より洗練されたAOR風のハイクオリティアルバム TOTO – FAHRENHEIT(ファーレンハイト)
前作からの流れ
1984年リリースのTOTOの5thアルバム、ISOLATION(アイソレーション)はビルボード誌アルバムチャートで第42位、アメリカでは50万枚、世界では150万枚の売り上げを記録しています。
3ヶ月のアイソレーションツアーも終わると、この5thでメインヴォーカルとして加入したFergie Frederiksen(ファーギー・フレデリクセン)が解雇になります。
Steve Lukather(スティーヴ・ルカサー)によると、レコーディングの際にファーギーに難があって、バンドとかみ合わなかったため、と述べています。
この二人に確執があったとか、シングルカット曲にファーギーのヴォーカル曲がなかったことに不満があったとか、いろいろな要素があったと思われますが、残念ながらファーギーはわずかアルバム1枚でTOTOを去ることになりました。
個人的には、ハード系に走ったアルバムに彼のハイトーンはとても合っていたと思ったので、非常に残念でしたね。
彼の抜けた穴を埋めるため、バンドはオーディションを行います。
この時のオーディションには後のMR.BIGのEric Martin(エリック・マーティン)も参加し最終選考に残っています。
で、結局3代目のメインヴォーカリストとして選ばれたのは、Joseph Williams(ジョセフ・ウィリアムス)です。
ジョセフは、あの映画STAR WARSなどのサウンドトラックでも有名な、John Williams(ジョン・ウィリアムス)の息子ですね。
あまりに偉大な音楽家の子供がTOTOのヴォーカルになるってので、非常に驚かされました。
さて、新ヴォーカリストを迎えて次のアルバムの制作が始まります。
これまでの流れの中で、多少ハードな方向へ振れていた5thアルバムから、再びポップロックな感じに戻されています。
というかむしろ、今作では、アダルトオリエンティッドな感覚がたっぷり詰め込まれた大人の作品という感じがしてますね。
そんな作風の変化に寄与したのは、多くのゲストミュージシャンだったのかもしれません。
ドン・ヘンリー、マイケル・マクドナルドやマイルス・デイヴィスといったビッグアーティストの参加で、楽曲の洗練の程度が上がったと僕には感じられます。
もともと洗練されたサウンドは確立していたTOTOでしたが、この作品はまたいっそう洗練された、優しいサウンドに仕上がっています。
では、今日は、1986年リリースの、TOTOの6thアルバム、FAHRENHEIT(ファーレンハイト)をご紹介します。
FAHRENHEIT(ファーレンハイト)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、TILL THE END(ティル・ジ・エンド)。
新ヴォーカリスト、ジョセフの挨拶代わりの元気で軽快なポップスです。
ファンキーなリズムに乗せて気持ちよく歌い上げるジョセフも魅力的ですね。
エリック・マーティンだとかなり違う方向性に走ったと思えますね。
ジョセフで正解だと思います。
これまでどおり、演奏は職人の集まりらしくかっちりと仕上がってますね。
ホーンセクションが軽快に曲を彩り、ベースラインもかっこいいノリを生み出してます。
ルカサーのソロがもうちょっとクリアであるともっと良かったかな、とは思いますが、新生TOTOの挨拶代わりの一曲としてはなかなかかっこよいと思います。
TOTO節炸裂の楽曲でアルバムはスタートです。
2曲目は、WE CAN MAKE IT TONIGHT(メイク・イット・トゥナイト)。
シンセによるきれいなイントロから始まりますが、曲自体はなかなかエッジのあるロック曲になっています。
静かなパートと、サビのコントラストがいい感じで交じり合ってかっこいいアレンジになっています。
抑えた部分と、張りのある部分の歌い分けもジョセフ決して悪くないと思います。
TOTOに合ってると思います。
シンセソロに続くルカサーのギターソロはこっちはコンパクトですがなかなかかっこよく決まってると思います。
なかなかの佳曲だと思います。
3曲目は、WITHOUT YOUR LOVE(ウィズアウト・ユア・ラヴ)。
ちょっと過去の名曲のアフリカを思い出させるような独特のリズムです。
ドラムのJeff Porcaro(ジェフ・ポーカロ)とベースのMike Porcaro(マイク・ポーカロ)の存在感が際立っています。
ソローなテンポで、じわじわと盛り上がる、TOTOのお得意のパターンと言えるかもしれません。
歌メロはAORっぽいですが、この曲ではルカサーがヴォーカルを務めています。
やっぱりこの手のアダルティな楽曲を歌わせたら上手いですね。
そして、ルカサーはギタリストとしてもしっかりと目立ってます。
途中でちょいちょい挟まれるオブリもいいですし、ディレイたっぷりの2回に分かれたソロもいいですね。
これはルカサー曲と言ってもよいでしょう。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第38位、同誌Adult Contemporaryチャートでは第7位を記録しています。
4曲目は、CAN’T STAND IT ANY LONGER(キャント・スタンド・イット・エニィ・ロンガー)。
イントロのエレキギターのソロの音色が非常にアダルティで良いですね。
そのまま大人な雰囲気で行くのかと思いきや、Aメロからはレゲエっぽい明るい雰囲気に激変します。
ハイトーンのジョセフのヴォーカルもはまってて、なんか盛りだくさんの楽曲になっています。
いろんな雰囲気が交じり合ってますが、楽曲として決して破綻しないのはやはりTOTOの上手さということになるんではないでしょうか。
それぞれのパートに味があって僕は好きですね。
5曲目は、I’LL BE OVER YOU(アイル・ビー・オーヴァー・ユー)。
ここで、アルバムのハイライト、とも言えるTOTO流AORサウンドの完成形の登場です。
さすがにこの名曲のリードヴォーカルは新入りには任せてません。
ルカサーがリードをとり、そしてゲスト参加のMichael McDonald(マイケル・マクドナルド)のバックコーラス入りです。
ソウルフルでハスキーなマイケル・マクドナルドの参加により、いっそう楽曲が味わい深いものとなっています。
もう、まったく隙のない完璧な作りのアダルト・オリエンティッド・バラードと思えます。
楽曲はルカサーと、あのスティーヴ・ペリーの「Oh、シェリー」の共作者でもあるRandy Goodrum(ランディ・グッドラム)との共作になっています。
アレンジも見事にシンプルですが、ツボを抑えたものになっていて非常に心地よい雰囲気を作り上げています。
また、ルカサーはヴォーカルも最上級に良いですが、ギターソロも非常に味わい深いですね。
決して弾きまくらず、コンパクトに楽曲に絶妙な味わいを与える美しいプレイを披露しています。
ラストのソロでサビメロをなぞるところなんか、感涙ものではないでしょうか。
これも80年代を代表する美しいバラードの一つに認定したいと僕は思っています。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第11位、Adult Contemporaryチャートでは2週連続のNo.1を記録しています。
6曲目は、FAHRENHEIT(ファーレンハイト)。
アルバムのタイトルトラックということで、気合いの入った(!?)イントロを聞かせてくれます。
ちょっと変わったSEからのダンサブルな打ち込みサウンドへ。
そして、Bメロからはいつものバンドサウンドに入りますが、けっこう遊びまくった曲風ですね。
ホーンセクションもふんだんに入って、ノリノリの楽曲に貢献しています。
ジョセフはこの手のファンキーなノリは得意のようですね。
ぴったりはまってると思います。
やっぱりこの曲の最大の魅力は、機械的なパートと、人間によるバンドサウンドとのコントラストではないでしょうか。
打ち込みもいいですが、グルーヴ感を出す点では、やはりこのTOTOというバンドは機械をはるかに上回ってると思いますね。
超絶バラードからのこの流れの変わりようも決して悪くないです。
名曲かどうかと言えば、??ですが、けっこうはまってしまうノリのよい曲です。
7曲目は、SOMEWHERE TONIGHT(サムホエア・トゥナイト)。
レゲエ風味の味のある曲ですね。
大人の雰囲気漂うアダルトオリエンティッドな作品です。
ジョセフのヴォーカルもしっくりはまってると思います。
パーカッションがいい感じで雰囲気を盛り上げてますが、これはポーカロ3兄弟の父であるドラマー、Joe Porcaro(ジョー・ポーカロ)氏によるものです。
彼自身キャリアの長い伝説的ドラマーでもありますが、こうして息子たちのバンドに参加できて非常にうれしかったことでしょう。
しっとり、優しい佳曲だと思います。
8曲目は、COULD THIS BE LOVE(クッド・ディス・ビー・ラヴ)。
バックヴォーカルに、前ヴォーカリストのファーギーが参加してる唯一の曲です。
作曲のクレジットに彼の名前がありますので、この曲だけはゲスト的に参加したのか、もしくは脱退する前に出来ていた曲かのどちらかでしょう。
これもゆったりとして、非常にアダルティな楽曲ですね。
こんな感じの曲は非常に聴き易く良いですね。
優しいスタートですが、Bメロから少しテンションがあがり、そしてサビで落ち着きます。
シンセはキラキラしてますし、ルカサーのエレキのリフはシンプルなディストーションサウンドに徹してます。
ソロもコンパクトで、楽曲重視の感があります。
派手ではなく、心地よく聴ける楽曲の一つに仕上がってますね。
9曲目は、LEA(リア)。
そしてさらに優しいバラードが続きます。
イントロから、ゲスト参加のDavid Sanborn(デイヴィッド・サンボーン)のサックスが心地よく響いてます。
楽曲全体で、この曲でもアダルトオリエンティッドな雰囲気が漂っています。
その雰囲気の要因のもう一つの理由が、バックヴォーカルで参加している Don Henley(ドン・ヘンリー)の存在かもしれません。
いくつも重なってるコーラスパートで、一際目立ってますね。
美しいメロディと演奏、ヴォーカル。
非常に心地よいサウンドは、TOTOならでの安心感を与えてくれます。
アルバム中もっとも安らげる曲かもしれません。
ラスト10曲目は、DON’T STOP ME NOW(ドント・ストップ・ミー・ナウ)。
ラストには、大人のインストゥルメンタルがやってきました。
ジャズ界の巨匠、Miles Davis(マイルス・デイヴィス)を迎えて、本格的なジャズインストをやってのけてます。
マイルスのトランペットはさすがですし、それにぴたり合わせられるTOTOのメンバーのミュージシャンとしての力量もうかがえます。
確かにいい曲ではあります。
ただ、TOTOのアルバムのラストを飾るのには、ちょっと風味が違う気もします。
この曲を聴いてアルバムリピートでもう一回頭から聞くと、元気はつらつなティル・ジ・エンドとなるわけで、ちょっとテイストに乖離が大きいような気がするのです。
でも、いい曲であることは間違いありません。
アルバムの途中にこのジャズインストを入れるスペースはないと感じますので、ラストにしか配置しようがなかったと思います。
マイルスに敬意を表してラストに、という見方もできますが、僕としてはリアで終わってれば、もっとアルバムとしてはしっくりしたのかも、って思ってしまいます。
でも、いい曲ですよw
まとめとおすすめポイント
1986年リリースの、TOTOの6thアルバム、FAHRENHEIT(ファーレンハイト)は、ビルボード誌アルバムチャートで第40位、アメリカでのセールスは50万枚にとどまりました。
世界では120万枚を売上げています。
ちょうど、前作のアイソレーションとほぼほぼ同じくらいの成績にとどまってしまった、という感じです。
前作では、ハードなテイストに振ったアルバムがいまひとつ受けなかったわけで、今回はポップなロックへ、そして特にアダルトオリエンティッドな作風に変えてきました。
それによって、非常に聴き易い大人のサウンドが出来上がったと思います。
今回からヴォーカルがジョセフに変わりましたが、初代ヴォーカルのボビーと声の雰囲気は似ているので、TOTOサウンドを壊してしまうことは決してありません。
ハイトーンからソフトヴォイスまで、上手に歌って、うまくTOTOに溶け込んでいると僕は感じています。
また、ルカサーヴォーカルのシングル2曲も、いつもながら安定したクオリティを保ってます。
そこに、ゲストヴォーカルも入って、にぎやかにアルバムを彩っています。
作風の変化と言えば、やはりAOR路線を追求している、ってところでしょうか。
アルバム前半こそ、元気で弾けるポップロック曲が収められていますが、後半はかなりゆったり系で占められています。
AOR路線の楽曲が続いて、非常に聴き易いですが、その流れでラストはジャズインストで、しっとりと終わります。
リラックスして聞けるのは良いんですが、やっぱり後半にかけて勢いが弱まっていった感じは拭えません。
なので、アルバムの曲配置のバランスをうまくとれば、もっと良い作品に仕上がったのでは、と個人的には思います。
とはいえ、名曲はたっぷり収められています。
特に、究極の名曲、アイル・ビー・オーヴァー・ユーは、TOTOのAOR曲の最高峰だと僕は思っています。
極論すれば、この曲だけのためにアルバムを買っても良いのでは、と思えるほどの出来ですね。
ちょうど、次の作品までの間の試行錯誤の雰囲気もあって、セールス的にも目立ちませんでしたが、決して悪いアルバムではありません。
むしろ名曲は詰まってますし、リラクゼイション効果は十分発揮されたアルバムだと思います。
というわけで、このアルバムもTOTOを聴くなら外せないものだと思っています。
チャート、セールス資料
1986年リリース
アーティスト:TOTO
6thアルバム、FAHRENHEIT(ファーレンハイト)
ビルボード誌アルバムチャート第40位 アメリカで50万枚、世界で120万枚のセールス
1stシングル I’LL BE OVER YOU(アイル・ビー・オーヴァー・ユー) ビルボード誌シングルチャート第11位、Adult Contemporaryチャート2週連続のNo.1
2ndシングル WITHOUT YOUR LOVE(ウィズアウト・ユア・ラヴ) シングルチャート第38位、Adult Contemporaryチャート第7位
ジョン・ウィリアムスの息子さんでしたか。
知りませんでした。
(=^ェ^=)
dalichokoさん、コメントありがとうございます。
スターウォーズの最初の3作で育った僕にとっては、あの偉大なジョン・ウィリアムスの息子ということで衝撃を受けた記憶があります。
親の七光りとかあまり関係なく、彼ジョセフのヴォーカルは良いと個人的には思っております。
どうもありがとうございました。
なんか世代が少し重なってる気がしますね。
いよいよエピソードⅨ。
予告編もリリースされましたね。
(=^ェ^=)
これまで僕は小学生の時に観たエピソード4から始まって、4,5,6、そして1,2,3と見てきました。
僕の中では、エピソード3であまりにもすべてが完璧に完結してしまった感があって、実はその後は見ていないんです。
確か、ジョージルーカスの監督作品はそこまででしたよね。
いつの間にかラストの9を迎えるんですね。
いつか機会があれば、7,8,9と見てみましょうかね。
ですよね〜
よくわかります。
アナキンがダースベイダーになるあのラスト。あれで終わってますよね、確かにね。
(=^ェ^=)