マドンナの才能がさらに花開いたバラエティ豊かな名作 MADONNA - TRUE BLUE(トゥルー・ブルー)
前作からの流れ
1984年リリースの、MADONNA(マドンナ)の2ndアルバム、LIKE A VIRGIN(ライク・ア・ヴァージン)はビルボード誌アルバムチャートで3週連続No.1、最終的にアメリカで1000万枚、世界で2100万枚を売り上げた大ヒットアルバムとなりました。
人気の高まりを受けて、1985年には映画 Vision Quest(邦題:ビジョン・クエスト/青春の賭け)にクラブのシンガーとしてカメオ出演。
映画のサウンドトラックのために、Crazy for You(クレイジー・フォー・ユー)とGambler(ギャンブラー)の2曲を提供。
そのうちクレイジー・フォー・ユーはビルボード誌シングルチャートで、あのWe Are the World(ウィ・アー・ザ・ワールド)の陰で3週連続で第2位にとどまりますが、4週目についにNo.1を奪取します。
あの偉大な曲を押しのけたことは、やはり当時のマドンナの勢いをはっきりと示すものとなっていますね。
また、彼女は、コメディ映画、Desperately Seeking Susan(邦題:マドンナのスーザンを探して)に出演。
主役ではないものの、邦題で、「マドンナの」とつくところに、当時の日本での人気も窺えます。
この映画では、挿入歌として彼女のInto the Groove(イントゥ・ザ・グルーヴ)が用いられ、この曲はビルボード誌の Dance Club SongsチャートでNo.1を獲得しています。
1985年4月からは、The Virgin Tourと名づけられた全米ツアーに着手します。
その会場には、マドンナに似た衣装で身を包む少女たちが多く参加し、Madonna wannabe(マドンナ・ワナビー)現象と言われる社会現象まで生み出しています。
7月には、20世紀最大のチャリティーコンサートと言われるライヴエイドに参加、数多くのアーティストと共に出演して3曲を披露しています。
そして彼女の27歳の誕生日の8月16日には、映画俳優の Sean Penn(ショーン・ペン)と最初の結婚をしています。
彼のことを宇宙でもっともクールな人、と言っていて、熱々の時期に3rdアルバムが制作されていったようです。
新アルバムは、前回一緒だったStephen Brayと、ツアーのディレクターだったPatrick Leonard、そしてマドンナ本人の3人での共同プロデュースとなっています。
また、今回は全曲でマドンナが作詞作曲に関わっており、よりマドンナの意志が反映されたアルバムともなっています。
加えて、今回は、若者だけでなく、彼女の音楽性に懐疑的な、より年長の人にも気に入られるような多様性を盛り込んだ作品をも目指して作られています。
では、今日は、1986年リリースの、MADONNA(マドンナ)の3rdアルバム、TRUE BLUE(トゥルー・ブルー)をご紹介したいと思います。
TRUE BLUE(トゥルー・ブルー)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、PAPA DON’T PREACH(パパ・ドント・プリーチ)。
ヴィヴァルディ風のストリングスアレンジで始まるオープニングはインパクト絶大ですね。
その後に始まるのは、マドンナらしいダンスポップチューンです。
シンセがキラキラと曲を飾る中で、マドンナはシリアスに歌い上げています。
アコギのソロはスパニッシュな雰囲気もあり、ストリングスと共に新鮮な雰囲気が感じられる楽曲です。
この曲は、ティーンエイジャーの妊娠がテーマになっており、社会問題の提起となった楽曲です。
パパに、「説教しないで、わたしは産みたいの」、と懇願する内容です。
これには、ティーンエイジャーの妊娠を容認するものとして、多くの批判がありました。
また、逆に中絶反対のグループからはポジティヴな反応があったようですね。
まあ、何が正しいのかを主張するための歌ではありませんが、いろんなことを考えさせる問題提起の点では多くの反響を受けた楽曲と言えるでしょう。
内容はともあれ、ダンスポップソングとしては優れた曲だと思いますね。
シリアスで切ない楽曲ながらも、ノリは抜群です。
またマドンナのヴォーカルも感情が乗ってて、特にパパに懇願する表現などはとても心が動かされます。
PVではダニー・アイエロがパパ役で出ていましたが、こんな状況を迎えたパパの気持ちも考えさせられて、とても切ないです。
いろんな分野での論争が巻き起こりましたが、曲は大ヒット。
アルバムからの2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで2週連続No.1、同誌Dance Club Songsチャートで第4位、同誌 Adult Contemporaryチャートで第16位を記録しています。
また、オーストラリア、ベルギー、カナダ、ヨーロッパ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、イギリスなどのチャートでもNo.1を獲得する世界的大ヒットとなりました。
2曲目は、OPEN YOUR HEART(オープン・ユア・ハート)。
この曲は、Gardner ColeとPeter Rafelsonというソングライターによる楽曲で、元々ロックンロール調の楽曲だったようです。
それも、 Cyndi Lauper(シンディ・ローパー)のために作られたものです。
しかし、新作に向けてマドンナがこの曲を受け入れます。
そして、Patrick Leonardと共に、曲をダンスポップチューンへと書き直します。
これまた見事に料理されたと思いますね。
シンセによる16ビートのノリが、非常に心地よいリズムを刻んでいます。
速い16ビートの上に、ゆったり4ビートでプレイされるシンセとのコントラストがとても印象的です。
これは、まさにこれまでのマドンナらしい、安定のダンス曲です。
この曲は4thシングルとしてカットされ、シングルチャートでNo.1、Dance Club SongsチャートでもNo.1、Adult Contemporaryチャートで第12位を記録しました。
3曲目は、WHITE HEAT(ホワイト・ヒート)。
この曲は1949年の映画、WHITE HEATと、そこに出演した俳優のJames Cagney(ジェームズ・キャグニー)に捧げられた曲です。
冒頭の会話はその映画の1シーンのようですね。
途中にも割り込み、会話と銃声が聞こえます。
楽曲自体は、強力なシンセベースラインがうねる、グルーヴィーなダンスロック曲です。
サビでは男性ヴォーカルがコーラスで加わって、力強さが増しています。
途中のクリーンのギターカッティングと、歪のギターリフとが、うまく飾り立ててます。
4曲目は、LIVE TO TELL(リヴ・トゥ・テル)。
元々この曲は、プロデューサーの一人の Patrick Leonardによって、映画Fire with Fireのために作曲された曲でした。
しかし、映画会社は、Patrickには映画音楽は作れないと言って、その曲を不採用にします。
それで、その歌詞のない曲をマドンナに聞かせると、彼女は気に入り、旦那のショーン・ペンが主役で出演する映画、At Close Range(邦題:ロンリー・ブラッド)に使うことを決めます。
すぐにマドンナは歌詞を書き上げ、少しメロディを付け足して曲は完成します。
出来たデモテープを映画監督のもとに持っていくと無事採用されたということです。
映画に用いられた、ということで、PVでも映画のシーンがたっぷり使われています。
旦那のショーン・ペンと間接的に共演した形になっていますね。
この曲は、とても静かに幻想的に始まります。
ドラムが入ってきてからも、シンセに包まれ、これまでにない新たなマドンナの世界を生みだしています。
歌詞の内容は、偽り、不信、子供の頃に受けた傷、とりわけ親との関係について歌っています。
そんな内容ゆえか、彼女も切々と歌っています。
全体で感じられるのは、寛容で優しい感じです。
途中で、静かになってここで終わるのかな、って思ったところから再び歌いだしていくところがいいですね。
ポップバラードと言っても、リズムがしっかりしているので、何度聞いても飽きさせない名曲です。
ちなみに、当初の予定では、アルバムタイトルはこのLIVE TO TELLになるはずだったようです。
それほど、本人も気に入っていたことの証と言えるでしょう。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートでNo.1、Adult Contemporaryチャートで3週連続No.1、Dance/Electronic Singles Salesチャートで第3位を獲得しています。
5曲目は、WHERE’S THE PARTY(パーティは何処に)。
これは、楽しい雰囲気のダンスチューンです。
仕事終わりのダンスフロアーを楽しむ女の子の歌です。
16ビートのノリが楽しい、キラキラした誰もが楽しめる楽曲になっています。
6曲目は、TRUE BLUE(トゥルー・ブルー)。
これは、マドンナの幸せなフィーリングがたっぷり詰め込まれた優れたダンスチューンです。
このアルバムの制作が始まった時点で、マドンナは後に結婚することになるショーン・ペンとの付き合いが既に始まっています。
そして、共同プロデューサーの一人として、今回のアルバムには “sophistication“(洗練さ)を付け加えたいと思っていました。
その最たるものが、このタイトルトラック、トゥルー・ブルーということになるでしょう。
この“True Blue”という言葉は、旦那のショーン・ペンのお気に入りの表現で、彼の“very pure vision of love”(とても純粋な愛の展望)を表現したもので、そこからタイトルが取られました。
それで、この曲と、アルバム全体は、マドンナのショーンへの “unabashed valentine” (臆面もないバレンタインの贈り物)によってインスパイアされています。
共同作者のStephen Brayによると、彼女は完全に恋に落ちていたので、このラヴソングを書けた、と語っています。
つまりは、この曲はマドンナのショーン・ペンへの深い深い恋愛感情がテーマになっている、ということです。
二人の熱々ぶりがよくわかるエピソードになっていますね。
曲は3連のリズムに乗って、ちょうど気持ちの良いテンポで進んでいきます。
音楽的には、1960年代のモータウンのガールズグループにインスパイアされているようです。
そんなちょっと音楽的には古めのルーツがありながらも、曲を飾る音たちは80年代風にしっかりと彩りを添えています。
屈託のない、ゆったりしたこの作風は、またもマドンナの新境地を開いたと言えるのではないでしょうか。
癒しの雰囲気もある、とても心地の良い楽曲になっています。
この曲は、3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで3週連続第3位、Dance Club Songsチャートで第6位、Adult Contemporaryチャートで第5位を記録しました。
そして、カナダ、ヨーロッパ、イギリスのチャートでNo.1を獲得しています。
7曲目は、LA ISLA BONITA(ラ・イスラ・ボニータ~美しき島)。
スペイン語のタイトルのこの曲は英語では“The Beautiful Island”ということで、邦題どおり、美しい島を表す言葉のようです。
もともとは、この曲のインストゥルメンタルヴァージョンは、MICHAEL JACKSON(マイケル・ジャクソン)のアルバムBAD(バッド)に提供しようとされていたようですが、断られています。
それでマドンナはこの曲を受け入れ、歌詞をつけて楽曲は完成しました。
マドンナはこの曲を、ラテンアメリカの人々の美と神秘へのトリビュート(賞賛)と描写しています。
彼女は、ラテンのリズムはちょうど取りつかれるようにしばしばアップテンポな楽曲を支配する、我々は前世はラテン系だったのかも、と語っています。
それで、この曲はマドンナがスパニッシュなモチーフや歌詞を取り入れた初めての楽曲になりました。
楽曲は、ヒスパニックスタイルのポップソングになっています。
ラテンの雰囲気のドラムパーカッションにマラカス、とトロピカルな雰囲気いっぱいです。
間奏では、スパニッシュギターがソロメロディを奏でます。
歌メロもとてもメロディアスで、美しい楽曲になっています。
これまでのダンスポップとはまた一線を画した、大人のダンスチューンになっている気がしますね。
この曲は5thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第4位、Dance Club Songsチャートで第10位、Adult ContemporaryチャートでNo.1を獲得しました。
そして、この曲で11曲連続のトップ5入りを果たし、これはthe Beatles(ビートルズ)と Elvis Presley(エルヴィス・プレスリー)に次ぐ記録となりました。
加えて、オーストリア、カナダ、ヨーロッパ、フランス、ドイツ、アイスランド、スイス、イギリスといったチャートでNo.1を獲得しています。
8曲目は、JIMMY JIMMY(ジミー・ジミー)。
この曲は1960年代初期のポップスの影響を受けたダンスソングです。
歌詞は映画スターの James Dean(ジェームズ・ディーン)へのトリビュートとなっています。
なんかかわいらしいポップ曲ですね。
ラスト9曲目は、LOVE MAKES THE WORLD GO ROUND(ラヴ・メイクス・ザ・ワールド・ゴー・ラウンド)。
もともとは先行シングルにしようと考えられていた楽曲ですが、結局シングルカットとはなりませんでした。
この曲はアルバムリリースの前年1985年の7月のライヴエイドで披露された3曲のうちの1曲になります。
歌詞の内容は、反戦や貧困撲滅といったテーマが歌われています。
それで、ライヴエイドで披露するには絶妙な楽曲だったと思われますね。
彼女なりの問題提起がこの楽曲を通してなされています。
しかし、そんな重いテーマがラテンのリズムで軽快に歌い上げられていますね。
ラテンやサンバの影響を受けたリズムで、とっても楽しい雰囲気になっています。
変に深刻に問題提起をするのではなく、ポップアーティストとして出来ることを行なったという感じでしょうか。
このアルバムのタイトルTRUE BLUE は TRUE LOVEを意味すると、マドンナは後に語っています。
さまざまな愛の形がいろんな楽曲で歌われていますが、最後に“LOVE MAKES THE WORLD GO ROUND”(愛が世界をまわしている)、と愛の力への信頼を歌い上げています。
愛があれば、戦争も貧困もなくなるのだ、という彼女なりのメッセージでアルバムは幕を閉じます。
まとめとおすすめポイント
1986年リリースの、MADONNA(マドンナ)の3rdアルバム、TRUE BLUE(トゥルー・ブルー)はビルボード誌アルバムチャートで5週連続No.1を獲得しています。
そして、当時の記録破りの28カ国でNo.1を取るという快挙も成し遂げています。
また、アメリカでは700万枚を売り上げ、全世界のトータル売り上げは2500万枚と見積もられています。
前作もとてつもない大ヒットだったのですが、トータルセールスでは前作を上回るとんでもない大ヒットアルバムとなりました。
この時点で、1980年代の最大のポップアーティスト、マイケル・ジャクソンやプリンスと肩を並べたポップスターとしての地位を確立したと多くの人にみなされるようになりました。
これまでのアルバムでは、基本的にはダンスポップソングが中心となっていました。
彼女は、ダンスチャートから人気を博していったので、それは当然の流れと思います。
そして、それは次第に一般のリスナーの心も捉え、人気を強力なものとしていっています。
そんな中でのアルバムは、最新のドラムマシンやシンセサイザーを駆使した、先進的なサウンドのダンスチューンがほとんどを占めています。
わずかに、R&B系のバラードを入れてはいますが、ダンスチューンの中で陰が薄かったのは間違いありません。
今回は、ダンスチューンが目当ての若者だけでなく、もっと年長の人にも評価されるアルバムを作りたいと考えて臨んだアルバムになっています。
多くの人がマドンナと言えばダンス曲、と考える、そんな先入観や偏見を打破したかったわけです。
アルバムリリース前にすでに、サウンドトラックからのシングル、クレイジー・フォー・ユーというこれまでにない熱いバラードでNo.1を獲得したのもそんな気持ちを後押ししたのではないでしょうか。
それに加えて、私生活も充実。
ショーン・ペンとの結婚生活も始まり、ラヴラヴな中で意欲的にアルバム制作に取り掛かってます。
アルバム自体を、だんなに捧げる、と言ってしまうほど、彼女の愛はいいアルバムを作る原動力になっています。
それで、出来上がったのは、これまでのマドンナを一皮むいたかのような、新たなマドンナの魅力あふれるアルバムでした。
当然マドンナ的王道ダンスミュージックもあります。
ただ今回はそれだけではありません。
ストリングス、ラテンのリズムとメロディ、本格バラードなど、これまでの魅力にさらに新たな魅力が加わっています。
そしてどれもクオリティが高く、粒よりの楽曲たちになっています。
9曲中5曲がTop5ヒットというのが、その質の高さを証明しています。
そして、多様性に富み、バラエティ豊かな楽曲たち。
28カ国でNo.1を取ったというのも伊達ではありません。
まさに、セクシー路線中心と見られていたマドンナが、アーティスト、ポップスターとして見られるようになったのはこのアルバムの成功によると言っても過言ではないと思います。
これは、1980年代のポップアイコンの代表アルバムの一つとして、マストなアルバムであることは間違いないでしょう。
チャート、セールス資料
1986年リリース
アーティスト:MADONNA(マドンナ)
3rdアルバム TRUE BLUE(トゥルー・ブルー)
ビルボード誌アルバムチャート5週連続No.1、アメリカで700万枚、世界で2500万枚のセールス
世界28カ国でNo.1を達成
1stシングル LIVE TO TELL(リヴ・トゥ・テル) ビルボード誌シングルチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート3週連続No.1、Dance/Electronic Singles Salesチャート第3位
2ndシングル PAPA DON’T PREACH(パパ・ドント・プリーチ) シングルチャート2週連続No.1、同誌Dance Club Songsチャート第4位、同誌 Adult Contemporaryチャート第16位
3rdシングル TRUE BLUE(トゥルー・ブルー) シングルチャート3週連続第3位、Dance Club Songsチャート第6位、Adult Contemporaryチャート第5位
4thシングル OPEN YOUR HEART(オープン・ユア・ハート) シングルチャートNo.1、Dance Club SongsチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート第12位
5thシングル LA ISLA BONITA(ラ・イスラ・ボニータ~美しき島) シングルチャート第4位、Dance Club Songsチャート第10位、Adult ContemporaryチャートNo.1