ロックギター第3の革命児、イングヴェイ・マルムスティーンの衝撃のデビュー作
アルカトラスを脱退後ソロ活動へ
YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)はALCATRAZZ(アルカトラス)のデビュー作NO PAROLE FROM ROCK’N’ROLL(ノー・パロール・フロム・ロックン・ロール)に参加し、ギタリストとしての名声を手にした。
そのテクニック、速さは、他を圧倒しており、世界中のギタリスト、ギターキッズに衝撃を与えたのだ。
そして実際にアルカトラスとして1年半ほど200回以上のツアーを敢行します。
それによって彼のギタリストしての名声は不動のものとなりました。
そのうち、1984年1月には日本にも来て、その公演の模様がLIVE SENTENCE(ライヴ・センテンス)としてアルバムが発売されています。
日本に来る前は、あまりに速いギタープレイのため、速回しではないかと噂されるほどであったが、ライヴによって、彼のプレイが紛れもない本物であることが証明されました。
しかし、アルカトラスのヴォーカル、Graham Bonnet(グラハム・ボネット)との関係が悪化し、ツアー中にバンド脱退の計画を立てます。
その意を汲んだ当時のイングヴェイのマネージャーはちょっと先走り、日本のみの発売というソロ・アルバム契約を取ってきました。
そのため、ツアーの合間のわずかな休みを使って、ロサンゼルスで丸一日レコーディングしてまたツアーに戻るというのを繰り返す、超ハードスケジュールをこなすことになります。
結局ソロ・アルバムが半分くらい出来たところでアルカトラスを脱退、ついにソロアルバム制作に本腰をいれることになります。
そうして、ついに彼のソロデビューアルバムが完成します。
このアルバムは2曲を除いてほとんどインストゥルメンタルとなっています。
ギタープレイに極めて関心の高い日本向けだからこそこのような作りになったと考えられます。
しかし、このアルバムの評判が高まってくると、アメリカでは輸入盤にも関わらず、ビルボード誌のアルバムチャートを上がり始めます。
そのためアメリカでもリリース待望の声が上がり、結局ワールドワイドなソロデビューアルバムへと格上げになったという経緯のあるアルバムとなっています。
今日は1984年リリースの、YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)の1stソロ・アルバム、RISING FORCE(ライジング・フォース)をご紹介します。
アルバム、RISING FORCE(ライジング・フォース)の楽曲紹介
アルバムのオープニングを飾るのは、BLACK STAR(ブラック・スター)。
これはインストゥルメンタルの不朽の名作と言ってよいでしょう。
この曲は後々ずっとイングヴェイのライヴでも繰り返し披露される、彼の代表曲の一つである。
アルカトラスではHM/HRの楽曲を当然作ったわけだが、今作ではイングヴェイのやりたいことがやりたいように収められています。
いきなりアコギの静かなフレーズで驚かされる。
しかし、エレキパートが始まると、一変し、彼の魅力がぎっしり押し込められた楽曲になっている。
クラシカルなフレーズが満載であり、それとともに速弾きパートでもあのクリアな水晶のような美しく滑らかなメロディもたっぷり堪能できる。
十分に時間をかけて作曲されたのがわかる、よく考えられた展開、構成、ともに最高水準だと思われる。
後々のイングヴェイは手癖フレーズに頼りすぎて、飽きられたりもしているのだが、やはりデビュー直後はクオリティが違う。
ヴァイオリン奏法とディレイの合わせ技も美しいし、スウィープも滑らかで粒が際立っている。
とにかく完璧なインストで、このデビュー作は幕を明けるのだ。
2曲目は、FAR BEYOND THE SUN(ファー・ビヨンド・ザ・サン)。
これもやはりインストゥルメンタルの不朽の名作に間違いありません。
ロックギターインストにおいては最高峰と呼べるのではないでしょうか。
この曲も、クラシカルフレーズが炸裂である。
そして前の曲とは種類は違うのであるが、こちらも見事に起承転結がはっきりしており、究極に構築された構成になっています。
主旋律を中心に、次から次へと素晴らしく、そして美しいフレーズがてんこ盛りだ。
そして最後の盛り上がりのあとの5本弦スウィープの美しいこと。
あんなに粒のそろったきれいなスウィープは、人間技とは思えなかったが、ライヴなどの動画を確認すると、確かに弾いているのである。
後々のイングヴェイはライブにおいて前の曲と同じく、この曲もインプロヴァイズの名のもとに、手癖ですましてしまうようになってしまう。
だから、やはりこの曲の究極ヴァージョンは、このアルバムに収められたオリジナルが最高の出来と評価したくなる。
これを超えるロックインストはまだ見つかっていないと僕は思っています。
本当に素晴らしい楽曲だ。
3曲目はNOW YOUR SHIPS ARE BURNED(ナウ・ユア・シップス・アー・バーンド)。
アルバム初のヴォーカル入りのバンドサウンドだ。
このアルバムではJeff Scott Soto(ジェフ・スコット・ソート)がヴォーカルを務めている。
イントロのギターリフやギターソロがかっこよすぎて、ジェフのヴォーカルがちょっと残念に聴こえてしまう。
この曲もインストにすれば良かったのではないか、という声も多数あり、僕もジェフには悪いがそう思ってしまう。
ギターリフがいちいち速い。
ソロの流れるようなメロディも、美しく流麗である。
これを聴くと単なる速弾きではなく、メロディアスであることをはっきりと理解できるだろう。
ヴォーカル曲としては弱い気がするが、ギターは聴き所満載である。
A面ラストはEVIL EYE(イヴィル・アイ)。
これもインストである。
イントロのメロディが美しい。
途中のソロもやはりクラシカル要素がふんだんに取り入れられており、とてもいい曲に仕上がっている。
静かなクラシカルなメロディアスな部分と、疾走感のあるパートでのメロディアスな速弾きのバランスが絶妙である。
この曲は後に1998年のイングヴェイの作品、エレクトリック・ギターとオーケストラのための協奏組曲 変ホ短調『新世紀』のコンサートの際にクラシカルアレンジで披露された一曲となった。
やはり素材がクラシカルなので、当然の選択といえよう。
B面1曲目がICARUS’ DREAM SUITE OP. 4(イカルスの夢・組曲 作品4)。
8分半を超える壮大なインスト曲だ。
イントロにはアルビノーニのアダージョというクラシックの名曲を取り入れた、多くのクラシックに影響を受けたと公言するイングヴェイの意欲作だ。
20歳そこそこのイングヴェイが作り上げた音世界だが、これをこの若さで作ったことだけでも驚きだ。
そして単に作った、だけでなく、そのクオリティにも驚かされる。
この楽曲もやはり構成を良く練りあげられた素晴らしい作品だ。
そして今回は単に速弾きだけでなく、スティール弦のアコギによる静かなフレーズが効果的に用いられている。
また、サビとなるメインテーマも、美しい旋律をビブラートを効かせて情緒たっぷりに聴かせてくれている。
この曲のメインテーマは、エレクトリック・ギターとオーケストラのための協奏組曲 変ホ短調『新世紀』の1曲目ICARUS DREAM FANFARE(イカロス・ドリーム・ファンファーレ)として生まれ変わり、クラシックとしても成立する素晴らしい楽曲であったことが後にはっきりと証明されました。
2曲目は、AS ABOVE, SO BELOW(アズ・アバヴ、ソー・ビロウ)。
アルバム中2曲目にして最後になるヴォーカル曲です。
まず、パイプオルガンの様な雰囲気たっぷりのイントロが印象的だ。
イントロのギターリフはメロ重視で、楽曲を引き立てに回っている感じです。
そしてジェフのヴォーカルがハイトーンまでがんばってます。
バンドとしてもなかなかなキャッチーな楽曲になっていて、アルバムの中ではアクセントとなり、決して悪くはありません。
ギターソロパートのスタートがキーボードとのユニゾンになっていて、非常に心地よいです。
続くパートではギターが弾きまくって、もう一度ユニゾンに戻ります。
なかなかいい展開です。
目立たないけども、ハードロックないい曲だと思います。(数少ないヴォーカル曲なのに目立たないって普通じゃないですね。)
3曲目はLITTLE SAVAGE(リトル・サヴェージ)。
これもよく出来たインストだが、超ド級のインスト曲の中では目立たないほうである。
しかし、とてもかっこいいギターリフで始まるし、ソロでは、速弾きよりも泣きのプレイがフィーチャーされてるので決してこれも悪くないと思える。
後半の疾走感を取り戻した後の弾きまくりも非常によい。
最後、シンセによって終わりの雰囲気が漂った後のアウトロのギターも素晴らしい。
ずっと聴いていたい、と思ったらふっと切れるのが残念だ。
ラスト、FAREWELL(フェアウェル)。
これは短いアコギの小曲です。
ブラック・スターのリプライズ的な存在です。
こうして華々しいイングヴェイのデビュー作は幕を下ろします。
まとめとおすすめポイント
1984年リリースの、YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)の1stソロ・アルバム、RISING FORCE(ライジング・フォース)は前述のとおり、アメリカでリリース前から評判になり、ビルボード誌のアルバムチャートで最終的には第60位まで上昇します。
そして1986年、グラミー賞 最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞にノミネートされています。
アメリカに渡って初めてのバンド、STEELER(スティーラー)そして2番目のバンド、ALCATRAZZ(アルカトラス)、これらの二つのバンドで、イングヴェイはロックギター界に鮮烈な印象を残しました。
その2バンドで出した2枚のアルバムにおいて、彼は後のギタープレイにつながる片鱗を見せていたとはいえ、やはり彼自身のバンドではなかったので、我慢していたところもあるだろう。(まあ、我慢できなくなった辞めたというのもあるだろうが。)
しかし、今回は自身のソロアルバムのためにバンドメンバーを集め、自分の好きなようにアルバムを作ることが出来た。
そしてそこに見られたのは、彼のバックグラウンドであるクラシックの影響を多大に受けた楽曲たちであった。
もともとリッチー・ブラックモアなどが、ハードロックとクラシック音楽の相性がいいことを証明はしていたものの、イングヴェイはそのグレードを一気に引き上げて見せたのだ。
彼の音楽性はクラシックと同じコード進行を用い、そこにギターで速弾きやスウィープ奏法、ヴァイオリン奏法などなどの高度な技術を数多く導入するものであり、これまでになかったネオクラシカルメタルという新たなジャンルを切り開いたのである。
それはロックギターのシーンに多大な影響を与え、雨の後のたけのこのようにフォロワーが生まれ、ギタリストのテクニックは天井知らずのレベルアップがみられるようになるのである。
そのきっかけとなった点でやはりロックギター界に第3の革命を起こしたというのも、決して大げさではないと言えるだろう。
とりわけ初期のイングヴェイは、きちんと構築したプレイが多く見られる。
単に速いだけでなく、展開や構成が考え抜かれているのだ。
それに加えてストラトのクリアな水晶のような音色も特徴的だ。
こうした理由から初期イングヴェイは後期に比べると根強いファンが多い。
バンドサウンドという点では、ヴォーカルの弱さは否めないが、ロックインストアルバムとして聴けば、いまだに最高峰に位置するのではないかと思われる。
エレキギターに多大な影響を及ぼし、その後のテクニカルギターの元祖ともなったこのアルバムをぜひとも聴いて欲しい。
チャート、セールス資料
1984年リリース
アーティスト:YNGWIE MALMSTEEN(イングヴェイ・マルムスティーン)
1stアルバム、RISING FORCE(ライジング・フォース)
ビルボード誌アルバムチャート第60位
ヴォーカル:Jeff Scott Soto(ジェフ・スコット・ソート)