人気絶頂バンドを抜けて、念願のソロアルバム ANDY TAYLOR(アンディ・テイラー) – THUNDER(サンダー)

ザ・パワー・ステーションからソロ活動へ





人気絶頂にあったDURAN DURAN(デュラン・デュラン)が、2チームに分かれて二つのサイドプロジェクトを決行したのは大きなニュースになりました。
それぞれどんなサウンドを聞かせてくれるのか、という期待と、よもやバンド解散か、という不安の入り混じる中、1985年にTHE POWER STATION(パワー・ステーション)Arcadia(アーケイディア)という二つのバンドはそれぞれにアルバムをリリースし、どちらもそこそこの成績を収めることに成功しました。
デュラン・デュランの5人のメンバーの中で、このプロジェクトで最も輝いていたのは、ギタリストのANDY TAYLOR(アンディ・テイラー)ではないか、と僕は思っています。

 

それもそのはず、デュラン・デュランというバンドの中で、ギタリストの存在は限りなく薄められてたといっても言い過ぎではないでしょう。
シンセ・キーボード主体のポップ曲の中では、エレキギターの役割としては主にカッティングやリフで、目立たないアクセント程度しか与えられてなかったと思います。
楽曲の中であまり聴こえてこないギターの音のせいで、アンディはギターをさほど弾けないのではないか、とまことしやかに語られたりもしてたからですね。
アンディの抱えていたに違いないフラストレーションは、どれほどのものだったでしょうか。

 

そこに来て、このパワステのアルバム。
これまでの鬱憤を晴らすかのような彼のプレイの収められたアルバムになっています。
強力なドラムスとベースのリズム隊に負けない、ハードロック色の強いギタープレイにより、非常に強力な存在感を示してくれました。
多くのリスナーは、アンディ、意外と弾けるんだ、と見方を改めさせられたのではないでしょうか。

 

そして、パワステはアルバムのヒットを受けて、ツアーを敢行します。
残念ながら、ヴォーカルのRobert Palmer(ロバート・パーマー)はツアーには参加しませんでしたが、代わりに元Silverhead(シルヴァーヘッド)のMichael Des Barres(マイケル・デ・バレス)を立てて、ライヴは行なわれます。
また、1985年7月13日に行われた、チャリティーコンサート、ライヴエイドにも参加し、プレイしています。

 

こうして、2つのプロジェクトは終了を迎えるわけですが、この時点ですでにデュラン・デュランは求心力を失い、メンバー間の溝が広がってしまっていました。
まずドラマーのRoger Taylor(ロジャー・テイラー)はヘヴィスケジュールのため疲労困憊し、1年の休暇をとりますが、そのままバンドを脱退します。
そして、アンディも自然とデュラン・デュランから離れ、結局は脱退への道を歩んでいきました。

 

アンディは、パワステプロジェクト終了後、LAに拠点を移し、自身の活動を広げていきます。
そんな中で、元 Sex Pistolsのギタリスト、Steve Jones(スティーヴ・ジョーンズ)と出会い、彼の協力の下、アンディのソロ活動が始まっていきます。

 

ソロの手始めとして、映画American Anthem(愛と栄光の旅立ち/アメリカン・デュエット)のサウンドトラックに楽曲Take It Easy(テイク・イット・イージー)を提供。
ビルボード誌シングルチャートで第24位を記録するスマッシュヒットとなりました。
続いて、Miami Vice II (マイアミ・バイス2)のサントラには、When The Rain Comes Down(レイン・カムズ・ダウン)を提供、シングルチャートで第43位を記録しています。
また、パワステで一緒だったロバート・パーマーのソロアルバム収録の大ヒット曲、ADDICTED TO LOVE(恋におぼれて)にはリードギターで参加しています。

さて、そんな活動をしつつ、ついに念願のソロアルバム制作ということになります。
クレジットによると、アンディとスティーヴの共同プロデュース、そして全9曲中8曲が二人の共作となっています。

では今日は、1987年リリースの、ANDY TAYLOR(アンディ・テイラー)の1stアルバム、THUNDER(サンダー)をご紹介したいと思います。

THUNDER(サンダー)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、I MIGHT LIE(アイ・マイト・ライ)。

 

バイクのエンジンを吹かす音がSEとして使われてるか、もしくは多数のエレキギターの音でそれを再現してるのか、はっきりはわかりませんが、最終的にはアーミングによるいななきでかっこよくストレートなハードロックが幕を開けます。
このイントロは、超絶にキマってますね。
アルバムの始まりとしては、見事なイントロダクションになってると思います。

 

そしてそのアーミングに続いては、非常にキレのよいヘヴィリフが曲を引っ張り、これまたかっこよいです。
パワステの時もそうでしたが、アンディのリフはシンプルですが非常に心地よい歪みで響き渡ってますね。

 

そして、今回は当然自身のソロアルバムですから、彼のヴォーカルがアルバム全体で聴けます。
Simon Le Bon(サイモン・ル・ボン)の粘着質な声質とは違って、少し甘く素直なヴォーカルで個人的には聴き易いです。
サイモンの声は慣れるのに時間がかかりましたが、アンディの声は恐らく万人受けするいい声ではないでしょうか。
まあ、逆を言えば、強烈な個性はないとも言えるかもしれませんがw
サイモンと比較すること自体が間違いなのでしょう。
とにかく、あのルックスでこの歌声ですから、本家ファンの多くを占める女性ファンはたまらなかったに違いありません。

 

楽曲としては、全くデュラン・デュランの時とは異なっており、これこそアンディのやりたかったことに違いないことがビンビンと伝わってきます。
非常に痛快なハードロックサウンドで、これはかなりいい曲だと思います。

 

ちょっと残念なことを挙げるとすれば、せっかくイントロも途中のリフも非常にかっこよくキマっているのだから、ギターソロをもう少し弾きまくって欲しかったな、ということでしょうか。
パワステではじけていたあの勢いをこのオープニングでは見せて欲しかったと思います。

 

まあ、そこを差し引けば、相当かっこよい楽曲になっていて、かなりのお気に入りソングになってました。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌Mainstream Rockチャートで第17位を記録しています。
シングルチャートに入れなかったのが、ちょっと残念であり、不思議でもあります。
一般ウケしそうなよく出来た作品だと思いますけどね。

 

2曲目は、DON’T LET ME DIE YOUNG(ドント・レット・ミー・ダイ・ヤング)。

 

これは少しゆったり目のロックンロールですね。
この曲でも、なかなか印象的なギターリフが散りばめられていて、いい感じのできになってます。

 

サビもキャッチーで楽曲としては言うことありません。
ギターソロは、前曲に比べるとワイルドにプレイされています。
ただアルバム全体でも言えるのですが、やたらアーミングとピッキングハーモニクスを多用するところが、ちょっと鼻につきます。
適度であれば、非常に効果的で僕も好きな音なのですが、アンディはちょっと使い過ぎかな、というのが僕の印象です。
でも、楽曲は決して悪くはありません。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、Mainstream Rockチャートで第36位を記録しています。

 

3曲目は、LIFE GOES ON(ライフ・ゴーズ・オン)。

 

ミディアムテンポのバラードライクな楽曲です。
少し明るめの、それでいて哀愁感の漂う雰囲気ですが、アンディが見事に歌いきってます。
けっこう彼のヴォーカルとしてのスキルを感じさせてくれる名曲になっています。

 

曲中にはブルージーなオブリがちょこちょこ入ってきます。
加えて、ギターソロはさらに少し泥臭いブルージーな雰囲気も再現できてます。
こんなギターも弾けるんだ、ってちょい見直せるいい楽曲ですね。

 

アルバムの後半に持ってくればもっと存在感を増すのでは、とそこがちょっと残念です。

 

4曲目は、THUNDER(サンダー)。

 

ここでアルバムタイトルトラックの登場です。
爽快でストレートなロックです。
少し低音で歌うアンディのヴォーカルもいいですね。

 

ギターリフがいい感じでキマってますが、ここでもギターソロがちょっと物足らないです。
せっかく自身のソロアルバムなんだから、思い切り弾きまくってもらいたかったのですが・・・。

 

5曲目は、NIGHT TRAIN(ナイト・トレイン)。

 

夜の列車の切ない雰囲気に満ちた、なかなかいい曲です。
シンプルなギターリフの4分のリズムに乗った歌メロがとても叙情的でよろしいです。
アンディのヴォーカルもハマってますね。

 

この曲のギターソロに関しては、曲調とぴったりとはまっていていいです。
僕も何でも弾きまくってほしい、と言っているというわけではなく、曲調にあったソロをプレイして欲しい、ということを言ってるだけです。

 

6曲目は、TREMBLIN’(トレンブリン)。

 

ちょっと変則的なリズムに乗って、ゆったりと歌い上げる曲です。
これも、歌メロがキャッチーで、印象に残る曲ですね。

 

ただギターソロは、短い間にピッキングハーモニクスとアーミングを詰め込んで、もうちょっと何とか引き出しはないのか、とちょっと思ってしまいました。

 

7曲目は、BRINGIN’ ME DOWN(ブリンギン・ミー・ダウン)。

 

これも哀愁感ある歌メロの美しい楽曲です。
イントロのアルペジオも美しく、ドラムが入ってからのギターリフもいい感じです。

 

ギターソロでは、楽曲に合った、ハモリサウンドでロングトーンが重ねてあります。
ただ、ソロの音数があまりに少なくて、アンディ、君がやりたかったのは、これじゃないんではないのかい?と言いたくなります。
君の作品だから、もっと弾きまくっていいんだよ、アンディ

 

でも楽曲としては、切ないヴォーカルもあいまってなかなかの佳曲だと思いますけどね。

 

8曲目は、BROKEN WINDOW(ブロークン・ウィンドウ)。

 

アルバム中、唯一アンディ単独で作った楽曲です。
イントロのギターソロが非常にいいですね、つかみはばっちりです。

 

マイナー調の曲調の歌メロがここでも哀愁を誘ってくれます。
ギターソロよりも、彼のヴォーカルの上手さに注意が向いてしまいます。

 

ラスト9曲目は、FRENCH GUITAR(フレンチ・ギター)。

 

美しいシンセとドラムの組み合わせで始まるロックインストでアルバムは幕を下ろします。
曲の中盤にやっとギターソロが始まります。
ゆったりとした曲調の中で、雄大なメロディを奏でています。
ここでも、ソロはロングトーン中心で、決して弾きまくっていません
最後のチャンスと思ったのですが、ここでも彼のプレイは爆発しませんでしたw

 

でも、ロックインストとしてはまあ悪くはないできだと思います。

まとめとおすすめポイント

1987年リリースの、ANDY TAYLOR(アンディ・テイラー)の1stアルバム、THUNDER(サンダー)はビルボード誌アルバムチャートで第46位と思ったほどのセールスは記録できませんでした。
本国のイギリスでも第61位です。

 

もともとのデュラン・デュランでの人気、パワステの高評価などを考えると、もう少しヒットしても良かったのでは、と思いますがなかなかマーケットは渋かったですね。
この低評価の理由の一つは、僕が思うに立ち位置の微妙さにあったのかもしれません。

 

デュラン・デュランでは、アイドルティックなルックスで人気を博しており、特に女性ファンには時流に乗ったシンセポップサウンドが受けていました。
しかし、そこから抜け出し、一ギタリストとして、アーティストとしてのソロ活動です。
そこで聴けたのは、ストレートでハードなロックサウンドでした。
まあ、極端に言えば、デュラン・デュラン時代からの女性ファンは、アンディにそんな硬派なサウンドを求めてはいなかったのでは?と思われます。

 

では、男性ファンやHM/HRファンはアンディをどう見たか、と言えば、元デュラン・デュランという肩書きゆえに、食わず嫌いの人も多かったのではないでしょうか。
アイドルがいきなりギタリストとして世界に挑戦しても、そっち系の硬派なロックファンは冷ややかに見てたと考えられます。

 

というわけで、このどっちつかずのポジションが、このチャート成績に如実に表れてしまったのではないか、と僕は思っています。

 

しかし、偏見なしでアルバムを聴いてみると、決して悪くないと気付けると思います。
楽曲は佳曲ばかりで、ハードロックほどではありませんが、ロックアルバムとしては標準点以上の充実度を誇っているのではないでしょうか。
とりわけ先行シングルの「アイ・マイト・ライ」は、かなりのクオリティを秘めた名曲だと僕は感じています。
この名曲が、シングルチャートに入りもしなかったのは、やはり先ほど述べたように方向性が定まってない中途半端な立ち位置のせいだと思われます。
非常にかっこよい曲であるだけに、惜しまれますね。

 

また、アルバム全体のギタープレイに関しては、ギタリストのソロアルバムというにはちょっと物足りない感じがするのも事実です。
随所にキレのあるかっこいいリフがあるのは間違いありませんが、ギターソロがちょっと弾ききれてない感じです。
あの、パワステのアルバムのときのように、弾きまくるアンディが聴きたかったのが本音ではあります。
そして、少ないながらもギタリストとしてはじけていると感じられるところは、大抵アーミングやピッキングハーモニクスの多様によるもので、どうしてもギタリストとしての引き出しの少なさも感じてしましました。
それで、ギタリストとしての評価は、「デュラン・デュランのギタリストにしては良く弾けるプレイヤーだが、ハードロックギタリストとしては物足りない」、ということになってしまうでしょう。

 

あと、コンポーザーとしての才能に関してですが、これもそんなに持ち合わせていなかったようです。
全9曲中8曲はスティーヴ・ジョーンズとの共作とクレジットされています。
しかし、後々スティーヴは、このアルバムはほとんど自分が作曲したと暴露しています。
まあ、スティーヴ・ジョーンズと言えば、元セックス・ピストルズのギタリストで、薬物中毒も含めていろんな伝説のある人ですから、まるっきりその言葉を信じてよいかわかりませんが、まあ、全くのウソでもないでしょう。
そして、この後のアンディのソロ活動では、次のアルバムはカヴァーアルバムですし、オリジナルのアルバムを作ってはいません
もし、コンポーザーとしての才能があるのであれば、長いキャリアの中で少なくとも1枚か2枚くらいはアルバム作ってそうですが、それがないのです。
この辺の事実と照らせば、スティーヴの主張もあながちウソとは言い切れない感じですね。
残念ながら、状況証拠はアンディの「クロ」を指しているように思えてしまいます。

 

とまあ、アンディに不利なことばかり言ってしまいましたが、僕はこのアルバム好きですよ。
ストレートなロックは、アンディの若さとフレッシュさを感じさせますし、実際いい曲がつまっています。
バックグラウンドを気にしさえしなければ、なかなかの名盤と言っちゃってもいいでしょう。

 

元デュラン・デュランという過去の十字架がずっしりとのしかかってあまり売れませんでしたが、それでも正統派のロックアルバムとしてはなかなかの水準にあると思います。
ギタリストということを全面に出さずに、逆にヴォーカリストとして出したアルバムならもうちょっと評価が高かったかもしれないのが惜しいです。
まあ、彼にとっての念願のソロアルバムに、僕は合格点をあげたいと思ってます。

チャート、セールス資料

1987年リリース

アーティスト:ANDY TAYLOR(アンディ・テイラー)

1stアルバム、THUNDER(サンダー)

ビルボード誌アルバムチャート第46位 

1stシングル I MIGHT LIE(アイ・マイト・ライ) ビルボード誌Mainstream Rockチャート第17

2ndシングル DON’T LET ME DIE YOUNG(ドント・レット・ミー・ダイ・ヤング) Mainstream Rockチャート第36位