ブレイク直前の痛快ロックンロール DEF LEPPARD – HIGH ‘N’ DRY(ハイ・アンド・ドライ)

前作からの流れ





1980年リリースの、DEF LEPPARD(デフ・レパード)のデビューアルバム、ON THROUGH THE NIGHT(オン・スルー・ザ・ナイト)はビルボード誌アルバムチャートで第51位、アメリカで100万枚を売り上げています。
本国イギリスでは第15位を記録しています。

 

シンプルで荒削りながらもエネルギーの詰まったブリティッシュロックアルバムは、今後に大きな期待を抱かせるものとなりました。

 

しかし、彼らの目は世界制覇(つまりアメリカマーケットでの成功)に向けられていました。
楽曲にもブリティッシュな香りはありますが、アメリカ寄りの雰囲気が感じられますし、アメリカでのライヴも積極的に行なっていき、AC/DCなどのツアーのサポートもやっています。

 

そんなアメリカに向きすぎたバンドに対して、初期からのファンは失望していったようです。
あるライヴでは、ビール缶や尿入りのボトルが投げ込まれるなどの仕打ちを受けてます。
しかし、バンドの世界制覇の野望は揺らぐことはありませんでした。

 

そんなバンドに目を向けたのは、当時AC/DCのプロデューサーをやっていた、Robert John “Mutt” Lange(ロバート・ジョン・“マット”・ランジ)です。
そして、2ndアルバムのプロデュースをすることになります。
彼の細部まで行き届いたアプローチは彼らのサウンドを明確なものとすることに成功し、より洗練されたアルバム作りに多大の貢献をすることになりました。

 

では今日は、1981年リリースのDEF LEPPARD(デフ・レパード)の2ndアルバム、HIGH ‘N’ DRY(ハイ・アンド・ドライ)をご紹介します。

HIGH ‘N’ DRY(ハイ・アンド・ドライ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのはLET IT GO(レット・イット・ゴー)。

 

前作同様、キレのよいハードロックで幕開けです。
イントロのギターリフから非常に切れ味鋭いですね。

 

アメリカナイズされてるとも言われますが、ブリティッシュロック的な雰囲気もしっかり残ってるかっこいいロックンロールになってます。
Steve Clark(スティーヴ・クラーク)と Pete Willis(ピート・ウィリス)の二人によるツインギターがデフ・レパードの魅力の一つです。
この曲ではスティーヴがソロを担当してますね。
2本のギターが、それぞれくっきりと役割分担してるのがとてもいいですね。
キレのあるリフ、そして間奏ではキラキラしてるアルペジオもあり、ギターオリエンティッドなバンドであることが一聴してわかります。

 

ヴォーカルのJoe Elliott(ジョー・エリオット)もうま味を増したような気がします。
そしてリズム隊のベースのRick Savage(リック・サヴェージ)、ドラムのRick Allen(リック・アレン)ももはや安定したリズムを刻んでいます。

 

若さあふれる爽快なロックで勢いのあるアルバムが始まっていきます。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌Mainstream Rockチャートで第34位を記録しています。

 

2曲目は、ANOTHER HIT AND RUN(アナザー・ヒット&ラン)。

 

イントロからツインギターがかっこよく彩るハードロックチューンです。
少し、暗めの雰囲気で繰り広げられる、キレのよいギターサウンドと適度な疾走感がたまりません。

 

ギターソロ1発目はスティーヴ、2発目はピート、と仲良く分け合い、それぞれかっこよく決めています。
中盤に静かになり、1,2,3!のカウントと共にリスタートするところなど非常にかっこよく仕上がっていると思います。

 

3曲目は、HIGH ‘N’ DRY (SATURDAY NIGHT)(ハイ&ドライ)。

 

ギターリフ先行で、ゆったりと始まるこの曲もノリがよくかっこいいです。
この曲は、アルコール&ドラッグ使用の歌詞のため、あのPMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)によって“Filthy Fifteen”最も不愉快な15曲のリスト)に選ばれてます。

 

まあ、内容はともあれ、土曜の夜のバカ騒ぎを歌った、パーティロック系の曲になりますね。
タイトルトラックではあるものの、それほど強烈な印象の曲ではないです。
でも、サビなどのコーラスは、キャッチーそのもので、とても聞きやすいロック曲になってます。

 

AC/DCにも通じるようなリフ先行の楽曲です。
ギターソロはピートが担当してて、ラフではありますがなかなかかっこよいです。
次作以降はギターソロはあまり重視されなくなってしまいますが、この時期のプレイはとてもロックバンドっぽくて好きですね。

 

4曲目は、BRINGIN’ ON THE HEARTBREAK(ブリンギン・オン・ザ・ハートブレイク)。

 

ここで、アルバム中唯一のバラードです。
哀愁たっぷりのメロディが光ってます。
この曲ではレッド・ツェッペリンの「天国への階段」のような曲を作りたかったようです。
が、あのような長尺でドラマティックにはせずに、コンパクトな中にそんな要素を詰め込んで、キャッチーな楽曲に仕上がりました。

 

イントロのツインギターから非常に美しくメロディアスですね。
このギターハーモニーから、哀愁味たっぷりでその後に続くアルペジオもとてもいい味を出してます。
また、張り上げないジョーの抑え気味のヴォーカルもしっとりとしていいですね。

 

サビでのメンバーのコーラスもとても美しく、そこにかぶさるジョーの切ないヴォーカルが聴き所です。
ギターソロはスティーヴが担当で、この曲では楽曲優先で短くコンパクトにプレイしています。

 

アメリカのバンドでは出ないであろう、切なく憂いに満ちた雰囲気に富んだ名曲になっています。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされましたが、ビルボード誌にはチャートインしていません。
しかし、PVは制作されており、、ちょうど始まったばかりのMTVがこの曲をヘヴィローテーション扱いにしてます。
MTVがこれから全盛期を迎えるタイミングで、このヘヴィロテが、デフ・レパードというバンドを世に大きく知らしめ、アルバムの売上に貢献していったのは間違いないでしょう。

 

5曲目は、SWITCH 625(スイッチ625)。

 

アルバム中唯一のインストゥルメンタルです。
スティーヴ作曲の、スティーヴによる名ロックインストとして非常に強い印象を残しています。

 

前曲のベース音の流れで、エレキギターとドラムが入っていくイントロは非常にかっこいいですね。
ギタープレイ自体はハイテクなものではありませんが、曲の構成が非常にいいです。
なかなかスリリングなインストでA面は終わります。

 

6曲目は、YOU GOT ME RUNNIN’(ユー・ガット・ミー・ランニン)。

 

シンプルなハードロックです。
キレのよいギターリフを中心に進行しますが、サビではちょい明る目のアメリカンな雰囲気が漂っています。
この辺が、やはり賛否がわかれるところなんでしょうね。
アメリカを意識した楽曲になってると思います。

 

ギターソロはピートの担当です。
なかなかキャッチーでいい曲だと僕は思いますけど。

 

7曲目は、LADY STRANGE(レディ・ストレンジ)。

 

イントロのツインギターのハモリから哀愁感たっぷりの佳作です。
切なくメロディアスな歌メロが、さまざまなギターリフの上に乗っています。
やはりデフ・レパードの大きな魅力の一つはシンプルだけどツボを抑えたギターリフだと感じられます。

 

またギターリフに合間に挟まれるオブリもかっこよいですし、スティーヴのちょっと長めのギターソロが秀逸です。

 

やっぱりイギリスのバンドだからこそ出せる渋みも感じられる名曲だと思います。

 

8曲目は、ON THROUGH THE NIGHT(オン・スルー・ザ・ナイト)。

 

なぜか、1stアルバムのタイトルトラックがここで登場です。
アルバムタイトルに採用されたものの、収録ではボツになったのでしょうか。
わかりませんけど、1stに入っててもおかしくない、スピード感のあるハードロック曲です。

 

全体を貫く疾走感を生み出すのはやはりギターリフです。
タッタタ、タッタタのリズムはやはり鉄板ですね。
ソロはスティーヴですが、ちょっと長めにスリリングなソロを披露しています。

 

楽曲もとてもよく、シンプルで初期のデフ・レパードの典型のようなロック曲となっています。

 

9曲目は、MIRROR, MIRROR (LOOK INTO MY EYES)(ミラー・ミラー)。

 

憂いの雰囲気をもって淡々と進んでいく中で、キレのよいギターリフが光っていきます。
サビのコーラスは、デフレパ節とも言える、キャッチーで美しいコーラスですね。

 

ギターソロはスティーヴによるものです。
弾きまくってはいませんが、後のデフ・レパードにつながる、彼ららしいツボを抑えたメロディを奏でています。
ラストのサビ裏では、自由にプレイしています。

 

ラスト10曲目は、NO NO NO(お前にNo No)。

 

ラストは痛快爽快なハードロックナンバーです。
初期の彼ららしい、若さと躍動感たっぷりのノリノリのロックンロールです。

 

ギターソロはピートが弾きまくっています。
次の大ブレイク作品から、この手の作品がちょっと減りますよね。
ロックの衝動を感じられるこんな楽曲が残っていけばよかったのに、とちょっと残念です。

 

ですが、ここでは短くコンパクトな時間を一気に爽快に突き抜けてアルバムはエンディングを迎えます。

まとめとおすすめポイント

1981年リリースのDEF LEPPARD(デフ・レパード)の2ndアルバム、HIGH ‘N’ DRY(ハイ・アンド・ドライ)はビルボード誌アルバムチャートで第38位を記録し、アメリカで200万枚を売上げました。

 

アメリカでの成功(つまり世界制覇)を狙っていたデフ・レパードの2作目は、チャート、売上ともに1stを上回ってみせました。
やはり、この記録を出せたのは、一つにはちょうど彼らの活動のタイミングがよかったお陰とも言えるでしょう。
1970年代から続く、NWOBHM( new wave of British heavy metal:ブリティッシュヘヴィメタルの新しい波)ムーヴメントに非常にうまく乗っかったと思いますね。
もちろん、僕は彼らをヘヴィメタルとは思ってませんし、彼ら自身もそうは思っていないようです。
しかし、ジャンルに関わらず、その土壌があったのが成功への近道として機能したことは間違いないでしょう。

 

さらに、同1981年に開局したばかりのMTVによるPVのヘヴィローテーションも彼らの存在を全世界に知らしめる大きなきっかけともなりました。
まだ始まったばかりで、オンエアされる作品も少ない中で、彼らの楽曲がヘヴィロテされています。
多くのアーティストがMTVを利用して知名度を上げていきましたが、まさに絶妙なタイミングで彼らもその恩恵にあずかることになったと言えるでしょう。

 

アルバムの内容はと言えば、1stと同系統の、疾走感あふれるブリティッシュハードロック作品と言えますね。
スティーヴとピートという二人のギタリストによって奏でられるツインギターは、ギターメインのバンドとして非常にクオリティの高いものを生み出していると思います。
また、ジョーの独特の声もいっそう磨きがかかり、バラードからハードロックまで、オリジナルなヴォーカルを披露しています。

 

あと、ベースのリック、ドラムのリック、二人のリックによるリズム隊が生み出すバンドサウンドは魅力的です。
20代前半の5人で生み出す勢いが封じ込められてると思います。
また、全曲とも、バンド内の5人がさまざまな組み合わせで作り上げた楽曲です。
どれもキャッチーで、ソングライティングの出来る5人、という点でもバンドの魅力は高いと思いますね。

 

さらに、今回から、“マット”・ランジによるプロデュースが始まります。
この作品では、後のようなオーバープロデュースという感じはせず、前回よりわずかに音が締まったくらいの変化に思えます。
彼の今のところ節度あるプロデュースのお陰で、アルバム全体のクオリティは向上していると言ってよいでしょう。

 

やはりなんと言っても1st、そしてこの2ndは、ロックの初期衝動が詰め込まれたアルバムとなっていて、僕は大好きですね。
後の、洗練され過ぎ(!?)のサウンドも好きなんですが、このシンプルなブリティッシュハードロックの彼らも非常に魅力的に思えます。

 

このアルバムリリース後、ヨーロッパやアメリカでツアーを行ない、人気を不動のものにしていっています。
しかし、残念ながら翌1982年、3rdアルバム制作中にピート・ウィリスがアルコールの問題でバンドをクビになっています。
彼の弾きまくるソロは、一つの魅力となってましたので、ちょっと残念でしたね。
代わりに、元GIRL(ガール)の Phil Collen(フィル・コリン)が加入し、今日に至っています。
そしてその3作目が、全世界での大ブレイクとなったわけです。

 

というわけで、今日ご紹介の2ndアルバムは世界制覇前夜とも言える、5人の若者の生み出したエネルギッシュなアルバムです。
その後、音は洗練され、オーバープロデュースで大衆受けするサウンドに変わっていきます。
そうなる直前のシンプルなブリティッシュハードロック作品として、このアルバムは輝いていると思います。

チャート、セールス資料

1981年リリース

アーティスト:DEF LEPPARD(デフ・レパード)

2ndアルバム、HIGH ‘N’ DRY(ハイ・アンド・ドライ)

ビルボード誌アルバムチャート第38位 アメリカで200万枚のセールス

1stシングル LET IT GO(レット・イット・ゴー) ビルボード誌Mainstream Rockチャート第34位

2ndシングル BRINGIN’ ON THE HEARTBREAK(ブリンギン・オン・ザ・ハートブレイク) チャートインせず