、時代がまさに変わろうとしていた非常に微妙な時期に出された割には、よく健闘したのではと思いますね。
アルバムの内容は、前作と同じ方向性で制作されました。
しかしながらメンバーは、前作と比べると、特にプログレ要素とセンチメンタルなバラードの要素の両方に強調を置いた、と述べています。

 

が、その辺は僕はちょっと感じにくかったです。
バラードがよいのは前作同様ですし、プログレ要素もあまり目立っているとは思えません
よくよく聞くと変拍子なども入っていますが、決して楽曲の良さをスポイルせず、自然と溶け込んでいるからかな、と思いますね。
テクニシャンの集まりにも関わらず、それを鼻につかせないところが、ウィンガーの特徴と言えるでしょう。

 

また、今作もHM/HR系には付き物のスピーディーな楽曲は多くありません
むしろミドルテンポでどっしりとしたグルーヴを聞かせるのが、このバンドの特徴と言えるかもしれません。
加えて、どの曲にも言えますが、やはりメロディラインが秀逸なものが多いですね。
キャッチーで覚え易いサビなど、80年代サウンドに必須の要素が練りこまれてます。

 

1990年代に入ってグランジを筆頭とするダークな楽曲の増えて行く流れが始まりましたが、それに逆らって80年代の雰囲気を閉じ込めたこのアルバムはなかなかの秀作だと思っています。

チャート、セールス資料

1990年リリース

アーティスト:WINGER(ウィンガー)

2ndアルバム、IN THE HEART OF THE YOUNG(イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ヤング)

ビルボード誌アルバムチャート第15位 アメリカで100万枚のセールス

1stシングル CAN’T GET ENUFF(キャント・ゲット・イナフ) ビルボード誌シングルチャート第42位 同誌Mainstream rockチャート第6位

2ndシングル MILES AWAY(マイルズ・アウェイ) シングルチャート第12位、Mainstream rockチャート第14位

3rdシングル EASY COME EASY GO(イージー・カム・イージー・ゴー) シングルチャート第41位、Mainstream rockチャート第20位