スーパーバンドMR.BIG、大ブレイクへ
2ndアルバムまでの歩み
1989年リリースのMR.BIGのデビュー作である、セルフタイトルアルバム、MR.BIGは、鳴り物入りのデビューにも関わらず、アメリカ本土では大きなヒットとはなりませんでした。
むしろ、技巧派HR/HM大好きの日本で先に人気に火がつきます。
テクニカルなベーシストのBilly Sheehan(ビリーシーン)、超絶速弾きギタリストのPaul Gilbert(ポール・ギルバート)、玄人ドラマーPat Torpey(パット・トーピー)という3人のテクニカルミュージシャンに加え、ソウルフルなヴォーカルに加え、アイドル的ルックスも持ち合わせたERIC MARTIN(エリック・マーティン)の組み合わせは、かつてのBON JOVI(ボン・ジョヴィ)と同じように日本のファンからいち早く愛されることになったのです。
1stアルバムリリース後、MR.BIGはラッシュのツアーのオープニングアクトとして全米を回っています。
また、アメリカの映画 Navy SEALsのサウンドトラックに、Strike Like LightningとShadowsという2曲を提供しています。
そして2ndアルバムを制作します。
このアルバムによってついに大ブレイクを果たすことになるわけです。
僕の個人的な主観でも、彼らの最高傑作と思われるアルバムになっています。
では、今日は1991年リリースのMR.BIGの2ndアルバム、LEAN INTO IT(リーン・イントゥ・イット)をご紹介します。
LEAN INTO IT(リーン・イントゥ・イット)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、DADDY, BROTHER, LOVER, LITTLE BOY (THE ELECTRIC DRILL SONG)(ダディ、ブラザー、ラヴァー、リトルボーイ)。
文句なくテクニカルバンドのアルバムの一曲目にふさわしい、ノリノリの楽曲にテクニカル要素の詰まった名曲である。
疾走感あふれる楽曲に、ツボを抑えたキャッチーなメロディがのって、爽快なフィーリングを与えてくれるハードロックチューンになっています。
Ha!から始まって、Hu!で終わるエリックのヴォーカルはハスキーながらも甘い感じがあって、非常に聴き易いです。
サビも見事に歌いきって、前作以上にMR.BIGのフロントとして、はまってきた感が強いです。
しかし、この曲の見せ所は間奏部のギターとベースのバトルと言うことになるでしょう。
何てったって、曲のサブタイトルに(THE ELECTRIC DRILL SONG)とあるくらいですから。
ギターとベースソロの最終パートで、電動ドリル(マキタ製)の先にピックをつけてピッキングを行なってます。
つまり、ドリルの高速回転を利用して、非常に速いトレモロ奏法を披露しているわけです。
まあ、効果はそれっぽい雰囲気の音になって、ギターとベースのユニゾンが楽しめる、というくらいです。
が、やはり、ライヴなどでの視覚的効果が抜群で、このような曲芸的な遊び心が、またファンの心をくすぐるものとなっていたのではないでしょうか。
同じ年のVAN HALENのアルバムのオープニングでも電動ドリルは使われてますし、後にB’zの松本孝弘さんも使ってますが、MR.BIGの使い方とは異なるものとなってますね。
とにかく、電動ドリル使用の初期のアーティストとして、MR.BIGは語り継がれていくと思います。
まあ、この曲には他にも聴き所はあって、やはりギターソロのポールの速弾きは素晴らしいものがありますし、ビリーのベースもライトハンドを使って高速プレイを聴かせてくれます。
この二人のユニゾンプレイは、テクニカルバンドならではの圧巻のものとなっています。
また、全編通して聴ける、エレキのバッキングが、これまた切れ味が良く、爽快な楽曲に資するものとなっています。
とにかく4人のあふれる才能がぶつかり合った楽曲なのに、キャッチーで爽快になっている、奇跡のような楽曲です。
アルバムのド頭でこんな曲が来ると、以後に期待を持たないわけには行きません。
2曲目はALIVE AND KICKIN’(アライヴ・アンド・キッキン)。
ブルージーなギターのイントロから始まるが、結構ヘヴィなリズムのこれも名曲である。
ハードで、ブルージーな楽曲と言うのは、当初からビリーのやりたかったブリティッシュハードロック路線である。
この曲なんかは、まさにそのねらいにどんぴしゃの楽曲となっているようですね。
ソウルフルなエリックのヴォーカルがとても熱いです。
渋い楽曲でありながら、サビのヴォーカル&コーラスはキャッチーで爽快でもあります。
全体として、硬派なハードロックではあるものの、目立たないところでテクニカルな要素も盛り込まれてます。
ギターソロは、ポールはブルージーなしばりのなかで、自由に弾きまくってますね。
ソロ後の間奏部分で、いったん静かになったあとのビリーのさりげないベースプレイにも注目です。
1曲目のド派手な楽曲の陰で隠れがちな位置にはありますが、決して隠れてしまわない、渋かっこいい楽曲になっていると思います。
3曲目はGREEN-TINTED SIXTIES MIND(60’S マインド)。
これは超名曲に入るのではないでしょうか。
まずは、ポールによる両手タッピングとスライドを組み合わせた美しいエレキのソロ。
これは、ロックギターを志す人の多くが挑戦してみたイントロに違いありません。
よくぞ、ポールはこんなメロディと、流麗なプレイを思いついたな、と驚かされます。
そしてそれ以上に、それを見事に美しくプレイした彼のテクニックにもう一度驚かされます。
大抵、両手タッピングというものにはノイズがつき物ですが、ライヴでもポールは美しくプレイしています。
ぜひ全ての人にご覧いただきたい、超絶プレイになっています。
とにかく、素晴らしいイントロで始まってそこだけでもおなかいっぱいです。
でも、曲が始まると、また本編も非常によろしいです。
切なくも懐かしい、古きよきアメリカンなメロディが奏でられています。
哀愁たっぷりの曲をエリックが歌い上げ、そこにバンドのコーラスが入るサビは美しすぎます。
ギターソロはシンプルですが、変拍子も入り、少し不思議な雰囲気をかもし出しています。
全体としては特に変わったことをせず、やはり楽曲勝負の一曲となっています。
この曲はポールによる楽曲ですが、彼のギタリストとしてのセンスもそうですが、コンポーザーとしてのセンスも際立つ素晴らしい一曲になっています。
この曲は、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌のシングルチャートにはランクインしていませんが、同誌Mainstream Rockチャートでは第33位を記録しています。
4曲目はCDFF-LUCKY THIS TIME(CDFF-ラッキー・ディス・タイム)。
イントロの早回しは前作のオープニング曲、ADDICTED TO THAT RUSHだ。
CDFFは、Compact Disc Fast Forwardの略です。
まあ、この部分はお遊び的なものでしょうが、楽曲はルーズな感じのまたまたいい曲になってます。
この曲では特にエリックのヴォーカルが冴え渡ってますね。
とりわけサビのハスキーなヴォーカルがエモーショナルで、切なさが半端ないです。
メロディアスな楽曲と、エリックの熱唱で出来ている名曲です。
5曲目は、VOODOO KISS(ヴードゥー・キッス)。
イントロのアコギからブルージーでかっこいい。
曲が始まってからも、ブルージーでヘヴィなギターリフにより、グルーヴ感あふれる楽曲になっています。
ハイテクテクニカルな曲から、こんなブルーズ系の渋いところまでの守備範囲の広さが、このバンドの魅力だと思います。
やはり、テクニカルオンリーだと、必ず早々に行き詰るはずですから。
6曲目はNEVER SAY NEVER(ネヴァー・セイ・ネヴァー)。
イントロのギターリフから、結構ハードに攻める歌と思いきや、サビは明るいキャッチーなものになっている。
これはそんな展開の妙を楽しむ曲でしょう。
ギターソロも楽曲優先で、そんなに派手なことはやってません。
普通にいい曲になってます。
7曲目はJUST TAKE MY HEART(ジャスト・テイク・マイ・ハート)。
これも美しいイントロで始まります。
ポールの指弾きとハーモニクスの合わせ技で、見事な世界を作り出してます。
曲が始まってからは80年代に流行ったパワーバラードへと変わります。
やはり、メロディアスなサビが美しいです。
特にエリックにこういうのを歌わせると、非常に哀愁が漂って素晴らしいです。
また、ギターのアルペジオも美しいですし、ベースも楽曲を柔らかく演出してます。
この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、シングルチャート第16位、Mainstream Rockチャートでは第18位を記録しています。
8曲目はMY KINDA WOMAN(マイ・カインダ・ウーマン)。
ヘヴィなリフと共に始まる、ブルージーなハードロックである。
途中のギターリフの一つ一つがかっこいい音を聴かせてます。
また、サビの直前のブレイクが、とてもいい味を出していると思います。
この曲も歌メロがメインなので、特別演奏面で語るものはありませんが、エリックのヴォーカルが際立つ、とても良く出来た楽曲だと思います。
9曲目はA LITTLE TOO LOOSE(ア・リトル・トゥー・ルース)
非常に渋いブルーズロックだ。
イントロはビリーが超低音で歌っている。
それがなかなか渋くてはまってます。
ヴォーカルがエリックに戻っても、ゆったりの3連リズムでブルージーな横ノリロックを聴かせてくれます。
なかなか大人な楽曲ゆえに、好き嫌いは分かれるようだが、このゆったり渋いロックは僕は非常に好ましく感じます。
バンドの円熟味をも感じられる楽曲となっています。
サビはキャッチーで、コーラスも美しいものとなってます。
10曲目はROAD TO RUIN(ロード・トゥ・ルーイン)。
サビコーラスから始まる、キャッチーで陽気なハードロックです。
リズムはシャッフルビートで、弾む感じがいいノリを与えてくれます。
やはりこの手のノリは一番バンドの一体感を感じさせてくれますね。
ギターソロでは珍しく大きなスウィープを一発かませてくれてます。
この曲ではやはりサビのコーラスワークが際立っています。
アルバムラストはTO BE WITH YOU(トゥ・ビー・ウィズ・ユー)。
これはもはや文句なしの名曲でしょう。
シンプルな最小限の楽器の音色にエリックのヴォーカルがエモーショナルに歌い上げます。
そして、やはりサビのコーラスがバンドメンバーの担当で、そこにエリックのフェイクが絡んでいくところは秀逸です。
この辺がコーラスワークの得意なバンドの見せ場と言えるのではないでしょうか。
ポールもアコギで楽曲のバックを美しく彩ってます。
ギターソロでも、決して楽曲を壊すことなく温かいメロディをアコギで奏でてます。
楽曲重視のバンドの真骨頂の部分だと思いますね。
この曲も歌詞を覚えるくらい何度も聴きましたね。
テクニカルなハードロック路線から外れていることに賛否はありますが、やはり、いいものはいい、という一曲になってます。
この曲はアルバムからの2ndシングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで全米No.1を獲得しました。
Mainstream Rockチャートでは第19位、Adult Contemporaryチャートでは第11位を記録しています。
また、オーストラリア、ベルギー、カナダ、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、スウェーデン、スイスなどの国でNo.1を達成、世界的な大ヒットとなりました。
まとめとおすすめポイント
1991年リリースのMR.BIGの2ndアルバム、LEAN INTO IT(リーン・イントゥ・イット)はビルボード誌アルバムチャートで第15位、アメリカで100万枚を売り上げました。
また、日本のオリコンチャートでは第6位を記録しています。
前作では日本での人気を確立したにとどまりましたが、本国アメリカでもブレイク、世界中で大ヒットを成し遂げることに成功することになりました。
その大ヒットの最大の理由は、シングルヒットTO BE WITH YOUに尽きると言えるでしょう。
このアコースティックバラードは、アメリカにとどまらず、世界各国で大ヒットを記録し、MR.BIGの名前を一気にメジャーにするのに大きく貢献しました。
しかし、この大ヒットは皮肉にも、彼らの方向性に迷いを生じさせるものとなったしまいます。
ちょうどNIGHT RANGERが、バラード指向の売れ線を狙うようレコード会社に圧力をかけられ、低迷して行ったのと似たような状況に陥っていくわけです。
どうして、レコード会社は目先の利益しか考えられないのだろう、過去の他社の過ちから学ばないんだろう、と思ってしまいます。
まあ、それが大企業の宿命と言ってしまえばそれまでですが。
それはさておき、このアルバムLEAN INTO ITは、前作同様、テクニカルではありながらも、キャッチーな歌メロを大事にする路線を踏襲し、優れたアルバムとなっています。
ちょうど、90年代に入り、グランジが台頭する中、80年代のテイストを残したハードポップ路線で、健闘したと言えるのではないでしょうか。
グランジやオルタナティヴロックが奏でる、退廃的で暗い音楽が幅を利かせる中、やはりMR.BIGのような明るいメロディアスなハードロックを待ち望むファンは確実に残っていたのでしょう。
アルバム自体、メロディやコーラスが大切にされており、それにテクニカルな味付けがされている、という感じになっています。
テクニカル至上主義のバンドも数多く現われている時代でもありますが、そんな中でいい感じでバランスのよいサウンドと楽曲になっています。
名曲もたくさん収められていますので、80年代のあの味付けを好む人には、非常にいい作品だと思います。
僕個人としても、彼らの最高傑作はこのアルバムだと強く感じています。
ポップでキャッチーなメロディと、テクニカルで玄人好みのサウンドがバランスよく混ざり合った、MR.BIGの最高傑作、おすすめです。
チャート、セールス資料
1991年リリース
アーティスト:MR.BIG
2ndアルバム、LEAN INTO IT(リーン・イントゥ・イット)
ビルボード誌アルバムチャート第15位 アメリカで100万枚のセールス
1stシングル GREEN-TINTED SIXTIES MIND(60’S マインド) ビルボード誌シングルチャート圏外、同誌Mainstream Rockチャート第33位
2ndシングル TO BE WITH YOU(トゥ・ビー・ウィズ・ユー) シングルチャートNo.1、Mainstream Rockチャート第19位、Adult Contemporaryチャート第11位
3rdシングル JUST TAKE MY HEART(ジャスト・テイク・マイ・ハート) シングルチャート第16位、Mainstream Rockチャート第18位