最悪な人間関係で作られた最高のアルバム FLEETWOOD MAC - RUMOURS(噂)

前作からのFLEETWOOD MAC(フリートウッド・マック)の歩み





1975年リリースのFLEETWOOD MAC(フリートウッド・マック)の10枚目のアルバム、FLEETWOOD MAC(邦題:ファンタスティック・マック)はキャリア初のアルバムチャートNo.1を獲得、アメリカだけで500万枚を売り上げた大ヒット作となった。
その成功の要因は、デビュー以来繰り返されてきたメンバーチェンジが、完全にはまったからだと言えるだろう。

 

創設時のメンバー、ドラマーのMick Fleetwood(ミック・フリートウッド)、デビュー作制作には在籍していたベースのJohn McVie(ジョン・マクヴィー)がバンドの核として、どっしりと腰を据えている。
そして、ジョン・マクヴィーと結婚したキーボード兼ヴォーカルのChristine McVie(クリスティン・マクヴィー)が5thアルバム以降、メンバーとなっている。

 

そして、前作の10thアルバム制作前に、ギタリスト兼ヴォーカルのLindsey Buckingham(リンジー・バッキンガム)とヴォーカルのStevie Nicks(スティーヴィー・ニックス)が加入。
このバンド至上最高のラインナップが、アルバムの世界的ブレイクにつながったのである。

 

この大ヒットアルバムを引っさげて、6ヶ月のノンストップのツアーを敢行。
しかしなぜか、ここから全てが崩れていくのである。

 

まず先頭を切ったのはマクヴィー夫妻。
8年の結婚生活に終止符を打つのである。
以後、ジョンとクリスティンは音楽に関して話し合う以外は、お互いに社交的に話すことをやめてしまった。

 

そして、恋人同士として二人で同時にバンドに加入したリンジーとスティーヴィー。
別れたりよりを戻したりの関係を続け、しばしば互いにけんかしていた。
二人の言い争いがやむのは、一緒に曲を作っていたときだけだったという。
しかし、最終的には二人は別れてしまうのだ。

 

ミックは、彼の妻が自分の親友と関係を持っているのを見つける、という非常にきつい家庭内の問題を抱えていた。
夫婦には二人の子供がいたのにも関わらず、だ。
結局彼も妻と離婚することになる。

 

このように5人全員が別れを経験した非常にハードな2年間だったが、それに追い討ちをかけるようにマスコミも彼らの私生活に大きく立ち入ってきた。
彼らはあることないことを記事にしては彼らに動揺を与えた。
マスコミの流した噂の一つは、バンドの10周年のツアーで、 Peter Green(ピーター・グリーン)、 Danny Kirwan(ダニー・カーワン) Jeremy Spencer(ジェレミー・スペンサー)といった、旧メンバーが戻って来る、という噂だ。
しかし、そのような噂や、悪化した人間関係に関わらず、 そのラインアップを変えることはなかった

ニューアルバムの制作について

そして、ついに新しいアルバムの制作が始まる。
よそよそしくなってしまった関係も含まった5人が曲作り、レコーディングするには非常に気まずい雰囲気があったようだ。
しかし、ミックはスタジオワークに参加するために払われた、各メンバーのとてつもない感情的な犠牲に言及している。
また、ウィキペディアによると、

20年後に制作された『噂』録音中の出来事を振り返るDVD作品のインタビューでは、「各メンバーがそれぞれに精神的に辛い状況にあり、みんなアルバム制作に没頭することで辛さから逃れようとしていた」というスティーヴィーの発言が収録されている。

と、ある。
つまり、5人で作業するのは非常に苦痛だったかもしれないが、彼らはプロとして音楽に向き合うのを決してやめなかった、ということだろう。

 

とはいえ、アルバムに含められた楽曲の多くは、対人関係について歌われたものであり、互いへの当て付けやまた辛い私生活についてが題材となっている。
そのような生々しい内容も、アルバムの魅力を高めることに貢献したのかもしれない。

 

さて、アルバム作りであるが、ミックやジョンが、インプロヴィゼイション(即興)によるブルーズロックの背景があった一方で、リンジーはレコードメイキングの技能を持っていた。
それでリンジーはポップアルバムを作る点で率先することになった。
楽曲の形を作る段階で、リンジーとクリスティンがそれぞれギターとピアノを共に弾きながら、アルバムの骨格を作っていった。
クリスティンはバンドで唯一伝統的な訓練を受けたミュージシャンだったが、リンジーと共に同じ音楽性を共有していた。

 

こうしてスタジオセッションは進んでいくのだが、様々な別離のあとに生じた、メンバー間の新しい人間関係はバンドに負の影響をもたらし始めたのだった。
毎日のレコーディング作業の後は、互いに会うこともグループとして行動することもなかった
また、当時は依然ヒッピームーヴメントがその町では残っており、ドラッグも容易に入手できた。
それて恐らく前作の成功により生じた上限のないアルバムの制作費は、彼らに自堕落な生活、眠らぬ夜、そして過剰なコカインの摂取を促すことになったのだ。

 

そんな非常にシビアな状況の中でもレコーディングは奇跡的にか、正しい方向へと進んでいった
スティーヴィーは、フリートウッド・マックは最悪な形の中でも最良の音楽を作った、と語っている。
またリンジーは、バンドメンバー間の緊張状態は、レコーディングのプロセスに活気を与え、「個々が発揮する力の総和よりも、皆でまとまって発揮した力のほうが強力である」、という結論へと導いた、と述べている。
またこの二人の関係は、別れの後ほろ苦いものになってはしまったが、それでも依然としてリンジーはスティーヴィーの曲を素晴らしいものにするスキルを持っていた。
加えてこのデュオとクリスティンの3人のヴォーカルハーモニーは非常にすばらしく、最高の仕方で録音されることにもなった。
こうして、最悪の状況の中で作られたものの、最高のクオリティをもったこのアルバムは完成することになるのだ。

 

今日は1977年リリースのFLEETWOOD MAC(フリートウッド・マック)の大ヒット11thアルバム、RUMOURS(噂)をご紹介します。

RUMOURS(噂)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、SECOND HAND NEWS(セカンド・ハンド・ニュース)。

 

この曲はリンジーによるもので、メインヴォーカルも彼だ。
コーラスはスティーヴィーが担当しており、息の合っているところを見せてくれる。
楽曲も、非常に気持ちの良いポップソングだ。
リンジーはこの曲に、スコットランドとアイルランドのフォークソングの雰囲気を盛り込みつつ、同時に当時流行っていたディスコソングのグルーヴもいれたようだ。
そうした軽快なグルーヴを出しているリズム隊も健在である。

 

結果として、とても爽やかでポップな楽曲が出来上がった。
とても、前述の最悪の人間関係が陰に潜んでいるとは思えない、素晴らしいポップソングになっています。

 

2曲目はDREAMS(ドリームス)。

 

この曲はスティーヴィーによるもので、リードヴォーカルも彼女である。
とても気だるい雰囲気の楽曲だが、リズム隊がしっかりしているので、とても心地よいノリを生み出している。
シャープなミックのドラムはキレがよく、ジョンのベースもしっかり楽曲を支えている。

 

やはり特筆すべきはスティーヴィーの魅力的なヴォーカルだろう。
ソフトに歌うそのヴォーカルは、容姿もあいまってコケティッシュそのものである。
そしてサビでの、リンジーとクリスティンのコーラスがはいると、見事なハーモニーを聴かせてくれる。
これこそ、この時期のラインナップの作り出す、素晴らしいコーラスワークだ。

 

この曲はアメリカでは2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで全米No.1を記録している。
これはバンドのキャリア初の米シングルチャート制覇である。
また、同誌Adult Contemporaryチャートでも第11位をマークしています。

 

3曲目はNEVER GOING BACK AGAIN(もう帰らない)。

 

この曲はリンジーによる楽曲で、ヴォーカルもリンジー、演奏も彼のアコギのみとなっている。
彼は、この曲をトラヴィス・ピッキングという奏法で、とても気持ちよく歯切れの良い音で奏でています。
リンジーはギターの使い方が独特で、とても上手いです。
また、非常にキュートな曲にも聴こえます。

 

でも、歌詞は、彼の犯した過ちについてのものであり、もうこりごりだ、二度と繰り返したくない、という意味深な歌になってます。

 

4曲目は、DON’T STOP(ドント・ストップ)。

 

クリスティンによる楽曲で、メインヴォーカルはリンジーとクリスティンが分け合ってます。
スタート時のシンセとピアノの音が非常に美しく、そこにドラムが入ってくるあたりは、ポップソングとしては極上のイントロとなってると思われます。
3連のゆったりとしたノリ、でもゆったりとなり過ぎない絶妙なテンポのポップロックだ。

 

リンジーとクリスティンのヴォーカルが見事なコントラストで美しく曲を歌い上げてます。
“Don’t stop, think about tomorrow”(立ち止まるな、明日について考えよう)という前向きなメッセージが、この軽快なノリの楽曲にぴったりの名曲となっています。

 

この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、シングルチャート第3位を獲得、Adult Contemporaryチャートでは第22位を記録しています。

 

5曲目はGO YOUR OWN WAY(オウン・ウェイ)。

 

リンジーによる曲で、ヴォーカルも彼だ。
ギターに始まり、いろんな音と共に、ドラムが入ってくるイントロも非常におもしろいつくりだ。
歌メロは、非常にキャッチーでノリが良く、これもまた良質なポップロックだ。
アコギのクリーンなストロークも爽快だし、リズム隊も軽快でとても元気の出る歌である。

 

しかし歌詞の内容はというと、基本はリンジーが別れたスティーヴィーに対しての当て付けともなっている歌である。
歌詞の一部を取り除くようにスティーヴィーは求めたが、リンジーはそれを拒否。
後にスティーヴィーは、ステージでその歌詞の部分が歌われるたびに、彼を殺してやりたかった、と語っています。
そんな物騒な状態で、よくもまあバンドを続けれたな、と驚かされます。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャート第10位、と初の全米でのトップ10ヒットとなりました。

 

A面ラストの6曲目はSONGBIRD(ソングバード)。

 

クリスティンによる楽曲で、彼女がヴォーカルをとっている。
彼女のピアノによる弾き語りで、とても美しく優しく歌い上げている。

 

どろどろした人間関係の中で作られたアルバムの中で、ちょっとした清涼剤のような存在だ。
彼女はこの曲を”a little anthem”(ほんの小さな賛歌、応援歌)と述べている。
それをメンバーに当てているところからすると、彼女がバンドの5人の中で一番大人だったのかもしれない。

 

B面1曲目はTHE CHAIN(ザ・チェイン)。

 

この曲は5人全員で作った曲だ。
ヴォーカルは、リンジー、クリスティン、スティーヴィーの3人だ。

 

歌いだしからコーラスになっている。
やはり、特にリンジーとスティーヴィーのコーラスの相性が良過ぎる
人間関係を超えて、音楽的によいものを作り出そうという意欲は、やはり二人ともプロなのである。

 

後半、ベースのソロと共に、スピーディーな楽曲に変わる。
当初は、スティーヴィーの作ったこのパートだけだったところに、前半を後から作って付け足した、という変わった楽曲だ。
後半の狂気に満ちたようなリンジーのギター音も強い印象を残している。

 

2曲目はYOU MAKE LOVING FUN(ユー・メイク・ラヴィング・ファン)。

 

これはクリスティンによる楽曲で、彼女がメインで歌っている。
少し大人な雰囲気のあるポップロックだ。
ギターソロも派手ではないが、リンジーらしくいいメロディを刻んでいます。
サビは、とてもやさしく盛り上がって、とてもいい曲だと思います。

 

ですが、この曲はクリスティンと、照明スタッフとの間の恋愛関係からインスパイアされて作られた歌のようだ。
あなたは愛することを楽しいことにする、という内容だが、当時の旦那のジョンには別れる直前であってもそんなことは言えない。
結局、彼女はジョンに、彼女の愛犬について歌った歌だと説明したらしい。
後にばれることにはなったらしいが。

 

そんなどろどろの背景とは別に、なかなかの良質なポップロックになっていて、アルバムからの4thシングルとしてカットされてます。
シングルチャートでは第9位と、アルバムからの4曲目のトップ10入りの大ヒットとなりました。

 

3曲目はI DON’T WANT TO KNOW(アイ・ドント・ウォント・トゥ・ノー)。

 

これはスティーヴィーによる曲で、リンジーとスティーヴィーが息のあったヴォーカルを聴かせてくれてます。
この二人がフリートウッド・マックに加入する前、バッキンガム・ニックスの頃からある楽曲だけに、二人はバッチリのハーモニーを響かせてます。
リズムも明るく、キレのいいドラムとベース、クラップ音も入り、非常に楽しい楽曲になっています。

 

しかし、もともとはスティーヴィーの作った、Silver Springsという曲がアルバムに入る予定になってました。
それはリンジーとの愛について歌っていた歌で、もはや当て付けのようなものとなってました。
しかし、LPの収録時間や、アルバム中のバランスの関係で、このI DON’T WANT TO KNOWと入れ替わることがスティーヴィー抜きで決められてしまったそうです。
最初は、非常に激怒したそうですが、I DON’T WANT TO KNOWもお気に入りの曲だったのもあって、なんとかレコーディングに応じたと言うことです。

 

そんな裏話を知らなければ、全く持って爽やかで軽快で良質なポップロックとなっております。

 

4曲目はOH DADDY(オー・ダディ)。

 

これはクリスティンによる楽曲で、彼女がヴォーカルをとっています。
この曲はバンドの精神的な柱でもあるドラマー、ミックについて歌ったもののようです。
クリスティンの歌声で静かにたんたんと進んでいきます。
地味かもしれませんが、決して悪くはありません。
アルバムのラストが近いことを感じさせています。

 

アルバムラストは、GOLD DUST WOMAN(ゴールド・ダスト・ウーマン)

 

これはスティーヴィーによるもので、彼女がヴォーカルをとっています。
彼女自身の薬物との戦いがテーマとなってます。

 

それにしてもこんな妖しい雰囲気の歌を歌わせたら天下一品ですね。
小悪魔スティーヴィー、ここにあり、という感じです。
また、この曲でもリンジーとスティーヴィーの絶妙なコーラスが聴けます。

 

時に互いに憎み合いながらも、音楽的にはぴったりな相性を見せ付ける二人
本人たちは大変だったでしょうが、こうして作られた作品だけを見ると、そんなことは全く感じられない素晴らしい出来になってますね。

まとめとおすすめポイント

1977年リリースのFLEETWOOD MAC(フリートウッド・マック)の11thアルバム、RUMOURS(噂)はとてつもない大成功を収めます。

 

まずビルボード誌のアルバムチャートで31週連続でNo.1を獲得。
アメリカのほか、イギリス、オーストラリア、カナダ、オランダ、ニュージーランドでNo.1を達成しています。
またアルバムからは1曲のNo.1ヒットを含む4曲のトップ10ヒットも放ってます。

 

また、売り上げはアメリカだけで2000万枚を超え、世界中では4000万枚を超えるモンスターヒットアルバムとなってます。
加えて1978年のグラミー賞では、最優秀アルバム賞を勝ち取ってもいます。

 

この華々しい成功の陰には、メンバーの辛い人生体験がたっぷりと横たわっています。
互いへの妬み、恨み、確執、怒り、裏切り、憎悪などなど、ありとあらゆる負の要素が5人を取り巻いていました

 

それにもかかわらず、決して彼らは誰もバンドから出て行くことなく、プロとして一つのアルバムを作り上げたのです。

 

やはり、考えられるのは、そうした悪感情によってもたらされたテンション(緊張感)が素晴らしいものを生み出す原動力となったのではないでしょうか。

 

実際アルバムを通して聞いてみる限り、そのような負の感情はほとんど感じられません。
そこにあるのは極上のポップロックたちだけです。
奇跡的に集まった5人のプロフェッショナルが、それぞれの個性を持ち寄って生み出した、素晴らしい作品です。

 

これは万人におすすめしたいアルバムとなっています。
軽快でポップでありながらも、しっかりとしたバンドサウンドであり、その上3人のヴォーカリストの見せる絶妙なハーモニーをぜひともお楽しみください。

チャート、セールス資料

1977年リリース

アーティスト:FLEETWOOD MAC(フリートウッド・マック)

11thアルバム、RUMOURS(噂)

ビルボード誌アルバムチャート31週連続No.1 アメリカで2000万枚、世界で4000万枚のセールス

1stシングル GO YOUR OWN WAY(オウン・ウェイ) ビルボード誌シングルチャート第10位  Adult Contemporaryチャート第45位

2ndシングル DREAMS(ドリームス) シングルチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート第11位

3rdシングル DON’T STOP(ドント・ストップ) シングルチャート第3位、Adult Contemporaryチャート第22位

4thシングル YOU MAKE LOVING FUN(ユー・メイク・ラヴィング・ファン) シングルチャート第9位Adult Contemporaryチャート第28位



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