バンドは崩壊寸前だが、粒ぞろいの良アルバム QUIET RIOT - QR III

前作からの流れ





1984年リリースの、QUIET RIOT(クワイエット・ライオット)の4thアルバム、CONDITION CRITICAL(コンディション・クリティカル)はビルボード誌アルバムチャートでは第15位、アメリカの売り上げは100万枚にとどまってしまいました。

 

いろいろ原因はあるとは思いますが、やはり大きな要因の一つは、大ヒットした3作目のMETAL HEALTH(メタル・ヘルス~ランディ・ローズに捧ぐ)二番煎じだったことがあげられるでしょう。
スレイドのカバーを繰り返し、音楽的にもほぼ同じ路線を繰り返したのが、評価を低めた一因であることは間違いないでしょう。
しかし、裏を返せば、3rdアルバムが好きな僕のような人にとっては、もう一度同じ系統のアルバムを楽しめてよかったのではないでしょうか。

 

こうしたセールス的な失敗に苛立った、ヴォーカルでバンドの顔でもあるKevin Dubrow(ケヴィン・ダブロウ)は、メタル誌などに持論をぶちまけ始めます。
例えば、L.A.におけるメタルシーンにある多くのバンドが成功したのは、自分たちのおかげだ、とか言ってます。
つまり、彼に言わせると、クワイエット・ライオットの成功が、続いて現われた彼らの成功への道を開いた、というわけです。
また、ある時にはバンドをTHE BEATLES(ザ・ビートルズ)に匹敵するとさえ言ってのけてます。
もはやこの時点でビッグマウス全開で、周りからの多くのひんしゅくを買うことになっていきました。
そのため、彼の発言は同時代の多くのバンドを怒らせたり、また、多くのファンを遠ざけていくことになります。

 

そしてこうしたダブロウの暴言などのため、ついにバンドにも亀裂が生じます。
ベースのRudy Sarzo(ルディ・サーゾ)はダブロウとの摩擦により、1985年の1月にバンドを離れることになりました。
その結果、サーゾは後の1987年4月には、WHITESNAKE(白蛇の紋章〜サーペンス・アルバス)をリリース後のWHITESNAKE(ホワイトスネイク)のツアーに加わり、それからホワイトスネイクのメンバーとして10年以上活躍することになります。
沈みかけた船から逃れて、メインストリームを歩めたサーゾはラッキーだったのかもしれません。

 

さて、クワイエット・ライオットの話に戻りますが、1985年5月には、HM/HR版のWe Are The World(ウィ・アー・ザ・ワールド)とも言える、Hear ‘n Aid(ヒア・アンド・エイド)に4人揃って参加しています。(サーゾは一応クワイエット・ライオットからとクレジットされています。)
ダブロウもヴォーカルでソロパートを任せられて力強く歌ってますね。
しっかり溶け込んで、結構な主要人物に僕には見えてました
しかし、この時点でLAの多くのバンドとの軋轢があったとは、当時の僕には知る由もありませんでしたw

 

そして、サーゾが抜けた後のベーシストとして、バンドは元GIUFFRIA(ジェフリア)のChuck Wright(チャック・ライト)を加入させます。
また、新機軸を打ち出すためか、キーボードとしてJohn Purdell(ジョン・パーデル)が参加しています。
パーデルはプロデューサーとしても参加しています。

 

こうしてベーシストの交代という大きな事件を経て、ニューアルバムが完成します。
これまでは、ダブロウ中心の曲作りでしたが、今回はほとんどの曲で4人の共作になっており、なかなか粒よりの佳曲ぞろいのアルバムになっています。

では今日は、1986年リリースの、QUIET RIOT(クワイエット・ライオット)の5thアルバム、QR IIIをご紹介したいと思います。

QR IIIの楽曲紹介

オープニングを飾るのは、MAIN ATTRACTION(メイン・アトラクション)。

 

新作を初めて聴いたときに、このイントロにはぶったまげましたね。
違うバンドのアルバムを借りてしまったかと一瞬思ったくらいです。

 

こんなキラキラシンセはクワイエット・ライオットちゃうやろ、と思いましたが、何度か聴いていくうちにこれがまたいい感じに聞こえてきました。
イントロや、サビ裏でもシンセが楽曲の全編を彩っているわけですが、その音を差し引くとやはりこれはクワイエット・ライオットそのものの音ですね。
Frankie Banali(フランキー・バネリ)の活きのいいドラムのオカズは健在ですし、Carlos Cavazo(カルロス・カヴァーゾ)のメロディアスなギターソロも活きてます。
さすがに、この時点でベーシストが変わっているとこまでは気付けませんでしたw
そしてバンドの顔、ダブロウさんの力強いヴォーカルと、爽やかなメンバーのコーラスはいつものとおりです。

 

80年代っぽいシンセを絡めることで、二番煎じと言われた前作のリヴェンジを果たそうとしているかのようです。
オーケストラヒットっぽい音も間奏部分を飾ってます。

 

適度な疾走感とキャッチーなサビ、そしてキラキラシンセ、この曲を「めっちゃいいですやん、これ」、と思えるかどうかでこのアルバムの評価はきっと変わるのではないでしょうか。
僕は、思いました、「めっちゃいいですやん、これ」。

 

2曲目は、THE WILD AND THE YOUNG(ワイルド・アンド・ヤング)。

 

フランキー・バネリによるドラムスタートのイントロがかっこよいですね。
ダークで哀愁たっぷりのメロディの前半は、ちょっぴりハードですが、サビはとっても爽やかな哀愁が感じられます。
やっぱりサビで聴かれる、全員で大声で歌うシンガロングパートが、クワイエット・ライオットらしくあり、いいですね。

 

後半の間奏では、コーラスとヴォーカルが小刻みにスクラッチっぽくLRチャンネルを行き来するところにも驚かされました。
これってヒップホップ系ではよくある手法ですが、まさかHM/HRバンドで聴くことになるとはびっくりでしたね。
ハイテクメタルとも言われた、DEF LEPPARD(デフ・レパード)の翌年1987年のアルバム、HYSTERIA(ヒステリア)では大量にこんなサウンドが取り入れられてますが、クワイエット・ライオットのほうが、ちょっとだけ先を行っていたと言えるかもしれませんね。
とにかく、前のアルバムからの脱却への試みをこんなところでも感じることができます。

 

まあ、そんな些細な部分を除いても、なかなか勇ましいかっこいい楽曲になっていると思います。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされましたが、チャートインには至りませんでした。

 

3曲目は、TWILIGHT HOTEL(トワイライト・ホテル)。

 

もともとバラードもうまいバンドでしたが、ここにきてさらにクオリティアップした哀愁のバラードが登場です。
エレキギターのクリーントーンの美しいアルペジオから始まりますが、曲の全編に渡ってシンセがキラキラと楽曲を飾っています。

 

そして歌メロも、キャッチーかつ哀愁があり、アダルトな雰囲気がむんむんと漂っています。
ダブロウもいいですね。
はっちゃけたヴォーカルだけでなく、こんな切なさも表現できる、いいヴォーカリストだと思います。

 

カヴァーゾのギターソロも、ヴァイオリン奏法から始まり、メロディアスに切なく奏であげています。

 

バラードもシンセの採用により、一層グレードアップしたのではないでしょうか。

 

4曲目は、DOWN AND DIRTY(ダウン&ダーティ)。

 

イントロで弾きまくるカヴァーゾのギタープレイからかっこよいです。
Aメロでは、ちょっとスローにまくしたてるダブロウのヴォーカルがかっこいいです。
ラップっぽいところがここでも時流を取り入れてる感じがしますね。

 

ギターソロでもカヴァーゾがたっぷり弾きまくってます。
サビでの合唱が彼ららしくて爽快かつ豪快です。
なかなかかっこいいハードロックになっています。

 

5曲目は、RISE OR FALL(ライズ・オア・フォール)。

 

ギターリフで始まる典型的なハードロックチューンです。
リフをバックにダブロウが歌い始めますが、曲が進むにつれ、シンセがゴージャスに楽曲を彩っていきます。
シンセにより哀愁感がたっぷりと表現されてます。
サビのタイトル連呼はBang Your Head!のメロディに近いのはご愛嬌。
やっぱりこんな感じの曲はクワイエット・ライオットに任せて安心です。

 

6曲目は、PUT UP OR SHUT UP(プット・アップ・オア・シャット・アップ)。

 

こちらは、十八番のパーティロックですね。
これこそクワイエット・ライオットの醍醐味ではないでしょうか。
なんだかんだ言っても、聴いて楽しくなれる曲はテンション上げてくれますからね。
やっぱりこういう能天気な雰囲気を出せるバンドも必要なのです。

 

ギターソロでは、タッピングをたっぷり披露
前の曲でも使ってますが、やっぱりこの辺も流行りに合わせてきてる感はあります。
ただ、カヴァーゾのギタリストとしてのオリジナリティが見えにくくなる、という難点もありますが。

 

7曲目は、STILL OF THE NIGHT(スティル・オブ・ザ・ナイト)。

 

アルバム中2曲目の本格バラードです。
これがまた非常にいいです。
メロディもいいですし、今回採用のシンセがまた気持ちよく楽曲を飾り立ててます。
ダブロウのヴォーカルも、こういうのに不思議とよく合うんですよね。
やっぱり上手いと思いますよ。
これでビッグマウスさえなければ、と残念です。

 

8曲目は、BASS CASE(ベース・ケース)。

 

これはアルバム中唯一のインストゥルメンタルで、新加入のチャック・ライトのベースソロになっています。
1分ほどの小曲ですが、挨拶代わりの一曲として、渋いプレイを聴かせてくれます。
次の曲へつながるアクセントとして存在感を放っています。

 

9曲目は、THE PUMP(パンプ)。

 

ミドルテンポのちょいヘヴィな楽曲です。
この曲でもシンセがしっかりと雰囲気を作ってます。
それに加えて、けっこうベースも頑張ってグルーヴ感を生み出しています。
カヴァーゾのギターもソロだけでなく、いろんなところでヘヴィなプレイをちょいちょい挟んでくるところがいいです。
みんなで合唱のサビは安定の良さを見せています。

 

10曲目は、SLAVE TO LOVE(スレイヴ・トゥ・ラヴ)。

 

これは、かなり秀逸な楽曲になっています。
イントロの美しいクリーンギタープレイで、バラードかと思わせておいて、バンドサウンドが入ってきてミドルテンポのかっこいい曲になります。
爽快なリズムにのるのは、哀愁漂うダブロウのヴォーカルです。
このバランスが絶妙にいいです。

 

サビも合唱でメロディアスに歌い上げてます。
ギターソロも、軽快にメロディアスに奏であげられてます。
後半に、誰かはわかりませんでしたが、女性ヴォーカルまで入ってきて切ない曲を盛り上げてます。
これまた、新たな挑戦曲と思えますし、それも成功してるのでは、と思いますね。

 

ラスト11曲目は、HELPING HANDS(ヘルピング・ハンド)。

 

これもパーティロックに入ると思いますが、少しだけ大人になったのか完全に弾けまくったものではありませんね。
でも、やはりこのサビの合唱は彼らならではの盛り上がりを見せますし、聴いて楽しめます。
間奏では、シンセ、ベース、ドラムがちょい見せプレイを。
そしてギターソロは堂々たるプレイをたっぷり聴かせてくれます。

 

ギターソロ後の、ドラムのみをバックに歌われるサビの合唱は、まさにクワイエット・ライオット印入ってます。
最後はカヴァーゾが弾きまくってエンディングです。

まとめとおすすめポイント

1986年リリースの、QUIET RIOT(クワイエット・ライオット)の5thアルバム、QR IIIは、ビルボード誌アルバムチャートで第31位、売り上げはゴールド(50万枚)も逃すという、商業的には失敗作とされています。

 

まあ、身から出たさび、というかダブロウのビッグマウスもこうした人気低下の一因となっているのはあながち間違いではないでしょう。
公に、いろんなこと言って敵を増やしてます。
ファンも、あまり天狗になった発言を聴いてうれしい人は少ないでしょうからね。

 

それと、前々作と前作でカバー曲が大ヒットしてしまった、というのも一つあるかもしれません。
カバーに頼った一発屋、という見方がされてしまって正当な評価を受け損なった、というのも幾らかあるのかもしれません。

 

そんなイメージを払拭するかのように、今作ではカバー曲なし、前曲オリジナルで勝負に出ました。
また、これまでダブロウ中心で楽曲を作っていましたが、ほとんどの作品にメンバー4人が参加して作っています。
それが、一層キャッチーでメロディアスな楽曲作りに貢献したと思えます。

 

また、1番大きな変化はシンセサウンドの積極的な採用と言えるでしょう。
ジョン・パーデルを迎えることによって、もともとキャッチーなバンドサウンドを、より一層80年代風に洗練することになりました。
この変化は、旧来のファンにとっても賛否両論あると思いますが、生き残りをかけた新たな挑戦だったと言えると思います。

 

勝負に出た結果はというと、チャート、セールス共に惨敗でした。
思った以上にファンはシビアだったんですね。
こうした変化を売れ線狙いと捉えられたのでしょう。

 

しかし、僕は好きでしたよ、これ
もちろん、初期のシンプルなハードロック、パーティロックも好きでしたが、シンセが入ることで、一層曲が洗練されたと思います。
クワイエット・ライオットが洗練される必要はない」、と言われればそれまでですが、やはりバンドとして生き残りをかけたこの奇策は、僕にとっては吉だと思っています。
もともとメロディはいいものを持っていたバンドが、さらに魅力を増したと感じられます。
また、パーティロックなど、彼らの得意分野もそのまま残ってますしね。
バラードもレベルアップした様子が窺えます。

 

あとは、ダブロウさんの人としての問題だけが残るということになるでしょうか。

 

このリリースの後、ダブロウさんの言動に嫌気がさした残りのメンバーたちやレコード会社は、ついにダブロウをバンドから解雇する、という暴挙に出ます。
まさに世は下克上です。
クワイエット・ライオットのフロントマンを取り替えるという、荒療治が行なわれてしまいました。

 

何とも惜しい結末ですね。
ダブロウさんが謙虚であったらよかったのですが、この時点ではムリのようでした。
結果、クワイエット・ライオットは 元ROUGH CUTT(ラフ・カット)の Paul Shortino(ポール・ショーティノ)をヴォーカルに迎え、新たな道を歩み始めます。

 

まあ、商業的失敗と、こんなごたごたがありましたが、アルバムとしてはクワイエット・ライオットの魅力がしっかりつまった内容になっています。
クワイエット・ライオットのいい特徴を、いっそう引き伸ばしたこのアルバムはやはり聴いておきたい名盤の一つに数えたいものです。

チャート、セールス資料

1986年リリース

アーティスト:QUIET RIOT(クワイエット・ライオット)

5thアルバム、QR III

ビルボード誌アルバムチャート第31位

1stシングル THE WILD AND THE YOUNG(ワイルド・アンド・ヤング) ビルボード誌シングルチャート圏外