キーボーディストがリーダーの変わり種ハードロックバンドのデビュー作 GIUFFRIA(ジェフリア) –   GIUFFRIA(美伝説)

ジェフリアとは





1984年、一曲のメロディアスなパワーバラードがチャートを上がってきました。
その名も、ジェフリアのコール・トゥ・ザ・ハート。

 

シンセ中心の楽曲で、ミディアムテンポのバンドサウンドに乗せてハイトーンヴォーカルが冴えわたる。
まさに僕の好みのど真ん中的な音楽に一気に魅せられてしまったのでした。

 

もうすでにこの頃はけっこういろんなバンドを好きになって聞いていたのですが、このジェフリアというバンド、なんとキーボーディストがリーダーだという衝撃の事実。
キーボーディストの名前をバンド名に冠するなんて、聞いたことがないと思い、ますます関心が高まったのでした。
GIUFFRIA(ジェフリア)は、キーボーディストのGregg Giuffria(グレッグ・ジェフリア)の結成したバンドでした。

 

このバンドの中心人物のグレッグは、1975年デビューのANGEL(エンジェル)の創設時からのメンバーでした。
ハードロック、グラムロック、プログレなどを融合した音楽性を持つヴィジュアル系バンドと言えるエンジェルの中で、キーボードを駆使してバンドのサウンドに大きな存在感を持っていたのがグレッグになります。
ナイトクラブで演奏していたエンジェルは、KISS(キッス)のヴォーカル&ベーシスト、キース・シモンズによって見出され、キッスと同じレーベルとの契約をつかむことができました。
キッスは悪魔や地獄、黒いコスチュームといったおどろおどろしいイメージ戦略でブレイク中だったため、エンジェルはその名も天使白いコスチュームを身にまとい、全く対照的な戦略でのプロモーションが行われることになります。
しかし、その戦略が災いしたか、アイドル的な見方しかされず、音楽的な評価をほとんど受けることなく商業的な成功を得ることはできませんでした。

 

実際アルバムを1975年から1979年にかけて5枚のアルバムをリリースしますが、数枚がアルバムチャートをかすめるくらいで、ブレイクするまでには至りません。
結局、エンジェルはコアなファンの人気を集めたものの、1981年に解散、メンバーたちはそれぞれ様々なバンドへと散っていきます。

 

その中、バンドを離れたグレッグはスタジオで仕事をしていたようです。
しかし、時代は進み、イギリスでNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)の流行が訪れ、数多くのヘヴィメタル、ハードロックバンドが人気を博していきます。
その流れはアメリカにもやってきて、西海岸を中心にヘア・メタル(日本ではL.A.メタルと呼ぶ)と呼ばれる数多くのヘヴィメタル、ハードロックバンドが登場し、チャートを席巻していきます。

 

そうした音楽界の状況を見て、再びチャンスが来たと考えたグレッグはバンドを再結成しようと考えます。
しかし、元エンジェルのメンバーは集まらず、再結成はかないません。
それで、とりあえずエンジェルの名前を仮名として、グレッグは自身のプロジェクトとしてのバンド結成を念頭にメンバーを集めていくことになります。
ヴォーカルには元Sorcery(ソーサリー)の David Glen Eisley(デヴィッド・グレン・アイズレー)。
ギタリストには元Rough Cutt(ラフ・カット)の Craig Goldy(クレイグ・ゴールディ)。
ベーシストには元Quiet Riot(クワイエット・ライオット)の Chuck Wright(チャック・ライト)。(チャックはその後クワイエット・ライオットに戻ってます。)
ドラマーにスタジオ・ミュージシャンの Alan Krigger(アラン・クリガー )。
そして、キーボードにグレッグ本人、の5人が最終的にバンドを構成することになりました。

 

それぞれ、経歴のあるテクニシャンの集まりで、エンジェルの時と同様、音楽的には優れたものを生み出すことになります。
バンド名としては、「エンジェル」を使えなかったようで、結局、中心人物のグレッグの名前を冠して、GIUFFRIA(ジェフリア)と名付けられました。
こうして、ついに1984年にMCA Recordsと契約、レコードリリースにこぎつけることができたのです。

 

エンジェルの際は、アイドル的ルックスが災いして、正当な音楽的な評価を得ることに苦労したようですが、今回は時代も経過し、ルックス重視のヘア・メタル全盛となっているのも幸いして、彼らのルックスはマイナス要素としては働かず、むしろプラスになったかとも思われます。
そのうえ、今回はポップ要素もいい具合に加わったため、エンジェル時代を超えたチャートパフォーマンスを見せることに成功したのでした。

 

では今日は、1984年にリリースされたGIUFFRIA(ジェフリア)のデビューアルバム、GIUFFRIA(美伝説)をご紹介したいと思います。

GIUFFRIA(美伝説)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、DO ME RIGHT(ドゥ・ミー・ライト)。

 

もう、イントロでキーボード全開の幕開けにはハッとさせられます。
さすが、キーボード奏者がリーダーだけのことはあるな、という感じで、煌びやかにシンセサウンドが響き渡るイントロです。

 

本編が始まると、堂々としたゆったりテンポでのハードロックを聞かせてくれます。
全編でキーボードが鮮やかに色づけていますが、クレイグのギタープレイも悪くありません。
キーボードが目立つのは当然ですが、クレイグが頑張ってるおかげで、バランスが取れてると思いますね。
音的にはまさに80年代エイティーズのハードロックの典型かと思われます。

 

あと、ヴォーカルのデヴィッドも迫力ある声を伸びやかに聞かせてくれてます。
当時は感じなかったのですが、ジャーニーのスティーヴ・ペリーに似てるって言われてたんですね。
そう言われれば、まあそんな気もしますが、まあ僕の好みの声なので問題なしでしょう。

 

エンジェル時代の名残はあっても、よりキャッチーになって帰ってきた感じがあります。
また、80年代らしいサウンドも、ジェフリアとしての魅力を高めていると思います。
この適度なハードロックが、僕のようなメロディアスハードロックファンにはたまらないに違いありません。

 

2曲目は、CALL TO THE HEART(コール・トゥ・ザ・ハート)。

 

これぞ、ジェフリアとしての復活の楽曲です。
グレッグの、エンジェル時代にはかなわなかった大きなヒット曲がついに生まれました。

 

僕は前述のようにこの曲がチャートインした時に、ジェフリアを知ったわけですが、やっぱり今でもこの曲は好きですね。
柔らかく優しいシンセのイントロから始まるパワーバラードですが、もう完璧です。
叙情的に歌い上げるデヴィッドのヴォーカルもいいですし、何といっても歌メロが非常に美しいです。
サビのヴォーカル&コーラスが美しすぎます。

 

間奏前に雰囲気を変える歌メロ、そこからのギターソロへの流れも最高にドラマティックです。
美しいメロディのソロから、シンセが柔らかく響いて再びバンドサウンドへと展開していくさまが秀逸です。
そして、その後もうひと盛り上がりあって最後のサビへ。
4分半ほどの楽曲ですが、非常にドラマティックな出来になってますね。

 

これも80年代を代表するパワーバラードの一曲として記憶に残る名曲だと思います。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第15位を記録しました。

 

3曲目は、DON’T TEAR ME DOWN(ドント・テア・ミー・ダウン)。

 

ハードエッジなギターリフが引っ張るメロディアスハードロックチューンです。
デヴィッドのヴォーカルがワイルドに歌い上げてます。
この辺は、やはりスティーヴ・ペリーとはだいぶ趣がちがうと僕は思いますが、いかがでしょうか。

 

ドライヴ感たっぷりのハードロックに、全編にわたってゴージャスなシンセが飾り立てて、非常にかっこよいです。
ギターソロも、取り立ててハイテクではないものの、かなり長尺のソロをたっぷりかっこよく弾ききってます。
アウトロでもクレイグのギターは弾きまくっていますね。

 

なかなか爽快で気持ちよく聞けるハードロック作品になっています。

 

4曲目は、DANCE(ダンス)。

 

続いてまた疾走系のノリノリの楽曲です。
突っ走る感じのバンドサウンドも、シンセで包まれて非常に気持ち良いです。
デヴィッドもワイルドに叫んで盛り上げてます。

 

サビ前の頭打ちのリズムに変わる部分とか、ノリの生み出し方が巧みです。
サビのダンス!!のところもなんか非常に個人的にはお気に入りになってます。

 

間奏でのシンセも勢いを殺さず、グイグイ進んでいける感じでいいです。
ラストの、「ダンス!ダンス!ダンス!ダンス!・・・・hu~!」のところも、かなり気に入ってます。

 

タイトル通り、とっても楽しめるノリのいい楽曲になってます。

 

5曲目は、LONELY IN LOVE(ロンリー・イン・ラヴ)。

 

重厚感あるリズムとゴージャスなシンセに、ミュート気味のギターリフが軽快に乗っかるイントロから名曲の予感です。

 

サビの切なげなメロディがやはり心地よく秀逸です。
けっこう早くやってくるギターソロタイム。
クレイグのプレイは、メロディアスで一発の速弾きも加わり、たっぷりと名演を披露していますね。

 

後半はデヴィッドのハイトーンヴォーカルタイム、って感じで伸びやかに美声を響かせています。
いやいや、これもいい曲だと思いますよ。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第57位を記録しています。

 

6曲目は、TROUBLE AGAIN(トラブル・アゲイン)。

 

シンセスタートに、次第にドラムが入り、ベースにヴォーカルが加わっていく、ミドルテンポのハードロックソングです。
デヴィッドのヴォーカルが、力強く、魂がこもってる感じで非常にいいです。
ゆったりリズムにゴージャスなシンセで、ぜいたくな仕上がりになってます。

 

そして、この曲では、間奏でシンセソロとギターソロのバトルが繰り広げられます。
なかなかここまでのシンセソロって他では聞けません。
グレッグは鮮烈な音色で、キーボードの存在感をたっぷり主張してます。
それに対してクレイグもしっかり速弾きエレキプレイで応酬しています。
この間奏は、なかなかの見ものだと思います。

 

7曲目は、TURN ME ON(ターン・ミー・オン)。

 

ここでは、本格的なスリリングで疾走感あふれるハードロックを聞かせてくれます。
ジャーニーと比較されがちですが、やはりここまでのハードロックはジャーニーでは聞けませんね。

 

シングルの2曲がパワーバラード系で、そんなメロウなイメージが世間ではついたようですが、このかっこいいロックンロールでも知られてほしかったですね。
この曲でも、クレイグとグレッグのソロバトルが聞けます。
それぞれ譲らない気合の入ったプレイで、火花を散らしています。
また、サビでのハイトーンヴォーカルでデヴィッドも参戦し、なかなかのメタリック作品に仕上がっています。

 

こういう、かっこいい曲もプレイできるのが、ジェフリアの魅力の一つとなっています。

 

8曲目は、LINE OF FIRE(ライン・オブ・ファイア)。

 

メタリックな2曲に続いて、またもかっこいいハードロック曲です。
イントロこそ、静かにシンセと優しいヴォーカルで始まりますが、ワンコーラス歌った後にはバンドサウンドが加わり、激しい演奏へと突入していきます。

 

少し哀愁味のある歌メロにデヴィッドのヴォーカルはぴったりとはまってると思いますね。
ソウルフルなヴォーカルも聞きどころの一つです。
ギターソロでは、クレイグがたっぷりと弾きまくってます。
取り立ててハイテクではないものの、十分聞きごたえのあるプレイを披露してくれてます。

 

9曲目は、THE AWAKENING(ジ・アウェイクニング)。

 

ここで、映像的なインスト曲が登場です。
映画のワンシーンのようなセリフやSE、シンセ、そして子供たちの合唱。
これは、ちょっと僕には何を表現したかったのかわかりかねますw
グレッグはサウンドトラック的なものも作ってみたかったのかもしれません。
なんとも評価しづらい実験的な2分半になってます。

 

最後のシンセの音が次のラストの曲へとつながりますので、次曲につながる壮大なイントロともとらえることもできそうですが、いかがでしょうか。

 

ラスト10曲目は、OUT OF THE BLUE(アウト・オブ・ザ・ブルー)。

 

最後は、ミドルテンポでメロウな楽曲で締めです。
シンセの様々な音色が心地よく楽曲全体を包んでいて、雰囲気は僕は好きですね。

 

叙情的な雰囲気の歌メロを優しく歌うデヴィッドもいいです。
エレキは、楽曲を飾る程度で落ち着いたメロディに徹しています。

 

とにかく包み込むようなシンセによる雰囲気重視の楽曲で、アルバムは静かに幕を下ろしていきます。

まとめとおすすめポイント

1984年にリリースされたGIUFFRIA(ジェフリア)のデビューアルバム、GIUFFRIA(美伝説)はビルボード誌アルバムチャートで第26位を記録しました。

 

エンジェルで成功を掴めなかったグレッグによる、再起にかけたプロジェクトは、まずまずの成功を収めたと言ってよいでしょう。
前のバンドも決して悪くはなかったのですが、ルックスが良かったためのアイドル的な扱いもあって、先鋭的な音楽に対して正当な評価が得られなかったことが敗因だったかと思われます。
それに対して今回は、時代が大きく変化していました。
80年代に入り、アメリカで流行したヘアメタルバンド。(日本ではLAメタルとも呼びます)
ヘアメタルの定義は、長い髪の毛(ヘア)をヘアスプレーで膨らませ、きらびやかな衣装をまとうルックス重視のHM/HRバンドと言われています。
特に西海岸を中心に、そんなバンドが星の数ほども現れてましたから、そんな流れにやっとグレッグも乗れた感じですね。
逆に言えば、時代がやっと追いついたとも言えるでしょう。

 

しかし、、だからって言って、日本盤の邦題が「美伝説」って・・・・w
美をクローズアップされすぎたために失敗したエンジェルからの流れを考えると、こんな邦題はやめたほうが良かったのではないか、と個人的には思います。
実際、レコード屋に行っても、とても「美伝説」ください、って恥ずかしくて言えなさそうですw

 

とはいえ、このバンドのサウンドはなかなかのハードロックを聞かせてくれていると思います。
前述のように、声がスティーヴ・ペリーに似ていて、キーボードも多用されていることなどから、ジャーニーと比較されがちだったようですが、やっぱり根本は大きく異なっていると思います。
ジャーニーは、やっぱりハード系の曲もやりますが、根本はハードロックバンドではないと思います。
しかし、ジェフリアの方は、ジャーニーっぽいシンセメインのバラードもやりますが、根がハードロックバンドという理解で良いのではないでしょうか。

 

リーダーであるグレッグのシンセが非常にきらびやかに全編にわたってバンドをゴージャスに覆っているのが、ジェフリアの特徴と言えます。
しかし、キーボードばかりが目立つと、食傷気味になりかねません。
そこで、バランスをとったのが、優秀なギタリスト、クレイグ・ゴールディになると思います。
クレイグは、飛び道具的なテクがあるわけではないので、あまり評価されていないギタリストの一人です。
それでも、バンドサウンドがシンセオンリーになると失われかねないハードロック成分は、クレイグのプレイによりしっかりとキープされていると思います。
やっぱりシンセだけではHM/HRは成立しません。
ハードロックバンドの華となるのはやはりギターなのです。

 

このクレイグは1985年(リリースは1986年)にはヘヴィメタル版、飢餓救済チャリティ・プロジェクトのHear ‘n Aid(ヒア・アンド・エイド)に参加したトップギタリストの一人です。
なので、やはり実力は十分に認められたプレイヤーの一人なのです。
そんな彼が、しっかりとハードロックの根本となる優れたギタープレイを披露しているからこそ、加えて、チャック・ライトとアラン・クリガーによるリズム隊が、しっかりとハードな基盤を見せたからこそ、グレッグのゴージャスなシンセが生きた、と僕は思っています。

 

そして出来上がったサウンドの上で伸びやかに歌うデヴィッド・グレン・アイズレーのヴォーカルによって、80年代らしいハードロックが完成したと思いますね。

 

シンセを強調したハードロックバンドは、他にもありましたが、その中でも際立っているのがこのジェフリアだと思います。
時代の空気をたっぷりと詰め込んだ世界観は、今でも懐かしくもありわくわくさせてくれる、確かに名盤だと思っています。

チャート、セールス資料

1984年リリース

アーティスト:GIUFFRIA(ジェフリア)

1stアルバム、GIUFFRIA(美伝説)

ビルボード誌アルバムチャート第26位

1stシングル CALL TO THE HEART(コール・トゥ・ザ・ハート) ビルボード誌シングルチャート第15位

2ndシングル LONELY IN LOVE(ロンリー・イン・ラヴ) シングルチャート第57位