日本人好みの哀愁味あふれるハードロック SCORPIONS - LOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)
SCORPIONS(スコーピオンズ)との出会い
1984年、MTVで迫力ある僕好みのバンドのPVを見つけてしまいました。
バンド名はサソリを意味するSCORPIONS(スコーピオンズ)、ドイツのバンドです。
僕の心を貫いたPVの楽曲はROCK YOU LIKE A HURRICANE(ハリケーン)。
PV自体は大した作品とは思えないが、その途中で見られる檻の中でのライヴシーンにはとてつもなく心を惹かれました。
かっこいい二人のギタリスト、そして、ちょっと頭髪は薄いようだったが、美しいハイトーンヴォイスを駆使するヴォーカリスト。
そしてハードなリフに、キャッチーなメロディ。
どう考えても僕の好みなので、友達にその時リリースされていたアルバム、LOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)をカセットに収録させてもらったのです。
SCORPIONSのLOVE AT FIRST STINGまでの歩み
結成は1965年という遥か昔なので、大雑把に、大事なとこだけかいつまんで述べていきたいと思います。
スコーピオンズはドイツの若者、Rudolf Schenker(ルドルフ・シェンカー)が結成したバンドで、最初は彼がギターとヴォーカルを兼ねていたようです。
そして1971年に彼の弟である、ギタリスト、 Michael Schenker(マイケル・シェンカー)と、その後、スコーピオンズの顔として現在に至るまでヴォーカリストを務める Klaus Meine(クラウス・マイネ)が加入します。
翌1972年にはデビューアルバム、LONESOME CROW(恐怖の蠍団)をリリース。
マイケル・シェンカーが正式に在籍して出された唯一のアルバムで、弱冠19歳の才能あふれるギタープレイは堪能できます。
が、楽曲は後のハードロック路線ではなく、プログレっぽかったりサイケっぽかったりする要素が入ったりして、あまりまとまりがあるとは思えません。
wikiによるとクラウスは後にこのアルバムについて、こう語っています。
このアルバムの頃、我々は自分たちの道を見つけようと努めている若いバンドで、スコーピオンズのDNAを見つけるためにアーティストとしてのスタイルを形作ろうと努めていた。
このように述べて、まだ、バンドの方向性が固まってなかったことを明かしています。
それでも、マイケル・シェンカーが世に出る前に既に感じられる天才的なプレイを堪能するにはいいアルバムと思われます。
アルバムのチャートの記載は見当たらず、まだ圏外と思われます。
そしてツアー中にUFOのギタリストが失踪、その穴を埋めるためマイケルはUFOに移籍することになります。
マイケルの移籍によりバンドは活動停止となりますが、1973年、当時19歳のUli Jon Roth(ウリ・ジョン・ロート)がオーディションによりバンドに加入。
翌1974年には新たなラインアップで2ndアルバムFLY TO THE RAINBOW(電撃の蠍団~フライ・トゥ・ザ・レインボウ)をリリース。
今回はマイケルに代わったウリのエレキギターをフィーチャーしたハードロック作品になっています。
彼らの最初に歩むべき道が決まったアルバムとも言えるでしょう。
その後のアルバムで聴かれる、ギターオリエンテッドなハードロックという方向性を決めた作品として一つのターニングポイントと言えます。
1975年には3作目のアルバムIN TRANCE(復讐の蠍団 ~ イン・トランス)を発表。
このアルバムでは前2作にみられたいくらかの実験的な音楽から、純粋なハードロックに変わっていくことで将来の世界的な成功の基盤になったアルバムとされています。
2曲ほどで、ウリのヴォーカルが聴けますが、やはりクラウスのハイトーンヴォイスあってのスコーピオンズだと、個人的には思います。
続く1976年にはVIRGIN KILLER(狂熱の蠍団~ヴァージン・キラー)をリリース。
ジャケットアートが発禁になるなど、音楽と別の面で話題を振りまいたアルバムです。
しかし、音楽性に目を向けてみると、前作よりいっそうストレートなハードロックに変わっています。
キャッチーなハードロックも含まれ、どんどん聴きやすくなっていってます。(僕の好みに近づいていっている)
1977年には5枚目のアルバムTAKEN BY FORCE(暴虐の蠍団 テイクン・バイ・フォース)をリリース。
これはウリ在籍中の最後のスタジオアルバムとなります。
ますますキャッチーな楽曲が増え、僕好みとなっているが、このようなコマーシャル志向になったバンドを嫌ったウリが脱退を決意することになりました。
アルバムはよく出来たハードロックになっています。
これをウリが気に入らない理由がよくわかりませんが、とにかく彼はバンドを去ることを選んだのでした。
彼のギタースタイルは後のYNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)に多大な影響を与えています。
実際、このアルバムの5曲目THE SAILS OF CHARON(カロンの渡し守)はイングヴェイによってカヴァーされたりもしてます。
このようにスコーピオンズでのキャリアにおいて、4枚のアルバム、優れたギタープレイや楽曲を残し、彼は別の道を歩むことにしたのでした。
翌1978年には来日し、5回の公演を行なっています。
他の国より、日本ではヘヴィメタルやハードロックの熱いファンが多く、スコーピオンズも熱狂的に受け入れられました。
ウリも既に脱退を発表していましたが、スコーピオンズの一員として最後のプレイを披露しています。
このライヴは同年、彼らの初のライヴアルバム、TOKYO TAPES(蠍団爆発!!スコーピオンズ・ライヴ)としてリリースされています。
日本の熱狂的なファンのために荒城の月や、君が代が演奏され、前者はアルバムに収録されています。(2015年のリマスター版にはボーナストラックとして君が代も収録)
日本語で歌い上げられる荒城の月は、クラウスの美しい声による絶品ですし、ウリのギターも雰囲気バッチシに泣いています。
またファンの間に湧き上がった合唱は感動的ですらあります。
このような外国のアーティストによるサービスは大歓迎ですね。
このライヴアルバムを最後にウリが脱退します。
その後のオーディションにおいて140人のギタリストの中からは見つけられません。
それで地元に帰ったのですが、そこで見つけたMatthias Jabs(マティアス・ヤプス)がバンドに加入することになります。
結果的に、これが世界的な成功への大きなきっかけとなりました。
1979年、6枚目のスタジオアルバム、LOVE DRIVE(ラヴ・ドライヴ)をリリース。
アルバムには1stアルバムの際にギタリストとしてメンバーだったマイケル・シェンカーが数曲参加してますが、ツアーの途中でまたも脱退。
ついにアルバムはアメリカで50万枚を売り上げ、ビルボード誌のアルバムチャート55位を記録、その他の国でもヒットし、ドイツのハードロックバンドが世界に飛翔するきっかけとなりました。
このアルバムは、これから続く、ハードロックとメロディアスなバラードというスコーピオンズの一つの型を強固にしたものとみなされています。
後にクラウスはこのように述べています。
マティアスが加入したとき、我々は我々のスタイルを見つけた。
それは速いギターリフと素晴らしいメロディ、それとともにパワーバラードだ。
まさにこのアルバムではメロディアスでキャッチーなハードロックと、美しいバラードを楽しむことが出来ます。
ついにスコーピオンズの最高の形が確立された瞬間ですね。
その勢いのまま、1980年にはANIMAL MAGNETISM(電獣~アニマル・マグネティズム)を発表。
中身は引き続きキャッチーなハードロックです。
アルバムはアメリカで100万枚を売り上げて、チャート52位を記録します。
アルバムの中の一曲、バラードのLADY STARLIGHT(レディ・スターライト)では、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、オーボエなどの管弦楽器を導入しています。
このチャレンジは、彼らのバラードがオーケストラなどにも通用する美しいものであることを証明したと思います。
後に、2000年に、MOMENT OF GLORY(栄光の蠍団〜モーメント・オブ・グローリー)という、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との競演ライブアルバムを発表するのですが、その種は、この時点でまかれていたと言えるでしょう。
1981年、バンドは大きな危機を迎えます。
ヴォーカルのクラウスが声帯を痛め、手術を余儀なくされるのです。
治療、リハビリの間のアルバム製作時のデモでは、Don Dokken(ドン・ドッケン)がヴォーカルを務めています。
しかし、治療に成功し、復帰を果たします。
あの声こそスコーピオンズだろうから、本当にファンはホッとしたのではないでしょうか。
そして1982年についに大ブレイクを果たします。
アルバム、BLACKOUT(蠍魔宮〜ブラックアウト)はNO ONE LIKE YOU(官能の夜)のシングルヒット(’シングルチャートで65位、メインストリームロックチャートではなんと第1位)もあって、大ヒット。
アメリカで100万枚を売り上げ、アルバムチャート第10位を記録。
その他の国々でも大ヒットとなりました。
このように上り調子のときに僕は出会ったのでした。
大ヒットアルバムBLACKOUT(蠍魔宮〜ブラックアウト)に続く次のアルバム、1984年リリースのLOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)です。
これがたまらなくかっこよかったですね。
今日は1984年リリースの、SCORPIONS(スコーピオンズ)の9thアルバム、LOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)をご紹介します。
名盤 LOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)の楽曲紹介
アルバムのオープニングはBAD BOYS RUNNING WILD(バッド・ボーイズ・ランニング・ワイルド)。
キラキラと輝くガラスの破片のような、スライドを多用したマティアスのエレキギターによるイントロが印象的です。
それに続くルドルフの切り裂くような激しいギターリフ、かっこよすぎるハードロックチューンの幕開けになってます。
クラウスも余裕あるハイトーンヴォイスで、歌い上げます。
サビは合唱です。
絶対ライヴで盛り上がるに違いない楽曲ですね。
このバンドのツインギターは他のハードロックバンドと少し異なっています。
リード専門のマティアスと、バッキング専門のルドルフとに分かれているのです。
なので、よくある、ソロをハモることはあまりないです。
それぞれのプレイに専念しています。
マティアスのリードプレイがうまいのは言うまでもありません。
特筆すべきはルドルフですね。
時々リードソロを弾くこともありますが、基本的にはバッキングに徹しています。
それがカミソリのように鋭く、キレッキレの重厚な音なのです。
パワーコードがメインなので、スコアなどで見ると、なんだ、僕も弾けるやん、って思ってしまいがちです。
が、彼のプレイのニュアンスまでは到底出せないですね。
「近寄るな危険」とでも言っているかのような、ヘヴィで、破壊力のあるバッキングなのです。
マティアスのリードギターはもちろんのこと、縁の下の力持ち状態のルドルフのカミソリバッキングに注目して、アルバムを聴いてほしいです。
2曲目は、ROCK YOU LIKE A HURRICANE(ハリケーン)。
カミソリ来たーっ。
いきなり切り裂くようなギターリフ。
ルドルフの真骨頂ですね。
歌詞の中にlove at first sting♪と入ってることからわかるように、アルバムのタイトルソングとも言える重要な曲になっています。
まさにこの楽曲は、今まさにノッている彼らの全てが凝縮されたようなかっこいいハードロックになっています。
イントロのルドルフのカミソリリフの上に乗っかる、マティアスのソロ、この組み合わせ、最高ではないでしょうか。
もう、超絶にかっこよすぎて、気を失いそうです。
そして、抑え気味に始まるクラウスのヴォーカル。
曲が盛り上がるにつれ、ヴォーカルの力も増して行きます。
ドラム&ベースも見事に楽曲を作り上げています。
まったく隙が無い楽曲ですね。
ギターソロパートでは、マティアスのリードソロプレイと、やはりルドルフの安定したバッキングの対照的なツインギターにも要注目です。
クラウスのシャウトも最後まで曲を盛り上げ、Here I am!!!でスカッと曲は終わります。
完璧、もうしびれるしかないです。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第25位を記録、また同誌Mainstream Rockチャートでは第5位をマークしています。
3曲目はI’M LEAVING YOU(アイム・リーヴィング・ユー)。
イントロのドライブ感いっぱいの太いギターの音色がたまりません。
この曲は少し、メロウなロックと言えます。
しかし、エレキギターの使い方が、やはりハードロックのそれですね。
キャッチーでメロディアスな楽曲ですが、ギターオリエンテッドであることは変わらず、上質のロックを楽しめる一曲になっています。
4曲目は、COMING HOME(カミング・ホーム)。
これはかなりな名曲ではないでしょうか。
アコースティックなアルペジオをバックにクラウスが静かに歌い出します。
その歌が優しく、とても心に残ります。
ひとしきり歌って、静かないい曲だ、としんみりきてるところにエレキの静かなメロディが重なっていき・・・
突如超疾走感のあるハードロックに早変わり。
歌メロは全く一緒だが、バックが完全なハードロックサウンドへ変貌します。
似たような展開の曲は数曲知っていますが、その中でも飛びぬけてこの曲がかっこいいと思います。
けっこうヘヴィなアレンジがそう感じさせるのでしょう。
重いドラムに、切れ味鋭いツインのエレキギター。
美しいバラードと、スピード感あふれるハードロック、一粒(一曲)で2度楽しめることを保証します。
5曲目ははTHE SAME THRILL(ザ・セイム・スリル)。
エレキのイントロに、速いスネアドラムの連打がかっこいいイントロとなっています。
そして曲もスピード感あふれ、それに乗せて、エレキも弾きまくっています。
ハードロックとして十分に楽しめる楽曲です。
B面1曲目はBIG CITY NIGHTS(ビッグ・シティ・ナイツ)。
この曲は非常にキャッチーなハードロックとなっています。
この曲のギターソロはルドルフによるものです。
特段ハイテクではないものの、メロディアスなソロを聴かせてくれますね。
さすがスコーピオンズの屋台骨です。
楽曲全体もとても覚えやすく聴きやすく、この時期のスコーピオンズの音そのものです。
この曲もPVが作られてて、MTVでやたらオンエアされてたことが思い出されますね。
この曲は3rdシングルとしてカットされていますが、チャートインはしていません。
2曲目はAS SOON AS THE GOOD TIMES ROLL(グッド・タイムズ・ロール)。
この曲も2本のギターの弾きわけが対照的でよいです。
また歌メロもメロディックで心地よく聴ける曲になってます。
アルバムの中では少し弱い曲かな、って感じはするけど、悪くはないです。
3曲目は、CROSSFIRE(クロスファイアー)。
これは全編通してマーチングドラムのような音がシリアスな印象を与えているかっこいい曲です。
軍隊を思わせるような雰囲気の楽曲で、途中のギターの入り方などがスリリングな印象も与えています。
アルバムラストは、STILL LOVING YOU(スティル・ラヴィング・ユー)。
スコーピオンズお得意のパワーバラードです。
この全編マイナー調の感じが、日本人の感性ともしっくりくるのですよ。
彼らが日本でのライヴで荒城の月を演奏したのも偶然ではないのです。
また、クラウスの声が美しすぎる曲でもあります。
静かなささやくような歌声から、ハイトーンに至るまで、彼の声は聞きほれてしまいます。
美しい声に頭髪の量は無関係なのだ、と励まされてしまいます。
加えて、要所でツボをついたエレキのトーンとメロディが、曲を美しく盛り上げます。
ほとんどのソロ部分は、マティアスによるものですが、PVを見る限り、最後のアウトロのソロはルドルフによるもののようです。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャート第64位、Mainstream Rockチャートで第36位を記録しています。
このようなパワーバラードはスコーピオンズの大きな特徴の一つです。
ただのハードロックバンド、というだけではない、美しい旋律によって彼らは世界で受け入れられるスーパーバンドになっていったのでした。
美しいメロディを奏でながら、アルバムは幕を閉じます。
極上のハードロックアルバムですね。
まとめとおすすめポイント
1984年リリースの、SCORPIONS(スコーピオンズ)の9thアルバム、LOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)はビルボード誌アルバムチャートで第6位、アメリカで300万枚を売り上げました。
方向性はここ数作変わっておらず、やはり多くのライヴを積み重ね、人気を獲得し、機が熟したタイミングがここだったのだと思われます。
それにしても、マティアス加入後、一貫して貫いている彼らのスタイル、スピード感のあるリフと素晴らしいメロディ、そしてパワーバラード。
この彼らのポリシーの集大成がこのアルバムではなかろうかと思いますね。
ただゴリゴリと激しい曲を演奏するだけでなく、彼らの曲にはいつも素晴らしいメロディが伴っています。
そこが多くのヘヴィメタルやハードロックと呼ばれるバンドの中で際立っているのだ、と思えます。
特に、バランスよく現れるパワーバラードの美しさ。
そのようなメロディアスな面とそれを美しく歌い上げるクラウスのヴォーカルがあるので、ドイツでは国民的バンドとみなされていますし、50年を過ぎてもいまだに活動できているのではないでしょうか。
僕の個人的な意見としては、50年を超える彼らのキャリアの中で、もっとも輝いているのがこのアルバム、LOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)だと思っています。
彼らの作り出すメロディアスなハードロックとパワーバラードを多くの人に体験して欲しいと願います。
チャート、セールス資料
1984年リリース
アーティスト:SCORPIONS(スコーピオンズ)
9thアルバム、LOVE AT FIRST STING(禁断の刺青)
ビルボード誌アルバムチャート第6位 アメリカで300万枚のセールス
1stシングル ROCK YOU LIKE A HURRICANE(ハリケーン) ビルボード誌シングルチャート第25位、同誌Mainstream Rockチャート第5位
2ndシングル STILL LOVING YOU(スティル・ラヴィング・ユー) シングルチャート第64位、Mainstream Rockチャート第36位
3rdシングル BIG CITY NIGHTS(ビッグ・シティ・ナイツ) チャート圏外