音楽性の違いは厄介な問題だ BAD ENGLISHの2ndにしてラストアルバム - BACKLASH(バックラッシュ)
BACKLASHまでの流れ
1989年リリースのBAD ENGLISH(バッド・イングリッシュ)のデビューアルバムBAD ENGLISH(バッド・イングリッシュ)はNo.1ヒットを含む3曲のシングルヒットを生み、なかなかの成功を収めました。
ビルボード誌アルバムチャート第21位を記録し、アメリカで100万枚のセールスとなっています。
確かにそうした成功に値する素晴らしいアルバムでした。
JOURNEY(ジャーニー)とTHE BABYS(ベイビーズ)から出てきたメンバーの合流によって結成されたバッド・イングリッシュは、両バンドのいいとこ取りのようなサウンドで、僕にとっては活動休止中のジャーニーの穴を埋める、素晴らしい1stアルバムを届けてくれました。
John Waite(ジョン・ウェイト)のヴォーカルはハードなものにも、バラードにも良く合い、バンドの顔を立派に勤め上げてましたし、
ジョンと、Jonathan Cain(ジョナサン・ケイン)による楽曲はやはり多くの名曲を生み出しています。
ところが、前作の記事でも書きましたが、Neal Schon(ニール・ショーン)がやや目立ってない気はしてました。
楽曲への参加もジョン&ジョナサンの割合が多く、ニールの曲は少ないです。
そのうえ、楽曲重視でギターソロはないことはないですが、短くコンパクトなものが多く、我慢してるのではないかな、と感じてました。
その予想は当たっていたようで、2ndアルバムのBACKLASH(バックラッシュ)の完成前のミックスの時点で、ニールとDeen Castronovo(ディーン・カストロノヴォ)は脱退。
すぐにHARDLINE(ハードライン)という新しいバンドを結成するために動き出します。
まあ、その脱退の原因は、アルバムを聞けばわかる、ということになるでしょう。
ニューアルバムは前作と変わらないクオリティを保っていますが、それは同時に、やはりニールの出番が抑えられていたことを意味しています。
10曲中、ニールが作曲にかかわったのはわずか3曲。
そして、アルバム中のプレイも、例によって楽曲重視のコンパクトなソロプレイに徹しています。
それも自らそうしたというより、アルバム中では弾きまくらないようにとの圧力がかかったためでした。
加えて、アルバム全体も、前作よりポップ化が目立っており、そこも不満の一つだったようです。
というわけで、結局、このバンドはジャーニーの再結成、という面より、ジョン&ジョナサンによるベイビーズの再始動という面が強かった、ということが見えてきます。
もともと何かが足りなかったベイビーズの再始動だけではインパクト不足のため、ニール・ショーンという大物ギタリストを呼び込んだ、というのが1番納得のいく理解ということになるでしょう。
しかし、それで、満足できなかったニールはバンドを出て新たな道を模索し始め、バッド・イングリッシュ自体もこのアルバムを最後に活動を終えることになりました。
人間関係が交錯した結果出来上がったアルバムですが、クオリティは前作と遜色ない、素晴らしい楽曲の数々を収めたものとなっています。
では、今日は1991年リリースのバッド・イングリッシュの2ndにしてラストアルバムとなった、BACKLASH(バックラッシュ)をご紹介したいと思います。
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BACKLASH(バックラッシュ)の楽曲紹介
オープニングを飾るのはいきなり豪快に始まるSO THIS IS EDEN(ソー・ディス・イズ・エデン)。
堂々たるハードポップで、サビはキャッチー。
まさにつかみはOKというオープニングになっています。
ギターリフもかっこよく、ソロではニールが弾きまくっています。
しかし、ソロはきっちり8小節に抑えられたコンパクトなものではあります。
途中にちょいちょい顔を出すギターフレーズはかっこよく決まっています。
しかし、やはりジョンのヴォーカルによる歌メロ主体の洗練されたロックという感じです。
でも、ラスト前もニールは弾きまくっていますので、この曲に関しては不満はないのではないでしょうか。
2曲目はSTRAIGHT TO YOUR HEART(ストレート・トゥ・ユア・ハート)。
バッド・イングリッシュならではの心地よいハードポップチューンです。
イントロからニールのギターが装飾音をきらめかせており、楽曲全体もジョナサンのシンセが彩っています。
そして、ジョンの歌う歌メロ、サビはキャッチーで非常にメロディアスです。
最も得意な形の楽曲と言えるでしょう。
ニールのギターソロコーナーもしっかりあります。
彼らしいメロディアスなプレイが間奏中に奏でられてますし、アウトロでも、結構心地よくプレイしてると思います。
この曲は、アルバムの先行シングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートでは第42位、同誌Mainstream Rockチャートでは、第9位を記録しています。
3曲目は、TIME STOOD STILL(タイム・ストゥッド・スティル)。
ニールのアコースティックなギターのソロが聴き所のバラードです。
イントロからニールが聞かせてくれます。
哀愁ただよう雰囲気をアコギ一本で奏でてます。
楽曲はスローでメローなバラードです。
こういう曲はジョンは特に上手く感じますね。
そして、サビではバンドサウンドに変わるパワーバラードでもあります。
ジョナサンのシンセの入り具合が心地よいです。
また、バンドメンバーによるコーラスも美しく決まっています。
情熱のニールのギターソロがもう少し聴いていたい感じもありますが、楽曲としてはバランスが取れて良いと思います。
4曲目は、THE TIME ALONE WITH YOU(タイム・アローン・ウィズ・ユー)。
完全に彼らの十八番の美しいバラードになっています。
ジョンとジョナサン、そしてあのヒットメイカーDiane Warren(ダイアン・ウォーレン)の共作になっています。
静かなシンセからの始まり、次第に盛り上がっていき、サビではキャッチーでメロディアスな歌メロ。
前作のWhen I See You Smile(ホエン・アイ・シー・ユー・スマイル)の作者ダイアンはまたも素晴らしいバラードを書いてくれました。
もはや職人芸と言っても過言ではないでしょう。
そして、それをきっちり形にするのもバンドの実力の内であるとも言えるでしょう。
こうした懐の深い楽曲を見事にプレイできるのも、やはりプロフェショナルの集まりだからだともいえます。
ただ、ギターの目立たなさは際立っていますね。
間奏部分でニールがここぞとばかりに魂のギターソロを弾き始めますが、非常にコンパクトであっという間に終わってしまいます。
楽曲全体で見ると、それで十分なのかもしれませんが、ニールのフラストレーションがたまるのもわからなくもないかな、と思います。
楽曲としては、非常に美しいバラードに仕上がっています。
5曲目は、DANCING OFF THE EDGE OF THE WORLD(エッジ・オブ・ザ・ワールド)。
この曲はニールも作曲に加わっているのもあって、なかなかハードな楽曲になっています。
ギターフレーズも各所に散りばめられていて、とてもロックな感じでかっこいいです。
しかし、ギターソロがド派手に始まったと思ったらすぐに終わったのが、やはり物足りないですね。
楽曲メインになれば、それは仕方ないですが、もう少しニールのプレイを聴きたいリスナーも多いはずです。
この割り切りも、楽曲を耳障りの良いものにするために仕方なかったのかもしれません。
6曲目は、REBEL SAY A PRAYER(レベル・セイ・ア・プレイヤー)。
この曲はミドルテンポの王道ロックチューンです。
シンセの入り具合、キャッチーなサビメロ、彼ららしいとても聴き易い楽曲になっています。
ギターリフがかっこいいのですが、やはりソロはコンパクトにまとめられています。
しかし、逆を言えば、8小節という制限の中で、こんなソロを構築できるのはニールの匠の技とも言えるのではないでしょうか。
7曲目は、SAVAGE BLUE(サベージ・ブルー)。
少しダークな雰囲気漂う前半から、サビはメジャー感あふれるキャッチーなメロディーへ変化します。
この辺は大人のロックの雰囲気を感じられます。
ジャーニーの頃からAORとも言われてますが、この曲でもそうした面が色濃く出ています。
また、この曲でも8小節のギターソロが、割り当てのように挟まっています。
ニールの肩身の狭い思いまで聴こえてきそうです。
でも、楽曲はとてもいいのです。
そのバランスをどうとらえるかで評価は大きく異なるでしょう。
8曲目は、PRAY FOR RAIN(プレイ・フォー・レイン)。
久々に疾走感のあるロックチューンになっています。
この手も、彼らはお手の物です。
必ず、キャッチーな歌メロがサビを彩ります。
また、シンセやギターリフが上手に楽曲を飾ります。
ジョンのヴォーカルも、うまく歌いこなしてます。
この曲では16小節のギターソロが楽しめます。
まあ、曲調が速いのであっという間ではありますが、久々にニール節を堪能できます。
加えて、アウトロでも弾きまくっているので、この曲に関しては彼も満足かもしれません。
9曲目は、MAKE LOVE LAST(メイク・ラヴ・ラスト)。
この曲も、少しダークな雰囲気からサビの明るい雰囲気へと変化する楽曲です。
サビは相変わらずわかりやすく、キャッチーで、彼らのコンポーザーとしての実力をしっかり示すものともなっています。
ギターソロは8小節に抑えられ、あとはイントロや各所で楽曲を色づける役割を果たしています。
アルバムラストは、LIFE AT THE TOP(ライフ・アット・ザ・トップ)。
この曲も聴き易いハードポップソングです。
装飾音で、ギターが随所に聴けます。
しかしソロはきっちり8小節に抑えられています。
サビはキャッチーで、聴き易いいい曲です。
そして、アウトロではニールが弾きまくってアルバムは幕を下ろします。
まとめとおすすめポイント
1991年リリースのBAD ENGLISH(バッド・イングリッシュ)の2ndにしてラストアルバムとなった、BACKLASH(バックラッシュ)はビルボード誌アルバムチャートで第72位、売り上げは100万枚には達していません。
内容は前作同様、クオリティの高いハードポップアルバムだと思います。
ジョンのヴォーカルはエモーショナルですし、ジョナサンのシンセも心地よく楽曲を彩っています。
そして、今回のアルバムのプロデューサーは、Ron Nevison(ロン・ネヴィソン)に代わっています。
ロンはSURVIVOR(サバイバー)やHEART(ハート)を手掛けた、職人プロデューサーで、ポップなアルバム作りでは定評があります。
ロンのポップセンスと、バッド・イングリッシュのハードポップは程よく融合して、とてもいいアルバムになったと思います。
では、なぜこれほど売れなかったのか。
もう、アルバムリリース前にニールとディーンが脱退した、ここに尽きるのではないでしょうか。
ベーシストのRicky Phillips(リッキー・フィリップス)は彼のウェブサイトで、バンドは、2ndアルバムがミックスされる前に分裂していたと書いています。
その理由として、リッキーとニールは、ポップ化していくバンドにフラストレーションを感じていたということのようです。
もっとハードなエッジのあるサウンドを求めていたわけです。
しかし、ジョンとジョナサンは、ヴォーカル主体のメロディアスな楽曲重視のアプローチをしており、そこがウマが合わなかったのでしょう。
結局、バンドは崩壊し、みんなそれぞれ、別のプロジェクトへと散って行ったわけです。
そんな中で十分なプロモーションが出来るわけもなく、シングルを1枚リリースしたのみで、2ndアルバムはチャート圏外へと去っていったのでした。
音楽性の違いで、バンドが壊れるのは昔から頻繁に起きている事柄ですが、バッド・イングリッシュもその例の一つとなってしまいました。
では、良い成績を残せなかったこのアルバムは駄作なのでしょうか。
僕は決してそうは思いません。
前作と共に、優れたコンポーザーと優れたプレイヤーによって、非常に心地よいハードポップを展開していると思っています。
ジャーニーなどが好きな方には、間違いなくこの2作とも気に入るに違いありません。
また、ニールは、十分に弾きまくれなかったわけでもないと思います。
もともとジャーニーでも、ニールは弾きまくるのではなく、ツボを得た、楽曲を盛りたてる職人技でリスナーを魅了してきたギタリストです。
このアルバム、バックラッシュでも、随所で彼のプレイは聴けますし、短くてコンパクトとは言え、彼らしい素晴らしいソロをしっかりと披露していると思います。
恐らく、ニールの頭ではこのバッド・イングリッシュはジャーニーの再現が理想だったのではないでしょうか。
しかし、ジョンとジョナサンは、ベイビーズの再現を目指し、その引き立て役としてニールを引き込んだような感じです。
この両者の、思惑の違いが短命のバンドとなった大きな理由と言えるでしょう。
しかし、彼らの残した2作品はどちらも良曲ぞろいの優れたアルバムになっています。
ジャーニーが再結成するのはここからさらにあと5年待たなければなりませんでしたが、その穴を埋めるだけのとてもいい作品となっていました。
AOR風味のハードポップの名作をお探しの方にはおすすめのアルバムとなっています。
チャート、セールス資料
1991年リリース
アーティスト:BAD ENGLISH(バッド・イングリッシュ)
2ndアルバム、BACKLASH(バックラッシュ)
ビルボード誌アルバムチャート第72位
1stシングル STRAIGHT TO YOUR HEART(ストレート・トゥ・ユア・ハート) ビルボード誌シングルチャート第42位、同誌Mainstream Rockチャート第9位