安定のデフ・レパード節 DEF LEPPARD - ADRENALIZE
ギタリスト Steve Clark(スティーヴ・クラーク)の死
前作HYSTERIA(ヒステリア)は世界的な大ブレイクとなり、ビルボード誌アルバムチャート第1位、アメリカで1200万枚を売り上げた。
さらに世界全体では2500万枚というモンスターヒットとなってます。
前作はRick Allen(リック・アレン)の左腕切断という悲劇もあり、アルバムリリースのインターヴァルが4年もかかってしまったが、今回は、そうならないようツアー終了後、すぐにアルバム制作にとりかかります。
ところが、今回はまた別の問題が起こるのである。
二人のギタリストのうちの一人、Steve Clark(スティーヴ・クラーク)のアルコール中毒がひどくなっていたのだ。
その頃にはリハビリ施設への出入りを繰り返していた。
そのためレコーディングセッションは、大きく妨げられてしまったのです。
そして1989年に、スティーヴは意識を失っているところを発見され、直ちに入院、中毒を断ち切るための看病が行なわれます。
それで、1990年の半ばにいったんバンドはスティーヴに半年の休暇を与えます。
それによってすべてのストレスからいったん解放されて、回復することをメンバーは望んだのだ。
しかし、メンバーの期待も空しく、1991年1月8日、スティーヴはロンドンの自宅で、数種類の処方薬とアルコールの同時摂取が原因で死亡しているのが発見されました。
バンド自体の存続も危ぶまれたが、とりあえず残された4人でアルバムの制作を続けていくことを決めます。
もう一人のギタリストPhil Collen(フィル・コリン)は、一人で二人分のギターのレコーディングを行ないました。
スティーヴが弾くはずだった部分は、彼のプレイを真似てフィルがプレイしたのである。
今回のアルバムは、2作目から前作までのプロデューサーRobert John “Mutt” Lange(ロバート・ジョン・”マット”・ランジ)が忙しくて携われなかったので、以前マット・ランジのエンジニアであったマイク・シプリーとともにバンドがセルフプロデュースしています。
最終的には、マット・ランジはエグゼクティヴプロデューサーとして関わっています。
こうしてついに前作から約5年を経て、新作が完成するのである。
ただ、この5年の間はかなり音楽シーンが劇的な変化を遂げた期間と言えます。
エイティーズサウンドは、台頭してきたグランジを含むオルタナティヴロックによって次第に終焉を迎えていたタイミングだ。
そのような激動の時代にデフ・レパードは前作と同じ方向性で勝負を挑みました。
今日は1992年リリースのDEF LEPPARD(デフ・レパード)の5thアルバム、ADRENALIZE(アドレナライズ)をご紹介したいと思います。
ADRENALIZE(アドレナライズ)の楽曲紹介
オープニングを飾るのはLET’S GET ROCKED(レッツ・ゲット・ロックド)。
完全に前作を引き継いだポップメタルだ。
ヘヴィなリズム隊のどっしりとした演奏の上に乗るギターリフとヴォーカル&コーラス。
5年のインターヴァルがあったものの、何も変わらずに帰ってきた印象がある。
途中でヴァイオリンの短いフレーズが入るなど相変わらず遊びが見られますね。
そして、やはりサビはみんなで歌える、ライヴにぴったりのノリのいい楽曲です。
アルバム製作の中ではラスト近くに作った曲のようですが、このアルバムでデフ・レパードが目ざす音楽を見事に凝縮してると思います。
ていうか、前のまんまです。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第15位、同誌Mainstream Rockチャートでは堂々のNo.1を獲得しています。
2曲目はHEAVEN IS(ヘヴン・イズ)。
これまたキャッチーなポップメタルソングだ。
このミドルテンポの軽快な楽曲は、彼らの得意分野である。
ギターリフもかっこよく決まっているし、ギターソロもシンプルで無駄がありません。
そしてやはりJoe Elliott(ジョー・エリオット)のヴォーカルが非常にいいです。
コーラスとの掛け合いは最高です。
ジョーはこの曲のコーラスをビーチボーイズのようだ、と述べてます。
ビーチボーイズのようかは良くわかりませんが、明るくさわやかであることは間違いありません。
キャッチーで、フックのある良曲となっております。
3曲目はMAKE LOVE LIKE A MAN(メイク・ラヴ・ライク・ア・マン)。
またまたノリノリのポップメタルだ。
前作のPOUR SOME SUGAR ON MEを思い出させる曲展開だ。
非常に軽快で、コーラスもばっちりなので、これもまたライヴ映えする楽曲だ。
キャッチーそのものだ。
アルバムの冒頭3曲連続で、非常に楽しめる明るいノリを楽しめます。
PVでは、アルバム製作後に加入となったギタリスト、Vivian Campbell(ヴィヴィアン・キャンベル)が初お目見えとなってます。
この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、米シングルチャート第36位、Mainstream Rockチャートでは第3位を記録しています。
4曲目はTONIGHT(トゥナイト)。
このようなマイナー調のパワーバラードもデフ・レパードは得意である。
やはり厚みのあるコーラスが、曲を非常に盛り上げる。
その上キャッチーでフックがあるので、覚え易く口ずさみ易くもある。
メタルでありながらも、その辺の親しみ易さが彼らの最大の特徴ではないだろうか。
この曲はアルバムからの5枚目のシングルとしてカットされ、米シングルチャートで第62位、Mainstream Rockチャートでは第13位のヒットとなっています。
5曲目はWHITE LIGHTNING(ホワイト・ライトニング)。
雰囲気としては前作のGOD’S OF WARを思わせる、7分に及ぶドラマティックな大作だ。
エレキのロングトーンから始まるイントロは、何かの始まりを感じさせる荘厳なものだ。
そして、楽曲が始まると、やはりコーラスが多用され、フックのあるサビへと突入する。
この辺の展開は鉄板である。
間奏部でも、いつものようにエレキは弾きすぎることなく、ドラマティックな楽曲に貢献することに徹している。
ギターソロは2種類分かれていて、本来ならフィルとスティーヴが交互にプレイするところだと考えると感慨深い。
6曲目はSTAND UP (KICK LOVE INTO MOTION)(スタンド・アップ)。
アルペジオとギターリフの融合の鉄板のイントロで始まる。
バラードだが、そこそこのテンポがあるので、非常に聞き易い。
この曲は前作ヒステリアの時にすでに存在し、タイトル曲ヒステリアに近い楽曲のため、アルバムには入れられなかった楽曲だ。
というわけで、ヒステリア同様、キャッチーで優れたバラードである。
かすれたジョーの曲が哀愁漂っているし、コーラスも美しい。
バラードにちょうどいいギターソロもグッドである。
アルバムからの4thシングルとしてカットされ、米シングルチャートで第34位だったが、Mainstream RockチャートではNo.1を獲得している。
7曲目はPERSONAL PROPERTY(パーソナル・プロパティ)。
非常にノリのいいロックンメタルである。
このずしりと重いノリでグイグイ進んでいく楽曲もデフ・レパードならではの特徴の一つだ。
個人的にはもっとメタリックな曲も含められるともっといいのだが、と思いますが、とてもいい曲です。
8曲目はHAVE YOU EVER NEEDED SOMEONE SO BAD(サムワン・ソー・バッド)。
イントロのギターが美しいバラードだ。
歌メロも、優しくジョーが歌い始めるが、サビはいつものデフ・レパード節である。
美しいコーラスが、このバラードの美しさをいっそう引き立てている。
もはやバラードとしては完璧な出来となっている。
この曲はアルバムからの3曲目のシングルとしてカットされ、米シングルチャートで第12位、Mainstream Rockチャートでは第7位のヒットとなってます。
9曲目はI WANNA TOUCH U(アイ・ウォナ・タッチ・ユー)。
イントロのはサビのコーラスから始まるが、一度聞いたら決して忘れられないキャッチーなメロディだ。
典型的なデフ・レパードサウンドだ。
間違いなく、おすすめのポップメタルである。
アルバムラストはTEAR IT DOWN(ティア・イット・ダウン)。
最後はノリノリの疾走感あふれるポップメタルで締めくくりです。
これもサビは合唱で、間違いなくライヴで盛り上がります。
コーラスとジョーの掛け合いも勢いがあり、いい感じでアルバムは終わりとなります。
日本盤にはMISS YOU IN A HEARTBEAT(ミス・ユー・イン・ア・ハートビート)とSHE’S TOO TOUGH(シーズ・トゥー・タフ)の2曲がボーナストラックとして収められています。
ミス・ユー・イン・ア・ハートビートは素敵なバラードとなっています。
シーズ・トゥー・タフはこのアルバムの中で一番メタリックなのではと思えます。
これは標準でアルバムに入れるべきだったのでは、と感じられますが、いかがでしょうか。
まとめとおすすめポイント
1992年リリースのDEF LEPPARD(デフ・レパード)の5thアルバム、ADRENALIZE(アドレナライズ)は前作ヒステリアに続いてビルボード誌アルバムチャートでNo.1を獲得します。
また、アメリカだけでなく、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スイスでもNo.1を記録して、世界的なヒットとなりました。
売り上げはアメリカで300万枚、全世界では700万枚と、数字だけをみると大成功ですが、残念ながら前作の2500万枚には遠く及びませんでした。
今作の特徴は、やはり、前作までの音楽の方向性を踏襲したものである、ということに尽きるでしょう。
しかし、前回はハイテクメタル、とまで言われたように数多くのSEが挿入されてましたが、今回はほとんどそのようなものは見られず、楽曲で勝負した感じがあります。
引き続き80年代のサウンドを感じさせる、ポップメタルとなってます。
そして、スティーヴが亡くなる、という悲劇も乗り越え、フィル・コリンは楽曲重視の手堅いギタープレイを披露しています。
また、ジョーのヴォーカルと、バンドの分厚いコーラスワークは健在です。
大抵の曲で、デフ・レパードの楽曲をそれらしく引き立てるものとなっています。
しかし、最初に述べたように、時はすでにグランジが台頭していた時期で、多くの80年代に活躍したグラム・メタル、ヘヴィ・メタルバンドは一掃されつつあった時期です。
そのような中でのこのセールスは、お見事と言ってよいでしょう。
批評的には、前作と何も変わらない、という厳しい意見もあったようですが、多くのリスナーは、その安定したデフ・レパード節を5年間待っていたのでしょう。
この先さらに苦戦を強いられる時代に突入していくわけですが、このアルバムまでの3作品は、やはり彼らの代表作として輝いています。
スタジアムロックとも揶揄されることもありますが、結局はリスナーに愛される音楽を作ったものが生き残っていくわけです。
その点でデフ・レパードはしぶとく生き抜いていきます。
そんな彼らの生み出した傑作のうちのひとつ、アドレナライズは80年代のメタルを愛する人にはおすすめの名盤となっています。
チャート、セールス資料
1992年リリース
アーティスト:DEF LEPPARD(デフ・レパード)
5thアルバム、ADRENALIZE(アドレナライズ)
ビルボード誌アルバムチャートNo.1 アメリカで300万枚、世界で700万枚のセールス
1stシングル LET’S GET ROCKED(レッツ・ゲット・ロックド) ビルボード誌シングルチャート第15位、同誌Mainstream RockチャートNo.1
2ndシングル MAKE LOVE LIKE A MAN(メイク・ラヴ・ライク・ア・マン) シングルチャート第36位、Mainstream Rockチャート第3位
3rdシングル HAVE YOU EVER NEEDED SOMEONE SO BAD(サムワン・ソー・バッド) シングルチャート第12位、Mainstream Rockチャート第7位
4thシングル STAND UP (KICK LOVE INTO MOTION)(スタンド・アップ) シングルチャート第34位、Mainstream RockチャートNo.1
5thシングル TONIGHT(トゥナイト) シングルチャート第62位、Mainstream Rockチャート第13位