陽気な西海岸ハードロック NIGHT RANGER - MIDNIGHT MADNESS
ナイト・レンジャーとの出会い
高校生のころ、エレキギターを弾く友達の影響で、ハードロックバンドをよく良く聴くようになりました。
その最初の頃に教えてもらったのがNIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)というバンドです。
友達は8フィンガー奏法などとか説明してくれたが、そのころはまだギターを持ってなかったので、あまりそういうところには関心が向来ません。
でも、ナイト・レンジャーの1983年のシングル(YOU CAN STILL)ROCK IN AMERICA(ロック・イン・アメリカ)は強烈に好きになりました。
アメリカのあの派手で楽しいパーティー的なノリがこの曲には詰まっています。
ギターテクがどうこうより、まずはあのハードなノリにノックアウトされたのです。
そして同年のアルバムMIDNIGHT MADNESS(ミッドナイト・マッドネス)をカセットに収めました。
これはアルバム全体がパワーと80年代のきらきらが詰まっていて、ヘヴィローテーションアルバムになったのでした。
ナイト・レンジャーとは
ここでこの当時のメンバーを紹介しておきます。
Jack Blades(ジャック・ブレイズ) - リードヴォーカル、ベース
Kelly Keagy(ケリー・ケイギー) - ヴォーカル、ドラムス
Brad Gillis(ブラッド・ギルス) - エレキギター
Jeff Watson(ジェフ・ワトソン) - エレキギター
Alan Fitzgerald(アラン・フィッツジェラルド) - キーボード
この5人組になります。
西海岸出身で、VAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)などと共に西海岸出身のハードロックシーンを盛り上げたバンドの一つです。
ちなみにジャック・ブレイズは2004年にB’zの松本孝弘のソロプロジェクト、TMG(Tak Matsumoto Group)にベーシストとして参加、ライヴではロック・イン・アメリカをカバーし、自らも歌っていました。
このバンドの最大の特徴はやはり何と言っても、ツインギターというところではないでしょうか。
ブラッドとジェフの、二つのそれぞれ個性的なエレキギターの調和が、見事に楽曲に溶け込んでいます。
ブラッドはとにかく派手なアーミングが特徴になっています。
フロイドローズユニット搭載のストラトキャスターで変幻自在のアームプレイを行なっています。
ただ単にビブラートを大きく揺らすだけにとどまらず、アームを使うことで微妙なニュアンスを表現することに成功していますね。
派手なものから繊細なものまで、これほどアーミングプレイを使いこなしていたギタリストは他にいなかったのではないでしょうか。
そしてジェフ。
彼は主に早弾き担当と言えるかもしれませんが、彼の特徴はやはりタッピングプレイということになるでしょう。
特に圧巻なのはロック・イン・アメリカのソロで披露している8フィンガー奏法です。
ギターの指板をまるでキーボードのように両手の親指を除く8本の指を使ってメロディを奏でています。
ハンマリングとプリングをうまく組み合わせて、滑らかな高速プレイを聴かせているのです。
他に応用のしようがないのが欠点と言えば欠点かもしれませんが、インパクトは十分で、少なくとも当時のギターキッズたちの羨望のまなざしを一身に受けたのは間違いありません。
この二人が、それぞれの個性を生かして楽曲に貢献している、このツインギターがナイト・レンジャーの魅力を高めているのです。
ただ、この二人だけが目立っているわけではありません。
やはりベース兼ヴォーカルのジャック・ブレイズは歌がうまいし、作曲能力も秀でています。
このアルバム、ミッドナイト・マッドネスのかなりの部分の作曲に彼が加わっています。
キャッチーな楽曲を書ける人がバンドにいる、というのはとても大事なことだと言えますね。
そして風貌がサングラスと髭、で非常に目立つアランのキーボードプレイも楽曲を80年代にぴったりなハードロックに昇華するのに貢献しています。
最後になりましたがジャックと共に歌っているもう一人のヴォーカリストでありドラマーでもあるケリー・ケイギー。
彼はドラムを叩きながら歌うのである。
SISTER CHRISTIAN(シスター・クリスチャン)がヒットしたときは驚かされました。
PVでドラマーがドラムを叩きながら歌っているではないですか。
そんなのは昔のC-C-Bの「ロマンティックがとまらない」、くらいでしか見たことなかったので、印象深かった思い出があります。
これら5人の個性が集まって出来たバンド、ナイト・レンジャー。
陽気なアメリカの兄ちゃんたちが集まって、勢いのあるキャッチーなアルバムを作り上げてくれました。
今日は1983年リリースの、NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)の2ndアルバム、MIDNIGHT MADNESS(ミッドナイト・マッドネス)をご紹介します。
ミッドナイト・マッドネスの楽曲紹介
オープニングを飾るのは、(YOU CAN STILL)ROCK IN AMERICA(ロック・イン・アメリカ)。
何と言ってもイントロのあのギュイーンという音にはしびれましたね。
あの音はアームダウンした状態でハーモニクス音を出し、そしてアームをもとに戻すと出来る音になっています。
が、技術うんぬんより、アルバムの一番最初の音としては最高級のイントロダクションと言えるでしょう。
そしてこの効果音的な音に続いて、切り裂くようなギターリフが入り、ドラムと一体化してスピード感あふれるAメロが始まります。
サビでのシャウトやコーラス、ほんとテンション上げ上げの曲になってますね。
適度にシンセ音も加わり、非常にノリの良いハードロックが展開されます。
そしてギターソロ。
まずブラッドの、アームを多用したゆったりしたソロでスタートです。
そしてそれはスピード感を増していき、ジェフの早弾きパートへ突入。
最後はあの、8フィンガー奏法でキメだ。
何も知らなかったら多分キーボードの早弾きプレイと思ってしまうでしょう。
しかし、ジェフは8本指を駆使してあのきれいで滑らかな高速メロディを奏でているのです。
これは80年代を代表するハードポップロックソングと認定したいと思います。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第51位、同誌Mainstream Rockチャートで第15位を記録しました。
2曲目はRUMORS IN THE AIR(ルーマーズ・イン・ジ・エアー)。
イントロは僕はキーボードによるSE的なものだと思ってましたが、ヴィヴィアンさんからコメントいただいたように、このイントロはブラッドによるボリューム奏法でした。
せわしなく右手を動かして、独特のサウンドをエレキギターで表現しています。
この曲はミドルテンポのロック的な楽曲となっています。
この曲もメロディがキャッチーです。
加えてコーラスがとても気持ちいい曲にもなっています。
そしてギターソロとキーボードソロが交代でソロコーナーを盛り上げています。
アウトロで弾きまくられてるギターソロもとてもかっこいいです。
3曲目はWHY DOES LOVE HAVE TO CHANGE(ホワイ・ダズ・ラヴ・ハフ・トゥ・チェンジ)。
この曲は、緊張感あふれるギターリフのイントロから始まります。
適度な疾走感も感じられて、なおかつメロディアスな良曲です。
このような雰囲気のある楽曲ではギターもその場の雰囲気を壊すことなく、楽曲に貢献していますね。
とは言っても十分速いフレーズが分をわきまえてムードを作り上げているのです。
4曲目はSISTER CHRISTIAN(シスター・クリスチャン)。
ケリー・ケイギーがドラムセットの中から歌い上げる、非常に優れたバラードです。
ピアノで静かに始まる、しっとりとしたバラードです。
そしてケリーが優しくそして時に激しく歌い上げながら、曲は盛り上がって行きます。
盛り上げて行くのは彼のヴォーカルと、彼自身のドラムです。
そしてギターソロも必聴なものとなっています。
ブラッドのアーミングプレイが全開となっています。
タッピングハーモニクスからのビブラートをはじめとして、非常に繊細にアームを使っています。
こういうパワーバラードにピッタリの超絶ギターソロですね。
これはヒットしても全くおかしくない素晴らしい曲だと思います。
この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第5位、Mainstream Rockチャートで第2位を記録する彼らのキャリアで最高位を記録しています。
しかし後にして思えば、このヒットが彼らを苦しめ活動が収束していくとは皮肉なものですね。(後述)
B面1曲目はTOUCH OF MADNESS(タッチ・オブ・マッドネス)。
徐々に弱っていくオルゴール音がイントロで使われています。
そしてオルゴールが力尽きるタイミングで荘厳なギターリフが始まり、曲がスタートします。
この流れは非常に秀逸ですね。
素晴らしいイントロだと思います。
タイトルからして、ほぼこのアルバムのタイトルチューンといってもよい存在と言えるでしょう。
ギターソロは同じメロディをなぞって行くもので、あまり目立ってはいません。
しかし、途中のリフやハーモニクスなどが曲に彩りを与えていますね。
そしてフェイドアウトして終わるかと思いきや、もう一度息を吹き返して終了。
その間をずっとギタープレイがつないでいて、なかなかなアイデアだなと思います。
2曲目はPASSION PLAY(パッション・プレイ)。
この曲も疾走感があり、ハードポップ加減がちょうどよいですね。
この曲のギターソロも恐らくブラッドのロングトーンと思われます。
巧みにギター音を操る、職人芸での披露ですね。
それに爽やかさ全開のサビコーラス。
この曲も間違いなくいい曲ですね。
3曲目はWHEN YOU CLOSE YOUR EYES(ホエン・ユー・クローズ・ユア・アイズ)。
これはキャッチーで売れる要素満載の曲ですね。
イントロのエレキのあの微妙な震わせ方。
ただの通り一遍のメロディを奏でるだけでなく、ブラッドのプレイには繊細な彼の個性がにじみ出ています。
曲も進むにつれ、テンポが上がり、ミドルテンポのポップロックへ変わって行きます。
気持ちのよいキャッチー具合と、非常によく出来た展開です。
歌のメロディもキャッチーで素晴らしいです。
それに爽やかなコーラスも加わり、いい曲に仕上がっています。
この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャート第14位、Mainstream Rockチャートも第14位となっています。
4曲目はCHIPPIN’ AWAY(チッピン・アウェイ)。
ヘヴィな雰囲気で始まりますが、Aメロが始まる頃にはいつもの軽快なロックが始まります。
安定のナイトレンジャー節になっていますね。
あくまでも爽やかさがナイト・レンジャーの最大の特徴と言えるでしょう。
ラストを飾るのはLET HIM RUN(レット・ヒム・ラン)。
アコースティックなアルペジオで始まるバラードです。
曲全体でギターとシンセが絡む雰囲気はとても気持ちがよく、美しいです。
その合間にヴォーカルとコーラスがさらに楽曲を美しく彩っています。
ジャックとケリーのハモリも素晴らしい出来になっていますね。
アルバム全体を締めくくる美しいエンディングになっています。
まとめとおすすめポイント
1983年リリースの、NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)の2ndアルバム、MIDNIGHT MADNESS(ミッドナイト・マッドネス)はビルボード誌アルバムチャートで第15位を記録し、アメリカで100万枚を売り上げました。
これはよく聴いたアルバムですね。
80年代に流行ったハードロックでありながらキャッチーな路線の王道を行くアルバムと言えるでしょう。
ツインギターのギタリスト二人、ブラッドとジェフの使い方が絶妙で、それが雰囲気を壊してしまうことなくうまく制御されています。
でもしっかり弾かせるコーナーもちゃんと準備してあり、ギターキッズにはいい教科書的なアルバムと言えるでしょう。
そしてベース兼ヴォーカルとドラム兼ヴォーカルのジャックとケリーがどちらも歌が上手でコーラスワークも冴えています。
ナイト・レンジャーのアルバムを聴くなら、一番ノリに乗っていた時期に作られた、このミッドナイト・マッドネスで間違いないでしょう。
しかし、途中で書いたようにシスター・クリスチャンの大ヒットは、彼らの将来を狂わせてしまいます。
レコード会社はそのような売れ線のバラードをシングルにするよう圧力を加え、確かにヒットはするものの、イメージが、「バラードの、売れ線のナイト・レンジャー」というものに定着してしまったのです。
彼らの意思に反して、ソフトなものを出し続けた結果、後に結局低迷しバンド活動をいったん停止せざるを得なくなってしまうことになります。
多くのコアなファンは初期の勢いのあるハードロックサウンドを待っていたはずです。
でもある程度売れなければバンドはやっていけない。
バンドあるあるのようなこの命題にうまく答えを出せないまま、収束していったのは実にもったいないことです。
でも今でもメンバーチェンジはあるものの活動しているのはうれしい限りです。
彼らにはあの頃の陽気なアメリカンスピリットを忘れないで、軽快にロックし続けて欲しいものです。
チャート、セールス資料
1983年リリース
アーティスト:NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)
2ndアルバム、MIDNIGHT MADNESS(ミッドナイト・マッドネス)
ビルボード誌アルバムチャート第15位 アメリカで100万枚のセールス
1stシングル (YOU CAN STILL)ROCK IN AMERICA(ロック・イン・アメリカ) ビルボード誌シングルチャート第51位、同誌Mainstream Rockチャート第15位を記録
2ndシングル SISTER CHRISTIAN(シスター・クリスチャン) シングルチャートで第5位、Mainstream Rockチャートで第2位
3rdシングル WHEN YOU CLOSE YOUR EYES(ホエン・ユー・クローズ・ユア・アイズ) シングルチャート第14位、Mainstream Rockチャートも第14位
「Rumors In The Air」のイントロ、シンセに聴こえるけれど、なんとギターのボリューム奏法(ギター本体のボリュームを0にした状態で弦をヒットし、その後ボリュームを上げることでアタックのない音を出す)なんですよ。しかも途中からハモってます。ライヴでも再現してますので、ぜひyoutube等で見つけてブッ飛んでくださいw
いやいや、これまで完全にイントロはシンセの音だと思っていました。
ライヴで確認させてもらいました。
間違いなくボリューム奏法ですね。
この奏法は知っていましたが、この曲のイントロがそれによるものとは全く気がつきませんでした。不覚です。
僕自身はボリューム奏法はとても苦手なので、ライブで披露しているブラッドのせわしない右手の動きは驚異的です。
確かにブッ飛びました。
それにしても、この曲も改めてライヴで見てもかっこいいですね。
ヴィヴィアンさん、情報提供ありがとうございます。