武骨なロックンロールアルバム JOHN COUGAR MELLENCAMP - SCARECROW

JOHN COUGAR MELLENCAMP(ジョン・クーガー・メレンキャンプ)との出会い





シングルチャートで、シンプルで骨太なロックが上がってきた。
その曲のタイトルはLONELY ‘OL NIGHT(ロンリー・オル・ナイト)。
スネアの響きが印象的なかっこいい曲だ。
当然のように、彼の楽曲を好きになり、僕はその曲の収められたアルバムSCARECROW(スケアクロウ)を聴くことになりました。

アルバムSCARECROW(スケアクロウ)までの歩み

この曲で初めてジョンを知ったわけですが、1976年にデビュー以来既に7枚のスタジオアルバムを発表しています。

 

最初はJOHN COUGAR(ジョン・クーガー)と名乗っていました。
彼を見出してくれたマネージャーがDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)のマネージャーで、彼の影響でジョンはその芸名でグラムロックをさせられていました。
しかしそれは本人の望むものではなく、じきにレコード会社を移籍します。
そして正統派のアメリカンロックを始めたものの、しばらくはヒットせず、不遇の時代が続きました。

 

アルバムを出すたびにプロデューサーを変えられたり、Rod Stewart(ロッド・スチュアート)からBruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)まで、多くの先輩たちと比較されたりと、苦労の多い時代を過ごします。
しかしそうした苦境の中で彼の反骨心や、歌に対する強い思いが育まれることになりました。

 

そこで演奏に洒落た工夫を凝らしたりすることより、誰もが気取らずに口ずさめる歌を心がけようと決意。
加えて、彼が若い頃、いつもそばにあった黒人音楽やストーンズのような音楽を改めて見直してみることにします。

 

そうした思いのもとに完成したのが1982年発売の彼の5枚目のアルバムAMERICAN FOOL(アメリカン・フール)です。
このアルバムからはHURTS SO GOOD(青春の傷あと)がビルボード誌シングルチャート第2位JACK & DIANE(ジャック&ダイアン)が同チャートで全米No.1という2曲の大ヒットシングルが誕生します。
そしてアルバムアメリカン・フールもアルバムチャートでNo.1を記録し、最終的に500万枚を売り上げる大ヒットアルバムとなりました。

 

このヒットにあわせてThe Kid Insideというアルバムが発表されていることになっていますが、これは既に1977年にレコーディングされていて、そのときのレコード会社と訣別したため日の目を見なかったものがアルバムがヒットしたため、便乗でリリースされたものだそうです。
なので、チャートなどの記録は見つかりません。

 

そしてアメリカン・フールの大ヒットに続いて、アルバムを出すわけですが、ここで芸名のJOHN COUGARに本名を加えたJOHN COUGAR MELLENCAMPと名乗ることになります。
アルバムタイトルはUh-huh(天使か悪魔か)、1983年リリースの7枚目のアルバムですが、これもヒットを記録。
カットされたシングルは、CRUMBLIN’ DOWN(クランブリン・ダウン)が第9位PINK HOUSES(ピンク・ハウス)が第8位AUTHORITY SONG(オーソリティ・ソング)が第15位とヒットを連発。
アルバムも最高位は第9位ではあったが、300万枚を売り上げてみせました。
このアルバムでも、彼は商業化されたポップソングからの影響を退け、ロックンロール本来の楽しみを提示し、受け入れられた形になりました。

 

そして、その2年後ニューアルバムを発売します。

 

では今日はその、1985年リリースの、JOHN COUGAR MELLENCAMP(ジョン・クーガー・メレンキャンプ)の8thアルバム、SCARECROW(スケアクロウ)をご紹介したいと思います。

アルバムSCARECROW(スケアクロウ)の楽曲紹介

アルバムオープニングを飾るのはRAIN ON THE SCARECROW(スケアクロウ)。

 

激しいスネアドラムによるイントロが印象深いアルバムタイトル曲です。
この曲を理解するためには歌詞の世界に踏み込む必要がありますね。
多くのアメリカの農場経営者に起きている厳しい現実を歌にしています。
そこのところを日本人の僕らが理解するのは少し難しいと言えるでしょう。

 

しかし、そうした内容抜きに、楽曲がすばらしい。
そうした厳しい状況を感じられるシリアスな雰囲気が曲全体に漂ってはいるのだが、それ以上にジョンとバンドの力強さがあふれているのだ。
彼は現状を歌にすることで、ただ、厳しい状況を風刺するだけでなく、それを乗り越えるための力や勇気を、楽曲の勢いや力強さで与えようとしているかのようだ。
そのような深読みをしなくても、この曲はメロディとジョンの強い歌と、バンドサウンドで力を与えてくれる
アメリカンロックをシンプルな楽器で表現している優れたロックソングだと思えます。

 

この曲はアルバムからの4枚目のシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第21位、同誌Mainstream Rockチャートで第16位を記録しています。

 

2曲目はGRANDMA’S THEME(祖母のテーマ)。

 

おばあちゃんがレコードのようなノイズの上でアコギに合わせて歌っている短い楽曲だ。
アルバムのクレジットにはLAURA MELLENCAMPとあり、ジョンのほんとのおばあちゃんの歌声です。
歌が終わるとクリアなサウンドでアコギが弾かれて、そして次の曲へ。

 

3曲目は、SMALL TOWN(スモール・タウン)。

 

祖母のテーマからこの曲への流れは最高だ。
アナログな音から、いきなり勢いのいいロックサウンドが飛び出すのだ。
スモールタウンへのイントロとしては前の曲が最高の仕掛けだったことがわかります。

 

そしてこの曲がまたすばらしいロックソングになっているのです。
シンプルなのに、すごくかっこいい。
時代は80年代なのに、ゴージャスでなくてもこんなにいい曲が出来るんだ、とジョンが主張しているようだ。
ロックに必要なシンプルな楽器だけで、こんなに聴かせてくれる曲って珍しいのではないでしょうか。
ギターソロもほぼ無いに等しいし、あと、ちょっとハーモニカが味付けしている程度だ。
非常に新鮮な感じがしたし、実際曲もヒットしました。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、シングルチャート第6位、Mainstream Rockチャートで第2位Adult Contemporaryチャートで第13位を記録しています。

 

4曲目はMINUTES TO MEMORIES(ミニッツ・トゥ・メモリーズ)。

 

1分1分が思い出に変わって行く、だからベストを尽くせよ、という老人の言葉を歌にしたこの曲は、とても明るいロックになっています。
世の中の不条理について歌っていても、曲調は明るく、ポジティヴだ。
こんなところが人気の秘訣なのかもしれません。

 

5曲目は、LONELY ‘OL NIGHT(ロンリー・オル・ナイト)。

 

僕が初めて聴いたジョンの歌です。
こんなかっこいい曲はそうそうはないでしょう。
もちろん80年代にはいっぱいかっこいい曲は存在します。
しかし、こんなにシンプルなのにかっこいい曲はそんなにはないはずだと思いますね。

 

ギターは派手ではないのに、しっかり存在感があります。
そしてスネアドラムの音が強烈にクールだ。
曲のところどころで入るフィルインでのスネアの音が気持ちよすぎる。
この音がアクセントとなっており、曲がシンプルであるのに、決して単調でない。
巧みの技ではないでしょうか。
そのような楽曲に乗って、ジョンは時に語るように歌います。
古き良きアメリカンロックの形がここにあるような気がします。

 

この曲もはアルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第6位、Mainstream RockチャートでNo.1、Adult Contemporaryチャートで第37位を記録しています。

 

6曲目はTHE FACE OF THE NATION(フェイス・オブ・ザ・ネイション)。

 

この曲はベース先行の少し変わったパターンの曲です。
しかし、スネアの連打をきっかけに、ロックンロールに変わる
歌では人々の顔つきが変わっていっていることへの危惧が歌われていますね。

 

老人が暗い道をよろよろと歩き、
赤ちゃんが母親の温かさを求めて泣いている。
孤独な人は増え、木の下で飢えている人たちがいる。
THE GOLDEN RULE(黄金律:自分にして欲しいことを他の人にするようにというキリストの教え)はいったいどうなっちゃったんだろう。

 

このような深刻な問題も真っ向からとらえ、ロックに乗せて問題提起をする、そのような社会派であることも知れます。
しかし、主義主張も、楽曲がつまらなければただの個人の意見だが、優れたロックに乗せることによって人々に考えさせているところがジョンのすごいところなのでしょう。

 

7曲目はJUSTICE AND INDEPENDENCE ’85(正義と独立’85)。

 

この曲は風刺の効いた曲になっています。
正義と独立と国家をそれぞれ家族にみたて、正義がいなくなっちゃって国家が泣いてるが、いつか三者が再び家族として住むのを夢見てる、っていう内容です。
正義が失われてしまったアメリカへの強い風刺と思われます。
しかし、楽曲は非常に明るく楽しい
いつか家族が再び一緒になる夢を忘れてないのだ。
希望を捨てないことを、ハッピーな楽曲に乗せることでジョンはポジティヴなメッセージを送っているのでしょう。

 

8曲目はBETWEEN A LAUGH AND TEAR(ラーフ・アンド・ティア)。

 

これは、ミドルテンポのやはりシンプルな楽曲です。
この曲ではシンガーソングライターのRickie Lee Jones(リッキー・リー・ジョーンズ)とのデュエットが楽しめます。
ラーフ(笑い)もティア(涙)も人生の一部で、結局バランスよくどちらもそれぞれにいいもんだ、というやはりポジティヴなメッセージが含まれている。
でも、やはり、このような優しい曲で歌われると説教臭く感じないところがとても好感が持てますね。

 

9曲目はRUMBLESEAT(ランブルシート)。

 

この曲も軽快なロックでシングル向けのキャッチーでストレートな楽曲になっています。
ドライヴしながら聴きたい、心地の良いロックンロールですね。

 

この曲は、5thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第28位、Mainstream Rockチャートで第4位を記録しています。

 

10曲目は、YOU’VE GOT TO STAND FOR SOMETHIN’(スタンド・フォー・サムシン)。

 

これは何かのために立ち上がり、戦わなければならない、という強いメッセージソングになっています。
そういう内容を知らなくても、普通にいい曲だ。
力強さのあふれる、まさにロックの力を感じられます。

 

11曲目はR.O.C.K. IN THE U.S.A(ロック・イン・ザ・U.S.A.)。

 

これは極めつけのロックンロールだ。
サブタイトルにA SALUTE TO 60’S ROCK(60年代のロックに敬礼)とあり、彼が聴いて育った60年代のロックミュージシャンが歌の中で名前を挙げられています。
8人ほど挙げられているが、僕が知っているのはJames Brown(ジェームス・ブラウン)だけでした・・・。
ジョンはそうした過去のロッカーたちの音楽で育ち、そこにリスペクトがあったので、同じ方向を向いた楽曲を作ったとき成功につながりました。
だから、そうして先人たちへの尊敬と感謝の念を伝えたかったに違いない。

 

それと同時に、今の音楽にそうしたロックスピリットが欠けていることへの警鐘ともとらえることができるでしょう。
この時、まさに80年代。
ゴージャスなアレンジ、サウンドがもてはやされている中に、シンプルなほんとのロックンロールは極めて希少だ。
そんな中で自分は先人から受け継いだロックンロールをやり続ける、という固い意志の表れとも取ることができるでしょう。
そんなロックンロールは、アルバムから3枚目のシングルとしてカットされ、全米第2位というアルバムからの最高のヒットを記録してみせます。
これは彼のメッセージが多くのリスナーに届いた結果に違いないと思います。

 

この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第2位、Mainstream Rockチャートで第6位、Adult Contemporaryチャートで第36位を記録しました。

まとめとおすすめポイント

1985年リリースの、JOHN COUGAR MELLENCAMP(ジョン・クーガー・メレンキャンプ)の8thアルバム、SCARECROW(スケアクロウ)はビルボード誌アルバムチャートで第2位、アメリカだけで500万枚を売り上げました。
完全に人気を不動のものにした、決定的なアルバムと言えるでしょう。

 

アルバム内の楽曲も、基本的にシンプルなロックンロール、というところは全くぶれていません。
贅沢なサウンドのあふれる80年代に、シンプルにロックで勝負に出たジョンもすごいが、それを受け入れるアメリカ国民も懐が深いですね。

 

今回こうして記事を書くに当たり、アメリカ人と日本人のジョン・クーガー・メレンキャンプというアーティストの受け入れ方が幾分違うことを感じさせられました。
その原因は、当たり前といえば当たり前ですが、言語と文化です。

 

日本人のリスナーで、ジョンの曲の意味を理解して聴けている人は少数だと思われます。
もちろん僕もわからないので音楽性だけで気に入って聴いていますが、そういう人がほとんどではないでしょうか。
一方アメリカ人は当然、彼が何をどのように歌っているか、サウンドを楽しむだけでなく意味を理解して聴いています。
その上で、彼の言葉に共感したからこそアルバムもシングルもヒットしているのでしょう。

 

社会に対する問題提起、アメリカの国家国民が抱える厳しい現実、正義を失った社会。
そうした事柄は日本に住む僕らにはやはりどうしてもわかりづらいものです。
彼らの育んできた歴史や文化がわからない日本人にとっては、例え言語の壁がなかったとしても、共感にまでは結びつかないとも思われます。

 

こうしたことはウィキペディアを見て感じました。
英語版にはジョンについて非常に多くの事柄が書かれているのに、日本語版ではあまりにも情報が少ないのです。
この辺がやはり言語と文化の壁なのかもしれません。

 

では日本人にはジョン・クーガー・メレンキャンプを愛する資格はないのか。

 

決してそうではないと僕は思います。

 

音楽は言語の壁を越える、と言われることがあります。

 

言葉がわからなくても、音楽というものはすべてを超越して分かり合えるものなのです。

 

現に僕も、また多くの他の日本人もジョンを好きなアーティストとしてあげる人はたくさんいます。
彼らのすべてが、ジョンのメッセージを理解していないかもしれません。
でもそうしたものを抜きにしても、彼の音楽性、シンプルなロックンロールは僕たちを十分に楽しませ、ハッピーにしてくれているのです。

 

もちろん言語や文化を理解して臨むのが、最善かもしれません。
しかし、ジョンがAMERICAN FOOL(アメリカン・フール)を作るに先立って、誰もが気取らずに口ずさめる歌を心がけようと決意したことを思い出して欲しい。

 

なので、すべてのメッセージを理解できなかったとしても、僕らが気取らずに楽しめることをジョンも願っているに違いありません。

 

というわけで、骨太のシンプルなロックンロールを聴きたい人にはぜひともお勧めしたいアルバムとなっています。

チャート、セールス資料

1985年リリース

アーティスト:JOHN COUGAR MELLENCAMP(ジョン・クーガー・メレンキャンプ)

8thアルバム、SCARECROW(スケアクロウ)

ビルボード誌アルバムチャート第2位 アメリカで500万枚のセールス

1stシングル LONELY ‘OL NIGHT(ロンリー・オル・ナイト) ビルボード誌シングルチャート第6位、Mainstream RockチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート第37位

2ndシングル SMALL TOWN(スモール・タウン) シングルチャート第6位、Mainstream Rockチャート第2位、Adult Contemporaryチャート第13位

3rdシングル R.O.C.K. IN THE U.S.A(ロック・イン・ザ・U.S.A.) シングルチャート第2位、Mainstream Rockチャート第6位、Adult Contemporaryチャート第36位

4thシングル RAIN ON THE SCARECROW(スケアクロウ) シングルチャートで第21位、同誌Mainstream Rockチャートで第16位

5thシングル RUMBLESEAT(ランブルシート) シングルチャートで第28位、Mainstream Rockチャートで第4位

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