個性派ポップアーティストの名盤 NIK KERSHAW(ニック・カーショウ) – THE RIDDLE(ザ・リドル)




NIK KERSHAW(ニック・カーショウ)とは

1980年代中期には、ハワード・ジョーンズなど多くのポップアーティストを生み出したイギリスですが、やはりこのニック・カーショウも忘れてはならない存在だと思います。
僕が初めて彼の音楽を聴いたのは、THE RIDDLE(ザ・リドル)で、FMラジオで頻繁にかかってましたからいやでも耳に入ります
とりわけ、あの懐かしさも感じられるイントロのメロディと、彼の粘着質なヴォーカルにあっと言う間に魅せられたのでした。

 

ニックはイングランドのブリストル出身で、父はフルート奏者、母はオペラ歌手ということで、ハワード・ジョーンズと同じく、音楽的な環境の中で育ったようです。
そして学生時代には独学でギターを弾き始めています。
その後、学校を中退し、仕事をしながら数多くのバンドに参加し、歌を歌っています。
その最後のバンドのFusionが1982年に解散すると、ニックはミュージシャン、ソングライターとしてのソロキャリアを歩み始めました。

 

メロディメイカー誌に広告を出した後、ニックはマネージャーMickey Modernと出会います。
そして彼は、MCAレコードとの契約をとりつけてくることになりました。
やはり、イギリスのアーティストが世界を席巻している時代に入ってましたから、意外とすんなりとサクセスを掴み始めてますね。

 

1983年秋にはデビューシングル、I Won’t Let the Sun Go Down on Me(アイ・ウォント・レット・ザ・サン・ゴーズ・ダウン)をリリース。
イギリスで第47位のスマッシュヒットを記録しています。
続いて2ndシングルのWouldn’t It Be Good(恋はせつなく)をリリース。
この曲がブレイクして、イギリスで第4位、またヨーロッパやカナダ、オーストラリアでも大ヒットとなります。
合わせて作ったPVがMTVでヘヴィローテーションされ、アメリカビルボード誌シングルチャートで第46位を記録することになりました。

 

この勢いのまま、1stアルバムが制作され、HUMAN RACING(ヒューマン・レーシング)のタイトルで、イギリスのアルバムチャートで第5位、ビルボード誌アルバムチャートでも第70位、その他世界各国でのヒット作となりました。

 

このアルバムからはさらにDancing Girls(ダンシング・ガールズ)がイギリスで第13位、アイ・ウォント・レット・ザ・サン・ゴーズ・ダウンの再発が第2位、タイトルトラックHuman Racing(ヒューマン・レーシング)が第19位と、ヒットを連発し、ブリティッシュポップアーティストの一角としてあっというまにその地位を築いたのでした。

 

そして翌年にリリースされたのが今日ご紹介するアルバム、ということになります。
このトントン拍子の成功劇を見ると、やはり、イギリスが熱かった時期なのだなあ、と感慨深いですね。

 

では今日は、1984年にリリースされたNIK KERSHAW(ニック・カーショウ)の2ndアルバム、THE RIDDLE(ザ・リドル)をご紹介します。
ちなみに、全曲彼による作詞作曲となっています。

THE RIDDLE(ザ・リドル)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、DON QUIXOTE(ドン・キホーテ)。

 

イントロからいろんな音が聞こえてきてカラフルで楽し気な楽曲になっています。
軽快なホーンセクションも心地よく盛り上げています。
ダンスミュージックっぽくもあり、テクノっぽくもある、ジャンル不詳のポップミュージックになっています。

 

そんな軽やかなメロディに乗るニックのねちっこいヴォーカルがまた癖になるんですよ、これが。
絶妙のポップソングに、独特のヴォーカルが絡むことで、ニック・カーショウ独自の世界観が完成していますね。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、イギリスのシングルチャートで第10位を記録しています。

 

2曲目は、KNOW HOW(ノウ・ハウ)。

 

ディレイのかかったベース音で始まる、ちょっとファンキーっぽくもあるゆったり目のポップ曲です。
サビは地味なんだけども、心をとらえるメロディラインになっているのがイケてますね。
曲中を彩るシンセ群が80年代らしいわけですが、そこに彼のヴォーカルが強力な個性を放っています。

 

強烈な魅力があるかと言われればそこまではないんだけども、なんかハマってしまうこれまた絶妙な出来になっております。

 

3曲目は、YOU MIGHT(ユー・マイト)。

 

これが、ギターリフに適度な激しさがあり、かなりお気に入りの曲の一つです。
ささやかな疾走感も心地よく、そこに乗る彼のメロディセンスも秀逸です。

 

こういうバンドっぽい音もあるのが、ニックの魅力の一つと僕は思っています。
打ち込み系のポップソングばかりだと、どうしても飽きが来てしまいがちですが、僕的にはこんなバンドの音が聞けると、また聞き入ってしまいます。

 

いやいや、当時からそう思ってましたが、今でも何度でも聞けるかっこいいポップソングですよ、これは。
ラストの盛り上がりも鳥肌モノです。

 

4曲目は、WILD HORSES(ワイルド・ホーセズ)。

 

一転して柔らかな雰囲気のポップ曲です。
野生の馬がポクポク歩いてる絵が見えるような、牧歌的な雰囲気で気持ちがよいです。

 

その雰囲気の中での歌メロも、独自路線という感じで、やはり引き込まれます。
ねちっこいヴォーカルも自在にメロディをなぞっています。

 

5曲目は、EASY(イージー)。

 

イントロの、不協和音も混じってるかのように感じさせる不思議な雰囲気が、これまた独特です。
歌メロも、やはり彼のオリジナルの雰囲気であふれてますね。
なのに、キャッチーなんですよね。
これぞ、彼の個性の現れなのでしょう。
80年代の他の多くのポップアーティストとは、明らかに一線を画していると思います。

 

6曲目は、THE RIDDLE(ザ・リドル)。

 

これぞ、僕が初めて聴いてニックの世界に引き込むことになった、アルバムタイトルトラックです。

 

やはり何度聞いてもいいですよね。
マーチングバンドのドラムロールのような音からの、中世ヨーロッパを思わせる雰囲気のノスタルジックなイントロメロディは、もはや最高傑作と呼んでいいでしょう。
あの、シンプルなのに、引き込まれるエレキとシンセのユニゾンは、キャッチーそのもので、一度聞くと忘れられない強烈な印象を放っています。
このメロディはサビメロともなってますし、間奏では笛によるソロとしても出てきます。
同じメロディが、繰り返し出てくるわけですが、変化に富ませているので、決して飽きさせない優れた出来になっていると思います。

 

ネット上で情報を拾うと、アルバムリリース直前にシングルとして出せる強力な曲がないということで、急遽制作されアルバムに収録された、ということらしいですね。
やっぱり天才はやることが違いますね。
こうして多くのアーティストについて掘り下げると、そういったエピソードがけっこうちょくちょく出てきます。
ニックもそういう曲を作ろうとして作れる、そんな天才の一人だと言うことがよくわかります。

 

あと、タイトルの意味は「謎」なわけですが、歌詞も意味不明で謎に満ちてる、ってことでも話題になってます。
wikiによると、楽曲制作中にガイド・ヴォーカルとして適当に付けた歌詞をそのまま使ったようです。
本人も、結局はこの歌詞に意味はない、と言ってるようです。
まあ、急場しのぎに突貫工事で作った楽曲だったので、歌詞まで時間をかけられなかったのかもしれませんね。
でも、逆に、謎に満ちた雰囲気が、曲風にもぴったり合って、結果オーライって感じがします。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、イギリスで第3位、あと、世界中でヒットを記録しています。
また、アメリカのビルボード誌シングルチャート第107位を記録しています。
なぜアメリカで売れなかったのか、全く意味不明です。

 

7曲目は、CITY OF ANGELS(天使の街)。

 

柔らかいイントロのサウンドが心地よいです。
ゆったりとした曲中で、この曲もなかなかベースラインがうねってて意外にグルーヴィーな楽曲になってます。
とはいえ、ゴリゴリなグルーヴ感ではなく、軽やかなシンセが彩っているので、ちょうどいい感じに収まってます。
間奏後の、ほぼベースのみの伴奏と共に歌ってるとこなんか、けっこう好きですね。

 

8曲目は、ROSES(ローゼズ)。

 

とんちんかんという装飾打楽器をバックに歌い出し、いったいどんな曲かと思いきや、途中から普通のバンドの音へ。
こんな曲展開もニックならではの味わいがありますね。
サビでのステレオ効果を駆使した歌い分けも印象的ですし、後半のサビメロを一瞬再現して入ってくるエレキギターの音が鮮烈です。

 

9曲目は、WIDE BOY(ワイド・ボーイ)。

 

イントロこそギターリフで暗めに始まりますが、Aメロスタートと共に明るく爽やかなポップソングになります。
2番の歌が入るタイミングで入るギターソロも軽快で良いです。
シングル向きのキャッチーで心地よいシンセポップに仕上がっています。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、イギリスで第9位を記録しています。

 

ラスト10曲目は、SAVE THE WHALE(セイヴ・ザ・ホエール)。

 

静かなビートにささやかなシンセがかぶさり、ゆっくりと進んでいく楽曲です。
ダークな世界観が、キラキラシンセと共に構築されています。
当時は慣れるのに時間がかかりましたが、じっくりと味わえば、いい曲だと気付けるスルメのような楽曲です。

まとめとおすすめポイント

1984年にリリースされたNIK KERSHAW(ニック・カーショウ)の2ndアルバム、THE RIDDLE(ザ・リドル)はイギリスのアルバムチャートで第8位を記録しました。
あと、世界各国でも大きなヒットとなっています。
ただし、アメリカのビルボード誌アルバムチャートでは第113位と、TOP100圏外に終わっています。

 

大ヒットではありましたが、英国でも前作でのチャートアクションを超えられず、結果的にデビューアルバムが最も好成績なアルバムということになってしまいました。

 

僕は、このニックの独特の世界観が非常に気に入って良く聞いていました。
シンセが多用されている80年代中期にあって、彼の作品は独特の存在感を放っていたと思っていますね。
その理由は、やはりなんと言っても彼のヴォーカルでしょう。
あの粘着質でねちっこいヴォーカルは、唯一のオリジナルだと思います。
そして、彼の作るメロディラインや、曲展開もやっぱり他とは一線を画していますよね。

 

1stシングルのザ・リドルが飛びぬけて良い出来であるのは間違いないと思いますが、アルバム中には決してそれに見劣りのしない名曲が散りばめられています。
十分に彼の個性の発揮された、名盤と言ってよいのではないでしょうか。

 

ただ、これがアメリカであまりウケなかったのがちょっと謎(リドル)ですね。
折しも、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン全盛の時期で、英国発の数多くのアーティストがアメリカのチャートを縦横無尽に席巻しているころで、そんな流れでニックもアメリカでの成功(≒世界での成功)が狙えたと思ったのでしたが、そうはうまくはいきませんでした。

 

この独特な世界観が、開放的なアメリカの市場に合わなかったのか、レコード会社の戦略ミスなのか、原因はわかりませんでしたが、アメリカ市場の攻略には失敗したということになるでしょう。
アルバムの出来は良いと思いますが、アメリカでウケなかった理由がわかりません
この点は非常に残念です。
とはいえ、ヨーロッパ各国やオーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでは大ヒットとなっていますから、やはり80年代を代表するアーティストの一人と言ってよいでしょう。

 

個人的には、非常によくできたこの個性的なアルバムは、とてもユニーク(独特)なポップ作品の一つとしてお勧めしたいと思います。

チャート、セールス資料

1984年リリース

アーティスト:NIK KERSHAW(ニック・カーショウ)

2ndアルバム、THE RIDDLE(ザ・リドル)

ビルボード誌アルバムチャート第113位
イギリスアルバムチャート第8位

1stシングル THE RIDDLE(ザ・リドル) イギリスシングルチャート第3位 ビルボード誌シングルチャート第107位

2ndシングル WIDE BOY(ワイド・ボーイ) イギリスシングルチャート第9位

3rdシングル DON QUIXOTE(ドン・キホーテ) イギリスシングルチャート第10位