前作の大ヒットで力尽きたか HUEY LEWIS AND THE NEWS - SMALL WORLD
1986年にリリースされたHUEY LEWIS AND THE NEWS(ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース)の4thアルバム、FORE!はビルボード誌アルバムチャートでNo.1を獲得しました。
これで、その前の3rdアルバムSPORTSから2作続けての全米No.1となりました。
そしてアメリカだけで300万枚を売り上げています。
まさに絶頂期の彼らは、ツアーを続けます。
アメリカンロックバンドとして、1987年をツアーに費やしています。
エイティーズのゴージャスなシンセサウンドに対抗するかのような、シンプルで骨太なロックンロールは、80年代を代表するバンドの一つとして彼らをユニークな存在にしていました。
そして、大ヒットアルバムに続く、5作目のアルバムが制作されます。
もう、前のアルバムの充実度を考えると、期待しない理由などなかったので、早速アルバムを予約して楽しみに待ちました。
しかし、そこで聞けたのは、悪くはないのですがちょっと残念ながらパワーダウンした印象の楽曲たちでした。
今日は1988年リリースのHUEY LEWIS AND THE NEWS(ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース)の5thアルバム、SMALL WORLD(スモール・ワールド)をご紹介いたします。
SMALL WORLD(スモール・ワールド)の楽曲紹介
アルバムのオープニングを飾るのは、SMALL WORLD(PART ONE)(SMALL WORLD パート1)。
イントロを聞くだけで、ヒューイ・ルイスの新作だとすぐにわかります。
これは楽しみだ・・・。
という感想から始まり、出足は上々です。
歌いだしはヒューイの低音ヴォイスが続きます。
そこに絡まる、軽快な、キーボード、エレキギター。
軽やかなリズム隊。
来た来た、これぞヒューイ・ルイスだ!
しかし非常に良いのですが、ヒューイのヴォーカルがずっと低音続きで、なんかいつものパワーが感じられません。
しかし、ラスト前に、いつものトーンが帰ってきますが、そう思ったのもつかの間、ヒューイのゴールデンヴォイスはわずかばかりで曲はフェイドアウトしていきます。
唯一の救いは、ラストのギターソロが、非常にかっこいいことですね。
いつものメロディアスなプレイが素晴らしいです。
曲はいいのですが、やはり、ヒューイのヴォーカルの扱いを間違えたのでは、と思ってしまいます。
Aメロ、Bメロをオクターヴ下の声で歌ったとしても、サビで一気にいつものハイトーンへ変わるのであれば良かったのに、と残念です。
一つのギミックとしてやったのだろうと思いますが、ちょっと裏目に出たのでは、と思ってしまいました。
この曲は、アルバムからの2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第25位、同誌Mainstream Rockチャートで第28位、同誌Adult Contemporaryチャートで第19位を記録しました。
2曲目は、OLD ANTONE’S(オールド・アントンズ)。
カントリーっぽい感じのロックンロールで、なおかつ、アコーディオンの音色が土臭い感じも出してなかなかなロックソングです。
キーボードも適度な感じでアコーディオンと絡まり、彼ららしい心地よく聞ける楽曲ですね。
アコーディオンは、ヒューイの弟分であるBruce Hornsby(ブルース・ホーンズビー)がプレイしていますね。
アメリカの乾いた大地にピッタリの、爽やかロックになっています。
3曲目は、PERFECT WORLD(パーフェクト・ワールド)。
この曲は、ヒューイが以前所属していたバンド、 Cloverでのバンド仲間のAlex Callによる楽曲です。
その原曲に、ヒューイはレゲエのリズムを取り込んで、オリジナルを完成させました。
サビまでは、レゲエの雰囲気で、いつものヒューイ・ルイスのサウンドと異なるので、最初は違和感を感じましたが、サビからはいつものヒューイ・ルイス節に戻って安心します。
そして、そのうちレゲエ部分も、新たな魅力として感じられるようになりました。
曲全体でホーンセクションが楽曲を彩っていますね。
サビではヒューイのヴォーカルとの掛け合いがあり、いつもの感じですね。
ホーンは、お馴染みTower of Powerによるものになっています。
サビのコーラスも、いつもの感じで、爽やかな仕上がりです。
ちょっといつもと違ったアプローチで作られたこの曲は、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第3位、Mainstream Rockチャートで第5位、Adult Contemporaryチャートで第2位と、結構なヒットになっています。
僕は、当時大ヒットできるだろうかとちょっと不安に思いましたが、やはり前作の大ヒットアルバムからの余韻がチャート順位を押し上げたのかもしれません。
4曲目は、BOBO TEMPO(ボボ・テンポ)。
この曲では、どうした、ヒューイ・ルイス、と思ってしまいました。
またもレゲエっぽい曲ですが、ちょっと何をやりたいのか理解に苦しみました。
見せ場と言えば、途中のブルースハープくらいかな、と思ってしまいます。
何ゆえ、この曲を全10曲の内の一曲にしてしまったか、とちょっと残念です。
前の曲では、レゲエの味付け、くらいでちょうどよかったのですが、突然レゲエに目覚めたのでしょうか。
ちょっと、ヒューイ・ルイスとは思えない楽曲です。
5曲目は、SMALL WORLD(PART TWO)(SMALL WORLD パート2)。
これはタイトルどおり、オープニングの楽曲の別ヴァージョンです。
曲の大部分がインストゥルメンタルになっており、ヴォーカルの代わりにサクソフォンが軽やかなメロディを歌い上げています。
最後に、ヒューイのタイトルコールが少し加わりますが、もはや、それくらいなら、完全なインストにしたほうが良かったのでは、と思える良曲です。
こうして聞くと、曲自体はとても良かったことに気づけます。
後は、「なんでパート1でヒューイをオクターヴ下で歌わせ続けたか」、という疑問だけが残りますね。
6曲目は、WALKING WITH THE KID(ウォーキング・ウィズ・ザ・キッズ)。
ここに来て、これまでのヒューイ・ルイスっぽい曲が顔を出しました。
イントロのベースラインがU2っぽいですが、歌い出すとやはりヒューイ・ルイスそのものですね。
Aメロからの爽やかなメロディラインと、美しいギターアルペジオに酔いしれることができますが、サビがちょっと弱いですね。
もう、前のアルバムのようなハイクオリティなサビメロをどうしても期待してしまうのです。
しかし、その分、ギターソロがここでも非常に頑張っていて、メロディアスでもあり、とても気持ちいいですね。
このメロディアスさを、歌メロにちょっと分けて欲しいくらいです・・。
7曲目は、WORLD TO ME(世界を僕等に)。
これはなかなかイカしたバラードですね。
これこそヒューイ・ルイスのやるべき音楽だな、って感じます。
IF THIS IS IT(いつも夢見て)のような、海辺で聴きたいバラードだと思います。
オルガンのようなキーボードソロが、とても心地よいです。
8曲目は、BETTER BE TRUE(ベター・ビー・トゥルー)。
これは、メロディも絶品ですね。
ヒューイのヴォーカルと掛け合いをする、超低音ヴォーカルがとてもおしゃれです。
ゆったり、心地よく聞けるヒューイ・ルイスらしいいい曲です。
正直言って、ここにきてやっと前作に匹敵するクオリティの曲が出てきた、と感じました。
9曲目は、GIVE ME THE KEYS (AND I’LL DRIVE YOU CRAZY)(ギブ・ミー・ザ・キーズ)。
ホーンセクションの使い方から、まさにヒューイ・ルイス節の軽快なロックンロールです。
とっても軽快なノリで、やはりこういうのが聞きたかった、と感じさせられますね。
サックスもたっぷり聴けて、楽しい楽曲になっています。
悪い言い方をすればワンパターンなのかもしれませんが、やはりこういうのを多くの人はヒューイ・ルイスに求めていたのではないでしょうか。
この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第47位、Adult Contemporaryチャートで第42位を記録しています。
アルバムラストはSLAMMIN’(スラミン)。
ここでもホーンセクションが大活躍です。
このアルバムでは、非常にホーンが効いていますね。
そして、この曲でヒューイは、中間部で“SLAMMIN’♪”と述べるだけの、ほぼインストゥルメンタルになっています。
ジャズっぽい曲で、さすがに演奏に関しては申し分ないバンドというのがわかりますね。
どの楽器も、聞かせどころが十分にあって、さすが貫禄のロックバンドだと思います。
とっても聴き心地のよい楽曲であることは間違いありません。
ただ、インストがアルバムラストに来る、って何を狙ったのだろう?、とも思ってしまいます。
ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースの5thアルバムは、ヒューイがほぼ不在のまま幕を下ろします。
まとめとおすすめポイント
1988年リリースのヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースの5thアルバム、SMALL WORLD(スモール・ワールド)はビルボード誌アルバムチャートで第11位にとどまってしまいます。
そして、売り上げはアメリカで100万枚となりました。
前の2作からすると、大きくチャートも売り上げもダウンしてしまった5作目となってしまいました。
どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
Behind the Musicというテレビ番組のインタビューで、ヒューイは「スモール・ワールドのレコーディングプロセスは、もっとも恵まれた状況で行なわれた」と述べています。
当然前作の成功で、資金的に問題はなかったに違いありません。
実際、アルバムを聴いてわかるように、プロダクションに問題があるとは思えません。
レコーディングに問題はなく、音も悪くありません。
プレイもバンドメンバーそれぞれが、いい演奏を聴かせていると思います。
また、参加ミュージシャンも然りです。
となると、あとはコンポーズ(作曲)の問題となるのかな、と思います。
あの、4thアルバムFORE!は、まさに捨て曲なし、の表現がピッタリなほど、いい曲が満載のアルバムになっていました。
その結果、5曲のトップ10シングル、うち2曲はNo.1というヒット曲を量産できました。(ボーナストラックのパワー・オブ・ラヴを抜きにしてもです。)
また、シングル以外の曲も、良曲が目白押しです。
そんな大ヒットアルバムと比べるのは酷かもしれませんが、やっぱり比較してしまいますよね。
比べると、あれほどキャッチーでフックのある曲が、激減してしまってます。
もちろん、パーフェクト・ワールドなど、チャレンジングで良い曲もありましたが、全体的にメロディが弱いですね。
また、SMALL WORLDはいい曲なのに、ヴォーカルの入れ方で、かなり損をしてる気もします。
普通に歌ってさえいればかなりチャートも伸びたのでは、と思いますね。
加えて、インスト曲が10曲中2曲も入っています。
2割です。
これは、ヒューイ・ルイスのファンが望んだこととは真逆の挑戦ではないでしょうか。
やはり、ヒューイの“pure golden voice”がハスキーに歌メロを歌い上げ、そしてメンバーの美しいコーラスが彩るのが、彼らの王道パターンであり、ファンが望んでいるものではなかったでしょうか。
インスト、2曲はちょっとやりすぎだったかな、と思われます。
というわけで、結局は、コンポーザーとして限界が来たのではないか、と思えてしまいました。
いい曲(歌詞もメロディも)を書けなくなった、という致命的な原因が、このアルバムの低評価につながったように感じられます。
やはり、ずっといい曲を書き続ける、というのは誰にでも出来ることではありません。
また、時代も変わり続けています。
音楽の流行もやはり変化が生じ続けています。
そのようにちょうど、80年代も終わろうとしていたころの作品、というところも関係していたのかもしれません。
多くの古いバンドもそれに直面し、それでも、自分らの作品を貫き通すか、外部ライターの作品に頼るか、運命の岐路を経験しています。
そうした変化を選ばず、曲調などのマイナーチェンジですましてしまったのが、裏目に出たのかもしれませんね。
あれだけの大ヒットアルバムを放ちながら、一夜のうちに崩れ落ちてしまうとは、アーティスト稼業はなかなか渋いですね。
それを考えると、80年代から90年代、そして2000年以降も活動を続けている幾つかのバンドにはやはり頭がさがります。
うまく時代の変化を乗り切れなかったヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースでしたが、それでも彼らの軽快でキャッチーな作品はアルバムとして残っています。
言うても、80年代を代表する顔のひとつであることは間違いないからですね。
まあ、悪いことばかり言ってしまいましたが、演奏面ではかなりなクオリティがキープされてますので、その辺は安心して楽しめます。
また、良曲とまではいかなくても彼ららしい、ロックンロールも一部含まれてますので、悪いアルバムでは決してないです。
要するに、前のアルバムがすごすぎた、というのが結論なのかもしれません。
あと、人間的にはとても良さそうな人たちの集まりなので、まあ、CD買ったことは後悔してませんw
チャート、セールス資料
1988年リリース
アーティスト:HUEY LEWIS AND THE NEWS(ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュース)
5thアルバム、SMALL WORLD(スモール・ワールド)
ビルボード誌アルバムチャート第11位 アメリカで100万枚のセールス
1stシングル PERFECT WORLD(パーフェクト・ワールド) ビルボード誌シングルチャート第3位、同誌Mainstream Rockチャート第5位、同誌Adult Contemporaryチャート第2位
2ndシングル SMALL WORLD(PART ONE)(SMALL WORLD パート1) シングルチャート第25位、Mainstream Rockチャート第28位、Adult Contemporaryチャート第19位
3rdシングル GIVE ME THE KEYS (AND I’LL DRIVE YOU CRAZY)(ギブ・ミー・ザ・キーズ) シングルチャート第47位、Adult Contemporaryチャート第42位