クラシカル要素の散りばめられたバラエティ豊かな全15曲の大作 YNGWIE MALMSTEEN - FIRE & ICE(ファイヤー・アンド・アイス)
ポリグラムからエレクトラへレコード会社の移籍
1990年リリースの、YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)の5thスタジオアルバム、ECLIPSE(エクリプス)はなかなかの粒よりの楽曲の揃ったアルバムでしたが、ヒット作品とはなりませんでした。
アメリカのビルボード誌アルバムチャートで第112位、という低成績とは対象的に、唯一売れたのは、日本です。
オリコンチャートで第11位となり、デビュー作以来、イングヴェイをもっとも熱烈に支持していたのが日本のファンということになるでしょう。
イングヴェイは、日本で評価が高いことを大変喜びつつも、他の国で全く売れなかったことに怒りを感じています。
怒りの矛先はレコード会社。
他のアーティストに比べると、ほとんどプロモーション活動をしてもらえなかったのが、売れなかった原因としています。
まあ、ある意味それは正しいのかもしれませんが、レコード会社だって儲かりたいわけですからノープロモーション、ってことはなかったと思いますけどね。
まあ、いずれにしてもイングヴェイは新たにエレクトラと契約をして、次の作品の制作にとりかかります。
今回は、STEELER(スティーラー)、ALCATRAZZ(アルカトラス)での作品、そしてソロ作品に、ライヴアルバム2枚を加えると、ちょうど10枚目の作品になります。
特に気合の入る今回は、アルバムのために26曲のデモを作成、その中から14曲(日本盤は15曲)が選ばれ、64分を越える大作となりました。
そのため、今回は本人が100%イングヴェイ・マルムスティーンとも呼ぶ自信作となりました。
バンドメンバーは前作とほぼ同じで、ヴォーカルは引き続きGöran Edman(ヨラン・エドマン)が担当しています。
ドラマーのみ途中で別の方に変わってますが、この辺は些細な情報と思われますので割愛させていただきます。
では今日は、1992年リリースのYNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)の6thスタジオアルバム、FIRE & ICE(ファイヤー・アンド・アイス)をご紹介します。
FIRE & ICE(ファイヤー・アンド・アイス)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、PERPETUAL(パーペチュアル)。
いきなりインストゥルメンタルというところに、彼の気合が見える気もします。
やはりこのようなよく構成の練られた作品を作らせると素晴らしいですね。
ギターリフからかっこよく、シンセとの絡み、クワイアっぽい音の加わりなど、大変引き込まれる楽曲です。
メインメロディの一部が、BLACK STAR(ブラック・スター)っぽいのはご愛嬌。
まだまだ、メロディメイカーとしての才能はたっぷりとあふれているのが感じられます。
また、得意の速弾きソロパートも、美しいストラトトーンを聴かせてくれます。
水晶のように美しいと言われたトーンもまだ健在です。
なかなか荘厳でかっこいいインストでアルバムは幕を開けます。
2曲目は、DRAGONFLY(ドラゴンフライ)。
ワウをかけたブルージーなギタープレイで始まるゆったりロックソングです。
全編、ジミヘンっぽいロックギターを披露しています。
クラシックと同様ジミヘンフリークでもあるイングヴェイの好きなスタイルですね。
歌はヨランのなんかフワフワ浮いたような歌い方がとっても合っていますね。
サビも含めて、気だるい感じがとてもクセになります。
また、シンセもいい感じで曲を飾っていて好ましいです。
アルバムの2曲目にふさわしいかは別として、妙な愛着の沸く楽曲です。
ギターソロでは、特にブルージーということもありませんが、楽曲を壊さない感じで弾きまくっています。
さすがにこの時期はちゃんと曲と調和したソロを弾きまくれてます。
アウトロでも、たっぷりと弾きまくってくれて彼らしい楽曲になっています。
3曲目は、TEASER(ティーザー)。
これは完全にアメリカンハードロック的な楽曲ですね。
前作でアメリカでは低調な成績に終わってますから、ここで盛り返そう、と作られたような感じです。
イングヴェイにしては珍しいメジャーキーの作品で、アメリカでのヒットを狙っていたのでしょう。
まあ、この手はHEAVEN TONIGHT(ヘヴン・トゥナイト)で作れてますから、彼らしくはないものの、作ろうと思えば作れるのでしょう。
ギターリフ、シンセ、コーラス、どこをとっても80年代のポップなアメリカンハードロック風ですね。
とても爽やかで、僕は好きです。
が、完全に時代を読み間違っている気もします。
1992年と言えば、グランジの台頭により、もはやLAメタル、グラムメタルといった80年代の陽気なアメリカンロックバンドは駆逐されつつあったタイミングと思われます。
そんな中、モロにその時代風の楽曲を作ってくるとは、なかなか大胆ですね。
残念ながら、結果的にはアメリカでのアルバムヒットにほとんど貢献できませんでした。
でも、バラエティに富んだ作品の中で輝く、良曲の一つだと僕は思っていますよ。
4曲目は、HOW MANY MILES TO BABYLON(ハウ・メニー・マイルス・トゥ・バビロン)。
ここでイントロにはこのアルバムでの大きなチャレンジの一つである、本物のストリングスサウンドが響きます。
寒々しい雰囲気の中、物悲しく哀愁漂うエレキサウンドが静かに奏でられていきます。
そしてパイプオルガン風の音と共にバンドサウンドへ。
ここでのギターリフも非常にクールでかっこいいです。
全体的に荘厳でドラマティックな展開を見せていきます。
そんなドラマを歌い上げるヨランのヴォーカルは非常にいい感じだと思います。
ギターソロもたっぷりと哀愁を込めて奏であげられ、ラストはパイプオルガンの音で荘厳にフィニッシュ。
非常に、スケール感のある、味わい深い楽曲だと思います。
5曲目は、CRY NO MORE(クライ・ノー・モア)。
シンセをバックに弾きまくるイントロとアウトロのソロフレーズが、泣きの感情がたっぷり入っててとてもいいです。
楽曲はミドルテンポのバラードっぽい内容です。
ヨランのヴォーカルもちまたで言われるほど悪くはないはずです。
感情の起伏を上手に表していると思います。
この曲の聴き所は、やはり間奏部のクラシカルフレーズでしょう。
ここでもストリングスが参加し、イングヴェイのギターと絡まりあい、彼らしい古典的な雰囲気をうまく楽曲に溶け込ませています。
そしてそれに続くソロも、感情たっぷりに奏で上げています。
6曲目は、NO MERCY(ノー・マーシー)。
ここで、このアルバム初の疾走チューンが登場です。
出だしのイントロから非常にかっこよい楽曲ですね。
ドラムの高速ツーバスのリズムの上にのるキレのよいギターリフ。
ヨランもいい感じで歌い上げています。
そして中盤には Johann Sebastian Bach(ヨハン・ゼバスティアン・バッハ)のBマイナー組曲の一部が組み込まれています。
オーケストラとの共演の希望はこのアルバム以前から口にしていたようですが、このストリングスの採用により小規模に実現したと言えるでしょう。
疾走チューンのど真ん中への挿入ですが、やはり彼にはセンスがあるのでしょう。
見事にはまっていると思います。
クラシカルなギタリストとしては有名でしたが、実際のクラシックとの融合により一層その価値が高まったと思えます。
そのクラシック挿入パートの直後には、思い切り弾きまくっています。
この流れが非常にかっこいいのです。
シンセとのユニゾンになった後、再び疾走の歌パートへの流れも秀逸です。
7曲目は、C’EST LA VIE(セ・ラ・ヴィ)。
イントロではシタールを使って独特の雰囲気を作り出しています。
楽曲は重厚なノリの、ミドルテンポのロック曲です。
歌メロはキャッチーで悪くはありません。
間奏では、アコギによる速弾きから始まり、エレキのプレイへとタッチ。
このソロも好きですけどね。
ただ、疾走曲もスロー曲も高速ソロプレイが似通ってしまうのはちょっとした弱点かもしれません。
8曲目は、LEVIATHAN(レヴィヤタン)。
このアルバム中、2曲目のインストゥルメンタルです。
これは、またいい曲を作ってきましたね。
イントロのシンセいっぱいの雰囲気の中で弾かれる流れるソロプレイからかっこよいです。
ドラムが入ってからのヘヴィリフがこれまたかっこいいですね。
低音弦を行き来する、ずっしりと重いリフは、相当いいと思います。
そしてその上にギターソロが弾きまくられていきます。
ペダル奏法なども繰り返され、いいフレーズがつながれていってますね。
そして、途中でマイナーキーからメジャーキーに変わる瞬間などは鳥肌ものです。
やはりこの人はすごい、と改めて思わされます。
ラストの終わり方がちょっと締まりがないのが玉にキズですが、なかなかかっこよいロックインストになっています。
9曲目は、FIRE AND ICE(ファイヤー・アンド・アイス)。
アルバムタイトル曲の登場です。
といっても、もともとはNO MERCYになる予定だったようです。
が、アルバムタイトルにはふさわしくない、とまわりに言われて、こちらになったとのこと。
一応、他人の言うことも聞けるんですねw
で、結局、「アルバムタイトルなんてそんなに大きな問題じゃないさ」と言ってのけるところがイングヴェイらしいです。
まず耳を引くのは、イントロのギタープレイでしょう。
スウィープを多用し、様々なコードチェンジを速弾きでつないでいきます。
その合間にJet To Jetで披露したフレーズが混じっているのはご愛嬌です。
非常に滑らかなこのイントロは、結構このアルバムのハイライトではないか、と思ったりもしますね。
イントロ後は、シャッフルゆったりビートの楽曲になっています。
この曲の歌メロも非常にキャッチーで、名曲に入るのではとも思えます。
ちょい地味っぽいですが、なかなかの楽曲だと思います。
そしてギターソロは、イントロに近いフレーズからの弾きまくりです。
なかなか軽快なソロで、重め雰囲気の楽曲のなかで際立っております。
ラストはサビの裏でワウをかけたソロを熱演していますね。
タイトルソングにしてはちょっと地味ですが、良く出来た楽曲だと思います。
10曲目は、FOREVER IS A LONG TIME(フォーエヴァー・イズ・ア・ロング・タイム)。
アルバム中、2曲目の疾走チューンです。
やはり文句なしにかっこいいです。
イングヴェイは、リフマスターでもありますね。
非常に優れたリフをここでも生み出しました。
そしてこの曲でも間奏にストリングスパートが登場します。
やはり彼の楽曲には似合いますね。
もともとのクラシカルな響きがあるからだろうと思われますが、わずかなパートのストリングスも楽曲を引き立てています。
そしてそれを受けてのソロも熱がこもっています。
ここでは、Mats Olausson( マッツ・オラウソン)のキーボードとのプレイバトルが聴けます。
やはり、それぞれにいいプレイを聴かせてきれますね。
疾走チューンの中で、見事なバトルが楽しめます。
ラストは、叙情的に弾きまくってのエンディングがとてもかっこよいです。
11曲目は、I’M MY OWN ENEMY(アイム・マイ・オウン・エネミー)。
ここにきて本格バラードの登場です。
イントロのアコースティックな雰囲気から切ないです。
疾走チューンの直後だけに、より一層メロディが身にしみます。
やっぱりこの曲は歌メロが非常にいい出来ですね。
メロディアスな歌を、ヨランが非常にうまく歌い上げています。
これまでの他のヴォーカルではここまでの名曲にはなっていなかったかもしれません。
一回目のソロはコンパクトに、柔らかいメロディを奏でてます。
2回目のソロは、さらにたっぷりと泣きのメロディを奏であげています。
やはりここまでソロにたっぷり時間をかけられるのは、バンドではなく、イングヴェイのソロ作品だからこそ、と言えるでしょう。
この曲でもサビ前などで、ストリングスがわずかですが用いられています。
哀愁たっぷりの、優れたメロディのある名バラードが誕生しました。
12曲目は、ALL I WANT IS EVERYTHING(オール・アイ・ウォント・イズ・エヴリシング)。
ここでミドルテンポのロック曲です。
かなり泥臭い感じのギターリフで始まります。
ヨランの歌い上げる歌メロもキャッチーで、悪くはありません。
しかし、この手のミドルテンポの曲がアルバム中に多すぎるために印象が薄くなるのは否めませんね。
ソロは、ワウをかけて弾きまくっています。
ミッドレンジがブーストされてパワフルになるのでお気に入りのようです。
まあ、いい曲ですが、あまり目立たないかもしれません。
13曲目は、GOLDEN DAWN(ゴールデン・ドーン)。
アルバム中、3曲目のインストゥルメンタルはアコースティックギターによる小曲です。
黄金色の夜明け、と訳されるタイトルどおり、そんな美しい風景が浮かぶような曲です。
その性格についてなんだかんだ言われるイングヴェイですが、こんな曲も書ける繊細な面も持ち合わせているのです。
アルバムラスト14曲目は、FINAL CURTAIN(ファイナル・カーテン)。
雷鳴のSEで始まる、荘厳でドラマティックな楽曲です。
ミドルテンポですが、ここでもストリングスが加えられ、効果的に楽曲を盛り上げています。
歌メロも、なかなか叙情的で、ヨランが高音までしっかり歌い上げています。
サビ裏のストリングスも非常に美しく印象的です。
ギターソロも激情的に力強く美しくメロディアスに奏で上げられています。
やはりワウのかかったトーンよりも、こちらのストラトトーンが遥かによいと思います。
曲の真ん中過ぎあたりから、イングヴェイの独壇場になっています。
ラスト前は、オーケストラをバックに弾きまくっています。
この体験は、将来のオーケストラとの共演作品への第一歩と感じながらの熱演だったのではないでしょうか。
最後は、激しい雷鳴でアルバムは幕を下ろします。
日本盤では15曲目に、BROKEN GLASS(ブロークン・グラス)というボーナストラックが入っています。
非常に人気がある曲で、僕も好きなタイプの楽曲ですが、なにせ64分のアルバムの最後に追加なので、ちょっとおなかいっぱい過ぎる印象が曲の良さをスポイルしている気がしてしまいます。
まとめとおすすめポイント
1992年リリースのYNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)の6thスタジオアルバム、FIRE & ICE(ファイヤー・アンド・アイス)はビルボード誌アルバムチャートで第121位となり、前作よりも下回る結果となってしまいました。
やはりこの時期、世はグランジなどのオルタナティヴロックの時代に突入しており、もはや80年代からのバンドが急速に人気を失っている頃です。
そして、ギターソロなどはもはやかっこ悪いとさえ考えられるような時代です。
速弾きギタリストにとっては暗黒時代のような時期です。
イングヴェイは、4thアルバムのオデッセイのアメリカでのヒットを再現したかったのでしょう。
そのヒットを牽引したヘヴン・トゥナイトのような、明るくポップなハードロックソングのティーザーを収録しています。
しかし、もはや流行おくれのその曲は、アルバムの売り上げを伸ばす牽引役としては全く役に立たなかったのです。
この辺が完全に時代の読み違えではないかと思われます。
しかし、イングヴェイは前作と同様、アルバムが売れなかったのはレコード会社のせいと再び考え、次の作品は早くも移籍ということになります。
ポジティヴというか、めげないイングヴェイの精神には頭が下がります。
まあ、このように作品はヒットしたとは言いがたい成績に終わったのですが、一国だけ大ヒットを記録した国がありました。
そうです、我らが日本です。
これまでもイングヴェイのデビュー以来、コンスタントに売れ続けていた日本市場でしたが、今回ついにオリコン初登場第1位を獲得してしまったのです。
海外アーティストがオリコンのアルバムチャートを制するという、とんでもない偉業が達成されました。
日本では的を射たプロモーション展開と戦略により、見事な結果を刈り取ることができたのです。
速弾きギタリストが受難の時代にも日本のファンは変わらず彼のプレイを待っていたのですね。
イングヴェイのデビュー時も日本のファンが最初に高く評価していたわけで、この辺は日本人として誇らしくも思ったりします。
流行に左右されるのではなく、本物を見分けられるというのは言いすぎでしょうか。
さて、このアルバムの内容ですが、ヴォーカルをはじめ、バンドメンバーはほとんど前作と同じ体制で作られました。
そんな中でも、ストリングスの採用で、オーケストラをアルバムに導入するという新たなチャレンジに臨んでいます。
全5曲で、ストリングスサウンドが楽曲を効果的に彩っています。
これによって、もともとクラシカルな要素を取り入れていたイングヴェイですが、いっそうその特徴が際立つようになっています。
ここは高く評価できると思いますね。
また、楽曲もほとんど彼自身が作曲していますが、メロディメイカーとしても十分にいい素質を持っていることがはっきりわかります。
前作も粒ぞろいでしたが、今回もやはり良曲で満ちているとも思います。
ただ、ひとつ不満な点があるとすれば、やはり全14曲は多すぎかなってことでしょうか。
バラエティに富んだ曲がたくさん収録されているのはいいことなのですが、やはりアルバムとしてのまとまり感というものが希薄に感じてしまいます。
全部聞くのに、ちょっとダレてしまうのは否めません。
なので、全部聞き込んで気に入るまでにはかなり時間を要しました。
言い換えれば、よっぽどのファンでもない限り聞き込んで愛聴盤にはなりえない、ということです。
多くの方の意見がネット上に散見されますが、やはりこの14曲を10曲くらいに絞っていれば、もっとイメージは違っていたかもしれません。
かといって、4曲削れと言われても、ちょっとそれを選ぶのは難しいと感じるほど楽曲は充実していると思っているので、悩ましい限りです。
曲が少ないのもリスナーとして困りますし、多すぎるのも困るという、なかなか難しいものですね。
しかし、ポジティヴに考えれば、こんなに充実した楽曲がたくさん入っていることを評価したいとも思います。
イングヴェイ自身も、アルバム制作直後には、最高傑作ができた、と語っています。
まあ、最高かどうかはそれぞれリスナーによって異なると思いますが、なかなかの傑作であることは間違いないと思います。
クラシカル要素をさらに突き詰めていった、バラエティ豊かなこの作品は聞けば聞くほどスルメのように味わえるいい作品だと僕は思っています。
チャート、セールス資料
1992年リリース
アーティスト:YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)
6thアルバム、FIRE & ICE(ファイヤー・アンド・アイス)
ビルボード誌アルバムチャート第121位
オリコンチャート第1位
ヴォーカル:Göran Edman(ヨラン・エドマン)