真のデビューアルバムとも言える2ndアルバム TOTO - HYDRA(ハイドラ)
評価の分かれるTOTOの2枚目の意欲作
1978年にリリースされた、TOTOのデビューアルバム、TOTO(宇宙の騎士)はビルボード誌アルバムチャートで第9位という大ヒットとなりました。
アメリカでは200万枚、世界では450万枚というセールスを記録し、一躍トップバンドの仲間入りしました。
この大ヒットの要因はやはり、凄腕のスタジオミュージシャンの結集であり、テクニックは申し分がない、ということ、それにプログレ、ウェストコーストロック、フュージョン、R&Bなど幅広い音楽をからめた、楽曲の良さがあげられるでしょう。
バンドはアルバムのセールスを促進するためのアメリカンツアーを敢行します。そして、そのツアーが終わる頃、2ndアルバムの制作に取り掛かります。
大ヒットした前作の方向性で行くのが安全パイと思われますが、このアルバムでは結構大きな変化を持ち込んできました。
もともとプログレの要素は含まれていましたが、さらにその要素を追求しているようです。
ある人々も認めるとおり、今回はコンセプトアルバムの様相を呈しています。
アルバムタイトルはHYDRA(ハイドラ)。
ギリシャ神話に出てくる9つの首を持つ怪物で、日本語ではヒュドラ、ヒュドラーもしくはヒドラと表記されます。
そしてアルバムジャケット描かれてるのはギタリストのSteve Lukather(スティーヴ・ルカサー)では?と思われますが、剣をもってうなだれています。
彼がその怪物を退治に行く、もしくは行った後疲れてうなだれてるのかわかりませんが、そのようなストーリーを描写したジャケットになっています。
では、今日は1979年リリースのTOTOの2ndアルバム、HYDRA(ハイドラ)をご紹介します。
HYDRA(ハイドラ)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、アルバムタイトル曲、HYDRA(ハイドラ)。
この曲をどう評価するかで、このアルバムの評価が決まるといっても過言ではないかもしれません。
いきなり7分半の大作となっています。
少しプログレ色が強くなっていますので、前作で見せたキャッチーなものを期待して聴き始める人にはちょっと期待はずれに感じられるかもしれないです。
変拍子や楽器のパートが多いとか、展開が複雑とかプログレ色が強いとはいえ、本物のプログレと呼ばれるものよりははるかに馴染みやすいものになっています。
いきなり好きになれるキャッチーなものと比べると、受け入れるのに少し時間を要するかもしれませんが、ちゃんと聴くとTOTOらしさが随所に織り込まれていて、大作ではありますがたっぷりと楽しめる楽曲に仕上がっていることに気づけると思います。
イントロは、重厚でドラマの始まりを感じさせる、印象深いものとなっています。
そして、TOTOらしい本編がはじまります。
ドラムスのJeff Porcaro(ジェフ・ポーカロ)の独特のリズムワークは健在です。
ベースのDavid Hungate(デヴィッド・ハンゲイト)と共にリズム隊が楽曲をどっしり支え、時に軽快に時に重厚に楽曲の要を演じています。
キーボードのDavid Paich(デヴィッド・ペイチ)とSteve Porcaro(スティーヴ・ポーカロ)は共に、TOTOらしい軽快かつ美しい旋律を奏でています。
ギタリストのSteve Lukather(スティーヴ・ルカサー)も軽快なバッキングから、流麗なソロまでプロらしいプレイを披露しています。
そして、Bobby Kimball(ボビー・キンボール)は自慢のハイトーンをコーラスにおいて美しく鳴らしています。
この曲はメンバー全員が作詞作曲に参加していて、まさに渾身のオープニングになっています。
この曲ではリードヴォーカルはペイチが担当していて、その温かい声もTOTOらしさにしっかり貢献しています。
ドラマティックに展開していく中で、楽器プレイもしっかりフィーチャーされてます。
ルカサーのギターミュートプレイとユニゾンするキーボードプレイはとても印象的ですね。
また特に、ルカサーのソロプレイが、各所でたっぷり聴けるのもとてもいいです。
曲の後半で弾きまくる彼のプレイにも要注目です。
前年にはVAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)のエディは既にデビューしていて、ギターヒーローが注目される時代になっていましたが、それに合わせてかルカサーのギタープレイも、アルバム全体で結構たっぷり楽しめるのがいいですね。
さらにTOTOの魅力の一つであるコーラスワークも中盤にはたっぷり用意されています。
このようにTOTOの魅力がいっぱい詰まったアルバム1曲目になっています。
ただ、キャッチーではなく、良さに気づくには少し聞き込む必要があるのが、唯一の難点と言えるかもしれません。
曲の長さをあまり感じさせない、良く出来た楽曲だと思います。
2曲目はST. GEORGE AND THE DRAGON(St.ジョージ&ザ・ドラゴン)。
これはTOTOらしい、心地よいポップソングです。
やはりイントロのあのピアノの音は、非常に気持ちいいですね。
そしてこの曲では、キンボールがリードヴォーカルをとっています。
彼のハイトーンもやはりTOTOらしくて好きですね。
雰囲気がホール&オーツを思い出させるという意見も聞こえます。
確かにそんな感じありますね。
この曲はとてもキャッチーな作りになっています。
前曲との対比が余計にこの曲の良さを引き出していると思えます。
ポップスではありますが、その中で聴けるルカサーのギターが結構ハードなものとなっているのが個人的にはいいですね。
ソロもメロディアスに職人らしく奏でています。
アウトロのソロではとても熱いプレイが聴けます。
このまま終わってもいいのですが、ラストは頭打ちのリズムに変わり、大きな盛り上がりを演出するところもイケてますね。
この曲はアルバムの1stシングルとしてリリースされましたが、チャートインしませんでした。
3曲目は、99。
この数字をみるとどうしてもNENA(ネーナ)の「ロックバルーンは99」を思い出してしまうわけですが、当然なんの関係もありません。
この曲はGeorge Lucas(ジョージ・ルーカス)のデビュー映画、THX 1138 へのトリビュートとして書かれた楽曲です。
この曲はAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)にジャンルわけしても良いでしょう。
とても悲しげで切なくなるラヴソングになっています。
イントロのマイナー調のピアノが、いきなり名曲の予感を与えるものとなっています。
この曲ではルカサーがリードヴォーカルを担当しています。
物悲しいメロディを優しく歌い上げています。
これだけだとただのいいバラードのようですが、やはり、この曲でもメンバーはプレイで光るものを見せてくれます。
曲全体で、ハンゲイトのベースは跳ねたリズムをプレイしていて、バラードなのに少し軽快な感じを与えています。
また、ラストでは、軽いベースソロさえ披露していますね。
またキーボード陣も曲全体を印象付けるピアノプレイだけでなく、キーボードソロでもさりげなくテクをアピールしています。
またルカサーはヴォーカルだけでなく、ギターソロプレイでも魅了してくれます。
曲後半でのプレイはアダルティな素敵なギターソロを聴かせてくれています。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第26位、同誌Adult Contemporaryチャートで第19位を記録しています。
このアルバムからは唯一のヒットとなりましたが、だいぶ後のインタビューで、この曲でリードヴォーカルを取っているルカサーは、人気のあるこの曲をお気に入りとは程遠く、むしろ大嫌いな楽曲と語っているようです。
世間の評価とアーティストの評価は、たまにこんな乖離が見られますね。
でも、本人がそう言っても、いい曲はいい曲です。
A面ラストの4曲目は、LORRAINE(ロレイン)。
少し暗くはじまりますが、途中から軽快なTOTOサウンドに早変わりします。
この曲はA面の最初の3曲がよさ過ぎて、ちょっとそのあおりを食らって評価が低くなっているようですが、決して悪くないです。
むしろ、変わらずのTOTOらしさがあるので、結構いいですよ。
後半は得意の変拍子もあり、その裏のベースラインもなかなか素敵なことになっています。
楽器それぞれが、適度な主張をしているところが、TOTOのよさではないでしょうか。
ペイチのヴォーカルも、相変わらず温かくていいですね。
B面1曲目は、ALL US BOYS(オール・アス・ボーイズ)。
ここで、爽快なロックンロールの登場です。
ここではペイチが勢いのあるヴォーカルを披露しています。
これはTOTOらしくないと言えば語弊があるかもしれませんが、キャッチーでストレートな楽曲ですね。
ルカサーのギターがたっぷりとかっこよくフィーチャーされていて、結構ハード目のロックですね。
かなり弾きまくってます。
この曲はA面1曲目とは真逆の方向性になっています。
何度か聴いてそのよさがわかるA1と、一度聴いただけで良いと思えるB1。
この対比もアルバムのバラエティ感に貢献していてとてもよいと思います。
この曲は3rdシングルとしてカットされましたが、チャートインしませんでした。
2曲目は、MAMA(ママ)。
少しアダルティな雰囲気の楽曲です。
キンボールのハイトーンヴォーカルが際立っていますね。
この曲のハイライトは間奏部分のプレイの応酬でしょう。
ジャジーな雰囲気の中で、ベースラインが跳ね、
ピアノもお洒落な音色を奏で、
ギターも大人のかっこよいメロディを披露しています。
特にルカサーは、さすがにスタジオミュージシャンだっただけあって、引き出しが多いですね。
3曲目は、WHITE SISTER(ホワイト・シスター )。
この曲はドライヴ感たっぷりのロックナンバーですね。
これだけストレートなのはここまであまりなかったですね。
やはり、彼らはただのミュージシャンの集まりではなく、ロックバンドだ、という主張があるかのようです。
ここでもキンボールがしっかりハードロックも歌いこなしてますね。
各プレイヤーがいい仕事をしてるのは言うまでもありませんが、やはりこの曲の最大のハイライトはルカサーのソロプレイということになるでしょう。
間奏とアウトロ、どちらも非常に熱い名演奏を披露しています。
このアルバムでの、ルカサーのプレイの最高潮だと思えますね。
ラストはその熱さゆえ、ジェフのドラムも荒くれてエンディングへ。
なかなか爽快なロックンロールになっています。
アルバムラストの4曲目は、A SECRET LOVE(シークレット・ラヴ)。
前半は柔らかいシンセによるソロ。
後半は優しく美しいバラードになっています。
この曲のリードヴォーカルはキンボール。
ピアノとシンセの美しい伴奏に乗せて歌い上げ、静かにアルバムは幕を下ろします。
まとめとおすすめポイント
1979年リリースのTOTOの2ndアルバム、HYDRA(ハイドラ)はビルボード誌アルバムチャートで第37位、アメリカで50万枚、世界でも200万枚のヒットにとどまってしまいました。
前作の大成功から比べると、やはりセールスは半分に落ち込み、ちょっとした失敗作とみなされるアルバムとなっています。
大きな理由の一つは、シングルヒットがあまり出なかった、ということかもしれません。
唯一ヒットした99も、第26位にとどまっています。
その原因について、AllMusic誌は、99はもっと上位に上がるポテンシャルを持っていたが、多くのリスナーがルーカスのTHX 1138をあまり知らないうえ、歌詞の内容が救いようもなく難解だったからではないか、と推測しています。
トップ10に入るくらいのヒット曲があれば、もっとアルバムは売れたのでは、という読みですね。
なぜ売れなかったか、原因は定かではありませんが、売れなかったから悪いアルバムかというとそうではありません。
確かにアルバム1曲目の大作は、さらっと好きになれるような楽曲ではありませんでしたが、聞き込めばやはりTOTO節であり、良い曲だとわかります。
そこを乗り越えれば、アルバムはバラエティに富んだ、TOTOらしい楽曲で満ちていると僕は思います。
特に日本のリスナーにも、このアルバムは人気が高く、隠れた名盤として愛聴しておられる方々をネット上でも多く見られます。
何と言っても、彼らの演奏テクニックは素晴らしく、そこに注目するだけでもおなかいっぱい楽しめるクオリティをこのアルバムは有していると思いますね。
また、今回は全曲でペイチが作曲に関わっていますが、やはりいい曲を彼は作っています。
前のアルバムの楽曲ほどのキャッチーさは幾らか減少しているかもしれませんが、それでも、優れた曲が多く含まれています。
このアルバムを出すに当たって、メンバーは、これが真のデビューアルバム、と述べていたらしいです。
その真意はよくわかりませんが、1stアルバムでは、とにかく売れるものをまずは作って自己紹介的に作ったのかもしれません。
そして実際アルバムは大ヒットとなりました。
で、今回は、売れ線を狙うより、自分たちのやりたいことをアルバムに収めたのではないかと思ったりします。
そういう意味で、ほんとのデビューアルバムというのは考えすぎでしょうか。
結果、前ほどは売れはしませんでしたが、彼らがバンドとしてどんなことをやりたいか、ということは明確に提示できたのではないでしょうか。
そして、それを高く評価して愛聴盤とみなすファンがいるということは、それはある意味成功だったのかもしれません。
僕の中で、TOTOは 5枚目のアルバム、ISOLATION(アイソレーション)から入ったものだから、それが最高傑作といまだに思っていますが、遡って聴いた初期のアルバムたちの中でも、やはりこのアルバムは、なかなか好きなアルバムではあります。
凄腕ミュージシャンの、やりたいことをやった「真のデビューアルバム」であるハイドラは、やはり洋楽ファンは聴くべきアルバムの一つだと思います。
チャート、セールス資料
1979年リリース
アーティスト:TOTO
2ndアルバム、HYDRA(ハイドラ)
ビルボード誌アルバムチャート第37位 アメリカで50万枚 世界で200万枚のセールス
1stシングル ST. GEORGE AND THE DRAGON(St.ジョージ&ザ・ドラゴン)ビルボード誌シングルチャート圏外
2ndシングル 99 シングルチャート第26位、同誌Adult Contemporaryチャート第19位
3rdシングル ALL US BOYS(オール・アス・ボーイズ) シングルチャート圏外