ぼっち系なのにフレンドリー シンセポップアルバムの佳作 HOWARD JONES(ハワード・ジョーンズ) – HUMAN’S LIB(かくれんぼ)

ハワード・ジョーンズとは




80年代中期には、さまざまなアーティストが出てきたわけですが、この人、HOWARD JONES(ハワード・ジョーンズ)の登場も中高生だった僕にとってはなかなか鮮烈なものでした。
まずはぱっと見が、細面の顔に、ツンツンに逆立てたヘアスタイル。
パイナップル頭とか呼ばれてたと思いますが、なかなかポップアーティストとしては衝撃的な風貌でしたね。

 

そして、デビュー曲、NEW SONG(ニュー・ソング)。
非常に軽やかな楽曲中、シンセが気持ちよく歌いまくっている、これは新しい歌だ!と思いました。
また、その演奏スタイルも独特で、一人で複数のシンセを使いこなし、華麗にプレイしながら歌い上げるという、なかなか多彩なことをしておられます。

 

今日は80年代音楽を盛り上げた人の一人、ハワード・ジョーンズを扱いたいと思います。

 

ハワードは、イングランドのサザンプトン出身の、イギリス人シンガーです。
彼は4人兄弟(性別はわかりません)の長男で、4人全員がミュージシャンになったようですので、音楽一家で育ったことがわかりますね。
彼自身は7歳の時にピアノのレッスンを始めています。

 

彼がティーンエイジの頃に、親の仕事の関係でカナダとイングランドを行き来する生活が始まります。
そのため、友達がなかなかできなかったようで、音楽にのめりこんでいきます。
彼のぼっち的な音楽スタイルはこのあたりで築きあげられていったようですね。

 

とはいえ、最初から一人で何でもやっていたわけではなく、カナダではWarriorというプログレロックバンドに入ったりしてます。
また、イングランドに戻ってからもいろんなバンドでプレイしてます。
ぼっちだったとはいっても、コミュ障だったわけではないようですw

 

その後、音楽学校に籍を置いたりしましたが、退学後、サザンプトンのいろんなジャズやファンクバンドと共にプレイしています。
そうしてキャリアを積んでいるうちに、彼はソロでの活動を始めていきます。
やっぱりぼっちはぼっちの道を歩むのがしっくりいったのかもしれません。
シンセとドラムマシーンを駆使して、ほぼワンマンショーという自分の音楽スタイルを築いていきました。

 

そんな一人でのライヴ活動が、イギリスの超有名ラジオパーソナリティであるジョン・ピールの目に留まります。
そのつてで、BBCでキーボーディストとして仕事ができるようになりました。
こうして、ついに1983年、WEAレコードとメジャー契約し、デビューする運びとなったのでした。

 

この時すでに28歳、ということで、結構チャンスを得るまでに時間がかかった遅咲きのデビューですね。
しかし、そこに至るまでの経験が、単なるポップミュージックにとどまらない深みのある楽曲を作り出すのに役立ったのではないかと思います。

 

では今日は、1984年(イギリスでは1983年)にリリースされたHOWARD JONES(ハワード・ジョーンズ)のデビューアルバム、HUMAN’S LIB(かくれんぼ)をご紹介します。
全曲をハワードが作曲し、サクソフォンを除くとすべて彼自身で演奏されているようです。

HUMAN’S LIB(かくれんぼ)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、CONDITIONING(コンディショニング)。

 

ピコピコと鳴るシンセが特徴的な、まさにシンセポップの典型のような楽曲ですね。
無機質に聞こえるシンセサウンドも、ハワードの暖かみのあるヴォーカルが入ることで人間味が感じられるのが不思議です。

 

まさに80年代ど真ん中で、さまざまなシンセが楽曲に彩りを与えた時代でしたが、ハワードはそのシンセを完全に中心に据えたポップミュージックを生み出しています。
最新のシンセ機器を用いて、自在に独自の音を作り出し、時代をけん引したとも言えるかもしれません。

 

軽快なテンポでキラキラしたシンセが飛び回る、シンセポップアーティストとしてのあいさつ代わりの一曲でアルバムは始まります。

 

2曲目は、WHAT IS LOVE?(ホワット・イズ・ラヴ?)。

 

この曲は、すでに1982年には完成し、彼自身のギグでは何度も歌われていたようです。
デモの段階では単に「LOVE?」という仮タイトルになってました。
この頃は、?(クエスチョンマーク)をモチーフとして使うのが彼自身のマイブームになっていたようで、ライヴの宣伝ポスターにも「Howard Jones?(ハワード・ジョーンズ?)」と書いてあったりで、なかなか興味を引きつけるいい宣伝になってたようです。

 

この曲は、非常にメロディや雰囲気が良いですよね。
80年代を代表するヒット曲たちに混ざっても何の違和感も感じません。
シンセが印象的なのはもちろんですが、彼の声と歌メロが非常に優れてると思います。
無機質なはずのシンセにこれほどの暖かみを感じられるのはやはりハワードのヴォーカリストとしての才能と賜物のなせる業ではないかと思えますね。

 

キャッチーで哀愁感の感じられるこの曲は、イギリスでの第2位を初めとして、世界中でスマッシュヒットを記録しました。
この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第33位を記録しました。

 

3曲目は、PEARL IN THE SHELL(パールと貝がら)。

 

軽快なサクソフォンで始まる、良質のポップソングです。
シンセとサクソフォンの融合が、ここでも暖かみを加えてます。
さすがにサックスは外注のようです。

 

4つ打ちのビートに乗せて、カラフルな音色が飛び交う、心地よくノリの良い曲に仕上がっています。

 

この曲はイギリスでは4thシングルとしてカットされ、第7位を記録しています。

 

4曲目は、HIDE AND SEEK(かくれんぼ)。

 

強くアンビエントミュージック(環境音楽)の影響を受けた感じの、暗めで静かな楽曲です。
途中の演奏に、中南米の民俗音楽っぽい音色も加わって、不思議な魅力のある楽曲です。

 

ABメロでは、非常に深く暗い世界が描かれてますが、サビでは何か希望の光も差し込むような雰囲気の転換があり、なかなか気に入ってます。
地味ではありますが、味のある楽曲になっています。

 

ちなみに、邦楽のアルバムタイトルとして、この曲が使われています。
曲のテーマは、宇宙の起源に関するもので、仏教徒やヒンズー教徒、哲学者などの影響を受けたものになっています。
本人もとても気に入ってたようなのと、日本人にとって、親しみやすい語感などもあり、これが邦題に採用されたのでは、と思われます。

 

この曲はイギリスで3rdシングルとしてカットされ、第12位を記録しています。

 

5曲目は、HUNT THE SELF(ハント・ザ・セルフ)。

 

一転して力強い打ち込みサウンドに乗った楽曲です。
シンセポップのロック寄りの曲で非常に当時の雰囲気が感じられます。
まさに、僕の好きだったエイティーズの青春の音ですね。

 

どんな音もPCで出せるようになった今、もはや陳腐に聞こえてしまうのが残念です。
でも、当時聞いていた者にとっては、やはり懐かしい素敵な音にしか聞こえませんw

 

6曲目は、NEW SONG(ニュー・ソング)。

 

ハワードの記念すべきデビューシングルです。
僕も、初めて聴いた曲はこれだったのですが、すごくフレッシュで新しく感じました。

 

シンセポップの爽やかな歌メロに、シンセソロが非常に巧みに織り込まれています。
バンド中心で聞いていた僕にとって、そこはエレキギターが主役であるべきだったのですが、その場所にシンセが堂々と軽やかなメロディを奏で上げてます。
まさに、僕にとっては「新しい歌」でしたね。
最新のシンセ機材を用いて、良質のポップスを生み出しました。

 

この曲はまずイギリスでデビューシングルとしてリリースされ、第3位を記録しています。
その後、アメリカでも1stシングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第27位を記録しました。

 

7曲目は、DON’T ALWAYS LOOK AT THE RAIN(雨を見ないで)。

 

雨の中にいるかのような、静寂の中のシンセサウンドが絶妙です。
歌メロがいいんですよね。
ファルセットを巧みに織り交ぜたハワードのヴォーカルが光っています。

 

ポップなアルバムの中でキラリと輝く宝石のようなバラードです。

 

8曲目は、EQUALITY(イクォリティ)。

 

一転してアップテンポ曲になります。
いかにも打ち込みシンセポップという雰囲気でノリの良い楽曲が展開します。
シリアスな感じも混ざってて、ハワードの世界観が繰り広げられてます。
ラスト前に、静かなパートが挿入するところがミソでしょうか。
単に弾けて終わらないところがハワード流かもしれません。

 

9曲目は、NATURAL(ナチュラル)。

 

これも耳障りの良いシンセと打ち込みサウンドの佳曲になります。
ミディアムテンポに乗せて伸びやかに歌うハワードの声が爽やかです。

 

10曲目は、HUMAN’S LIB(ヒューマンズ・リブ)。

 

アルバムトラックがラストに収められています。
シリアスなテンションが感じられるけど、16ビートに乗った軽快なポップスになっています。

 

このタイトルは、Women’s Lib(ウーマンリブ運動)をもじったものになっています。
正確にはwomen’s liberation movementの略語なのですが、要するに、1960年代後半から1970年代前半にかけて、主として欧米や日本などの先進国において起こった「女性解放運動」とされています。

 

その言葉をもじって、さまざまなしがらみから自由になりたい、という意味で、HUMAN’S LIB人間解放)を訴える内容のようですね。
無意味に思える人生から解放されて、自由に生きたいという主張のようです。

 

語感としては良いと思いますが、アルバムタイトルにするほどかとは思います。
まあそれほど、売れなかった時代に強く感じていたメッセージなのかもしれません。

 

11曲目には、ボーナストラックとして、CHINA DANCE(チャイナ・ダンス)というインストゥルメンタルが収められています。

 

うまいこと中華の雰囲気が漂ったインストになってます。

まとめとおすすめポイント

1984年にリリースされたHOWARD JONES(ハワード・ジョーンズ)の1stアルバム、HUMAN’S LIB(かくれんぼ)はビルボード誌アルバムチャートで第59位を記録しています。
第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの流れに乗ってアメリカでもスマッシュヒットとなった感じです。
ちなみに本国イギリスではNo.1を獲得しています。

 

シンセポップ、ニューウェイヴ、といったくくりで、当時の流行にピタリと合っていましたね。
特に、最新のシンセ機材をフル活用したサウンドは、まさにエイティーズサウンドの見本のようなものとなっています。
しかし、シンセ重視とはいっても、メロディが良いところ、そしてヴォーカルがうまいとことなどがハワードの魅力の一つだと思います。
下手をすると無機質になりがちなサウンドですが、やはりヴォーカル部分ですごく暖かみが付加されているところがとても好きでした。

 

そんな彼も、デビューが28歳、という遅咲きのアーティストです。
しかし、この時代背景を考えると、20代前半ではここまで売れなかったかもしれませんね。
80年代サウンドが熟成を始めた1983年リリース(イギリス本国)だからこそ、彼のスタイルが受け入れられたのかもしれません。
それまで、ティーンの時代のぼっち生活の中で、一人ピアノやシンセに向かう、そんな日々でしたが、だいぶ大人になってブレイクできました。
ぼっち系だからこその、最新機器の有効活用だったとも考えられます。

 

ただ、彼の場合は、最新機器だけが独り歩きすることがなかった、というのが最大の特徴だったのではないかと思います。
結局、流行りの音というのはすぐに市場に浸透してありきたりなものになってしまいます。
しかし、彼の場合はソングライターとして、キャッチーで人間味のあるサウンドを作り出せる能力がありました。
合わせて、それを暖かく歌えるヴォーカルも持ち合わせていました。
そんな要素が絡まりあって、多くの人に愛されるフレンドリーな音楽を生み出せていったのではないでしょうか。

 

今、改めて聞けば、サウンド的にはちょっと古さを感じてしまうのは事実です。
でも、それを上回るメロディの良さは、きっと現代人にも感じられることだと思います。
最新シンセと、人間性の融合したこのアルバムも、やはり80年代音楽には欠かせないものだと思っています。

チャート、セールス資料

1984年リリース(イギリスでは1983年)

アーティスト:HOWARD JONES(ハワード・ジョーンズ)

1stアルバム、HUMAN’S LIB(かくれんぼ)

ビルボード誌アルバムチャート第59位
イギリスアルバムチャートNo.1

1stシングル NEW SONG(ニュー・ソング) ビルボード誌シングルチャート第27位

2ndシングル WHAT IS LOVE?(ホワット・イズ・ラヴ?) シングルチャート第33位