過小評価されてるが、実はなかなか良いハードポップ作品 NIGHT RANGER - BIG LIFE(ビッグ・ライフ)
前作からの流れ
1985年リリースの3rdアルバム、7 WISHES(セヴン・ウィッシーズ)はなかなか良いアルバムであるにも関わらず、バラードシングル重視のレコード会社の戦略の失敗で、小ヒットにとどまります。
それでもなんとか、ビルボード誌アルバムチャートで第10位を記録、アメリカで100万枚を売り上げます。
彼らの持つポテンシャルからすると、もっと売れても良かった気がしますが、なんとか、ギリギリはヒットした感じです。
彼らの持つ、爽快で明るい、心地よく聴けるキャッチーなサウンドは、間違いなく多くの人を魅了していたはずです。
でも、そこに加わる適度なハードな面があってこそのバンドだと言うことは大前提としてあるはずです。
しかし、レコード会社は、目先のことしか考えないのか、彼らのかつての大ヒット曲SISTER CHRISTIAN(シスター・クリスチャン)のような、バラードヒットをバンドに求めていくのです。
そのため、レコード会社とバンドとの間には少し前から軋轢が生じていました。
さて、1987年、ナイト・レンジャーは、Michael J. Fox(マイケル・J・フォックス)主演のコメディ映画、The Secret of My Success(摩天楼はバラ色に)に楽曲を提供。
映画のタイトルと同名曲、THE SECRET OF MY SUCCESS(シークレット・オブ・マイ・サクセス)をリリース。
それがそのまま次の彼らの4thアルバムの先行シングルとなりました。
今日は1987年リリースの、NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)の4thアルバム、BIG LIFE(ビッグ・ライフ)をご紹介したいと思います。
BIG LIFE(ビッグ・ライフ)の楽曲紹介
オープニングを飾るのはアルバムタイトルソングBIG LIFE(ビッグ・ライフ)。
曲の頭のSEがちょっといやな予感を感じさせますが、曲が始まると、なかなか勇壮なハードロックを聴かせてくれます。
切り裂くような、かっこいいギターリフでロックンロールスタートです。
Jack Blades(ジャック・ブレイズ)のヴォーカルがいつものように熱いですね。
そして、やはりナイト・レンジャーは楽曲がいいといつも感じさせられます。
ハードなギターリフの上に乗っかる、キャッチーでメロディアスな歌メロ。
それに加えて、コーラスも厚く、サビは非常に盛り上がるパターンですね。
この曲ではAlan Fitzgerald(アラン・フィッツジェラルド)のキーボードは今までどおり適度に曲を彩っていてよいです。
このくらいのキーボードによる味付けがナイト・レンジャーのオリジナリティになっていると思います。
そして、この曲のギターソロはBrad Gillis(ブラッド・ギルス)のようですね。
ゆったりとソロに入っていく感じは余裕たっぷりですね。
そこに少しづつ速弾きが混じり、最後はお得意の、アームダウンでハーモニクス音を出して、限りなく上昇するかのようなアームアップからの下降フレーズです。
エレキのアームマスター、ここにあり、といった感じですね。
オープニングは、なかなかのドライヴ感たっぷりのハードロックチューンになっています。
2曲目はCOLOR OF YOUR SMILE(カラー・オブ・ユア・スマイル)。
これぞ、80年代ハードロックの極みのような、陽気でノリのいいハードポップチューンです。
イントロのアランの不思議なキーボードプレイには引き込まれてしまいます。
そして、曲は横ノリの超楽しいナイト・レンジャー節です。
やっぱりこの雰囲気の楽曲をやらせると素晴らしいですね。
ダイナミックで躍動感あふれる楽曲になってます。
また、この曲の必聴ポイントはギターソロでしょう。
ブラッドともう一人のギターJeff Watson(ジェフ・ワトソン)のツインギターソロは非常にかっこいいです。
二人でハモってますが、ところどころ交代でソロプレイを披露しています。
PVでも確認できますが、ブラッドの変態アーミングプレイにジェフの速弾きと、おいしいプレイが詰まってます。
曲のラストはサビの合唱ですが、その裏で、しっかりとかっこいいギターソロプレイがたっぷりと楽しめます。
エイティーズのハードロックの見本のような、かっこいい楽曲になってます。
この曲はアルバムからの3曲目のシングルとしてカットされましたが、何とチャートインを果たせない、という悲惨な結果に終わっています。
やはり、こういう勢いのある曲を速めにカットすべきだったのではないかというのが僕個人の意見です。
3曲目は、LOVE IS STANDING NEAR(ラヴ・イズ・スタンディング・ニア)。
イントロの柔らかい切ない甘酸っぱい感じがたまりません。
ミドルテンポのこの楽曲は、彼らの得意分野の一つとも言えるでしょう。
そしてこの曲のリードヴォーカルをとるのはドラマーであり、もう一人のヴォーカリストでもある、Kelly Keagy(ケリー・ケイギー)です。
彼の声も力強く、とてもいいですね。
サビの厚いコーラスと、それを追っかけるギターのソロメロディとか、めっちゃ心地よく気持ちよいです。
この曲ではAメロBメロのバッキングにシンセがたっぷり用いられていて、バッキングとしてはギターがちょっと隠れてます。
その辺が評価を分けるものともなっているのかもしれません。
そして特筆すべきはギターソロでしょう。
このソロはジェフの8フィンガー奏法が用いられています。
(YOU CAN STILL)ROCK IN AMERICAではギターソロの最終部分の高速パートでこの奏法が用いられていました。
この曲では、スピードを稼ぐためというより、柔らかいタッチを出すために用いられているようですね。
ピッキングを使わずに、全て指で叩いて音を出すタッピングを、親指を除く8本の指を駆使してノイズレスにプレイしています。
こういうのは当然のようにギターキッズの羨望の的となりますよね、素晴らしいです。
4曲目はRAIN COMES CRASHING DOWN(レイン・カムズ・クラッシング・ダウン)。
SEとシンセ、キーボードでシリアスな世界が始まります。
静かにジャックが歌い始めます。
次第にコーラスが厚みを増し、盛り上がっていきます。
ドラムが入ると、キャッチーなサビがいいですね。
ギターソロ前半はブラッドがアームを駆使して、メロディアスに弾きまくります。
後半はジェフがまたも8フィンガー奏法を交えながらのプレイを披露しています。
やはりツインギターでこれほどプレイの性格が異なるプレイヤーがいるとは、バンドにとって大きな強みと言えるでしょう。
後半もギターが弾きまくって、ただのバラードではなくパワーバラードだと主張しているかのようです。
なかなか展開の優れたドラマティックな楽曲になっています。
5曲目は、このアルバムの目玉にして問題作、THE SECRET OF MY SUCCESS(シークレット・オブ・マイ・サクセス)です。
この曲は前述のとおり、映画のサウンドトラック用に書き下ろした曲です。
で、曲の内容はというと、めちゃめちゃポップな楽曲になっています。
シンセもたっぷり使ってますし、ホーンセクションまでアクセントに取り入れられています。
映画のサントラにはぴったりな雰囲気の楽曲になっています。
この曲の評価で恐らく、このアルバム全体の評価が決まると思います。
というのも、この曲はアルバムの先行シングルとしてカットされているわけです。
やはり先行シングルというのは、そのアルバムの中で、一番にリスナーに紹介される楽曲でもありますから、言ってみればアルバムの顔と言っても過言ではないでしょう。
そのポジションにこの曲を持ってくるとは、ちょっとやらかしたかな、と僕は思います。
これまでの流れを考えてみるに、レコード会社のシングルカットの戦略によって、バンドは“バラードのナイト・レンジャー”というレッテルを貼られてしまってます。
そのため、多くのHR/HMファンからは、柔なバンドとして退けられてしまう傾向にありました。
そして当然ながら本人たちは、それを良しとは思っていません。
となると、やはり、ハードなドライヴィングバンドサウンドで勝負したいと思ったに違いないわけです。
ところが、このめちゃめちゃポップな、まさにエイティーズポップス的なシングルを一番に持ってきました。
これは、いただけないでしょう。
もちろん、曲はすごくノリが良くていいです。
しかし、ナイト・レンジャーの印象がHR/HMファンからさらに悪化していくのは目に見えています。
なので、僕が思うに、決してこの曲は悪くないので、せめて前のアルバムのサントラ提供曲の、INTERSTATE LOVE AFFAIR(インターステイト・ラヴ・アフェア)のように、アルバム中の一曲に収めるだけにしておいたほうが良かったのではと思います。
もしくは、この曲のリリースはいいのですが、それからアルバムを出す際には別の堂々たるハードロックチューンを先行シングルに置くべきだったのでは、と思われます。
結局、この曲はビルボード誌シングルチャートで第64位にとどまります。
なんとか同誌Mainstream Rockチャートでは第12位を記録できましたが、やはり先行きが危ぶまれる結果ではありました。
6曲目はCARRY ON(キャリー・オン)。
ケリーの歌う、王道ナイト・レンジャー節である。
このぐいぐい進んでいくABメロは非常に好きですね。
普通にノレるハードポップです。
7曲目はBETTER LET IT GO(ベター・レット・イット・ゴー)。
アコギのストロークが曲を彩り、シンセがかなり大活躍するちょっとナイト・レンジャーにしては毛色の変わった曲です。
それでもサビのコーラスは一定のクオリティを保っているのが彼らならではです。
ケリーのヴォーカルが力強いです。
ギターソロはジェフと思われますが、コンパクトにまとまって、最後は速弾きで決めてます。
8曲目はI KNOW TONIGHT(アイ・ノウ・トゥナイト)。
イントロは、アランのシンセがアンビエントな雰囲気で、いったいどこへ行くの?って感じですが、安心してください、曲が始まるといつもの爽やかハードポップです。
80年代の雰囲気そのままのポップな楽曲です。
ギターソロは、一人ブラッドが気を吐いてます。
アームをしっかり揺らしまくってビブラートかけまくってます。
最後はツインギターできっちりハモっています。
せっかくこんなギターテクがあるのだから、やはりもっとHR/HMよりの楽曲にしたらいいのに、とちょっと惜しい気がしますね。
でも、ポップで良い曲であるのは確かです。
アルバムラストは、HEARTS AWAY(ハーツ・アウェイ)。
もう、ナイト・レンジャーの定番の美しいバラードです。
イントロはキーボードと共に、ジェフのタッピングによる装飾音が楽曲を飾ります。
ヴォーカルはもちろん、ケリー。
彼らの勝負パターンですね。
楽曲はいつものように美しいです。
間奏とエンディングのギターソロはブラッドがアーミングをばりばり交えながら弾きまくってます。
やっぱり彼のプレイは味があっていいですね。
アームコントロールも抜群で、他の追随を許しません。
中盤の静かなシンセによる演奏はドラマティック感を出すためにちょっとやりすぎな気もしますが、間違いなく素敵なバラードではあります。
そして、この曲は恐らく勝負曲だったと思われますが、2ndシングルとしてカットされたものの、何と最高第90位と沈んでしまいました。
やはり、レコード会社の戦略は、彼らに関しては間違っていたとしか言いようがありません。
まとめとおすすめポイント
1987年リリースの、ナイト・レンジャーの4thアルバム、BIG LIFE(ビッグ・ライフ)はビルボード誌アルバムチャートで第28位、アメリカでのセールスは50万枚にとどまりました。
アルバムから3曲シングルがリリースされていますが、それぞれ、64位、90位、圏外、と悲惨な結果に終わっています。
このようにセールス的には惨憺たる成績に終わっていますが、決して悪いアルバムではないと僕は思っています。
ナイト・レンジャー節ともいえるメロディアスなハードポップ、という点ではブレてはいません。
ジャック・ブレイズがほぼ全部の楽曲の作曲に携わっていますが、(他との共作も一部有り)彼のコンポーザーとしてのセンスはまだまだ光っているとも思います。
僕はシングルカットの戦略ミスが大きく響いたのではないかと思っています。
やはり上述の通り、先行シングルでの、シークレット・オブ・マイ・サクセスの存在が多くの人からハードロックバンドとしてのナイト・レンジャーから目を背けさせたのではないでしょうか。
それはただでさえバラードバンドとしてのレッテルを受けていた彼らに、決定打を与えたものとなったと思われます。
加えて、リリースのタイミングです。
1987年の3月にこのアルバムはリリースされましたが、同じ年の7月にGuns N’ Roses(ガンズ・アンド・ローゼズ)がデビューしています。
まさに、柔な80年代ロックから、硬派で攻撃的なハードロックへ流行が変わる時期でした。
もろにそのあおりを受けてしまったというのも売れなかった原因の一つに数えられるでしょう。
さらに言えば、彼らのファンの間でも、サントラへの楽曲の提供が、商業主義、産業ロックと結び付けられ、評判を悪くしていました。
いろんな要素があるとは思いますが、それが複雑に絡まりあってのこの結果だと思います。
それでも、彼らのオリジナリティはしっかり保たれてますし、爽快さ、陽気さも失われていません。
あとは、リスナー自身がどう判断するか、ということになるでしょう。
僕は、なんだかんだ言っても、あの陽気で楽しいハードポップは好きですし、いわゆる“産業ロック”と呼ばれたとしても、いいものはいいと思っています。
ただ、ちょっと願うことが出来るとしたら、もう少しハードな楽曲を増やしても良かったかな、というぐらいです。
いずれにしても、前3作とはそれほど大きく変わっていません。
安定のナイト・レンジャー節を楽しみたい方にはぜひともおすすめしたいアルバムとなっています。
チャート、セールス資料
1987年リリース
アーティスト:NIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)
4thアルバム、BIG LIFE(ビッグ・ライフ)
ビルボード誌アルバムチャート第28位 アメリカで50万枚のセールス
1stシングル THE SECRET OF MY SUCCESS(シークレット・オブ・マイ・サクセス) ビルボード誌シングルチャート第64位、同誌Mainstream Rockチャート第12位
2ndシングル HEARTS AWAY(ハーツ・アウェイ) シングルチャートで第90位
3rdシングル COLOR OF YOUR SMILE(カラー・オブ・ユア・スマイル) シングルチャート圏外
最近のナイトレンジャーは私にとってはイマイチが続きます。やはりジェフワトソンなしではナイレンではないという気がします。今だにこのアルバムは好きなんですよ。最初のbig life でっかい人生とは良いタイトル。。あれから何年経つんだろうか。。若き日々が思い出されます。そしてハードロック好きはここにまだいます。気持ちは何も変わっていないです。ここ数年はWingerばかり聴いてます。ありがとうございます。