良くも悪くも80年代サウンド  STARSHIP - KNEE DEEP IN THE HOOPLA(フープラ)

STARSHIP(スターシップ)との出会い





まず、STARSHIP(スターシップ)を知る前に僕はこのバンドの母体である、JEFFERSON STARSHIP(ジェファーソン・スターシップ)の楽曲に接する。
1984年発表のアルバムNUCLEAR FUNITUREからのシングル、NO WAY OUTだ。

 

ヴォーカルの Mickey Thomas(ミッキー・トーマス)のハイトーンヴォーカルと、シンセを十分に使ったドラマティックなロックソングだ。
他にもFMラジオでJANELAIN’ IT ON THE LINEなどの過去のシングルを聞いて、僕の好みのサウンドと確信した。
キャッチーなバンドサウンド、まさにエイティーズ風味のロックバンドだ。

 

しかし1985年、次に出会うとき、バンドの名前は変わっていた。
JEFFERSON STARSHIPからJEFFERSONが抜けて、ただのSTARSHIP(スターシップ)となっていたのだ。
JEFFERSONという名前の重みが取れたのか、ものすごくポップになった楽曲はたちまちチャートを急上昇していった。
WE BUILT THIS CITY(シスコはロック・シティ)である。

 

今回はそのシングルが収められたスターシップとしての1985年リリースの1stアルバム、KNEE DEEP IN THE HOOPLA(フープラ)を扱ってみたいと思います。

STARSHIPの歴史(Jefferson Airplane → Jefferson Starship → Starship)

スターシップとしての歴史はこれからなのだが、その名前になるまでには長い歴史が存在する。

 

あまりにも歴史は長いので、おおまかにここで紹介したい。

 

JEFFERSON AIRPLANE(ジェファーソン・エアプレイン)時代

まずJEFFERSON AIRPLANE(ジェファーソン・エアプレイン)はアメリカのロックバンドでフォークロックやサイケデリックロックの代表バンドとみなされています。
1966年から1972年までに8枚のスタジオアルバムを世に出しているベテランロックバンドだ。

 

2枚目のSurrealistic Pillow製作前に現ヴォーカルの一人女性ロックシンガー、 Grace Slick(グレース・スリック)が参加し、アルバムは全米で第3位を獲得する。
しかし、音楽業界の変化と、各自のソロ活動などのため1972年に最後のツアーが行なわれ、翌年そのライヴアルバムを発表し、バンドは正式に解散した。

 

JEFFERSON STARSHIP(ジェファーソン・スターシップ)時代

ジェファーソン・エアプレイン解散の翌年、メンバーの一部が、女性ヴォーカルのグレース・スリックの1stソロを宣伝するツアーを行なうことになり、それを母体にJEFFERSON STARSHIP(ジェファーソン・スターシップ)という名前でバンド活動を開始した。

 

従来の音楽性に、コーラスワークを多用したバンドアンサンブルといった、新たな試みも成功し、新しいバンドはさらに成功への道を歩み続ける。
ジェファーソン・スターシップとしては8枚のスタジオアルバムをリリースするが、2枚目のアルバムRED OCTOPUSでは、エアプレイン時代からを含めて、初のアルバムチャートでの全米No.1を獲得することになる。
順調に4枚のアルバムを成功裏のうちにリリースした後、バンドは大きな変化を経験する。

 

これまでグレース・スリックと共にヴォーカルを務めていた、創設メンバーであるMarty Balin(マーティ・バリン)の脱退である。
その代わりにミッキー・トーマスが起用されたのだ。

 

これとともにサウンドは大きく変化。
ミッキーのハイトーンヴォーカルを生かしたハードロックへと路線が変更されるのである。

 

1979年リリースの5枚目のアルバムFREEDOM AT POINT ZERO以降、この路線が続くが前ほどの大きな成功は得られなかった。
奇しくも時代は1980年代に突入し、いわゆるエイティーズサウンドやMTVが全盛になっていくタイミングだ。
その時代に合わせて音楽性を変えていこうというメンバーと、ジェファーソン・エアプレイン時代のコアなファンへ向けての音楽を届けようとするメンバーとの間に次第に大きな溝が生じ始めるのである。
古くからのファンの間では、産業ロックへ移ることに否定的な意見が多く聞かれた様だ。

 

さらに追い討ちをかけるように、レコード会社は、すでに80年代になってヒットしていたJOURNEY(ジャーニー)やBOSTON(ボストン)などの、いわゆるスタジアムロックと言われていたバンドのスタイルの楽曲を出すよう圧力をかけています。
この第2のジャーニーを探す、といった要求によって、一層メンバー間の軋轢は増していくのだった。

 

そして最後の作品1984年リリースのNuclear Furnitureでは当時の最新のエレクトロ・ポップを大幅に導入、エイティーズ仕込みのハードロック路線を極めたが、そこそこのヒットで終わってしまった。
ちょうど僕が初めて聞いたのがこのころで、最初にも述べたように、このアルバムにはNO WAY OUTなど、ドラマチックな80年代サウンドを聞くことが出来る。
ジェファーソン印の伝統的な音楽を望む人にとっては、もはや受け入れがたい変化だったかもしれないが、ジャーニー好きな僕は、大変このアルバムを気に入っている。

 

そして、伝統的なサウンドを求める勢力の一人でエアプレインの創設者でもある、Paul Kantner(ポール・カントナー)はついに脱退を決意。
そして残ったメンバーにジェファーソン・スターシップという名前を使わせないように法的措置に訴える。
結果として、バンドは名前をスターシップと改めることになるのでした。

STARSHIP(スターシップ)時代の始まり

バンドはMTV時代に対応し、そして80年代のサウンドを積極的に取り入れる、そのようなメンバーだけで活動を始める。
二人のヴォーカル、グレース・スリック、ミッキー・トーマスを2枚看板に置き、エイティーズの流れに乗った楽曲を作っていくのである。

 

そうして作られた、スターシップとしてのデビューアルバムが、今日紹介したいアルバムです。

 

では1985年リリースのSTARSHIP(スターシップ)の1stアルバム、KNEE DEEP IN THE HOOPLA(フープラ)をご紹介したいと思います。

KNEE DEEP IN THE HOOPLA(フープラ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、WE BUILT THIS CITY(シスコはロック・シティ)。

 

全く別のバンドになってしまったのではないかと思わせる、ポップな楽曲だ。
この曲を80年代洋楽を代表する曲の一つとしてあげる人は多い。
僕も、当時大変気に入っていたので同じように感じますね。

 

しかし、その半面で、嫌いな人は徹底的に嫌いなのである。
この曲はジェファーソン時代から通算で、シングルとしては初の全米No.1を獲得しています。
なので、当時大衆に受けいれられ、大ヒットしたことは間違いない。
その商業的成功にも関わらず、多くの雑誌などで、ワーストソングのリストにもあげられているのだ。

 

その理由は恐らく、彼らの変化、いや変貌ぶりにあるのかもしれない。

 

ジェファーソン時代を知っている人たちの多くは、この変貌について、「売れるためなら何でもやるのか」、という思いを持ったに違いない。
また、楽曲も、産業ロックの極みのようであり、ロックの産業化、商業化を嫌う人たちにとっては、格好の槍玉になり得るポテンシャルを持っていた。

 

もし、これが完全な新人バンドの楽曲ならそれほど否定的な意見は聞かれなかったに違いない。
しかし、彼らは良くも悪くも、バンド名から取り除いたとは言え、「ジェファーソン」という重い歴史を背負っていたのである。
それが少しの不幸だったと言えよう。

 

しかし、否定的な意見に目をつぶれば、この変貌は大成功へとつながったのである。
そして、80年代を代表する楽曲として、人々の心に残っている
僕は今でもあのイントロを聴くと、あの頃の記憶が蘇る。
底抜けに明るい気持ちをハッピーにさせてくれる優れた曲だと思います。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートでNo.1、同誌Adult Contemporaryチャートで第37位を記録しています。

 

2曲目はSARA(セーラ)。

 

これも超名曲だ。
エイティーズのにおいがプンプンする、優れたバラードだ。
ミッキー・トーマスのメインヴォーカルが冴え渡っています。
ギターソロも秀逸だ。
メロディ的には完璧な作りではないでしょうか。
切ない雰囲気の漂う、非常に美しいバラードとなっています。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートでNo.1、Mainstream Rockチャートで第12位、Adult Contemporaryチャートでは3週連続No.1をマークしています。

 

3曲目は、TOMORROW DOESN’T MATTER TONIGHT(トゥモロー・ダズント・マター・トゥナイト)。

 

これももミッキーがメインの名曲になっています。
ミッキーのハイトーンヴォイスが非常に伸びやかで楽曲を素晴らしいものへと昇華していますね。
またギターソロも、曲にあった素晴らしいフレーズを披露しています。

 

この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第26位を記録しています。

 

4曲目はROCK MYSELF TO SLEEP(ロック・マイセルフ・トゥ・スリープ)。

 

ここで女性ヴォーカリスト、グレース・スリックのお出ましだ。
グレースの迫力あるヴォーカルが堪能できます。
彼女のヴォーカルだけが、ジェファーソンの看板を幾らか思い出させてくれる要素となっているようだ。
ちょっとわかりづらいが、この曲のコーラスにはクワイエット・ライオットのケヴィン・ダブロウが参加しているようです。

 

A面ラスト5曲目はDESPERATE HEART(こわれたハート)。

 

この曲の作曲にはMichael Bolton(マイケル・ボルトン)がクレジットされています。
アダルト・コンテンポラリーのシンガーソングライターによるこの曲はやはり雰囲気たっぷりで、メロディアスですね。
シングルカット可能なポテンシャルを秘めていると感じられる。
これもミッキーがメインヴォーカルで、美しく歌い上げた良質のポップソングになっています。

 

B面1曲目は、PRIVATE ROOM(プライヴェート・ルーム)。

 

激しいドラムで始まり、ちょっとしたハードロックのような雰囲気だが、ロックバンドのドラムというより打ち込みのドラムのようです。
この辺が、バンドが完全に変貌したことを示しているように感じられます。

 

しかしミッキーのヴォーカルがかっこいいです。
アルバムの中でこの曲だけが、メンバーによる楽曲のようです。
他の曲は全て外注となっています。
この辺の割り切りもレコード会社による圧力の一部だったようです。
結果としては成功したのだが、メンバーの心中はいかに。

 

2曲目はBEFORE I GO(ビフォア・アイ・ゴー)。

 

ゆったりした良質のポップソングになっています。
サビも哀愁感があり、素敵な楽曲だ。
ミッキーが気持ちよく歌い上げています。

 

この曲はアルバムからの4thシングルで、シングルチャート第68位を記録しています。

 

3曲目は、HEARTS OF THE WORLD (WILL UNDERSTAND)、(ハーツ・オブ・ザ・ワールド)。

 

ここで再びグレース・スリック登場である。
今度はメロディアスなロックだ。
サビのミッキーとグレースのデュオヴォーカルが心地よい

 

ラストはLOVE RUSTS(ラヴ・ラスツ)。

 

二人のヴォーカルによる、スローで少し重い楽曲だ。
このポップなアルバムの中ではちょっと異質な感じがある。
アルバムは、静かに、重々しい雰囲気で幕を閉じる。

 

まとめとおすすめポイント

1985年リリースのSTARSHIP(スターシップ)の1stアルバム、KNEE DEEP IN THE HOOPLA(フープラ)は、ビルボード誌アルバムチャートで第7位を記録し、アメリカで100万枚をセールス。
ジェファーソンが取れて軽くなったバンドはとりあえず成功したと言えるでしょう。

 

賛否両論あるとは思いますが、僕は、80年代に生き残るために行なった彼らの変貌をポジティヴに受け止めたい、と思います。
そのおかげで、あの80年代を代表する2曲のNo.1ソングは生まれたのです。

 

ただ、レコード会社によって圧力を加えられ、それに従えなかったために離れていったメンバーたちのことを思うと胸が痛くもあります
結局、その後も本家のジェファーソン・スターシップは停止期間はあったもののスターシップとは別に活動を続けています。

 

このように分裂という悲劇の上に生まれたバンド、スターシップであり、アルバム、フープラなのです。
歴史あるバンドほど、変化は重い意味を持つのです。

 

しかし、彼らはそうした背景がまるでなかったかのようなサウンドに変わり、そして成功を収めた。
なんともその辺が納得いきかねるのだが、やはり80年代を体験した者にとっては優れたアルバムであるということは認めざるを得ません。

 

80年代のキラキラ感を味わいたい人にはお勧めの一枚となっています。

チャート、セールス資料

1985年リリース

アーティスト:STARSHIP(スターシップ)

1stアルバム、KNEE DEEP IN THE HOOPLA(フープラ)

ビルボード誌アルバムチャート第7位 アメリカで100万枚のセールス

1stシングル WE BUILT THIS CITY(シスコはロック・シティ) ビルボード誌シングルチャートNo.1、同誌Adult Contemporaryチャート第37位

2ndシングル SARA(セーラ) シングルチャートNo.1、Mainstream Rockチャート第12位、Adult Contemporaryチャート3週連続No.1

3rdシングル TOMORROW DOESN’T MATTER TONIGHT(トゥモロー・ダズント・マター・トゥナイト) シングルチャート第26位

4thシングル BEFORE I GO(ビフォア・アイ・ゴー) シングルチャート第68位

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