アメリカンロックがほとばしる 炎のセミライヴアルバム HSAS (Hagar Schon Aaronson Shrieve)- THROUGH THE FIRE(炎の饗宴)
青い影での出会い
僕がJOURNEY(ジャーニー)と出会い、FRONTIERS(フロンティアーズ)や遡ってESCAPE(エスケイプ)を聴いていた頃、ある曲に目が留まりました。
HSASというバンドの青い影という曲です。
なぜ目が留まったかというと、HSASとは4人のロックミュージシャンが集まったバンドの頭文字を並べた名前で、その2番目のSとは僕のフェイヴァリットバンドだったジャーニーのギタリスト、Neal Schon(ニール・ショーン)のSだったからでした。
それも、青い影、というのは古い有名な曲で、あのハモンドオルガンの温かいロングトーンのメロディが美しい曲だと知っていました。
ニールがそれをカバーしてるということで、非常に興味をそそられたのでした。
他の3人は、その時の僕は知りませんでしたが、特にヴォーカルのSammy Hagar(サミー・ヘイガー)はその後長い付き合いになることになります。
ニールのギターは上記の2枚のアルバムでは、非常にツボを得たもので、速弾きはあるものの、基本メロディアスで楽曲を優先した非常にプロ職人芸を感じられるプレイを披露しています。
それが、自身のプロジェクトでどんなプレイを聞かせてくれるのか、非常に関心が高まったのです。
HSAS結成について
まずはこのHSASの頭文字の4人は下記のとおりです。
H:Sammy Hagar(サミー・ヘイガー) ヴォーカル
S:Neal Schon(ニール・ショーン) ギター
A:Kenny Aaronson(ケニー・アーロンソン) ベース
S: Michael Shrieve(マイケル・シュリーヴ) ドラムス
この4人の集まりです。
もともとジャーニーのフロンティアーズのリリース後、ニールはソロ活動を行なっていたサミーと共に、新しいプロジェクトを立ち上げることにします。
サミーは、MONTROSE(モントローズ)から脱退した後に、既に7枚のソロアルバムを出し、VOA(ヴォイス・オブ・アメリカ)とも呼ばれるアメリカンロッカーとしての地位を確立したロッカーでした。
そのサミーといまやジャーニーで大ブレイク中のニールの競演は、非常に大きな話題を呼ぶことになります。
もともとサミーの5枚目のアルバムDANGER ZONE中の一曲でギタリストとして参加していることもあって、二人は意気投合しています。
で、このプロジェクトに必要な残りのメンバーを探し始めますが、なかなか見つかりません。
途中幾人かの候補は上がりますが、フロンティアーズツアーの終了までに、ケニーとマイケルがそれぞれベース、ドラムスとして参加することになります。
ケニーは、元DERRINGER(デリンジャー)のべーシスト、マイケルは元SANTANA(サンタナ)のドラマー、ということで、どちらもロック畑では活躍してきているミュージシャンです。
というわけで、4人のロックミュージシャンによるスーパーグループが結成されることになります。
そして、レコーディングに入るわけですが、基本的にライヴレコーディングになっているようです。
1983年11月9日から21日にかけてライヴでの演奏がされています。
そして、そのうちの11月14,15日のプレイはMTVで放送されました。
この一連の流れでレコーディングされた音源はスタジオに持ち込まれ、観客の声を消したり、ソロ中のバッキングギターの音を重ねるなどのオーバーダビングがなされ、それがアルバムとしてリリースされることになりました。
特にこのアルバムでは、ライヴ感あふれるプレイが楽しめますし、何よりもニール・ショーンによる、普段のジャーニーとは別人のようにはじけた演奏を楽しめます。
では、1984年リリースのHSAS(Hagar Schon Aaronson Shrieve)のアルバム、THROUGH THE FIRE(炎の饗宴)をご紹介したいと思います。
THROUGH THE FIRE(炎の饗宴)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、TOP OF THE ROCK(トップ・オブ・ザ・ロック)。
豪快なギターリフによるイントロの上に、サミーが歌い始めます。
そして、ベースとドラムが入ってきて、堂々たるロックチューンの始まりです。
ライヴ録音とは思えない、なかなかなクオリティのプレイになっています。
ドラムも勢いよくビートを刻んでますし、ベースはゴリゴリと非常に目立ってます。
後からオーバーダビングはされてはいますが、基本的には4人の音で構成されてるので各楽器がはっきりと聞こえてとてもいいバンドサウンドになってると思います。
VOAと呼ばれているサミーの豪快なヴォーカル。
こういうアメリカンロックを歌わせると、やはり非常に似合いますね。
カバー曲を除いて、全曲がサミーとニールの共作ということで、優れたハードロック作品が出来上がってると思います。
そしてやはり特筆すべきはニールのギタープレイでしょう。
普段ジャーニーでは、キーボードのJonathan Cain(ジョナサン・ケイン)が曲中を彩っていますので、ギターが目立たない部分も当然あります。
しかし、今回はキーボードはいませんので、ギターが主役のようになってますね。
リフも曲全体で踊りまくってますし、ちょくちょくソロコーナーが訪れては弾きまくってます。
恐らく、ギタリストとしてはこれが1番やりたかったのではないでしょうか。
他の3人のプレイも良いのですが、普段抑え気味なニールのギタープレイをたっぷり楽しめるのがこのプロジェクトの最大の醍醐味と言えるかもしれません。
豪快なアメリカンハードロックで幕を開けました。
2曲目は、MISSING YOU(忘れじの面影)。
哀愁味のあるキャッチーなロックソングです。
イントロから、タッピングを交えたニールのプレイが曲を印象付けています。
この曲は、ジャーニーのアルバムに入れてもいいような、いい曲になってますね。
でも、ギターが全編で楽曲を彩っているところが、ジャーニーとは大きく異なってます。
また、サミーの、後のヴァン・ヘイレンでも聞けそうな楽曲にも感じられます。
両者のコンポーザーとしての才能の片鱗が見える、80年代の懐かしい香りのするいい曲ですね。
ニールは曲中は、バッキングに徹してますが、ところどころにオブリを入れてますしやはり主役な感じでプレイしてます。
しかし、サミーがヴォーカルをとっている時にはそれを優先させるとこは、さすがにジャーニーで培った職人芸ですね。
でも、いったんソロを任されると、スイッチが入り、日ごろの鬱憤を晴らすかのように弾きまくってます。
それでも絶妙なタイム感で見事に、次の歌メロにつなぐところはさすがです。
3曲目は、ANIMATION(アニメイション)。
申し訳ありませんですが、この曲だけは、どうしても僕には理解できませんでした。
前半の、プログレっぽい部分が非常にわかりにくいです。
変拍子なのだろうと思うのですが、どうしても理解できずにいます。
皆さんは、この曲どう思っておられるのでしょうか。
中盤以降の、長いギターソロパートは、初期のジャーニーを思い出させられて悪くはないです。
4曲目は、VALLEY OF THE KINGS(王家の谷)。
こちらは壮大なストーリーを感じさせられるイントロから、非常にいいですね。
ニールの奏でるソロメロディは、とてもいいですね。
中盤のギターソロは、イントロのソロメロディをモチーフにして、その後弾きまくってます。
ジャーニーのときのようにコンパクトなソロではなく、たっぷりと彼のソロを楽しめます。
5曲目は、GIZA(遥かなるギザ)。
前曲からの続きで、今度は太いギターリフが弾けてます。
恐らく前の曲とは組曲で、こちらがエンディングとなっているようです。
短いパートですが、リフとラストのソロと、ニールのプレイで壮大に楽曲は終わります。
6曲目、ここからB面ですが、WHITER SHADE OF PALE(青い影)。
これはイギリスのロックバンドPROCOL HARUM(プロコル・ハルム)の1967年のデビュー曲にして最大のヒット曲のカバー曲となります。
ハモンドオルガンのメロディが超有名ですね。
イントロから聴けるニールの繊細なアルペジオプレイ。
そして、風格漂うサミーの優しいヴォーカル。
決して本家に負けてない素晴らしいカバーになってると僕は思います。
あの、ハモンドオルガンのメロディは、ニールがギターで、トリルを混ぜながらなぞっています。
元々のメロディが素晴らしいこともあり、それを美しいギターのトーンで弾かれると、もう極上の曲になりますね。
間奏部では、このメロディの後にニールが速弾きを加えてます。
本家では全くそんな部分はありませんが、ニールのプレイにより、優れたカバーアレンジになってると思います。
サミーの熱唱とニールの繊細かつ熱いプレイの詰まった素晴らしい楽曲だと思います。
この曲はシングルとしてリリースされており、ビルボード誌シングルチャートで第94位を記録しています。
7曲目は、HOT AND DIRTY(ホット&ダーティー)。
楽曲的にはそんなに際立っていい曲というわけではないゆったりハードロックソング。
しかし、ニールのギタープレイは、暴れまわり、輝いてます。
たびたび入ってくるオブリでも、ソロでもとにかく弾きまくってます。
ジャーニーでは見れないプレイだということは間違いないです。
ニールは完全にストレス発散出来ているのではないでしょうか。
8曲目は、HE WILL UNDERSTAND(ヒー・ウィル・アンダースタンド)。
ジャーニーでも聴けそうな、ドラマティックな曲です。
ここでもニールのアルペジオが美しいです。
中盤から爽快なロックへ移ります。
そして、ギターソロではニールの渾身のソロが聴けます。
めいっぱい音数を詰め込んでますが、しっかり次の歌までの間の帳尻を合わせてきます。
この曲ではなぜか聴衆の歓声が残されてますね。
そして、冒頭のアルペジオパートに戻り、静かに楽曲は終了します。
9曲目は、MY HOME TOWN(マイ・ホーム・タウン)。
この曲もまたニールの激しいギターリフがかっこいいですね。
絶対にジャーニーでは聴けないリフですよね。
また、ケニーのベースも負けじとごりごりとグルーヴを生み出してます。
加えてマイケルのドラムも激しく叩きまくってます。
アルバムラストにて、1番バンドっぽい激しい楽曲がやってきました。
当然のようにサミーも激しいヴォーカルを聴かせてます。
そして、やはり主役とも言うべきニールのギターソロもたっぷり聴かせてくれてます。
初期のインストバンドに近かった頃のジャーニーでしかやれなかったようなプレイですね。
思いっきりこのプロジェクトを楽しんだのはニールではないか、と思えます。
まとめとおすすめポイント
1984年リリースのHSAS(Hagar Schon Aaronson Shrieve)のセミライヴアルバム、THROUGH THE FIRE(炎の饗宴)はビルボード誌アルバムチャートで第42位を記録しました。
このアルバムは最初から一時的なプロジェクトということでしたので、HSASとしてはこれが最初で最後のアルバムとなります。
シングルの青い影もともに大ヒット、というわけには行きませんでしたが、やはり豪華なロックミュージシャンの融合ということで、大きな話題を呼んだことは間違いありません。
この中でもっとも成功していたのはニールで、やはり彼が中心のアルバムとなっています。
普段ジャーニーでは楽曲優先のギターを披露していますが、彼のポテンシャルはそこで収まるようなものではありません。
普段の鬱憤を晴らすかのような、弾きまくりのギターオリエンティッドな作品となりました。(もちろん、ジャーニーでの活動が不満だったわけではないと思います。)
そんなニールの爆発を可能にしたのが、ヴォーカルのサミーかもしれません。
二人は相性が良かったようで、お互いいいところをつぶさず、高め合っているように感じられます。
基本、バンドでもっとも目立つフロントマンはヴォーカリストですが、サミーはそこではヴォイス・オブ・アメリカとして熱唱を見せていますが、ちゃんとバンドの花形であるギタリストが目立つのも受け入れてます。
特に、これがライヴレコーディングということもあり、いいバランスで二人がフォーカスを受けるように出来ていると思います。
サミーも長いキャリアの中で、熱いアメリカンハードロッカーとしての地位を得ていたものの、大ブレイクには至っていません。
このバンドでのライヴが、2年後のVAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)加入への布石になったのでは、と考えるのもあながち間違いとは言えないでしょう。
一つ、惜しいところがあるとすれば、せっかくなので完全にライヴアルバムにしたらよかったのに、と思います。
音源のベースとなるのはライヴではありますが、観客の声を消したり(なぜか8,9曲目だけは歓声が残されてます。)、ギターをオーバーダビングすることによってある程度整えられた作品になっています。
そこをラフでもいいので、完全にライヴをまるっと作品にするほうが伝わるものは大きかったのでは、ということです。
それが出来ない4人ではないと思われますし、過去に素晴らしいライヴ作品は多数存在します。
4人のプロの腕のぶつかり合いを生に近い感じで楽しみたかった、と僕は個人的に思います。
それでも、基本はライヴですから、4人のプレイのせめぎ合いはしっかりライヴ感として記録されています。
4人というシンプルな構成だからこその、それぞれのプレイが際立っています。
80年代の一瞬に生まれた、アメリカンハードロックアルバム、なかなか楽しめます。
チャート、セールス資料
1984年リリース
アーティスト:HSAS(Hagar Schon Aaronson Shrieve)
セミライヴアルバム、THROUGH THE FIRE(炎の饗宴)
ビルボード誌アルバムチャート第42位
1stシングル WHITER SHADE OF PALE(青い影) ビルボード誌シングルチャート第94位
このころのサミーヘイガーがよかったです
これもよく聞きました
ヘビーメタルよりハードロックのほうが
味があって未だにいいです。
ビール修道士さま。
コメントありがとうございます。
HSASのサミー、枯れ具合が僕もとても好きです。
サウンドも、ご指摘のとおりハードロック感がとてもいいですね。
僕もヘヴィネスを追求しすぎたヘヴィメタは、ちょっと苦手です。
ジャンルはヘヴィメタでも、ハードロックよりのアプローチのバンドが多かった80年代~90年代初頭までのサウンドがお気に入りです。
コメントいただき、ありがとうございました。