南部訛り(なまり)のアメリカン・ロッカー TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS - SOUTHERN ACCENTS

TOM PETTYとの出会い





1985年、一曲の風変わりなPVを目にする。
不思議な音楽をバックに、一人のハットをかぶった男が、テーブルをはさんで一人の娘と向かい合ってるビデオだ。
いろいろ特殊効果が入りつつ、最後はケーキになってしまった娘を食べてしまうという、なんともシュールでコミカルな映像だった。

 

これは何者だ、と思ったら、なんと、アメリカンロックの南部代表とも言われるアーティストだということを知るのである。
その肩書きとは全く大きなギャップのあるPVと不思議な音楽に何となく惹かれてしまったのである。

 

このアーティストはTOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)、曲名はDON’T COME AROUND HERE NO MORE(ドント・カム・アラウンド)。
どうしても気になる僕は、その曲を含むアルバムをカセットに入れた。

 

SOUTHERN ACCENTSまで

TOM PETTY(トム・ぺティ)は1976年にトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとしてデビューを飾っていた。

 

デビューアルバムは1976年、TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(アメリカン・ガール)で、ビルボード誌アルバムチャートで第55位を記録している。

 

2ndアルバムは1978年、YOU’RE GONNA GET IT!(ユア・ゴナ・ゲット・イット!)で、第23位へ躍進。

 

3rdアルバムは1979年、DAMN THE TORPEDOES(破壊)、REFUGEE(逃亡者)などのヒットもあり、アルバムは全米第2位、アメリカだけで300万枚の大ヒットを記録。

 

4thアルバムは1981年、HARD PROMISES(ハード・プロミス)、全米第5位100万枚のヒット。

 

5thアルバムは1982年、LONG AFTER DARK(ロング・アフター・ダーク)、全米第9位50万枚のヒット。

 

このように順調にキャリアを重ねてきたトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズである。
ザ・ハートブレイカーズにはスティーヴィー・ニックスにも楽曲提供しているギタリスト、マイク・キャンベルも在籍している。

 

ちょうど僕がドント・カム・アラウンドを聴いたのはこの後で、当時、西が誰だったか忘れたが、東のブルース・スプリングスティーン、南のトム・ペティと、アメリカを代表するロッカーとしての名声は十分に確立されていた。
そんなトムのアルバム、いったいどんなロックサウンドなのだろう、と思って耳を傾けてみた。

 

今日は1985年リリースのTOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)の6thアルバム、SOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)をご紹介したいと思います。

SOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)の楽曲紹介





A面1曲目はREBELS(反逆者)。

 

乾いたギターリフが聴こえてきた。
非常に軽いが、確かにロックンロールである。

 

歌声は非常に特徴がある。
トムの声はなにかくぐもっていてはっきりしない。
最初はなんか受け付けにくかったが、次第にこのヴォーカルが味わい深いものに感じられるのが不思議だ。
楽曲は軽快なノリで、とても好感の持てる曲だ。

 

しかし、この曲は簡単にはできなかったようだ。
wikiによると、彼が左手を負傷したのが、この曲のレコーディングの時だったようだ。
その時トムはなかなか彼の望むようなアレンジが出来なくていらついていた。
そしてコントロールルームに入ったトムは、この曲のリッケンバッカーの12弦ギターを使ったデモテープを聴いた。
すると、いまだにアレンジがそのデモを上回ってないと感じ、怒りに満ちたトムは壁に左手を打ちつけて、骨折の大怪我を負うのである。

 

結局ジミー・アイオヴィンに手伝ってもらって曲は完成。
こんなエピソードを知らなければ、全く持って爽やかなロックンロールである。
トムの音楽への情熱がうかがい知れるエピソードだ。

 

この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャート第74位、同誌Mainstream Rockチャートでは第5位のヒットとなる。

 

2曲目はIT AIN’T NOTHIN’ TO ME(ナッシン・トゥ・ミー)。

 

これをロックンロールと呼ぶかはわからないけれども、なかなかノリのいい曲だ。
クレジットを見ると、Eurythmics(ユーリズミックス)のDave Stewart(デイヴ・スチュワート)が共作になっている。
酒場での雰囲気があるような楽曲。
途中のホーンセクションが爽やかに盛り立てている。
途中のギターフレーズはBORN IN THE U.S.A.のイントロを思い起こさせる。
トムのヴォーカルは非常に独特だが、慣れて来ると癖になるなぁ。

 

3曲目はDON’T COME AROUND HERE NO MORE(ドント・カム・アラウンド)。

 

これは先行シングルであり、僕が初めて出会ったトム・ペティの曲だ。
曲の大部分はどう考えてもロックンロールではない
南部代表のロックシンガーと言われてるのにちょっと違和感を覚えてしまう。

 

クレジットを見ると、これもデイヴ・スチュワートとの共作である。
曲を聴くと、あの不思議なPVを思い出す。
そして、どんどんこの曲の不思議な雰囲気にトムのヴォーカルがぴったり合っているのに気付くのである。
このサイケっぽい雰囲気は、プリンスの「ビートに抱かれて」のように癖になる系の曲だった。

 

しかし、曲の最後には、かっこいいロックンロールに変化、やはり彼はアメリカンロックの雄だったのだ、とほんの少しの時間感じさせてくれるのである。

 

この曲はアルバムの先行シングルで、ビルボード誌シングルチャート第13位、同誌Mainstream Rockチャートでは第2位という大ヒットを記録するのである。

 

A面ラストはSOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)、アルバムタイトル曲だ。

 

これは静かにトムが歌い上げるバラードだ。
非常にやさしい歌だ。
風変わりな楽曲から入った僕には、トムのこんなバラードは非常に新鮮だった。
この辺が、アメリカを代表するロックシンガーと言われる所以なのかもしれない。

 

B面1曲目はとても楽しいロックソング、MAKE IT BETTER (FORGET ABOUT ME)(メイク・イット・ベター)。

 

これもトムとデイヴ・スチュワートとの共作だ。
陽気なサザンロックと言うのはこういうものなのか、と教えてくれる。

 

当時、

ワム!のアルバム、MAKE IT BIG!

ハワード・ジョーンズのTHINGS CAN ONLY GET BETTER

シンプル・マインズのDON’T YOU (FORGET ABOUT ME)

 

といったものが流行っていて、トムのこの楽曲は、そのタイトルのおいしいとこ取りをしたのではないか、とまことしやかにささやかれてたのを思い出します。

 

でも、その3者の楽曲とは全く違う、楽しいアメリカンロックを聴かせてくれている。

 

この曲は2ndシングルとしてリリースされ、シングルチャート第54位、Mainstream Rockチャートでは第12位というヒットとなっている。

 

2曲目はSPIKE(スパイク)。

 

ゆったりとした、ロックソングだ。
低音で、もごもご歌うトムがまたなんか楽曲に合ってて魅力的だ。
ブルージーなギターフレーズとオルガンのようなメロディが小気味いい楽曲です。

 

3曲目はDOGS ON THE RUN(ドッグズ・オン・ザ・ラン)。

 

ギターリフが爽やかなロックソングだ。
ギターの使い方が80年代の流行とは一線を画している。
軽快な楽曲になっている。

 

4曲目はMARY’S NEW CAR(マリーの新車)。

 

これも心地よいロックだ。
時折聴こえるサックスが小気味いい。
こういう軽快な楽曲が、このアルバムの特徴と言えるかもしれない。

 

アルバムラストはTHE BEST OF EVERYTHING(ベスト・オブ・エヴリシング)。

 

これもいいバラードだ。
ここまで聴き進むときっとトムのヴォーカルが好きになっているに違いない
ホーンセクションも加わり、ちょいゴージャスになっているが、基本のバンドサウンドは変わらない。
落ち着いた楽曲でアルバムは締めくくられる。

まとめとおすすめポイント

この1985年リリースのTOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)の6thアルバム、SOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)は、ビルボード誌アルバムチャートで第7位、アメリカでの売り上げは100万枚を超えた。

 

このアルバムが出たのは1985年、すでにブルース・スプリングスティーンのBORN IN THE U.S.A.も大ヒットしており、アメリカンロックを標榜するバンドやアーティストがチャートをにぎわしていた頃だ。
そんな中で、5作のアルバムをリリースしたトムは、多少煮詰まってしまっていたようだ。
3rdアルバム、破壊の大ヒットの後の二枚はヒットはしたものの、大成功とは言えないセールスにとどまっている。

 

そんな状況を打破すべく、ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートのポップセンスを取り入れるなど、結構な冒険を行なっている。
アルバム中に多く出てくるホーンセクション、サックスなどもそうだ。

 

結局、セールス的にはまたも大成功とはいかなかったとは言え、新たなファンも取り込める、バラエティに富んだアルバムに仕上がったのではないかと思います。
とは言え、サイケっぽい曲や、ファンキーな楽曲も含まって非常にカラフルになってますが、基本となるバンドサウンドは、しっかりと芯を保っている気がします。
土臭い、でも湿っぽくない乾いたロックンロールが底辺に流れています。
ギターも非常にさりげなく、バンドの結束も強く感じられます。
そのしっかりとしたバンドサウンドの上に、独特なトムのヴォーカルが重なり、それは非常にすばらしい科学反応になっています。
その辺に僕は非常に惹きつけられ、繰り返し聴いたアルバムになりました。
アメリカンロック、を標榜するにはちょっとポップすぎるのかもしれませんが、この軽快な感じもやはりアメリカの一部だと言えるでしょう。

 

トム・ペティの新境地となるアルバム、癖になりますよ。

チャート、セールス資料

1985年リリース

アーティスト:TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)

6thアルバム、SOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)

ビルボード誌アルバムチャート第7位 アメリカで100万枚のセールス

1stシングル DON’T COME AROUND HERE NO MORE(ドント・カム・アラウンド) ビルボード誌シングルチャート第13位、同誌Mainstream Rockチャート第2位

2ndシングル MAKE IT BETTER (FORGET ABOUT ME)(メイク・イット・ベター) シングルチャート第54位、Mainstream Rockチャート第12位

3rdシングル REBELS(反逆者) シングルチャート第74位、同誌Mainstream Rockチャート第5位

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