80’sサウンドに生まれ変わって復活 AEROSMITH ー PERMANENT VACATION
AEROSMITHとの出会い
ある時、音楽評論家の渋谷陽一先生のラジオ番組を聴いていました。
彼はAEROSMITH(エアロスミス)というバンドについて語っていました。
ちょうど1985年DONE WITH MIRRORS(ダン・ウィズ・ミラーズ)がリリースされたばかりの時のことです。
僕はエアロスミスなんて聴いたこともなかったので、聞き流してましたが、内容的には脱退していたギタリスト、Joe Perry(ジョー・ペリー)が帰ってきて作ったアルバムだってことだったと思います。
番組中で楽曲もかかったはずだが、ほぼ僕の耳には引っかかることはありませんでした。
これが僕とエアロスミスとの最初の出会いです。
次に再会したのは翌1986年、WALK THIS WAY(ウォーク・ディス・ウェイ)でのRUN -D.M.C.とのコラボです。
ラップとロックの融合という、新たなジャンルを切り開いた名曲ですね。
当時ヒップホップアーティストがチャートをにぎわし始めていた頃で、その先陣を切っていたのがRUN -D.M.C.だったと思います。
そんな彼らが昔のエアロスミスのヒット曲に目をつけただけでなく、Steven Tyler(スティーヴン・タイラー)とジョー・ペリーの二人と競演したのでした。
今をときめくラップが、昔の名曲に絶妙にのっかり、たちまちチャートを駆け上がり、全米チャート第4位(オリジナルの10位を超えてしまった。)を記録しています。
これを見逃す僕ではありません。
ラップ自体新鮮で、クールだと思っていたわけですが、それにジョーの強烈な印象を残すギターのリフ、そして搾り出すようなスティーヴンのヴォーカル。
PVにも二人は出演していたので、非常に興味をひかれます。
これはかっこいい、エアロスミスってどんなバンドなんだ。
そう思ったまま時は過ぎましたが1987年、ついに3度目の対面を果たします。
次のアルバムの先行シングル、DUDE(LOOKS LIKE A LADY)(デュード)です。
まずはPVで見たのですが、やはり、スティーヴンの強烈な個性が際立っていました。
女子柔道の松本薫選手のスイッチが入った瞬間をよくマスコミは野獣と表現していますが、スティーヴンに比べれば彼女ははるかにかわいい。
PVで見る限り、彼は顔も声もパフォーマンスも野獣そのものでした。
いろんなアーティストを見てきたつもりだったが、こんなにワイルドな人は初めて見たのではなかったかと思います。
スギちゃんもびっくりである。
そして楽曲のノリもよく、何度も聴いて楽しめる。
このエアロスミスの魅力にはまった僕は、1987年リリースのPERMANENT VACATION(パーマネント・ヴァケイション)を購入。
即座に愛聴盤になりました。
何度繰り返し聴いただろう。
キャッチーで適度なハードロックが僕にはどんぴしゃでめちゃめちゃ聴きまくりましたよ。
そして何よりもスティーヴンのヴォーカリストとしての強烈な個性が、エアロスミスをエアロスミスたらしめている最大のファクターに違いありません。
もちろんジョー・ペリーもハンサムだし、ギターリフのセンスはいいし、ソングライティング能力もよいです。
しかし、スティーヴンの隣に来ると、その存在は色あせてしまってます。(個人の感想です。)
これまでどちらかと言うときれいな楽曲を主に聴いていたものだから、こんなワイルドな歌い方されたらもう癖になってしまって・・・。
とにかく、僕はスティーブン・タイラーの強烈な個性にノックアウトされたわけなのでした。
では今日は1987年リリースの、AEROSMITH(エアロスミス)の9thアルバム、PERMANENT VACATION(パーマネント・ヴァケイション)をご紹介します。
PERMANENT VACATION(パーマネント・ヴァケイション)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、HEART’S DONE TIME(ハーツ・ダン・タイム)。
アルバムはサイレンと共に幕を開けます。
ギターが入り、スティーヴンの咆哮にドラムが混じり、聴いたこともないシャウトでスタート。
いきなりテンションマックスだ。
これはすごいアルバムだという予感。
そしてこの曲はジョーと、今をときめくヒットメイカー、Desmond Child(デズモンド・チャイルド)の共作になっています。
アルバムのイントロダクションにふさわしい、ワイルドなのにポップな良曲ですね。
2曲目はMAGIC TOUCH(マジック・タッチ)。
これはハードなイントロから始まるがキャッチーな楽曲になっています。
これはJim Vallance(ジム・ヴァランス)が共作者としてクレジットされています。
彼はBryan Adams(ブライアン・アダムス)の全米No.1ヒット、HEAVEN(ヘヴン)をはじめとして、ブライアンの全盛期の多くの楽曲の共作者としても知られているソングライターだ。
このようなキャッチーな曲はお手の物のようですね。
確かに、これも何度も聴けるいい曲となっています。
3曲目はRAG DOLL(ラグ・ドール)。
これはありそうでなかった感じの曲で、非常に耳障りがよく、耳に残る名曲となっています。
これにはジム・ヴァランスだけでなく、Holly Knight(ホリー・ナイト)も共作者としてクレジットされています。
ホリー・ナイトは僕の超大好きなHEARTのNEVER(ネヴァー)の作曲者でもあります。
他にもロッド・スチュアートやパット・ベネターなど多くのアーティストに楽曲を提供した女性ソングライターです。
こんな楽曲をエアロにやらせて、こんなにぴったり合うとは驚きです。
やっぱりスティーヴンは歌がうまいんだろうと思いますね。
どんな曲も彼の世界に作り変えてしまうのも彼の才能ではないでしょうか。
この曲は3rdシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第17位、 Mainstream Rockチャートでは第12位となっています。
4曲目はSIMORIAH(シモライア)。
この曲もジム・ヴァランスが絡んでいます。
曲の疾走感とキャッチーなメロディ、そしてサビでのスティーヴンのシャウト。
すべてが融合して、これも聴き応えある楽曲になっていますね。
5曲目はDUDE(LOOKS LIKE A LADY)(デュード)。
そしてこの曲にはデズモンド・チャイルドが加わっています。
道理で、覚えやすいサビのメロディ。
それにやはりスティーヴンが強烈なヴォーカルを炸裂させています。
もちろん、ジョーのギターもいいんですよ。
でもそれをはるかに上回るスティーヴンのヴォーカルにどうしても耳と目がいってしまいます。
これも強烈なシャウトでエンディングへ。
もはやスティーヴン無双とでも呼べるかもしれません。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第14位、Mainstream Rockチャートでは第4位を記録しています。
これは、エアロスミス復活を強烈に印象付ける曲になったことは間違いありません。
6曲目はST.JOHN(セント・ジョン)。
ちょっと趣向を変えてシリアスに始まりますが、途中から横ノリの佳曲になります。
大体この辺でちょっと力を抜きそうなものだが、これもキャッチーだから飽きずに聴けますね。
7曲目はHANGMAN JURY(ハングマン・ジュリー)。
この曲にはまたもジム・ヴァランスが参加してます。
ハーモニカで始まる素朴な感じの曲ですが、やはりこれもスティーヴンのヴォーカルが曲の完成度を上げています。
もともと楽曲がいいものを彼の声によってその良さはより引き立つのです。
8曲目はGIRL KEEPS COMING APART(ガール・キープス・カミング・アパート)。
このアルバム全体にホーンセクションが多用されているが、この曲もそうです。
それによって厚みのあるサウンドが楽しめます。
そしてそれに負けじとプレイされるジョーのギターもキレてますね。
アウトロでは結構長いギターソロが収められています。
でも、すべてを凌駕しているのがスティーヴンのヴォーカルなのです。
バンドのフロントマンとして、彼は最大限以上のパフォーマンスを楽曲に刻んでいるのです。
非常にノリのよい、疾走感あふれる楽曲になっています。
9曲目は、ANGEL(エンジェル)。
これはアルバム中唯一のバラードです。
確かにこれは曲がいいです。
僕も当時、歌詞カードを見ながら何度も歌ったものです。(スティーヴンっぽくね)
で、今見返すと、これはデズモンド・チャイルドとスティーヴンの合作となっていました。
そうか。
この美しいメロディにもそんな仕掛けがあったとは。
やはり一流の職人ソングライターは一流のものを作るんだな、と感じさせる一曲です。
これは今までのエアロスミスのイメージからは想像できなかったバラードのようです。
外部の風は見事に新しいエアロを作り出すことにも成功しているんですね。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第3位にまで上り、Mainstream Rockチャートでは第2位を記録しています。
10曲目は、PERMANENT VACATION(パーマネント・ヴァケイション)。
ブラッド・ウィットフォード(ジョーの影で目立たないもう一人のギタリスト)によるリズムギターのイントロが心地よいアルバムタイトル曲です。
これも新生エアロらしく、キャッチーで爽快なロックンロールとなっています。
とても楽しいヴァケイションだった、とアルバムを締めくくるにはふさわしい楽曲になってます。
?
あれ、あと2曲残ってるぞ・・・。
そうだ、忘れてた。
というか僕はこの10曲で終わっていたら最高のアルバムだったのに、と思うのである。
残り2曲の一曲目はビートルズのカヴァー、I’M DOWN(アイム・ダウン)。
もちろんいい曲でノリもいい。
だが、このアルバムに入れるにはあまりにも普通過ぎると思うのだ。
無理に入れずに、ライブなどで披露するとかに留めておけばよかったと思ったのは僕だけでしょうか。
そして最後の1曲はTHE MOVIE(ザ・ムーヴィー)。
なんとインストゥルメンタルなのである。
導入部分で日本語の語りがかすかに聞こえたり、趣向をこらしてるのはわからなくもないが・・・。
いるのか??これ。
というわけで僕の独断と偏見で、このアルバムは10曲収録扱いということにさせていただきました。(おまけ2曲付き)
まとめとおすすめポイント
1987年リリースの、AEROSMITH(エアロスミス)の9thアルバム、PERMANENT VACATION(パーマネント・ヴァケイション)はビルボード誌アルバムチャートで第11位、最終的にはアメリカで500万枚を売り上げました。
僕は以前のエアロスミスを知らない状態で、このアルバムを聴きました。
そんな僕にとっては、最高のロックンロールでしたね。
きっと多くの人に気に入ってもらえるはずです。
80年代のサウンドを逸脱せず、流行の音楽になって帰ってきた大きな要因はプロデューサーの変更によるものに違いありません。
テッド・テンプルマンからBruce Fairbairn(ブルース・フェアバーン)に変わったのです。
ブルース・フェアバーンと言えば、ボン・ジョヴィの3作目SLIPPERY WHEN WETをプロデュースして、彼らを一躍世界的スターへと変えた敏腕プロデューサーです。
彼は、ここにおいて、低迷していたエアロスミスの完全復活を演出することになりました。
70年代を引きずっていたエアロスミスのサウンドを、一気にヴァージョンアップして、80年代にふさわしい音に昇華させることに成功したのです。
さすが、バンドを売れるバンドへと変える彼の手腕には頭がさがります。
加えてデズモンド・チャイルド、ホリー・ナイト、ジム・ヴァランスなど外部のソングライターを採用して、もともとあったソングライティングのポテンシャルを一気に高めたのも見逃せません。
この辺はボン・ジョヴィのブレイクとも重なるところがありますね。
きっとそういう時代だったのです。
自分たちだけで楽曲を製作することにこだわるアーティストもいるでしょう。
エアロスミスももちろんそれを望んでいたでしょうが、彼らは変化を恐れず、柔軟に行動しました。
その結果が第2の黄金期への突入である。
もちろん売れればいいのか、という論議は昔から存在するのもわかっています。
古いファンからすると、この変化は大きすぎて戸惑った人もいたのではなかろうか。
売れるためになりふり構わなかった、と評価した人もいるでしょう。
これはバンドには付き物の課題ですね。
でも売れたからこそ、2017年の今でも彼らは現役でプレイしているのです。
だから僕は彼らの、変化を受け入れた勇気をリスペクトしたいと思います。
おまけ
僕がどれほどこのアルバムを気に入ってたかを示すものが一つあります。
日本のみの編集版VACATION CLUB(ヴァケイション・クラブ)です。
5曲入り27分のミニアルバムだ。
80年代と言えば、ダンス、ディスコミュージックが流行っていたので、多くのロングヴァージョン、リミックスヴァージョンが作成されていました。
マドンナやプリンス、デュラン・デュランなどの楽曲がそのようにリミックスされるのはよくわかるが、そのうちブルーススプリングスティーンまでがリミックスを作る、そんな時代でしたね。
その波にのってエアロスミスも「作ってみた」んでしょう。
DUDE(LOOKS LIKE A LADY)とRAG DOLL、ANGELの強力なシングル3曲がリミックスされる、ということで、どうしても買わずにはいられませんでした。
が、しかし、別に舞ったり踊ったりしない僕にとって、正直外れだった。
結局、これを買って、原曲の素晴らしさに気付けた、と考えれば買って良かったのかもしれないです。
ただ、アルバムのアウトテイクらしいONCE IS ENOUGH(ワンス・イズ・イナフ)が入ってます。
これが・・・いい。
カントリー風の前半、そして後半一転してロックンロール風に生まれ変わります。
同じ歌詞で2度おいしい、というなかなかない珍しい楽曲だと思います。
本当にいい曲です。
この曲だけで、買った価値はあった。
・・・と思いたい。
チャート、セールス資料
1987年リリース
アーティスト:AEROSMITH(エアロスミス)
9thアルバム、PERMANENT VACATION(パーマネント・ヴァケイション)
ビルボード誌アルバムチャート第11位 アメリカで500万枚のセールス
1stシングル DUDE(LOOKS LIKE A LADY)(デュード) ビルボード誌シングルチャート第14位、Mainstream Rockチャート第4位
2ndシングル ANGEL(エンジェル) シングルチャート第3位、Mainstream Rockチャート第2位
3rdシングル RAG DOLL(ラグ・ドール) シングルチャートで第17位、 Mainstream Rockチャートでは第12位