新ヴォーカルを迎え入れ、新生ジャーニー始動  JOURNEY – ARRIVAL(アライヴァル)

スティーヴ・ペリーの脱退





10年振りに1996年にリリースされた、JOURNEY(ジャーニー)の10thアルバム、TRIAL BY FIRE(トライアル・バイ・ファイアー)は、ビルボード誌アルバムチャートで第3位、アメリカで130万枚、世界では200万枚のセールスを記録しました。

 

10年のブランクの間、グランジの台頭により、音楽シーンが激変していた中での復活でしたが、セールス、チャート的にも健闘したと思いますね。

 

そして、1997年夏に開始されるはずのアルバムリリースに伴うライヴツアーが期待されたわけですが、一向に始まりませんでした。
その理由は、スティーヴ・ペリーの怪我。
ハイキングの時に痛めた臀部の怪我と、その手術に時間がかかってしまったのでした。
それでも、ツアーに出るというニール、ジョナサンなどメンバーからの圧力がかかります。
これは、あの、前回脱退した悲劇を思い起こさせられますね。
1986年のRaised on Radioのリリースに伴うツアーの時には、スティーヴの母親の病気と他界が重なってます。
それをムリしてツアーを続け、心身共に疲弊してしまい、ついにジャーニー脱退を決めてます。
今回も、結局同じ歴史を繰り返し、スティーヴはジャーニー脱退、そして今回は永遠の脱退ということになりました。

 

ライヴ重視のメンバーによって再び心にキズを負ってしまったスティーヴ、悲しい結末となってしまいました。

 

このため、ツアーが始まらずにいたのですが、その間の1998年にジャーニーは、バンドの2枚目のライヴアルバムとなる、GREATEST HITS LIVE(グレイテスト・ヒッツ・ライヴ)をリリースしています。
過去のエスケイプ、フロンティアーズツアーなどからの選りすぐりの曲の詰まったこのアルバムは、非常に良かったですね。
最初のライヴアルバム、CAPTURED(邦題:ライブ・エナジー)以来、ライヴ音源は限られていましたからね。
まさにグレイテストなライヴ集だったと思います。

 

その間にも、メンバーはジャーニーのライヴに向けて動いています。
そこで知人の紹介でSteve Augeri(スティーヴ・オージェリー)がやってきます。
彼は、TALL STORIES(トール・ストーリーズ)とTYKETTO(タイケット)という二つのバンドでデビューしていたものの、ヒットせず夢破れて音楽業界を離れ、GAPで働いていた人でした。
ニールは、彼の音楽性、声を聞き、オージェリーをスティーヴの後釜にすることに決めます。
この時点で、ドラマーのSteve Smith(スティーヴ・スミス)も脱退しており、その後任としては、元BAD ENGLISH(バッド・イングリッシュ)のDeen Castronovo(ディーン・カストロノヴォ)に決まっています。

 

まずは、新ラインナップによるライヴツアー。
ほぼ無名のヴォーカリストが、あの偉大なシンガー、スティーヴ・ペリーの後任としてどこまでやれるのか心配されましたが、そつなくステージングをこなしていきます。
スティーヴの声質に非常に良く似たオージェリーのヴォーカルは、見事にスティーヴの抜けた穴を埋めることに成功したのでした。

 

そして、初のレコーディングとなったのが、映画アルマゲドンのサウンドトラックに提供された曲、REMEMBER ME(リメンバー・ミー)。
やはり、ペリーではない、と感じるのは仕方ないですが、そのなかでもなかなか悪くないと思えますね。
ヴォーカル交代のリスクを最小限に抑えた、と思えますね。

 

こうして、新生ジャーニーは動き出し、ついに次のアルバムの制作に入ります。
前作同様、Kevin Shirley(ケヴィン・シャーリー)をプロデューサーに迎え、また今回は外部ライターも大半の楽曲で顔を出しています。

 

こうして、スティーヴ・ペリー脱退という危機を乗り越えて、新たなヴォーカルを迎え入れ新アルバムが完成しました。

 

では、2001年リリース(日本は2000年)の、JOURNEY(ジャーニー)の11thアルバム、ARRIVAL(アライヴァル)をご紹介します。

ARRIVAL(アライヴァル)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、HIGHER PLACE(ハイヤー・プレイス)。

 

ニールとジョナサン、そしてナイト・レンジャーのジャック・ブレイズの共作です。
イントロから、何かが始まる期待感たっぷりの王道ロックナンバーですね。
ジャーニーのアルバムのイントロはこうでなきゃ、といういい始まりになってます。

 

やはり何より注目は、新ヴォーカリスト、スティーヴ・オージェリーのパフォーマンスですね。
当時、CD買って1番心配したのがこの点でしたが、この曲を聴いて、ジャーニーは不滅だ!と思いましたね。
もちろん、スティーヴそのものではないとは言え、ジャーニーの声であることは間違いない、そんな声質に非常に安心しました。

 

爽快そのもののサビのジャーニー節は健在で、オージェリーの声にメンバーのコーラスが加われば、もはや問題なしだと思います。
器用にアルペジオのメロディを紡ぎ、ハードなリフを刻み、ソロではゆったりメロと弾きまくりの融合。
そんなNeal Schon(ニール・ショーン)のプレイも、ジャーニーそのままです。
Ross Valory(ロス・ヴァロリー)のグルーヴィーなベース、新加入ドラマー、ディーンのワイルドなプレイでリズム隊も健在です。
Jonathan Cain(ジョナサン・ケイン)のキーボードも、きらびやかに楽曲を彩っています。

 

スティーヴを失ったジャーニーの見事な復活を印象付ける素晴らしいオープニングになったと思います。

 

2曲目は、ALL THE WAY(オール・ザ・ウェイ)。

 

ニールのエレキとジョナサンのキーボードのユニゾンから始まる美しいイントロ
そしてゆったりしたリズムの上に乗るオージェリーの新しい声。
まさにジャーニーのキラーチューンとも言える名バラードです。
この曲はニール、ジョナサンと共に外部ライターのTaylor Rhodes、そしてスティーヴ・オージェリーの4人での共作となっています。

 

これを聞くと、オージェリーのヴォーカリストとしての才能を感じることができますね。
もはやスティーヴと比べる必要はなく、安心して聞けるレベルだと思いますね。

 

中盤のニールのギターソロ、そしてそれに続くオージェリーのロングトーン・ヴォイス。
まさにジャーニーならではの美しいバラードです。

 

復活第一弾の先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌Adult Contemporaryチャートで第22位を記録しています。
後述しますが、もはや、2000年代に入って以前のようにCDが売れない時代になっていたため、このような結果になったと思われます。

 

3曲目は、SIGNS OF LIFE(サインズ・オブ・ライフ)。

 

ニール、ジョナサン、そして恐らくジョナサンの2番目の奥さんのエリザベスさんとの共作のミドルテンポロックです。

 

雰囲気がバッド・イングリッシュの頃の感じがします。
ジョン・ウェイトがヴォーカルをとってもいい感じの楽曲になりそうです。

 

ジョナサンのキーボード主体でゆったりと進んでいく、この感じもジャーニーならではです。
ちょうど気持ちよいロック、それゆえにAORと揶揄されることもあるのだと思いますが、僕は大好きなナンバーです。

 

そして、ギターソロでは、エスケイプ収録のクライング・ナウを思わせるフレーズが入っていたりと、いつものような遊び心も入ってます。
メロディックなロックのお手本のような楽曲ですね。

 

4曲目は、ALL THE THINGS(オール・ザ・シングス)。

 

ニール、ジョナサン、そしてAndre Pessisという人の共作となっています。

 

ヘヴィなリフを主体に展開するハードでちょっとファンキーなロック曲です。
ギターリフ、そしてソロ、共にニールが弾きまくっていますね。
怪しく激しい雰囲気の曲でも、コーラスになると非常にキャッチーで美しいのがジャーニーのハード曲の特徴と言えます。

 

5曲目は、LOVED BY YOU(ラヴド・バイ・ユー)。

 

ジョナサンと、Tammy Hyler、Kim Tribbleという3人で共作の切なく美しいバラードです。

 

イントロのジョナサンのキーボードプレイから名作の予感が立ち込めます。
そして優しく歌い始めるオージェリーのヴォーカルがまた非常にいいですね。
ちょっと枯れた感じで伸びやかに歌う彼のヴォーカルは、スティーヴ・ペリーの後釜として僕は完全に合格点をつけたいと思っています。

 

中盤以降のストリングスアレンジもジョナサンが担当しており、美しい楽曲にさらなる華を添えています。
そして、ニールの少し抑えたギターソロも、雰囲気たっぷりですし、後半のオージェリーのメランコリックなヴォーカルは特筆モノです。

 

オージェリーにとって、この作品で最もお気に入りなのがこの曲だったそうです。
デモの録音の時点でこのアルバムは素晴らしいアルバムになるという確信を与えた楽曲となっています。

 

確かにジャーニーの作品の中でも、これまでにありそうで無かった雰囲気の名曲だと思いますね。

 

6曲目は、LIVIN’ TO DO(リヴィン・トゥ・ドゥ)。

 

ニールとジョナサンによる、ブルージーでハードなロッカバラードです。
この曲は、ニールの亡き父、マット・ショーンに捧げた曲となっています。

 

イントロのギタープレイから、ニールの魂がこもっている気がしますね。
全編ブルージーなタッチで展開され、重厚な雰囲気が悲哀を感じさせてくれます。
オージェリーのヴォーカルも上手さを感じさせてくれてます。
ニールのソロも、泣きのギターで魂の叫びを感じられます。

 

ジャーニーのバンドとしての懐の深さも感じられるエモーショナルなブルーズ曲です。

 

7曲目は、I GOT A REASON(アイ・ガット・ア・リーズン)。

 

ニール、ジョナサン、そして再びジャック・ブレイズによる共作の、ポップでキャッチーな楽曲です。

 

聞いて楽しめる、キャッチーな楽曲で、どちらかと言えばシングルヒットも狙える系の曲ではないでしょうか。
ハードポップ路線ど真ん中の佳曲だと思いますね。
ラストはジャムっぽく各プレイヤーが楽しげに演奏してエンディングです。

 

8曲目は、WITH YOUR LOVE(ウィズ・ユア・ラヴ)。

 

ニール、ジョナサン、エリザベス・ケインによる共作のバラードです。

 

イントロから美しいですね。
このへんの繊細な曲作りはやはりジョナサンあってのものだと思います。
ジョナサン加入のエスケイプ以降の美しいバラードの影にはジョナサンが常にいますね。
やっぱり彼の才能とセンスは最高峰だと思います。

 

また、そんな美しいバラードを見事に歌いこなしているオージェリーも素晴らしいですね。

 

9曲目は、LIFETIME OF DREAMS(ライフタイム・オブ・ドリームス)。

 

ニール、ジョナサン、Kim Tribbleによる共作のゆったりバラードです。

 

2曲続けてのバラードですが、また種類の違うバラードなので、逆に引き出しの多さに驚かされます。
これもやはり佳曲だと思います。

 

10曲目は、LIVE AND BREATHE(リヴ・アンド・ブリーズ)。

 

ニール、ジョナサン、そしてオージェリーの共作曲です。

 

少しダークな雰囲気で始まりますが、ABメロを過ぎたところで明るい雰囲気も加わります。
そこで切り裂くようなニールのギターリフで再びダークな世界へ。
大サビでは美しいコーラスを聞かせて、そこからニールの真骨頂の速弾きパートへ。
ラストはまた雰囲気が変わり、少し明るいコーラスへ。

 

曲の展開の楽しめる、なかなか面白い楽曲になっています。

 

11曲目は、KISS ME SOFTLY(キス・ミー・ソフトリー)。

 

ニール、オージェリー、ジャック・ブレイズの3者による、ミステリアスバラードです。

 

アダルティな雰囲気が非常にかっこいいですね。
重厚なリズムの上で軽やかに跳ねるピアノのイントロが印象的です。
この曲では、ジョナサンとオージェリーによるダブルヴォーカルになっています。
二人で、このムードたっぷりの楽曲を歌い上げています。

 

途中のスパニッシュ風のニールのギターも相まって、とても雰囲気よくかっこいい楽曲になっています。

 

12曲目は、I’M NOT THAT WAY(アイム・ノット・ザット・ウェイ)。

 

ニール、ジョナサン、オージェリー、Kim Tribbleの共作での爽やかなポップソングです。

 

とても軽いタッチですが、オージェリーがソウルフルに歌い上げているので、ジャーニーの楽曲としてしっかりと成立しています。
もちろん、ニールのギターやジョナサンのキーボードがささやかに個性を発揮しているのも加えての話です。

 

これも、これまでにありそうでなかったジャーニーの新たな楽曲だと思います。

 

アルバムラストの13曲目は、WE WILL MEET AGAIN(ウィ・ウィル・ミート・アゲイン)。

 

ニール、オージェリー、Kim Tribbleによる共作の王道ロックです。

 

新加入ディーン・カストロノヴォのどっしりしたドラムのリズムにのって、ラストメッセージです。
最後はゴージャスなシンセサウンドも加わり、雄大な雰囲気の、堂々たるロックミュージックで幕を下ろします。

 

14曲目は、日本盤のみボーナストラックの、TO BE ALIVE AGAIN(トゥ・ビー・アライヴ・アゲイン)。

 

これまでジャーニーのボーナストラックには、ちょっと不要かな、ってものも多かったのですが、今回はとてもいい曲が入っていました。
アルバム全体にちょっと欠けていた、元気でちょいハードなロックンロールですね。
こういう爽快な楽曲が追加で入っていたのは、得した気分になれました。

まとめとおすすめポイント

2001年リリースの、JOURNEY(ジャーニー)の11thアルバム、ARRIVAL(アライヴァル)はビルボード誌アルバムチャートで第56位、セールスはアメリカで21万枚、世界でも35万枚という非常に残念な結果に終わってしまいました。
ちなみに日本では約34000枚、ということで、健闘しているほうだと思われます。(この中には僕の買った1枚も入ってるはずです。)

 

スティーヴ・ペリー脱退、という大ニュースを受けた後に発表されたアルバム、ということで成績が悪化したとも考えられますが、もう一つ別の大きな原因について触れなければならないでしょう。
このアルバムは2001年リリース、というわけで、この時期というのはインターネットが猛烈な勢いで世界中に普及していった時期ですね。
かといって初期は当然ながら今のようなダウンロード販売は確立しておらず、一種の無法状態にあった時期です。
このころには、Napsterといったファイル共有ソフトが流行っており、違法ダウンロードが定着して、取締りを受けていなかったわけです。
というわけで、激減したCD売上のため、チャートも下位に沈んでしまったのでした。

 

それで、アルバム自体は2000年12月に日本で先行販売されましたが、楽曲の無断流出のためアメリカではリリースが遅らされ、翌2001年の4月にリリースされることになりました。
そして、この空白の4ヶ月の間に、アルバム中の楽曲が幾つか変更されています。
最初のアルバムを聴いたファンは、ハードな曲が少なくバラードが多いことに不満を述べます。
そうした意見をフィードバックして、アメリカ盤では2曲のよりハードな楽曲(WORLD GONE WILDとNOTHIN’ COMES CLOSE)が追加され、1曲(I’M NOT THAT WAY)が削除されています。
個人的には、こういうのは世界共通にして欲しいと思っているので、ブレないでいただきたいと思うのですが。

 

さて、このようにチャート、セールス的に散々のアルバムになってしまいましたが、僕は非常に良いアルバムだと思っています。
何と言っても楽曲のクオリティは、まったく衰えていません。
基本的にはニールとジョナサンの2人を中心に作られていますが、今回は、外部ライターの参加も積極的に取り入れています。
その効果もあってか、非常に粒ぞろいの楽曲の詰まったアルバムとなったと感じています。

 

そして多くのファンにとって、このアルバムに対しての最大の関心事だったのが、スティーヴ・ペリー脱退の影響だったのではないでしょうか。
あれだけジャーニーの大成功に貢献した偉大なヴォーカリストの代わりを見つけるのは容易ではなかったはずです。
やはりヴォーカルが変われば、バンドの持つキャラクターが一変してしまうこともありえるからですね。
しかし、今回起用されたスティーヴ・オージェリーは見事にジャーニーの遺産を引き継ぎ、新たな道を開いてくれたと思います。

 

ライヴでも過去の名曲たちを「ジャーニー」というイメージを崩さずに歌い上げてますし、ほぼ違和感なく聞ける彼のヴォーカルは、非常に新曲たちにもマッチしていましたね。
かつて、ヴァン・ヘイレンのヴォーカルがデヴィッド・リー・ロスからサミー・ヘイガーに変わったときは、全くキャラクターが一新してしまいましたが、今回のヴォーカル交代劇はほぼほぼイメージのキープに成功したと思っています。
そして、予想以上に上手いオージェリーのヴォーカルによって、これからもジャーニーは安泰だ、という気持ちを強めることが出来ました。

 

このように、今回のアルバムは名作と思える出来でしたが、時代の流れもありセールス的に失敗作とみなされているのは非常に残念です。
しかし、個人的には前作トライアル・バイ・ファイアーよりもよく聴いて、耳に馴染んだ気がしています。

 

ジャーニーが再び大きく飛翔するためにはもう少し時間がかかりますが、その狭間にあっても実は輝いている名盤として僕はこのアルバムを推薦したいと思っています。

チャート、セールス資料

2001年リリース(日本は2000年)

アーティスト:JOURNEY(ジャーニー)

11thアルバム ARRIVAL(アライヴァル)

ビルボード誌アルバムチャート第56位 アメリカで21万枚、世界で35万枚セールス

1stシングル ALL THE WAY(オール・ザ・ウェイ) ビルボード誌Adult Contemporaryチャート第22位

2ndシングル WITH YOUR LOVE(ウィズ・ユア・ラヴ) チャートインせず