そして黄金期のラストアルバムへ  HEART (ハート)- BRIGADE(ブリゲイド)

この作品までの流れ





1985年リリースのHEART(ハート)の8thアルバム、HEART(ハート)はビルボード誌アルバムチャートNo.1を獲得し、アメリカだけで500万枚を記録。
1987年リリースの、9thアルバム、BAD ANIMALS(バッド・アニマルズ)は同誌アルバムチャートで、第2位を記録、アメリカだけで300万枚を売り上げます。
人気が低迷していたハートは、この2作で、完全に復活を遂げただけでなく、バンド史上の黄金期を迎えることになりました。

 

その大きな要因は、こだわりを捨てて、優れた外部ライターを多数起用して、大ヒット曲を連発したことがあげられます。
もう一つは、80年代のサウンドにぴたりと合わせて、徹底的に売れる音作りを行なえた、プロデューサーRon Nevisonロン・ネヴィソン)を起用したことが挙げられるでしょう。

 

そして今回も同様のアプローチで3年ぶりのアルバムが制作されます。
ただ、今回は理由はわかりませんが、プロデューサーがロン・ネヴィソンから、Richie Zitoリッチーズィトー)に変更になっています。
彼もまた、
BAD ENGLISH(バッド・イングリッシュ)やCHEAP TRICK(チープ・トリック)などを手掛けていることからわかるように、歌メロ中心の、ハードポップ作品を作る点では腕のあるプロデューサーです。
なので、引き続き、同じ傾向での作品作りが期待されていたと思われます。
また、今回も多くの外部ライターによる楽曲を積極的に採用して、優れたメロディの曲が多数収録されることになりました。

 

では、今日は1990年リリースの、HEART(ハート)の10thアルバム、BRIGADE(ブリゲイド)をご紹介したいと思います。

BRIGADE(ブリゲイド)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、WILD CHILD(ワイルド・チャイルド)。

 

Robert John “Mutt” Lange(ロバート・ジョン・“マット”・ランジ)と、 Craig JoinerAnthony Mitmanという3人の共作曲です。
最初、イントロの出だしを聞いたときは、これがハートか!?、と驚かされました。
ブリッジミュートリフに、激し目のドラムが加わり、シンセも絡んでいきます。
エイトビートのドラムが入ってからは、ソリッドなギターリフに派手なギタープレイ。
全然別バンドと思えましたが、非常にかっこいいイントロになっています。

 

ところが、ハートの看板ヴォーカリスト、Ann Wilson(アン・ウィルソン)の声が入った瞬間、うわ、ハートだ!!、と納得のオープニングに変わります。
この曲ではかなりハードエッジな演奏になっており、8thアルバムで見せたハードロックに乗せた女性ロックヴォーカルが聞ける、非常に僕好みの楽曲になっています。
エレキギターも、今まで以上に激しくプレイされていますし、ギターソロもたっぷり披露されかっこいいです。
そんなハードロックなバックバンドを率いて、力強く歌うアンがかっこよすぎます。
もはや、黄金期の余裕さえ感じられる、オープニングにふさわしい楽曲になっています。

 

ハードテイストを増して3年ぶりにハートが帰ってきました。

 

この曲はシングルカットはされていませんが、Mainstream Rockチャートで第3位を記録しています。

 

2曲目は、ALL I WANNA DO IS MAKE LOVE TO YOU(愛していたい)。

 

この曲は“マット”・ランジによる楽曲です。
これまた爽快な、ミドルテンポの名曲が登場です。
やはりこのテンポのメロディアスな曲は、売れる雰囲気が満ち満ちていますね。

 

シンセのアレンジ、美しいサビのメロディ、そこにかかるコーラス、どこをとっても一級品ですね。
売れるべくして売れた感のある、80年代的な見事なラヴソングです。

 

“マット”・ランジはもともと、 Don Henley(ドン・ヘンリー)のために作っていた曲のようです。
そして1979年には、Dobie Gray(ドビー・グレイ)というアメリカのブルースシンガーが別の歌詞で歌っています。
で、ハートには、新たな歌詞がついた楽曲が準備されました。
その歌詞はというと物議を醸したため、イギリスでは放送禁止になったようですね。
ヒッチハイカーとの一夜限りの情事がテーマになっていて、アン自身も好きな内容ではなかったようです。
なので、後に嫌いな曲として挙げていますし、ライヴでも歌ってこなかったようですね。

 

まあ、内容はともあれ、楽曲、メロディ、アレンジ、といった点では、やはりハートの代表曲の一つと言っても過言ではないでしょう。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで2週連続第2位を記録しています。(その時No.1にいたのはマドンナのVogue(ヴォーグ)でした。)
そして同誌Mainstream Rockチャートでも第2位、Adult Contemporaryチャートで第6位を記録しています。

 

ついでに言えば、ドン・ヘンリーのヴァージョンも、もしあれば絶対良かっただろうと思えます。
聞いてみたかったです。

 

3曲目は、SECRET(シークレット)。

 

この曲は、Franne Goldeという女性ソングライターと、Bruce Robertsという男性ソングライターの共作作品です。
これもまたたまらない名曲登場です。
イントロからのキーボード、そしてAメロからのアコギのストローク、両者が絡んだ前半のアコースティックパートの美しさ。
そしてサビでは、パワフルなバンドサウンドへ。
80年代に流行した典型的なパワーバラードを見事に継承しています。

 

それでも、ありきたりにならないのは、やはりアンの強烈なヴォーカルによるのではないでしょうか。
サビでは中音域はアン、高音域は妹のNancy Wilson(ナンシー・ウィルソン)、と絶妙なコーラスを聞かせてくれてますが、やはり一発の力強さがアンにはあります。
静かなAメロから、パワフルな大サビまで、見事に歌い上げていますね。

 

そして、もう一つ特筆すべきは、サビメロの美しさ
もう、初めて聞いたときはゾクゾクしましたよ。
メロディが美しすぎます。
80年代に、いいメロディというのはほぼ全て登場しつくしたのではないか、と思えるのですが、いまだに(1990年)こんな美しいメロディが生み出せたのですね。
外部ライターの力、恐るべしデス。

 

この曲は4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第64位を記録しています。
せめて2ndぐらいで出せば、かなり上位を狙えたのでは、とちょっと残念です。

 

4曲目は、TALL, DARK HANDSOME STRANGER(いつわりのストレンジャー)。

 

この曲はあの優秀な女性ソングライターHolly Knight(ホリー・ナイト)と Albert Hammondという男性ソングライターによる共作曲です。
ハードなギターリフに、ホーンセクションが絡んでいく、ゴージャスでワイルドな楽曲です。

 

こんな曲では、やはりアンのロックヴォーカリストとしての才能がはじけますね。
さすがに女性版ロバート・プラントと呼ばれただけのことはあります。
ギターソロも、ピッキングハーモニクスを多用して、ワイルドな雰囲気たっぷりです。

 

80年代にはホーンセクションで厚みを出す手法が、いろんなところで聞けましたが、ここでもばっちり取り入れてます。
やはりそのおかげで、豪快なサウンドになっていますね。

 

この曲はシングルカットはされていませんが、Mainstream Rockチャートで第24位を記録しています。

 

5曲目は、I DIDN’T WANT TO NEED YOU(恋に落ちる)。

 

この曲はこれまたヒットメイカーの女性ソングライターDiane Warren(ダイアン・ウォーレン)による楽曲です。
イントロのエレキのリフで入るパートが非常にかっこよいです。
その後は、こちらも典型的なパワーバラードです。
もう、フックのかたまりのようなメロディで、さすがダイアン・ウォーレン、職人業ですね。
ただ、ダイアンにしては、ちょっと普通かな、って気もしますが、決して悪くはないです。
ギターソロも、軽いタッピングなんか混ぜて、メロディアスに奏であげてます。
そしてアンのパワフルな熱唱も十分に生かされた楽曲になっていますね。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャート第23位、Mainstream Rockチャートで第13位を記録しています。

 

6曲目は、THE NIGHT(ザ・ナイト)。

 

この曲にはアンとナンシーの姉妹と、ハートのドラマーDenny Carmassi(デニー・カーマッシ)の3人にSammy Hagar(サミー・ヘイガー)が加わっての4人の共作になっています。
デニー・カーマッシは元はMontrose(モントローズ)のオリジナルメンバーで、その頃のつてで、同じく元モントローズのサミーが参加したと思われます。

 

アコースティックギターによるイントロから、一転してけっこうヘヴィなバンドサウンドへ展開します。
テンポは速くありませんが、このどっしり感のあるバンドに乗せて歌うアンのヴォーカルがやはり素晴らしいですね。
ラスト前のナンシーのコーラスも非常にかっこいいです。
ハードロックではありますが、サビはキャッチーで、この辺も80年代っぽいです。
ギターソロも結構たっぷり披露され、ロックっぽいフレーズがしっかりと盛り上げています。

 

7曲目は、FALLEN FROM GRACE(おもかげせつなく)。

 

これは、ハートのドラマー、デニー・カーマッシ、そして元モントローズつながりのサミー・ヘイガー、そしてサミーのソロの頃バックバンドにいたキーボードのJesse Harms(ジェシー・ハームス)の3人の共作になっています。

 

この曲の最大の特徴は、やはりのっけから聞ける美しく重厚なコーラスワークでしょう。
あまりにも美しいコーラスの合間から突き抜けるアンの独唱もすばらしく耳をとらえます。

 

そしてアコギのストロークでバラードになるのかと思いきや、疾走感あふれるドライヴィングチューンへと変貌します。
適度にソリッドなギターリフ美しいシンセサウンドにより、これもエイティーズらしいハードロックチューンになっていますね。
ソロ時代のサミー・ヘイガーを思い出させる、爽快なアメリカンロックが楽しめます。
シングルにしてほしかった、ハイクオリティな楽曲だと思いますね。

 

8曲目は、UNDER THE SKY(アンダー・ザ・スカイ)。

 

この曲はアンとナンシー姉妹、そして、8th、9thアルバムでも参加している女性ソングライター、SUE ENNISの3人による曲です。
アコギがメインとなる、静かで美しい楽曲です。
アコースティックな魅力があふれています。
楽器も一つ一つがきれいな音色を聞かせています。

 

そんな中で優しく歌い上げるアンのヴォーカルもいいですね。
サビでのコーラスも二人の姉妹によって美しく歌い上げてあります。
後半の歌メロのハーモニーも、素晴らしすぎますね。
短い曲ですが、ハートのまた別の面が見れる名曲です。

 

9曲目は、CRUEL NIGHTS(クルーエル・ナイツ)。

 

この曲はダイアン・ウォーレンによる2曲目の曲です。
音使いがまさに80年代のサウンドのままですね。
キラキラしたシンセの音、キャッチーなサビメロ、まさに完璧なポップチューンかと思われます。
ギターソロが、コーラスエフェクトがかかって、とても気持ちいい音が奏であげられていますね。
爽やかなミドルテンポのポップスです。

 

10曲目は、STRANDED(ストランデッド)。

 

この曲は、女性ソングライターのJamie Kyle(ジェイミー・カイル)と 男性ソングライターのJeff Harrington(ジェフ・ハリントン )による共作です。
そして、この曲の最大の特徴は、ナンシーがリードヴォーカルをとっている、という部分でしょう。
これまでも、アルバム中1曲はナンシーのリード曲がありましたが、今回はこの曲がそれです。

 

優しいシンセの作り出すいい雰囲気の中で美しいギターアルペジオが曲を作っていきます。
ナンシーのヴォーカルはアンより少し優しい感じで、これもまた魅力的です。
サビではバンドサウンドが入ってきて、力強いパワーバラードに変わります。

 

サビのメロディも美しく、ナンシーのヴォーカルにコーラスで寄り添う、アンのヴォーカルも非常に美しいですね。
二人のハーモニーが曲のクオリティを見事にあげていると思います。
ギターソロはコンパクトですが、エモーショナルな泣きのメロディを上手く奏であげています。
これまたいい感じのバラードになっています。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第13位、Mainstream Rockチャートで第25位、そして Adult Contemporary チャートで第8位を記録しています。

 

11曲目は、CALL OF THE WILD(コール・オブ・ザ・ワイルド)。

 

この曲はハートの5人とSUE ENNISによる楽曲です。
ギターリフで激しく始まる、ロックソングです。
このどっぷりワイルドな感じは、初期のハートっぽい感じはあります。
おそらくナンシーが吹いているハーモニカもいい味を出しています。
が、サビ部分ではシンセがたっぷり楽曲を彩って、やはり80年代風の楽曲になっています。
しかし、アンの歌唱は飽くまでもワイルドにきまっています。

 

12曲目は、I WANT YOUR WORLD TO TURN(愛をそそいで)。

 

この曲は前作のアローンの作者のTom Kelly(トム・ケリー)と Billy Steinberg(ビリー・スタインバーグ)のコンビの楽曲です。
ミドルテンポの楽曲でアレンジも80年代風
メロディもフックがあり、哀愁のある雰囲気の中でなかなか頭に染み付くメロディが奏でられています。
このゆったりのヴォーカルもアンにとってはお手の物です。
心地よい楽曲になっています。

 

ラスト13曲目は、I LOVE YOU(アイ・ラヴ・ユー)。

 

この曲はウィルソン姉妹と、ホリー・ナイト、 Albert Hammondの共作です。
最後に優しい優しい本物のバラードで締めくくりです。
ギターアルペジオ中心に、シンセや他の優しい楽器で美しく彩られています。

 

美しいメロディを歌い上げるアン、そして優しくコーラスを重ねるナンシー。
もう、うっとりさせられる素晴らしいバラードでアルバムは幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1990年リリースの、HEART(ハート)の10thアルバム、BRIGADE(ブリゲイド)はビルボード誌アルバムチャートで第3位、アメリカで200万枚を売り上げました。
これで低迷からの復活以降、3作連続のアルバムチャートTOP3入り、マルチプラチナ(200万枚以上)も同じく3作連続です。

 

まさにこの1985年から1990年までがハートの黄金期と言えるのではないでしょうか。
この大成功の理由は、やはり80年代に合わせて売れる音作りのできる敏腕プロデューサーの採用と、大量の外部ライターの起用の二つが大きいと考えて間違いないでしょう。
もちろん、初期からのファンにとっては賛否両論あるとは思いますが、やはり音楽市場で大ヒットしたという事実は、多くの人に愛される楽曲を作れたことの証と言えるでしょう。

 

それにしても、今回は前作以上に外部ライターによる曲が増え、ハートのメンバーによるものはかなり少数になっています。
そのおかげか、優れた名曲がぎっしりと詰まった濃密なアルバムになっていると思います。
ほとんどの曲がシングルヒットを飛ばしそうなクオリティを持っていますし、聞いて心地よいサウンドを備えています。

 

また、エレキギターがかなりフィーチャーされていて、これまで以上にハードエッジな音を聴かせてくれてます。
ロックバンドにふさわしいギターリフやソロプレイは、ますます成長しているように感じられますね。
そして、ただハードなだけでなく、それを包み込むシンセサウンドは80年代の鉄板の流行どおりに楽曲を彩っています。
そのお陰で、ハードロックとポップな感覚が絶妙に入り混じって、とても聞き易いアルバムになっています。

 

それに加えて、数々の美しいパワーバラード
なかなかこんなに名曲がてんこ盛りのアルバムも多くはないでしょう。
まさに80年代サウンドの総まとめ、とも言える素晴らしいアルバムを生み出してくれたと思います。

 

ただ、80年代的なサウンドを完成品へと持っていったのは素晴らしいことなのですが、ここから始まる1990年代にうまく対応していけなかったのが残念ですね。
90年代初頭からグランジブームが湧き上がっていき、ロックというジャンルにおいてはヘヴィ&ダークなものが好まれるようになって行きます。
そんな中でハートは埋もれていってしまうことになっていきます。

 

まあ、そんな未来が控えているとはいえ、1990年時点でのこのアルバムは、やはり名曲ぞろいの素晴らしいアルバムであることは間違いありません。
80年代サウンド総決算の、ゴージャスで、ハードで、美しい名曲の数々
この8thから10thアルバムは、ハートの魅力が詰まった素晴らしい作品たちです。
ハートを聞くなら、この黄金期の3作で決まりでしょう。

チャート、セールス資料

1990年リリース

アーティスト:HEART(ハート)

10thアルバム、BRIGADE(ブリゲイド)

ビルボード誌アルバムチャート第3位 アメリカで200万枚のセールス

1stシングル ALL I WANNA DO IS MAKE LOVE TO YOU(愛していたい) ビルボード誌シングルチャート2週連続第2位、同誌Mainstream Rockチャート第2位、同誌Adult Contemporaryチャート第6位

2ndシングル I DIDN’T WANT TO NEED YOU(恋に落ちる) シングルチャート第23位、Mainstream Rockチャート第13位

3rdシングル STRANDED(ストランデッド) シングルチャート第13位、Mainstream Rockチャート第25位、Adult Contemporary チャート第8位

4thシングル SECRET(シークレット) シングルチャート第64位

プロモ用シングル WILD CHILD(ワイルド・チャイルド) Mainstream Rockチャート第3位

プロモ用シングル TALL, DARK HANDSOME STRANGER(いつわりのストレンジャー) Mainstream Rockチャート第24位