プログレ風味の優れたポップアルバム GENESIS - INVISIBLE TOUCH

GENESIS(ジェネシス)との出会いとPHIL COLLINS(フィル・コリンズ)の活躍





1983年に、僕はFMラジオで、ジェネシスのTHAT’S ALL(ザッツ・オール)という曲を聴いた。
それはピアノの音が印象深く、ちょっと暗めだが渋かっこいいと思った。
そして、ヴォーカルのPHIL COLLINS(フィル・コリンズ)の声に魅せられたのであった。

 

その後、コリンズはシングルヒットを量産
1984年、映画AGAINST ALL ODDS(邦題:カリブの熱い夜)のサウンドトラックとして提供した楽曲、AGAINST ALL ODDS (Take a Look at Me Now)(邦題:見つめて欲しい)が全米No.1ヒット。

 

続いて、Philip Bailey(フィリップ・ベイリー)のソロアルバム、CHINESE WALLのプロデュースを担当。
その中の一曲ではベイリーとデュエットし、その曲、EASY LOVER(イージー・ラヴァー)は全米第2位の大ヒット。

 

さらに Eric Clapton(エリック・クラプトン)のアルバム、 BEHIND THE SUN(ビハインド・ザ・サン)のプロデュースを担当。
アルバム中の数曲ではドラムも叩いています。

 

また、その年の末ごろには、イギリスやアイルランドの当時のスーパーアーティストが集まったエチオピアの飢餓救済のためのチャリティグループ、BAND AID(バンドエイド)に参加。
その楽曲DO THEY KNOW IT’S CHRISTMAS?ではドラマーとして参加している。

 

そして翌年1985年の2月には、自身の3rdソロアルバムである、NO JACKET REQUIRED(フィル・コリンズIII)をリリース。
全世界で2000万枚を売り上げる大ヒットを記録しています。
このアルバムはグラミーではグラミー賞最優秀アルバム賞を初めとする、3部門の賞を獲得しました。
アルバムからは、ONE MORE NIGHT(ワン・モア・ナイト)と、SUSSUDIO(ススーディオ)という2曲の全米No.1ヒット、そしてさらに2曲の全米TOP10ヒットを生み出しています。

 

この年の7月にはバンド・エイドによって始まったアフリカ救済の資金集めのイヴェント、LIVE AID(ライヴ・エイド)に参加。
このイヴェントはイギリス、ロンドンのウェンブリースタジアムと、アメリカ、フィラデルフィアのJFKスタジアムの、2箇所がメイン開催地となってました。
コリンズはロンドンで、スティングと共に「見つめて欲しい」と「夜の囁き」を披露した後、コンコルド(超音速旅客機)でフィラデルフィアに飛び、そこで自身のソロ作品を演奏、また、他のバンドにドラムで参加するという偉業(!?)成し遂げた。
このライヴ・エイドのアメリカとイギリスの両会場同日にプレイしたのは、コリンズ唯一人だけのようだ。

 

また、この年の年末には映画WHITE NIGHTS(ホワイト・ナイツ)のサントラに参加。
Marilyn Martin(マリリン・マーティン)とのデュエット曲、 SEPARATE LIVES(セパレート・ライヴス)というバラードで、またも全米No.1を獲得します。

 

こうして見ると、確かにこの時期はコリンズの絶頂期だったと思えますね。
この時期に「世界で一番忙しい男」とも言われています。
来た仕事は基本的に断らないとも言われてましたし、それだけ仕事が来ると言うことは彼の音楽性が時代のニーズにぴったり合っていたことの証と言えるでしょう。

ジェネシスの再始動

再始動といっても活動停止していたわけではありません。
前作は、1983年の12作目のセルフタイトルアルバム、GENESIS(ジェネシス)でしたが、その後のツアー終了後、バンドはブレイクをとっています。
その期間、それぞれのメンバーがそれぞれの活動を思い思いに行なっていたわけなのです。

 

前述のように、コリンズがあまりに忙しくて大きく目立ってしまいますが、他の二人もそれぞれに自分の活動に勤しんでいました。
ギター、ベースのMike Rutherford(マイク・ラザフォード)は、彼のバンド、Mike + The Mechanics(マイク & ザ・メカニックス)を結成、デビューアルバムMike + The Mechanics、はヒットし、その中から2曲のTOP10ヒットを飛ばしています。
もう一人、キーボードのTony Banks(トニー・バンクス)は自身2枚目のサウンドトラックアルバムを製作しています。

 

こんな状態で、とりわけコリンズが世界的にブレイクしたもんだから、メディアはもはやジェネシスの活動は終わったと考えていたようだが、再び3人は集まり、アルバムを制作することになります。
それぞれがソロ活動で培ったものを、再び持ち寄ることになるわけだが、やはり、バンドのフロントマンであり、この3年で世界的な成功と名声をモノにした、コリンズの影響が一層強まっても仕方ない状況だったと言えるだろう。

 

もともと、バンドの創始者の一人であり、フロントマンであったPeter Gabriel(ピーター・ガブリエル)が脱退してからは、アルバム3作目から加入しているコリンズが主導権を握り、バンドはプログレッシヴロックから、ポップなサウンドへと移行していっていた。
そして、まさに、その移行はこのアルバムをもって完成を見ようとしていたのだ。
プログレ風味をわずかに残しながらも、ポップアルバムとして非常に優れたアルバムをこの3人は作りました。

 

今日は、1986年リリースの、GENESIS(ジェネシス)の13thスタジオアルバム、INVISIBLE TOUCH(インヴィジブル・タッチ)をご紹介します。

INVISIBLE TOUCH(インヴィジブル・タッチ)の楽曲紹介





オープニングを飾るのはタイトルトラック、INVISIBLE TOUCH(インヴィジブル・タッチ)。

 

もう、まさにポップ、キャッチー、エイティーズ!的なサウンド満載の楽曲です。
プログレッシヴ時代からのジェネシスファンを置き去りにした曲となりましたが、当時のシーンはこんな曲を求めていたんですね。
爽やかなアレンジも、口ずさみ易いフックのあるサビも、非常に気に入って良く聴いてました。
でも、あの、ザッツ・オールのジェネシスと同一バンドとはとても思えない出来栄えですよね。
コリンズにより、完全なポップバンドへと変貌を遂げた一曲とも言えるでしょう。

 

当時、サビで、“インヴィジブル・タッチェ”と聴こえるというのがよく話題になってました。
歌詞を見ると、”She seems to have an invisible touch, yeah“となっており、タッチェ、というのは“タッチ、イエー”なんだというのがラジオでネタ的に語られていたのが思い出されます。
外人の発音、って意味不明だ、と思い知らされた学生時代でした。

 

しかし、よくよく聴くと、軽薄なポップソングではないこともわかります。
もちろん、初期のジェネシスのようではないとは思われますが、楽器の使い方、エレキやドラムマシン、キーボードなどが非常に効果的に用いられています。
でも、難しいこと抜きに、ただただ楽しめるポピュラーソングであることに間違いありません。
そして、後のインタビューなどでもわかりますが、コリンズもラザフォードもこの曲を非常に気に入っており、素晴らしいポップソングと評価してます。
なので、彼らの場合は、レコード会社などからの圧力があったわけでもなく、自ら大衆に好まれ、同時に自分たちも好む音楽を完成させたということになるでしょう。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートでNo.1を獲得しています。

そして、ビルボード誌シングルチャートでNo.1になったインヴィジブル・タッチを蹴落として次にNo.1になったのが、元ジェネシスのヴォーカル、ピーター・ガブリエルのSledgehammer(スレッジハンマー)だった、という皮肉な偶然が生じました。
当時はメンバーはそのことに気付いていなかった様で、コリンズが後のインタビューで、「もし気付いてたら、“Congratulations – bastard.”(おめでとう、クソ野郎)とメッセージを送ってただろう」と語ってます。

 

2曲目はTONIGHT, TONIGHT, TONIGHT(トゥナイト、トゥナイト、トゥナイト)。

 

オープニングで、これまでのジェネシスをぶち壊す、スーパーポップソングを聞かせた直後に、いきなり、以前の雰囲気を漂わせてます。
少しダークな雰囲気の中で、コリンズが歌い始めます。
タイトルを連呼するサビの部分はやはりキャッチーで、新しいジェネシスを感じさせるわけですが、長い間奏と盛り上がりがプログレの香りを感じさせるものとなっています。
アルバムの2曲目に、この約9分に及ぶ準プログレ大作を持ってくるところは、やはりこのアルバムはコリンズのソロではなく、確かにジェネシスのものという印象を与えていますね。
しかし、間奏の盛り上がり、曲全体の構成を考えるに、9分という長さを感じさせない素晴らしい作りになっています。
やはりコリンズのヴォーカルの上手さもあるし、プログレバンドとしての技量を感じさせる演奏にもなっています。

 

いや、やはり、これはただのポップアルバムではない、と考えを改めさせる絶妙な曲配置と感じさせてくれます。

 

この曲はアメリカでは、アルバムからの5thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第3位のヒットとなっています。

 

3曲目は、LAND OF CONFUSION(混迷の地)。

 

ダークでヘヴィな雰囲気の楽曲が、デジタルビートにのって、なかなかかっこいい曲です。
切り裂くようなエレキが、いい雰囲気を出しています。
そして、やはり歌メロが非常にキャッチーでとても気に入ってます。
ちょっと聴くだけで覚えてしまえそうなメロディ、こんなところにもコリンズの才能が感じられます。

 

また、この曲はPVがとても有名です。
パペット人形で、当時の政治家を風刺したものとなってますし、他にも有名スターたちがパペット化されて登場します。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ(アメリカ)、第4位を記録しています。

 

4曲目は、IN TOO DEEP(イン・トゥー・ディープ)。

 

しっとりとしたバラードです。
コリンズのソロでも聴けそうな美しい、ゆったりバラードで、またも彼が素晴らしい美声を披露しています。
歌メロのところはほぼコリンズ風だが、間奏のキーボードソロがプログレっぽくてナイスである。

 

この曲はアメリカでは4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第3位を記録、また、Adult ContemporaryチャートではNo.1を獲得しています。

 

5曲目はANYTHING SHE DOES(エニシング・シー・ダズ)。

 

アップテンポのロックナンバーだ。
シングルカットしてもおかしくないほど、キャッチーなポップロックだ。
サビの早口のコリンズのヴォーカルも印象的で、一回聞いただけで好きになれる要素がたっぷりである。
ホーンセクションはバンクスによる、サンプリングのようだ。
バンクスによると、この曲はライヴでやるには難しすぎて、ツアーでは演奏してないようです。

 

6曲目はDOMINO(ドミノ)。

 

10分を越える大作で、二つのパートに分かれている。
これはやはり以前のプログレ色のあるジェネシス時代を思い起こさせる作品になってます。

 

Part 1 In the Glow of the Night(静寂の夜)。

 

静寂と言うほど静かではないが、ゆったりと楽曲は進んで行きます。
ゆったりとはいえ、途中の展開も緩急織り交ぜ、飽きさせない作りになってます。
十分にこの部分だけでも一つの楽曲として成立しています。
シンセや他の効果音の使い方も、ジェネシスならではのものがあります。
パート1の終わりには、一瞬の静寂が訪れます。

 

Part 2 The Last Domino(ザ・ラスト・ドミノ)。

 

コリンズが静かなパートで歌い上げた直後、パート2が始まります。
少し激し目のデジタルビートにのり、ザ・ラスト・ドミノのスタートです。
こちらも、単なるポップスではないです。
やはり、長尺だけあって曲展開を十分に楽しめるものとなっています。
かと言って、プログレマニアのみが楽しめるような複雑なものではありません。
その辺に、コリンズのポップセンスが加わっていますので、ポップソングとしても十分に楽しめるキャッチーさも併せ持っている楽曲になっています。

 

7曲目はTHROWING IT ALL AWAY(スローイング・イット・オール・アウェイ)。

 

なんか南の島にでもいるのではないかという雰囲気のエレキのイントロだ。
ゆったりと気分よく聴けるソフトロックである。
コリンズのヴォーカルが、キャッチーなメロディを歌い上げています。
しかし、バックの音が、やはりジェネシスだけあって、コリンズのソロとは異なる凝り方をしてますね。
エレキの音使いや、シンセの音使いは、ポップな曲だが、ただのポップソングではないことを主張しているかのようです。
やはり、プログレ風味のポップソングなのだ。

 

この曲は2ndシングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第4位を記録してます。
また、それだけでなく、同誌 Adult Contemporaryチャートと、Mainstream RockチャートでNo.1を獲得しています。

 

アルバムラストの8曲目はTHE BRAZILIAN(ザ・ブラジリアン)。

 

これは完全なインストゥルメンタル曲です。
実験的なサウンドと、エフェクトで満ちています。
が、やはり、その中にもしっかりとメロディがあります。
こういう曲を最後に持ってくるあたりも、やはりジェネシスはただのポップバンドとは違うことを主張しているかのようです。
コリンズの声が聴きたい人には少々退屈かもしれませんが、恐らくドラムマシンのプログラムでコリンズは活躍してるはずです。

 

こうして、決してこのアルバムはコリンズのソロの続きではない、という明確な主張と共にアルバムは幕を下ろします。

まとめとおすすめポイント

1986年リリースの、GENESIS(ジェネシス)の13枚目のスタジオアルバム、INVISIBLE TOUCH(インヴィジブル・タッチ)は、ビルボード誌のアルバムチャートで第3位、イギリスのアルバムチャートではNo.1を獲得しています。
そして、アメリカだけでも600万枚を売り上げる大ヒットとなりました。

 

また、シングルは5枚リリースされ、全曲がビルボード誌シングルチャートTOP5入り(内一曲はNo.1)という、見事に時代のニーズにマッチした楽曲を届けてくれたのであります。

 

ヒットの理由は、やはり、コリンズのソロが世界中で大ヒットし、その余勢を受けたというところが少なくないに違いありません。
彼の3枚目のソロアルバムのときは、もはや本家ジェネシスより有名になったとも言われてたくらいですから。
彼の独特のポップセンスと、愛すべきキャラクターは、このジェネシスのアルバムでも存分に発揮されています。

 

そのため、古くからのジェネシスファンは離れて行ったとも言われています。
確かに先行シングル、インヴィジブル・タッチの強烈なポップサウンドは、古いファンにとっては心臓に悪かったことでしょう。
ちょうど、ジェファーソン・スターシップからジェファーソンが抜けて、シスコはロックシティという強烈なポップソングを放ったことが思い出されます。
売れることも必要ですが、どこまでそのことを意識すべきかは、アーティストにとって永遠の課題と言えるでしょう。

 

しかし、このアルバム全体を聴くと、決してただのポップバンドに成り下がってしまったわけではないことに気付かされます。
もちろん、コリンズ主導のポップセンスがあふれてはいますが、決して彼のソロアルバムのようには思えません。
やはり、プログレのジェネシス風味はしっかりと、そこかしこに残っています。
ただ、ヒットしたシングルの印象が強すぎて、その辺が評価されにくくなってるのかもしれません。

 

批評家の評価はともあれ、あの80年代にすごした僕たちはあのサウンドが好きだったのは間違いありません。
売れ線、という批判も、いい曲、いいメロディだから売れる、ということの裏返しだと思えます。
フィル・コリンズ絶頂期に作られたジェネシスのこのアルバムは、彼のセンスもたっぷり注入されながらも、プログレ風味もしっかり味わうことができます。

 

80年代のポップサウンドが好みの方には、ちょっとプログレ風味の味付けがされたこのアルバムは、絶品に感じられるのではないでしょうか。

チャート、セールス資料

1986年リリース

アーティスト:GENESIS(ジェネシス)

13thアルバム、INVISIBLE TOUCH(インヴィジブル・タッチ)

ビルボード誌アルバムチャート第3位 アメリカで600万枚のセールス

1stシングル INVISIBLE TOUCH(インヴィジブル・タッチ) ビルボード誌シングルチャートNo.1

2ndシングル THROWING IT ALL AWAY(スローイング・イット・オール・アウェイ) シングルチャート第4位、同誌Mainstream RockチャートNo.1 、Adult ContemporaryチャートNo.1

3rdシングル LAND OF CONFUSION(混迷の地) シングルチャート第4位、Mainstream Rockチャート第11位

4thシングル IN TOO DEEP(イン・トゥー・ディープ) シングルチャート第3位、Adult ContemporaryチャートNo.1

5thシングル TONIGHT, TONIGHT, TONIGHT(トゥナイト、トゥナイト、トゥナイト) シングルチャート第3位