超絶技巧集団の3rdアルバム DREAM THEATER - AWAKE

Kevin Moore(ケヴィン・ムーア)の脱退





1992年の2ndアルバムIMAGES AND WORDS(イメージズ・アンド・ワーズ)は、グランジの吹き荒れる中、メタルとプログレの融合が効を奏して大ヒットを記録しました。
そして1994年初頭に次のアルバムの制作に取り掛かるのですが、今回はレコード会社からの大きなプレッシャーがかかっていました。
PULL ME UNDER(プル・ミー・アンダー)のようなヘヴィなヒット曲で成功した前作と同様の成功を期待されたのです
彼らの所属するレーベルは、もっとメタル・オリエンティッドなアルバムを制作し、なおかつマーケットに売り込み易いもの、という難しい命題をバンドに課していました。
その理由は、グランジに対抗して起きた、オルタナティヴ・メタルや、グルーヴ・メタルが人気を博していたからです。

 

このように、もっとヘヴィでダークなアルバムを、という期待に応えるため、John Petrucci(ジョン・ペトルーシ)は7弦ギターを採用、ギターリフ中心の楽曲製作にとりかかります。
また、John Myung(ジョン・マイアング)は同じ理由で、6弦ベースを採用しています。
それらは、1stアルバムからの彼らのキャラクターの一つである、メタルとプログレの融合を一層推し進めることになりました。
また James LaBrie(ジェイムズ・ラブリエ)も、今回のアルバムに関して、前作以上にバラエティに富む歌い方をし、そして非常に攻撃的な歌い方もしたので、みんな「新しいシンガーをバンドが加入させたと思うかもしれない」とも述べています。

 

こうした、アルバムの方向性は決まっていましたが、その中でキーボードのKevin Moore(ケヴィン・ムーア)は一人、違う道を歩もうとしていました
ラブリエは、イメージズ・アンド・ワーズツアーの後から、ケヴィンの態度が変化していたことに気付いていたようです。
ケヴィンはメンバーと距離を置き、一人で閉じこもるようになっていたのです。
またマイアングも、脱退の知らせを聞いても、それは予期せぬ知らせではなかったと言っています。

 

とはいえ、1985年以来、共に歩んできた仲間の脱退は大きな影響を与えたはずですね。
ケヴィンは彼の作曲のアプローチが変わってきたことを脱退の理由として挙げています。
マイアングは、ケヴィンは彼が音楽的にやりたいことをこのバンドで出来なくなったのでバンドを辞めた、と述べています。
また、バンドのビジネスマネージャーは、長期にわたるツアーのアイディアが、ケヴィンの決断の要因の一つと述べています。
ドラムのMike Portnoy(マイク・ポートノイ)は、音楽ビジネス全体の機械的なところが気に入らなかったのかもしれない、と言っています。

 

真相は定かではありませんが、いずれにしても、この最後のアルバムを残してケヴィンはバンドを去ったのでした。

 

しかし、ケヴィン・ムーアの置き土産として、この3枚目のアルバムの制作までは携わっています。

 

今日は1994年リリースのDREAM THEATER(ドリーム・シアター)の3rdアルバム、AWAKE(アウェイク)を紹介したいと思います。

AWAKE(アウェイク)の楽曲紹介

アルバムのオープニングは6:00(シックス・オクロック)。

 

いきなり、前作とはかけ離れてしまうのでとまどってしまう、ヘヴィな楽曲です。
やはりギターリフが非常に重くなっています。
ベースのうねうねした感じも、ダークな世界観を演出しています。
そしてラブリエのヴォーカルも、確かに別人のようですね
非常に攻撃的なヴォーカルとなっています。

 

しかし、やってることはドリーム・シアターそのものですね。
ギターソロに絡むキーボードプレイ、その裏でグルーヴするベースサウンド。
多くの変拍子を挟みながらも、完璧にリズムをキープするポートノイのドラムス。
ラストも高速ギターソロで、ばしっと決めています。
聴き込めば、難解なリズムが、心地よく聴こえて来ます。
それほど作りこまれたことの証となっています。

 

雰囲気はダーク&ヘヴィに変わりましたが、聴けば聴くほど味が出てくる、ドリーム・シアター節はこのアルバムでも全く健在でホッとしました。

 

2曲目はCAUGHT IN A WEB(コート・イン・ア・ウェブ)。

 

浮遊感のあるシンセと、ヘヴィなギターリフによるイントロが印象的です。
ラブリエのヴォーカルも、かなり力んでいる感じだが、このダークな世界観にぴたりはまっています。
ハイトーンのパートも見事に歌い上げていると思いますね。
中間の間奏部分の各楽器の存在感は相変わらずです。
マイアングのベースも大事なところでははっきり目立って主張しています。
ペトルーシのギターも他の楽器とのユニゾンもばっちりとなっています。
ケヴィンのキーボードは後半、非常に美しく楽曲を飾っています。

 

サビはちょっと弱い気はしますが、前曲からのつながりは完璧な楽曲となってます。
アルバムの目標のダークネス&ヘヴィネスがオープニングの2曲でいい感じに表現されていますね。

 

3曲目は、INNOCENCE FADED(イノセンス・フェイデッド)。

 

ここで、いったん前作に近い雰囲気のポップでキャッチーな楽曲の登場です。
イントロが美しいギターソロとなってます。
キーボードが美しく曲を飾ってます。
ラブリエも、ここではのびのび歌っていて、非常に心地よいです。
ハイトーンも美しい、見事なヴォーカル力を発揮しています。
ギターソロも、テクニカルに走らずに伸びの良いメロディを奏でてます。

 

そして後半、さすがプログレらしく、楽曲の雰囲気ががらりと変わるインストパートへ
ギターリフからの変化です。
ここではペトルーシ、弾きまくってますね。
また、前半は普通の楽曲っぽかったですが、後半はいつもの変拍子がばりばりと入ってきます。
各楽器が、メロディアスに奏で合う、非常に良く出来たアウトロとなっています。

 

ダーク&ヘヴィなアルバムの中での、一瞬の清涼剤のようないいアクセントとなる楽曲です。

 

そして続く4曲目から6曲目までが“A Mind Beside Itself”という組曲になってます。
トータル約20分の組曲となってます。

 

4曲目はA MIND BESIDE ITSELF: I. EROTOMANIA(エロトマニア)。

 

まさにプログレッシヴなインストゥルメンタルですね。
イントロのシンセがダークな爽快さを与えてくれます。
そこに入り込んでくるへヴィなギターメロ。
変拍子がんがん入りまくりで、ポートノイのドラムも暴れています。
展開が複雑ですが、結構わかり易いのではないでしょうか。

 

同じメインメロディを異なる楽器で繰り返しプレイしているのは非常におもしろいと思います。
いったん静かになってからの中間部のギターのロングトーン。
その背景のピアノやベースが良く聴こえて気持ちよいです。
ゆったりのリズムですが、ドラムは何度もテンポを変えて忙しくプレイされてます。

 

そして後半、再びメインのメロディに戻ってからのペトルーシの超絶ギターソロプレイは必聴です。
弦跳びで高速プレイというハイテクも披露しています。

 

アウトロのギターソロのメロディの裏でのマイアングの高速ベースソロも聴き忘れるなかれ、です。
そうして次の曲へと移っていきます。

 

5曲目はA MIND BESIDE ITSELF: II. VOICES(ヴォイセズ)。

 

静かに前曲を引き継ぎますが、すぐにやはりヘヴィでダークな楽曲へ。
ギターリフがやはり力強く、重々しさを演出しています。

 

歌メロに入ると静かに変わります。
ラブリエの、ささやくように歌うヴォーカルが非常に効果的ですね。
静と動の入れ替わりがとても楽曲をドラマティックにしていると思います。
ラブリエも、動の部分では攻撃的に歌いこんでいます。

 

中盤のゆったりとした部分のハイトーンもラブリエはうまくこなしています。
ギターソロは、ワウを踏みながらペトルーシが、ワイルドに弾きまくってます。

 

静と動の楽曲をバラエティ豊かにラブリエは歌いこなしてますね。
やはり、ラブリエがヴォーカルで良かったと、思わせられる一曲となってます。

 

そして、最後はアコースティックなギターのアルペジオにのり、静かに組曲のラストへ。

 

6曲目、A MIND BESIDE ITSELF: III. THE SILENT MAN(ザ・サイレント・マン)。

 

完全にアコギの弾き語りから始まるという、前の2曲と真逆のさわやかなスタートです。
ラブリエの低音の魅力も十分に感じられます。
非常にメロディの美しいバラードとなっていますね。
ラブリエの美しいヴォーカルにペトルーシのコーラスが気持ちよく重なります。

 

ハード&ヘヴィな組曲を締めくくるにふさわしい、美しいバラードです。
短い楽曲ですが、この流れで聴くと、抜群の存在感となっていますね。

 

7曲目はTHE MIRROR(ザ・ミラー)。

 

怒涛のヘヴィギターリフから始まる楽曲です。
まさにオルタナティヴ・メタルやグルーヴ・メタルの影響をばりばり受けたヘヴィチューンです。
ギターリフに、切ないメロディのキーボードが重なるところが異常にかっこいいと思います。

 

ドラムスが疾走のリズムを刻んでも、もとのリズムをキープしてるギターリフなどを聴くと、メタルにプログレ要素がしっかり入っていることがわかります。

 

この曲の作詞はポートノイで、アルコール中毒との闘いを描写したものになっています。
それゆえか、ラブリエのヴォーカルが非常に激しさを増しています。

 

後半、11曲目のSPACE-DYE VEST(スペース・ダイ・ヴェスト)に出てくるメインメロディがさりげなく挿入されています。
こういう、他の曲とのつながりや、あるモチーフを他の曲で用いるのもドリーム・シアターの特徴の一つでもありますね。
そういうのに気付くほど聴き込めば、魅力はどんどんと増していくのです。

 

アウトロでは、ベース重低音が響き渡ります
そこにキーボードのメインメロが重なり、独特の雰囲気を作り出します。
さらに、ギターのリフが加わり、重量感のあるダークなパートから、ほぼ途切れなく次の楽曲へ。

 

8曲目はLIE(ライ)。

 

前曲からのつながりが非常にスリリングでかっこいいですね。
もともとこの曲は前の曲ザ・ミラーの一部だったようです。
しかし、ラブリエは、この曲単体でも十分に力強い楽曲だと思い、曲を分けたそうです。
なので、2曲続けて聴くと、その魅力はさらに深まると言えます。

 

それで当然のように、前曲から変わらずにヘヴィなギターリフで押しまくっている相当かっこいい楽曲になっています。
語りかけるようなラブリエのヴォーカルと、サビの怒りに満ちたようなヴォーカルとの歌い分けが非常によいです。

 

全体を通して、ペトルーシのヘヴィリフが切り裂くようなリズムを刻んでいます。
それに呼応するかのように、ポートノイのドラムも叩きまくっています。
中間のブレイクのところからのギターソロに入るまでのポートノイのリズム、そしてそこに入っていくペトルーシのギターソロの素晴らしいこと。
ペトルーシの超絶テクを改めて垣間見れる、個人的には今作ナンバーワンと思える素晴らしいギターソロとなっています。
さらに、後半のラストまで一気に弾きまくるプレイもたまりません。

 

ペトルーシのギタープレイの魅力の詰まった楽曲です。

 

この曲はアルバムからの先行シングルで、ビルボード誌のMainstream Rockチャートで、第38位を獲得しています。

 

9曲目はLIFTING SHADOWS OFF A DREAM(リフティング・シャドウズ・オフ・ア・ドリーム)。

 

イントロのベース音とそのハーモニクス音が非常に美しいです。
そこにギターもハーモニクスとディレイで音を重ねていきます。
さらにキーボードが加わり、暗いけれど、非常に印象的なイントロを作り上げています。

 

優しく歌い始めるラブリエ、そしてギターのディレイ音が非常に目立って曲を彩っています。
サビも美しいメロディで、ラブリエが見事に歌い上げています。
ギターソロでは変拍子のリズムに乗せて、不思議なメロディを奏でています。
ラストのサビではコーラスが非常に美しい響きを聴かせてくれています。

 

幻想的で、とてもダークな雰囲気ですが、サビで明るい表情を見せてくれる、とても美しい楽曲となっています。

 

10曲目は、SCARRED(スカード)。

 

非常に展開が複雑なため、理解できないという声も多いですが、そこを乗り越えてよく聴き込むと非常に良くできたプログレであることがわかってきます。
イントロでは再びベース主導になっています。
そこにヴァイオリン奏法でエレキギターの音が加わってきます。
軽いソロが披露されますが、ダークなイメージをかもし出しています。

 

ラブリエの低音から始まるヴォーカルはさすがにうまさを感じさせます。
途中から、ヘヴィなギターリフが入ってきて、メタリックな曲へ
それに合わせてラブリエも攻撃的なヴォーカルとハイトーンを聴かせていきます。

 

そして少しゆったりめのサビに入りますが、ギターリフは結構ハードですね。
中間部のヴォーカルパートと再びのサビが終わると、ギターソロコーナーに入ります。
ヘヴィにざくざくと変拍子の中でリフを刻むうちにソロのスタートとなっています。
非常に高速で滑らかなメロディを弾きあげていますね。
その後、キーボードソロパートがありそれに続いてギターソロパート。
やはりどの楽器に関しても一流のプレイを聴かせてくれています。

 

ヴォーカルパートが終わってからのアウトロでのキーボードが非常に美しい
壮大かつ切ないメロディになってます。
ケヴィン・ムーア、渾身のドラマティックキーボードパートで曲はフェイドアウトしていきます。

 

そしてアルバムラストはSPACE-DYE VEST(スペース・ダイ・ヴェスト)。

 

これはケヴィン・ムーアによる作詞作曲です。
イントロのピアノプレイから美しく切ない
非常にダークな曲世界は、バンドを離れようとしていたケヴィンの当時の心境を表しているような感じを与えます。

 

歌メロは大きく盛り上がることもなく、暗い雰囲気をたたえたまま後半に突入。
ピアノメインの進行にエレキの歪んだギターが加わってきます。
そして、シンセの暗いながらも美しい旋律が曲全体を彩り始めます。

 

アウトロは、イントロと同じく、ケヴィンの切ないピアノプレイ
彼の置き土産となったこの曲で、アルバムは幕をおろします。

まとめとおすすめポイント

この1994年リリースのDREAM THEATER(ドリーム・シアター)の3rdアルバム、AWAKE(アウェイク)はビルボード誌アルバムチャート第32位を記録しました。

 

チャート的には前作を上回ったものの、セールスは半分ほどにとどまっています。
その理由は、やはり前作IMAGES AND WORDS(イメージズ・アンド・ワーズ)が傑作すぎたことがあげられるでしょう。
とりわけその中にはキラーチューンとも言うべき曲が複数含まれ、キャッチーでメロディアスな楽曲が大勢を占めていました

 

その同じ音楽性を求めたファンにとっては、今回のアルバムはあまりにも過激に変化しすぎたようですね
レーベルの求めるように、よりヘヴィに、よりダークに、という方向性で作られたこの作品は、全体として非常に暗く、重々しい。
明るい楽曲の多かった前作とは大きく変化したのでした。

 

そこが今一つの評価につながったのかもしれませんね。

 

しかし、僕は決してこの作品が低評価に値するとは思わいません
確かに、とっつきにくい世界観ではありましたが、聴き込めば聴き込むほど、その魅力があふれてきたのでした。
デビュー時のキャッチフレーズ、RUSH Meets METALLICAメタリカの部分がより一層際立つようになったと感じられます。
ヘヴィでアグレッシヴな演奏に、ラブリエも同じく攻撃的なヴォーカルを聴かせてくれ、非常にメタリックなアルバムになったのは好感が持てます。
前作の延長でポップでメロウな曲ばかりになっていたら、当然前作は上回れないどころか、この作品ほどのクオリティを保つことは出来なかったのではないでしょうか。

 

決して前作の成功にあぐらをかくことなく、攻めた結果がこのアルバムなのだと思います。

 

多少、難解な部分もありますが、聴き込めば間違いなくはまってしまう、そういう優れたアルバムを作ってくれたと思います。

 

まさにプログレッシヴ・メタルの王道を行く作品を聴きたければ、やはりこの作品、アウェイクをお勧めしたいですね。

チャート、セールス資料

1994年リリース

アーティスト:DREAM THEATER(ドリーム・シアター)

3rdアルバム、AWAKE(アウェイク)

ビルボード誌アルバムチャート第32位 アメリカで27万枚のセールス

1stシングル LIE(ライ) ビルボード誌Mainstream Rockチャート第38位

 

そしてやはり彼らの魅力は、複雑な楽曲をライヴにおいて再現してしまうことと言えるだろう。
ぜひとも映像で彼らのテクニックを確認して欲しい。

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